[ DIGIDAY+ 限定記事 ]数年前まで、H&Mの店舗では、H&M向け「ベルサーチ(Versace)」コレクションの服を着たモデルの写真が飾ってあるのが普通だった。だが最近では、再生プラスチック製ドレスを着ているモデルの写真を見かけることが多いだろう。これはブランド再構築に乗り出しているH&Mが手がける戦略の一環だ。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]数年前まで、H&Mの店舗では、H&M向け「ベルサーチ(Versace)」コレクションの服を着たモデルの写真が飾ってあるのが普通だった。だが最近では、再生プラスチック製ドレスを着ているモデルの写真を見かけることが多いだろう。こうした写真は、苦境から脱するために環境保護を中心としたブランド再構築に乗り出しているH&Mが手がける戦略の一環だ。
スウェーデンのファストファッション大手であるH&Mは、1月に発表した四半期決算で6期連続の減益となったことを明らかにした。2月には、2019年中に160店舗を閉鎖する計画を発表している。
「H&Mグループにとっても業界にとっても困難な1年となっている」と、同社は声明のなかで語った。
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置き去りにされるH&M
H&M自身が気づいているように、ファッションのトレンドが進化するにつれて、ファッション業界におけるH&Mの立ち位置はますますどっちつかずになっている。そんな同社を尻目に、質の高さを求める消費者は、ノードストローム(Nordstrom)やトップショップ(Topshop)といった一般大衆向けのブランドや小売企業で、しっかりとした作りの製品を買い求めるようになった。一方、安価で手軽な製品を求める消費者は、ファッション・ノバ(FashionNova)など、インスタグラム(Instagram)で急成長を遂げている、各種ブランドに向かっている。
こうしたトレンドが、10年以上ものあいだ「ファストファッション」の最前線に立ってきたH&Mを置き去りにしているのだ。
「ファストファッションの世界には、明らかにライバルといえる企業が数多く存在する」と、H&Mのコミュニケーション責任者であるエミリー・スカーレット氏はいう。「しかし、サステナビリティは我々にとって重要なものだ。これは典型的なファストファッションとはいえないものの、我々は将来を見据えた多くの取り組みを行っている。そのようなブランド戦略が曖昧なのかどうかはわからないが、そういわれていることは確かだ。それでも、我々は『ファストファッション』にまつわる固定観念を変えたいと考えている」。
ブランド再構築の中核
数年前から、H&Mはサステナビリティをブランド再構築の中核のひとつに据えている。環境への負荷を減らすために、非常に野心的な目標を数多く発表しているのだ。
「我々が2040年までに完全にクライメイトポジティブ(climate positive)な企業になるという目標について語るとき、それはバリューチェーン全体を対象としている」とスカーレット氏は話す。「『大いなる力には、大いなる責任が伴う』という古い格言にあるとおりだ。我々は大きな組織だが、そのことは、サステナビリティに大きな影響を与えるチャンスが我々にあるということを意味している」。
だが、企業イメージがひと晩で変わることはない。H&Mのユーザー体験はもっぱら店内で提供される。そこは、チープな作りのセール品が大量に積み上げられ、同社が業績を拡大できずに苦労していることで知られる場所なのだ。
CEOのカール・ヨハン・パーソン氏は、2018年の年次決算発表の席上でこうした事実を認めたうえで、次のように語っていた。「H&Mの弱点は店舗にある。顧客行動の変化がもっとも強く感じられるこの場所では、オンライン販売が拡大するにつれて客足が減っている」。
環境に敏感な若者たち
サステナビリティに向けたH&Mの取り組みは、サスティナブルなファッション製品への人気が特に若い消費者のあいだで高まっている状況に対応したものだ。テクノロジー企業のCGSが行った消費者調査によると、回答者の70%(その大半はZ世代)が、購入する製品を選ぶときにサステナビリティを重視すると述べている。
「Z世代とミレニアル世代の消費者は、こうした需要をかきたてているばかりか、ファッション企業のサスティナブルな製品や可視化への取り組みを、上の世代の消費者以上に後押ししている」と、小売プラットフォームのエディティド(Edited)でマーケットアナリストを務めるケーラ・マルチ氏は述べている。「そこでファストファッションの小売業者は、このユーザー層により環境に優しい企業だと思ってもらえるように努めているのだ」。
マルチ氏によれば、ファッション小売企業はこのトレンドを十分に理解しているという。H&Mは2018年第4半期、「コンシャス・エクスクルーシブ(ConsciousExclusive)」というサスティナブルなコレクションの品揃えを、米国で35%、英国で30%増やしている(ともに前年同期比)。
理想と現実のギャップ
こうしたサステナビリティを核とする取り組みは、ファストファッション最大手のひとつとして長く君臨してきたH&Mのイメージとは正反対の動きに思われるかもしれない。「今日、ファストファッションとサステナビリティのあいだには明らかな矛盾がある。ファストファッションは大量の製品を作っているが、たいていの場合、製品の品質はそれほど高いとはいえない」というのは、ポジティブラグジュアリー(PositiveLuxury)の創設者兼CEO、ダイアナ・ベルデ・ニエト氏だ。同社は、ファッションの分野で環境意識を高めることを提唱している。
「サスティナブルな製品はサスティナブルな消費者を引き寄せる。したがって、ファストファッション製品はそのような消費者には同じように評価してもらえない可能性がある」と、ニエト氏は語った。「たいして気にとめてもらえず、使われなくなって、最後には忘れ去られるかもしれない」。
Danny Parisi(原文 / 訳:ガリレオ)