現在モバイルゲーム市場のユーザーは、そのほとんどがカジュアルプレイヤーだが、モバイル競技も徐々に発展し、重要な一分野となりつつある。そんななか大手ゲーム開発企業のあいだでは、そのプレイヤーたちをとらえようとする動きが見られている。
現在モバイルゲーム市場のユーザーは、そのほとんどがカジュアルプレイヤーだが、モバイル競技も徐々に発展し、重要な一分野となりつつある。そのプレイヤーたちをとらえようと、ライアットゲームズ(Riot Games)がモバイル向けに再開発した『リーグ・オブ・レジェンド:ワイルドリフト(League of Legends: Wild Rift):以下、ワイルドリフト』でモバイルeスポーツに参入するなど、大手ゲーム開発企業の動きが見られる。一方eスポーツ団体も、モバイルプレイヤーを選手登録するなど、あとに続きはじめている。
この2年、パンデミックの影響による手持ち無沙汰解消ニーズの拡大に伴い、モバイルゲームの人気が爆発的に高まっている。マーケット調査企業のIDCと、デジタル広告プラットフォーム広告のループミー(LoopMe)のレポートによると、2019年から2020年のあいだに世界のモバイルゲーム人口は12%伸び、その人気はパンデミック後も続くと見られている。
「北米とヨーロッパのゲーマーの60%近くが日常的にモバイルゲームをしているというが、それも東南アジアの浸透率87%の前では色あせてしまう」。こう話すのは、東南アジアのeスポーツメディア企業大手であるワンイースポーツ(ONE Esports)のCEO、カルロス・アリムラン氏だ。アリムラン氏は「モバイルゲームでもモバイルeスポーツでも、市場はますます競争激化の一途をたどる」と述べ、「いま、ライアットゲームズが推しているのは『ワイルドリフト』だ。これはアジアだけでなく、グローバルな動きだ。さらに彼らは、すでに『ヴァロラント(Valorant)』のモバイル版も検討しているようだ」と話した。
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特に、アジア諸国で人気
モバイルeスポーツは、eスポーツに比較的参加しにくいアジアの地域で特に人気がある。『PUBG(PlayerUnknown’s Battlegrounds[プレイヤーアンノウンズ・バトルグラウンズ])』の競技プレイヤーだったバングラデッシュのエクラムザマン氏は、「2018年に『PUBGモバイル』がグローバルリリースされたとき、これはアジアのeスポーツになる可能性のあるゲームだと思った」と話し、「バングラデッシュをはじめとする南アジア諸国にとっては、正式なeスポーツなんて自分たちには関係のないものだ。そもそも南アジアの家庭にとって、パソコンはかなりお金のかかるものだから」と説明する。
またモバイルゲームは、一般的なゲームやeスポーツより、オーディエンスが若い世代に偏る傾向がある。アリムラン氏は「アメリカで、最初にスマホを手にする年齢は下がっていく一方だということにみんな気付いている。その傾向は、アジアではさらに顕著だ」と話す。若者世代におけるモバイルゲームの拡大は、中国政府に危機感を抱かせるほど急速で、18歳未満のプレイヤーに対する週3時間までのゲーム制限が、2021年8月30日に導入されている。
アジア圏、および若年層のあいだでモバイルeスポーツが盛んであることを考えると、イモータルズゲーミングクラブ(Immortals Gaming Club:以下、イモータルズ)が、韓国出身のドゥフン・チャン(ハンドルネームはフン)を初のモバイルプレイヤーとして契約したのは理にかなっている。チャン氏はチャンネル登録者数が40万人を超えるユーチューバーで、マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ(MOBA)のタイトル『モバイルレジェンド(Mobile Legends)』でキャリアをスタートさせたが、2020年後半にライアットゲームズが開発したMOBA(Multiplayer online battle arena)、『ワイルドリフト』のベータアクセスが開始されるとともに、活動の場をそこに移している。
eスポーツ団体も注目
イモータルズのマーケティング担当、バイスプレジデントであるマックス・バス氏は「若者世代は、モバイルゲームをとてもなじみのあるものとしてとらえている」と話す。「『ワイルドリフト』を受け入れてもらえることがライアットゲームズの目標であると理解しているので、『ワイルドリフト』が広く知られること、つまりゲームの認知度が高く、プレイする人も多いことを願っている」。イモータルズは、チャン氏や『ワイルドリフト』のほかのプレイヤーとの契約といった活動をさらに推し進め、『ワイルドリフト』をテーマにしたSnapchatレンズなどのモバイルネイティブコンテンツの展開にも注力している。
