いま業界全体で新しい働き方の模索が続いている。そんななか、エージェンシー各社がバーチャル化を進めている典型例が営業だ。直接人と会えない状況下で、エージェンシー各社は自社の創造性を実際に示す、「シアター型営業」をオンラインへ移行する、新たな手法を獲得しつつある。
いま業界全体で新しい働き方の模索が続いている。そんななか、エージェンシー各社がバーチャル化を進めている典型例が営業だ。直接人と会えない状況下で、エージェンシー各社は自社の創造性を実際に示す、「シアター型営業」をオンラインへ移行する、新たな手法を獲得しつつある。
BBHグループ(BBH Group)の最高成長責任者、ティム・ハーベイ氏は「オフィスにおけるシアター型営業には無限の可能性があった。『同じレベルのものを居間から届けるにはどうすれば良いだろう?』と誰もが自問自答しているはずだ」と語る。同社では3月第4週に、その一貫として拡張現実型の体験を実装した。「(コロナウイルスが)制作現場に及ぼした影響から生まれた、新たな意思疎通のソリューションだ」 。
世界中で在宅勤務が増えるなかで、エージェンシーやブランド、コンサルタントらは皆、ZoomやWebExといったソフトを使った営業を採用している。これまでのように会社の会議室や酒の席で握手を交わしたり相手の人となりを知ったりするかわりに、エージェンシーやブランドのマーケターたちは動画チャットでお互いの自宅にいながら、ともにどうやってデジタルでビジネスを続けていくかを模索している。
Advertisement
対面できないことのデメリット
これまでエージェンシーが創造的な新構想や新しいビジネスを営業する場合、決して握手やパワーポイント(PowerPoint)のプレゼンだけで終わるようなことはなかった。エージェンシーはこれまで何十年もかけて、クライアントを自分たちの物語にのめり込ませ、つながりを感じさせるための手法を洗練させてきた。それが即座かつスムーズにデジタルへと移行できるはずもない。エージェンシー役員やコンサルタントらはボディランゲージを確認しないで営業の感触をつかむのは難しいと語る。
ジョアン・クリエイティブ(Joan Creative)の共同創業者兼CEO、リサ・クルーニー氏は「Zoomでの営業は容易ではない。チームの相乗効果がいかに重要かは誰もが知っている」と語る。「当社がツールを完成させたとはまだ言えないが、皆がクライアントとのミーティングで当社の企業文化である楽しさを伝えようと必死で努力している」。
上記の相乗効果以上に、直接会ってシアター型の営業を出来ないデメリットのほうが大きい場合も多い。フォースマン&ボーデンフォーズNY(Forsman & Bodenfors NY)でビジネス開発及びPR担当リーダーを務めるアリソン・モーザー氏は「いまや自明の説得力があるような仕事でなければ通用しない」と語る。「そのため、プレゼンテーションがより直接的になり、その内容について規律付けされる必要がある。だがそれによって、エージェンシーとクライアント間のやりとりに、これまでよりも透明性や誠実性が増した。いま、営業のルールを書き換えているのを感じる。この進化を続けて、いまの苦難を乗り越えたあとには、以前よりも人間的なやりとりを実現していきたい」。
企業存続のために営業は必須
バーチャルな営業といってもその種類はさまざまだ。いまのクライアントに向けた新たな営業方法として、単に新しいクリエイティブやメディアを採用しているエージェンシーもある。一方、営業を通じて新規ビジネスを狙うエージェンシーも存在する。コンサルタントらによれば、ヘルスケア分野をはじめエージェンシー探しを一時止めているクライアントもあるものの、大部分の営業はまだ行われているという。IDコムズ(ID Comms)の最新レポートによれば、エージェンシーCEOのうち半数以上が新規ビジネスを続けられるという自信を示す一方で、8%は新規ビジネス活動を一旦停止していると回答している。
検索コンサルタント会社のAARパートナーズ(AAR Partners)でプレジデントを務めるリサ・コラントゥオーノ氏は「見直しについては、案件の緊急性が重視されている」と語る。同社では現在、停止した1件を除いてすべての営業を継続中だという。「優先しているのは日常業務を重視し、企業として存続させることだ。見直しには時間がかかるため、カテゴリーによっては少しのあいだ保留しなければならなくなる」 。
営業は必須だ。だからこそ、どのエージェンシーも続けている。
「物語を章立てて語る」
TBWA\シャイアット\デイ・ニューヨーク(TBWA\Chiat\Day New York)のCEO、ロブ・シュワルツ氏は「シアター型の営業は、これまでと異なる方法が求められている」と語る。「エージェンシーの持つエネルギーや情熱は、これまでクライアントの購入理由のひとつだった。バーチャルにこれを再現するにはほかの演出技法が必要だろう」 。
同じ室内で営業する場合、エージェンシーは一般的に会議室や壁をいっぱいに使う。シュワルツ氏は、その様子をまるで壁画のようだと表現する。これができない以上、エージェンシーは「物語を章立てて語る」必要があると、シュワルツ氏は指摘する。「移行に際しては膨大な練習が必要だ」。
当然ながら、スムーズな移行や話し合いは難しく、それ以上にすべてをバーチャルにすることは苦痛を伴うだろう。あるコンサルタントは匿名を条件に「最初に行ったバーチャル会議はひどいものだった」と明かした。「マーケター側で接続が悪く、音声が不明瞭だった。メンバー間での説明内容もよく聞き取れなかった。状況を把握するために、3回も進行を止める必要があった」。
不確実性が高い現在の状況
エージェンシーのなかには、事業を継続するなかで一部の事業へより集中が進むと考えている所も多い。コンサルタントらは、もしマーケターが活動を続けるのであれば営業は避けようがないと口をそろえる。
一時的に休止したブランドを除き、現在各社のビジネス活動には大きな変化が発生しており、それによって営業にも変化が生まれている。コンサルタントらによれば、営業を続けている企業のなかにはメディア支出を削り、営業対象を調整しているところもあるという。こういったブランドはまだ営業を行うエージェンシーへの報酬を変えているわけではない。だが今後数カ月不透明な状況が見込まれる現状で、マーケターが出来る限りの現金を手元に残そうと動くことが見込まれる。そのため今後数週間のあいだに報酬額を下げようとするところがでてきても不思議ではないというのがコンサルタントらの予測だ。
コンサルタントらがほかにも懸念しているのが、マーケターが現状を鑑みてコスト削減のため自分たちを頼らないインハウスの営業に切り替えるのではないかという点だ。あるコンサルタントは匿名を条件に「業界の情勢が変化しつつあり、各社がどのように対処するかを見定める必要がある」と語る。「現在は忙しくしているが、それがいつまで続くかはわからない。すべて状況次第だ」。
KRISTINA MONLLOS(原文 / 訳:SI Japan)