23歳のザリア・パーヴェズ氏の1日の仕事は、ソーシャルメディアを1、2時間ほどスクロールすることからはまる。大学卒業後、はじめて入社した言語学習アプリのデュオリンゴ(Duolingo)で、パーヴェズ氏はTikTokアカウントの管理を任された。
23歳のザリア・パーヴェズ氏の1日の仕事は、ソーシャルメディアを1、2時間ほどスクロールすることからはまる。しかし普通の人とは違って、それは悪い習慣ではない。あくまでも同氏の仕事の一部なのだ。
大学卒業後、はじめて入社した言語学習アプリのデュオリンゴ(Duolingo)で、パーヴェズ氏はTikTokアカウントの管理を任された。現在のフォロワー数は190万人で、その数はいまも増えつづけている。この数時間におよぶSNSのスクロールは、実はパーヴェズ氏流のソーシャルリスニングだという。それは同氏のソーシャルメディア戦略の重要な一部であり、その分析に基づいて報告書を作成し、上層部にコンテンツのアイデアを提案する。そしてときには、同ブランドのマスコットキャラクターである、ずんぐりした緑のフクロウのキャラクター、デュオ(Duo)の着ぐるみを身につけ、動画の撮影にも参加する。
パーヴェズ氏の1日の仕事は、このような作業がその大半を占める。TikTok動画の撮影ひとつをとっても、15分で終わることもあれば、長いときには数時間もかかる。かさばるフクロウの着ぐるみを着て動き回るのは、まさに至難の業だとパーヴェズ氏は本音をこぼす。もちろん、撮影にはさまざまな人が関わる。動画の撮影には職場の同僚が参加することもあるし、つい最近はTikTokスターの、ロッド・シル氏(ユーザー名は@Rod)とも共演した。さらに、コミュニティ管理もソーシャル戦略の重要な要素だ。デュオリンゴに寄せられるコメントには、マスコットのデュオの名で、頻回に返信するという。ときには動画を添えて返信することもある。たとえば、すぐに壊れることで有名な、カナダのマクドナルドのアイスクリームマシンに毒づく動画を付けてコメントを返すこともあった。
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「我々を含め、多くのブランドはTikTokをようやく理解しはじめたところだ」とパーヴェズ氏は話す。「これは我々の物語の序章にすぎない。いまはまだ、あれこれ試している段階だ。うまくいくものもあれば、いかないものもある」。
そしてどうやら、このずんぐりした緑色のフクロウは功を奏しているようだ。今年の2月にTikTokのアカウントを開設して以来、パーヴェズ氏が「ふてぶてしいが、激しく忠実」と評するフクロウのデュオは、流行りの楽曲に乗せて、いくつものTikTok動画を拡散させてきた。オフィスのテーブルの上でお尻を振るデュオに「デュオリンゴプラス限定のプレミアムコンテンツをチラ見」というキャプションを付けた動画は、170万件もの「いいね」を稼いだ。デュオリンゴのサービスより、Google翻訳のほうが良いという人々へのメッセージ動画もあった。ガラス扉にすがりつき、ずるずるとくずおれながら、いかにも悲しげにデュオは懇願する。「お願いだから、ほかの人に恋はしないで」。バックに流れる音楽は、テイラー・スウィフトのヒット曲『エンチャンテッド(Enchanted)』だ。この動画は460万件の「いいね」を獲得している。また、ときにはコメント欄に登場し、レッスンを忘れた人にダメだしをすることもある。
10月にデュオをレギュラーキャラクターとして投入してから、デュオリンゴのバイラルコンテンツの人気はうなぎ上りだとパーヴェズ氏は話す。「デュオリンゴの言語学習サービスをどこで知りましたか?」というアンケート調査では、TikTokという回答が増えた。また、Twitterでも「TikTokを見てアプリをダウンロードした」というコメントが増えているという。
重要なのは「いいね」の数だけではない。デュオを起用したコンテンツはブランドに人間味を与え、TikTokにおけるブランドの顔となり、ついにはNBCニュース(NBC News)やインサイダー(Insider)、ローリングストーン(Rolling Stone)誌などでも取り上げられるようになった。パーヴェズ氏によると、成功の秘訣は、企業の売り込みを何よりも嫌うTikTokのオーディエンスに、あえてデュオリンゴを売り込もうとせず、むしろ彼らを楽しませることに専心したことだという。口コミのトレンドを最大限に活用する一方、コメント欄でほかのティックトッカーと交流し、自分いじりのネタでいくつものミームを繰り出し、人々を楽しませたい一心でひたすら「ぶっ飛んだコンテンツ」の制作に注力している。ポップシンガー、デュア・リパとデュオリンゴを混同する人々(名前が少し似ているため)から、「勉強しないとお仕置きするぞ」シリーズまで、面白そうだと思えば何でもネタにするという。
「デュオとしてコメントするとき、あるいはデュオとしてコンテンツを作るとき、私としては、見る人をやる気にさせるちょっと強引な友人でありたいと思う」とパーヴェズ氏は話す。「反対に、見る人を自己嫌悪に陥らせる類いの強引な友人ではありたくない。デュオはいつでも、みんなに頑張って良い結果を出してほしいと願っている。デュオに好かれるには、とにかく勉強することだ」。
