ライブeスポーツイベントは徐々に復活しつつあるなか、イベントオーガナイザーらはエアコンの効いた自室からの観戦にすっかり慣れ親しんだオーディエンスをどうしたら引き寄せられるのか、知恵を絞っている。対戦型格闘ゲームコミュニティの一大イベントEVOが、その答えをくれるかもしれない。
ライブeスポーツイベントは徐々に復活しつつあるなか、イベントオーガナイザーらはエアコンの効いた自室からの観戦にすっかり慣れ親しんだオーディエンスをどうしたら引き寄せられるのか、知恵を絞っている。
対戦型格闘ゲームコミュニティ(Fighting Game Community:以下FGC)のゲームに対する情熱を十二分に活用するべく、8月第一週に開催されたイベント、エボリューション・チャンピオンシップ・シリーズ(Evolution Championship Series)は、その答えをくれるかもしれない。
EVOの新たな取り組み
「EVO(エボ)」の愛称で知られる同イベントは、毎年開催の、世界でもっとも権威ある対戦型格闘ゲームトーナメントであり、ストリートファイター、モータルコンバット、鉄拳といった有名格闘ゲームにおける事実上の世界チャンピオン大会でもある。2022年のイベントは8月5日に開幕し、トーナメント自体は2022年で27回目を迎えるが、新たなオーナーシップ下での開催は初となる――EVOブランドはソニー・インタラクテブエンタテインメント(Sony Interactive Entertainment)と、ゲーミングおよびeスポーツブランドコンサルタント企業、RTSが2021年、共同獲得した。
Advertisement
ブランドパートナーシップは以前からEVOを構成している重要要素だが、今回、当会のオーガナイザーはトーナメント自体と併せて開催される見本市を完全に分離し、別々の会場で実施することにした。その目的は、ソニー(Sony)のINZONE(インゾーン)やFreshCut(フレッシュカット)といったブランドパートナー勢を出席者とよりいっそうエンゲージしやすくさせることにある。またこれには、RTSのブランドコンサルティング力を明示する狙いもあると、CEOスチュアート・ソウ氏は話す。
「INZONEはソニーのエレクトロニクスグループから派生したばかりの新ブランドであり、新市場に入るための術を学びたがっている」とソウ氏。「我々にできるひとつは、彼らにRTSのコンサルティングチームへのアクセスを提供することだ――そうした諸々には目を配る必要があるし、そうした心情は意識しておく必要がある」。
高い参加率を誇る理由
EVOが対面式イベントを最後に開催したのは2019年のことで、その時はラスベガスのミケロブ・ウルトラ・アリーナ(Michelob ULTRA Arena)に9000人強のユニーク参加者を集めた。今回のイベントでは、予約数が早くも1万1000人を超えており、現時点ですでに、2022年のコールオブデューティリーグ(Call Of Duty League:CoD)ライブイベントの参加人数を有意に上回っている。
この高参加率は、プロダクト紹介や対面式のデモを同イベントで実施するEVOのブランドパートナー勢にしてみれば、大きな鉱脈となりうるだろう。FreshCut――元Meta Threads(メタ・スレッド)――は以前にもEVOのスポンサーになったことがあるが、INZONEは今回が初であり、これについてはソニーとの社内的繋がりの力が大きい。各々のブランドパートナーとの具体的な契約額について、ソウ氏は明かさなかった。
2022年のEVOに見られる高参加率は、コロナ禍によるオンライントーナメントが続くなか、FGCの中に溜まっていた対面式交流に対する欲求の大きさが現れた結果とも言える。とはいえ、この参加人数の多さは、FGCの高エンゲージメント性をライブイベントの成功へと巧みに翻訳する術を示す一例でもある。今回のEVOに通しで参加するための週末パスは約125ドル(約1万6250円)に上り、トーナメント出場にはさらに10ドル(約1300円)の登録料がかかるうえ、アリーナにおける決勝の観戦チケットを得るには、さらに110ドル(約1万4300円)が必要となる。
ライブイベントへの参加を好むFGCのカルチャーを生んだ要因は多層的だ――草の根的なプレイヤー主導のコミュニティの性質、モータルコンバットやストリートファイターといった長寿シリーズの多世代を惹きつける人気、低遅延オフラインプレイというまさしく対戦スポーツそのものの競争性。ほかのeスポーツでは、プレイヤー同士がたとえ物理的に遠く離れていても、高レベルでの競争が可能だが、対戦型格闘ゲームでそれを実現するには、隣同士で座ることが必須となる。
「対戦型格闘ゲームは実際に参加することが肝になる」と、長年にわたり大乱闘スマッシュブラザーズ(Super Smash Bros.)のトーナメントオーガナイザーを務め、Twitchの元パートナーシップリードおよびeスポーツプログラムマネージャー、アリアン・ファシー氏は言う。「そのほかの要素はすべて、そこから生まれる――実際、いわゆる雪だるま式に膨れ上がってくれる。多くの人が来るほど、より多くを迎え入れる資金が手に入るからだ」。
格闘ゲーム以外のジャンルでは?
ただ、人々をその場に連れて来るという点において、対戦型格闘ゲームが有利な位置にあるのは確かだが、だからといって、ライブイベントの形を変更し各々のプレイヤーベースの心に同様の火を点けることは、ほかのどのeスポーツにもできない、というわけではない。それどころか、究極的には、あらゆるライブeスポーツイベントがドリームハック(DreamHack)のモデルに倣い、試合形式のトーナメントではなく、むしろコンベンションの体裁を取ることになるだろうと、予想する観測筋もいる。
「EVOは確かにライブイベントの少々先にいるが、ほかのどのゲームにも同様のことはできるし、はるかに高い成功率でそれができる可能性もあると思う」とファシー氏は話す。「格闘ゲーム以外のほうが売りにできる周辺部分は、はるかに多い」。
ただ、EVO最大の利点がいまのところほかのeスポーツイベントでは再現し難しいのも事実だ。もっとも人気の高いeスポーツは、プロダクト――すなわち、各企業がそれぞれ所有および販売するIP――であり、それゆえ元々、個々のイベントという高い壁で囲まれたなかに入れられる、という性質を有している――言い換えれば、CoDとカウンターストライク(Counter-Strike)を同じ大規模トーナメントで見ることは、まずありえない。一方、EVOのような対戦型格闘ゲームイベントは、同ジャンル全体を讃える祭典であり、単体のeスポーツイベントよりも広範かつ多様なオーディエンスの中に関心を生み出せる。
「eスポーツサークルの多くは、どれかひとつのゲームのファンダムに、ひとつのゲームが生む興奮に基づいている。それに対してEVOは、ひとつのジャンルのファンダムを讃える祭典だ」と、EVOのジェネラルマネージャー、リック・ザイハー氏は話す。「この共存性が、他とは異なる雰囲気、異なるリーチ、異なる仲間意識を創出する。たとえて言えば、NFL(アメリカンフットボールリーグ)を愛でるファンベースと、オリンピックの陸上競技を愛でるファンベースがまったく異なるのと同じことだ」。
[原文:How fighting game events could provide a blueprint for success in live esports]
Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)