AppleがiOS14のアップデートで実施したデータプライバシー規制は、モバイル広告に影響を及ぼし、ターゲティング機能を大きく制限した。これを受け、中小企業やデジタルネイティブブランドは、ソーシャルメディアを利用した顧客へのアピールの方法を再考しはじめている。
中小企業やデジタルネイティブブランドは、ソーシャルメディアプラットフォームを利用した顧客へのアピールの方法を再考しはじめている。
AppleがiOS14のアップデートで実施したデータプライバシー規制は、モバイル広告に影響を及ぼし、ターゲティング機能を大きく制限した。いまでは、どのアプリがトラッキングを行っているかがユーザーに通知されるため、彼らは自らの意思でオプトアウトすることができ、結果として広告主にとってのデータプールは縮小した。
こうした状況を踏まえ、新たに誕生したブランドのなかには、ペイドソーシャル広告に大金をつぎ込むのを躊躇し、広告支出の多様化を推進する企業もある。彼らはオーガニック戦略を強化し、ブランドパートナーシップやコンテンツクリエイターを活用して、顧客獲得とブランド認知の構築を図っている。
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「データのフィードバックがなければ、顧客を特定し、ブランド認知をスケールするのは難しい」と、ヘアケアブランドのクラウンアフェア(Crown Affair)でプレジデントを務める、エレイン・チョイ氏は話す。
2020年1月に創業以来、口コミとインフルエンサーを軸としたオーガニック戦略で、デジタルコミュニティとオンライン購入者の基盤構築を行ってきたクラウンアフェア。同社はiOS14のアップデートが行われる直前、新たなチャネルとして、Facebookとインスタグラムの有料広告の活用をはじめていた。しかし、「各ペイドチャネルを活用し、規模拡大を目的にこれまで進めてきた有料広告は、iOS14のアップデートによって有効性が失われた」と、チョイ氏はいう。
iOS14によるターゲティング能力の低下がなければ、クラウンアフェアの有料広告戦略は、はやい時期に広告予算の大きな割合を占めるようになっていただろうと、チョイ氏。今後同社は、引き続きオーガニック戦略を主軸としつつ、支出と売上の比率など、パフォーマンス測定の代替指標を模索していく予定だという。
もはや主要なチャネルではない
サステナブルなトイレットペーパーとペーパータオルを提供する、クラウドペーパー(Cloud Paper)の共同創業者であるライアン・フリッシュ氏も、iOS14のアップデートにより、Facebookとインスタグラムはもはや主要なマーケティングチャネルではなくなったと語る。「データプライバシーに関する新たなアップデートで、新規顧客に関するインサイトを得ることは困難になり、アトリビューションが失われた」と、同氏は米DIGIDAYによるメール取材で述べている。さらにフリッシュ氏は、規制変更によって広告コンテンツの最適化が不可能になり、全体的に指標のコストが増大していることも指摘した。
データプールが縮小するなか、こうした小規模広告主は、ニュースレター、自社のデジタルコンテンツプラットフォーム、インフルエンサー、ブランドパートナーシップといったオーガニック戦略に目を向け、ブランドアフィニティを高めようとしている。
また、ビューティーブランドのクルフィ(Kulfi)では、現在マーケティング費用の少なくとも半分が、コンテンツクリエイターやインフルエンサーへの投資に、残りの半分がインハウスのコンテンツ制作や広報事業に充てられている。クルフィの創業者兼CEO、プリヤンカ・ガンジュー氏は、今後はスケールの拡大を目指し、同社のデジタルコンテンツプラットフォームであるバイト(Bite)などの取り組みをさらに強化するとともに、来年以降はインスタグラムの有料広告も取り入れたいと語る。
「iOSのアップデートにより、有料広告を活用するには、より多くの自社データが必要になった」と、ガンジュー氏はいう。「以前よりもハードルが上がったので、参入に備えてアトリビューションの構築に取り組むつもりだ」。
クリーンビューティーブランドのアミコレ(Ami Colé)も同じような状況だ。創業者のディアラ・ヌディアイエ氏によれば、5月のローンチに先立ち、同社はニュースレターに6000人の購読者を集め、eメールをベースにしたオンラインコミュニティを構築することで、iOSアップデートによる影響の回避を図った。ただし、同社はソーシャルメディア(とりわけインスタグラム)にも依然として力を入れており、同プラットフォームでのプレゼンスを維持するため、定期的に広告支出の調整をおこなっている。
「すでに答えは見つかった、といったら嘘になる」と、ヌディアイエ氏はいう。「いまは、何が実際に効果的かを把握しようとしている段階だ」。
ターゲティング能力が制限されたいま、ソーシャルメディアプラットフォームでの顧客獲得コストを明確にするのは困難だ。「広告費に対するリターンが不明なまま、たとえば毎月1万ドル(約110万円)を何カ月も投じることになる。小規模ブランドにとって、これは大きな問題だ」と、クルフィのガンジュー氏は話す。
早急なチャネルの多様化が必要
しかし、規制は今後さらに強化される見通しだ。たとえば、日本時間の9月21日にリリースされるiOS15では、開封数の取得が困難になることが予想される。そのため、広告主は早急にチャネルを多様化させる必要があるだろう。「iOS14以前の時代と同じような、リターティングで獲得したオーディエンス」に代わって、新たなオーディエンスの割合が増えていくなかで、ターゲットオーディエンスの幅を広げ、ソーシャルパフォーマンスを測定する別の方法を見つけ出さなければならないと、クリエイティブエージェンシーのダガー(Dagger)でメディアスーパーバイザーを務める、フィル・レウィッキ氏は語る。
「このようなプライバシーに関する状況変化に積極的に対応しているエージェンシーや広告主は、高いコンバージョン率やエンゲージメント率を達成あるいは維持するための、新たなセグメントや戦略の創出において、最前線に立つことができるだろう」。
KIMEKO MCCOY(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:村上莞)