SNSの管理を任されたパーヴェズ氏にとって幸運だったのは、デュオのお笑いネタに、会社の上層部が二の足を踏まなかったことだ。むしろ遊び心のある風変わりなキャラクターこそ、デュオリンゴらしさであり、「さらにぶっ飛んだコンテンツを提案するのは難しくなかった」とパーヴェズ氏は話す。たとえば、デュア・リパとデュオリンゴを勘違いする人がいるというジョークを元ネタに、デュオがデュア・リパに求婚する動画を作成したところ、これがもっとも再生頻度の高い作品のひとつとなっているという。
ミームの積極活用
クリエイティブエージェンシーのメカニズム(Mekanism)でパートナー兼最高ソーシャル責任者の肩書きを持つブレンダン・ガーン氏は、「人気の秘密はデュオの擬人化だ」と話す。少し前に同社のSlackチャンネルでデュオリンゴの動画が話題になって以来、特にこの点には注目してきたという。3日のうちに、10人を超える人からデュオの動画を見せられたとガーン氏は振り返る。
「もともと、フクロウにはちょっと不気味なイメージがあるが、デュオリンゴはこれをうまく利用している」とガーン氏は話す。「この手のミームは昔からあった。しかし普通のブランドは、ひとつ間違えれば嫌われかねないこういうキャラを、あえて使おうとは考えない。デュオリンゴはこの常識を見事にひっくり返した」。
「オーディエンスが正しい答えに導いてくれることを、デュオリンゴは正しく理解している」とガーン氏は述べている。さらに、ソーシャルリスニングで培った能力、失敗をいとわないこと、軌道修正に前向きなことなども成功要因として挙げながら、良いコンテンツとは主観的なものだとも指摘した。TikTokの言葉を借りるなら、理解するブランドは理解するし、理解しないブランドは理解しない。
パーヴェズ氏によると、デュオリンゴは週に3回から5回の投稿をおこなっているが、それはデュオリンゴらしい独自のアイデアがある場合に限られるという。ブランドについて語る良いアイデアがなければ、投稿しないことを選ぶと同氏は話す。
「ダーツを投げて、的の中心に当てることなど考えてはいけない」とガーン氏は語る。「毎日1%ずつ上達して、それを積み重ねるという気持ちで臨むべきだ」。
ブランドに人間味を与え、ソーシャルメディアで親近感を深めることに成功したブランドは、デュオリンゴが最初ではないし、唯一でもない。しかもありがたいことに、(少なくともいまのところは)ブランドの悪ふざけに冷淡なユーザーから反感を買ってもいない。同様の成功例として、ガーン氏は米紙ワシントン・ポスト(The Washington Post)のデイヴ・ジョルゲンソン氏を挙げた。同氏はポスト紙のTikTokアカウントの顔として知られている。
「ブランドにとってのソーシャルメディア活用は、まだ痛みを伴う学びの段階にある。注目は金で買えるものではなく、努力の末に獲得するものであると理解しつつある」と、ガーン氏は語った。
人間味のあるブランド作り
数年前にこの戦略をTwitterで成功させた先駆けは、ウェンディーズ(Wendy’s)、ステイカム(Steak-umm)、デニーズ(Denny’s)、ムーンパイ(MoonPie)などのブランドだ。たとえばウェンディーズは、2016年から2017年にかけて、競合他社をあげつらう、強烈な毒舌ツイートを展開した。同じ時期、ステイカムは生きる意味を問うようなツイートや、社会批判めいたツイートを数多く投稿していた。
「ウェンディーズのツイートが広まると、二匹目のドジョウを狙う動きがしばらく続いた」。そう語るのは、2012年から2017年までウェンディーズのTwitterを管理していたエイミー・ブラウン氏だ。「それでも、ブランドたちはようやく気づきはじめている。コンセプトは同じでも、それぞれのブランドらしいユニークな応用が重要であることを、彼らは理解しはじめたのだ」。
ネイサン・アレバック氏は、ステイカムのTwitterの立役者だ。アレバック氏が見る限り、デュオリンゴは「TikTokのウェンディーズ」になりつつあるようだ。一方で、デュオリンゴの芸風がいつまで続けられるか疑問も残るという。
「2017年からステイカムでツイートしている。以来、毎年話題にはなるが、年々人気は下火になる」と、アレバック氏は話す。「時間が経っても廃れないもの。それを探し出すのは本当に難しい。ほとんどの場合、ブランドが反応を返しさえすれば、人々は面白がる。ブランドとのやりとりが本物である限り、ユーザーは自分たちの声がきちんと届いていると感じられる」。
デュオリンゴのパーヴェズ氏も同じことを考えている。だが当面は、試行錯誤を続けながら、ソーシャルメディア戦略をさらに強化し、別の筋立てやSNSプラットフォームを模索する考えのようだ。なお、デュオが今後どのような役割を担うかについても未定という。
パーヴェズ氏にとっては、山あり谷ありの道のりだった。それでも同氏は、大学を出たばかりの新人にもかかわらず、大きなブランドのSNSアカウントを任され、良い経験をさせてもらったと感謝している。
「ここから先はひたすら上り坂だ」。
[原文:How Duolingo is using its ‘unhinged content’ with Duo the Owl to make people laugh on TikTok]
KIMEKO MCCOY(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)