これまでのところ、『ワイルドリフト』のプレイヤーと契約を結んだ最大手の北米eスポーツ団体は、イモータルズだ。だが、アリムラン氏などの有識者の意見では、これが最後ということはほぼ絶対にない。イモータルズが8月2日にチャン氏との契約を発表すると、続いて8月6日にはeスポーツチームのセンティネルズ(Sentinels)が、『ワイルドリフト』チームの結成を発表した。
モバイルゲームのプレイヤーと契約した大手eスポーツ団体には、ほかにも6月に『コールオブデューティモバイル(Call of Duty: Mobile)』のチームをまるまる招聘したAndboxや、8月にブラジルの部門が『フリーファイア(Free Fire)』のチームと契約を結んだチームソロミッド(Team SoloMid)がある。
オーディエンスがいることは明らか
Andboxの共同創業者で最高製品責任者(CPO)のロヒット・グプタ氏は「モバイルゲーム関連の統計を見ると、オーディエンスがいることは明らかで、チームを設けて当社の存在を本格化させるときが来たと感じている」と話す。実際、ハードウェアの進化と5G普及のおかげで、『コールオブデューティ』のアクティビジョン(Activision)からライアットゲームズまで、デベロッパーたちが自社最大のブランドをモバイルに持ち込んでいる。またグプタ氏は、アジアやラテンアメリカなど、主要マーケット以外の地域での人気の高まりも、参入の理由だとして説明している。
つまるところモバイルeスポーツチームは、『コールオブデューティモバイル』チームのメンバーと、クリエイター陣が連携して制作する各種コンテンツやトーナメントでの競技を通して、Andboxが自ブランドの人気を育てていく機会を生み出してくれるというわけだ。
グプタ氏は「これはチームのオーディエンスを徐々に増やしていく機会だが、モバイルのカジュアルゲーマーも、もっと取り込んでいけると思う」と話す。「モバイルゲームをする人たちはカジュアルゲーマー寄りの傾向があるので、今後はクロスオーバーの好機もたくさんあるだろう」。
そうしたファンは、Andboxにとって新しいビジネスチャンスをもたらす可能性がある。
グプタ氏は「モバイルeスポーツは、メディアからの資金という面ではかなり手薄だ。それらのタイトルにかけられる時間を考えると驚くほどだが、それはeスポーツ全般にもいえることかもしれない」と付け加え、「ただ、ブランド側が目を覚ましはじめている兆候も見られる。昨年、従来のスポーツができなくなったときの興隆ぶりは、多くにとって目からうろこが落ちるような感じだったのではないか」と語った。
モバイルeスポーツの可能性
アジアで、今後ゲーム機やゲーム用パソコンの販売が促進されても、それが地域内のモバイルゲームやモバイルeスポーツの人気を侵食するとは考えにくい。マインドシェア・チャイナ(Mindshare China)のコンテントプラス(Content+)担当マネージングディレクター、ボーリン・ワン氏は「モバイルeスポーツはこのまま定着する」といい、「モバイル、PC、ゲーム機のeスポーツはそれぞれのエコシステム、オーディエンス、ブランドにとってのマーケティング価値が大きく異なるため、互いに置き換わることはない」と話す。
現時点では、モバイルeスポーツはより広範なモバイルゲーム市場のほんのわずかな一部分を占めるにすぎない。ResearchAndMarkets.comのレポートによれば、その2020年における市場規模は約1000億ドル(約11兆円)だという。ソーシャルエンターテインメント企業、アジアイノベーションズグループ(Asia Innovations Group)CEO、アンディ・ティエン氏は「モバイルeスポーツは実におもしろい」といいながら、「しかし、eスポーツがモバイルゲームの収益拡大を牽引するとは考えにくい」と語る。
しかしアリムラン氏は、モバイルeスポーツが、今後eスポーツ市場全体を取り込みはじめる可能性があると考えている。「モバイルeスポーツは、アジアだけでなく、世界のほかの地域でも主流のプラットフォームになると想定している」と話す。
将来的なポテンシャルは別として、モバイルeスポーツは少なくとも、大手ゲーム開発企業やeスポーツチームにとっては、重複する新興のファン層を取り込む手段として急速に存在感を増している。ライアットゲームズが『ワイルドリフト』や『ヴァロラント』といった競技タイトルのモバイルインフラに投資するなか、eスポーツに関わる広告主やメディア企業は、モバイルゲーム領域で台頭しつつあるこの分野を注視していく必要がありそうだ。
ALEXANDER LEE & SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)