Googleは今年2月から、クロスネットワークアトリビューションレポートのテストを行っている。このレポートは「まもなく」もっと幅広く利用できるようになるという。Googleの広告マシーンはつながりのない歯車の歯などではなく、うなりをあげるエンジンとして役に立つということを広告主に証明するものだ。
Googleが、反トラスト問題に関連する、規制当局による厳しい調査に直面している。しかし……同社のさまざまなサービスで展開される広告キャンペーン、そして、その効果を同社が測定する手法が変わることで、企業各社は検索とディスプレイ、YouTubeが絡み合うGoogleのプロダクト群への依存をさらに高めざるを得なくなるかもしれない。ときに不透明なGoogleの自動化システムを信頼せざるを得なくなるかもしれないが、この変化は大きいと、広告コンサルタント各社はいう。
Googleは今年2月から、クロスネットワークアトリビューションレポートのテストを行っている。このレポートは「まもなく」もっと幅広く利用できるようになると、Googleの広告バイイング/アナリティクス/メジャーメント部門のバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるビディヤ・スリニバサン氏は、同社が5月27日に開催したバーチャルイベントで語った。製品販売やサイト訪問などのコンバージョンイベントを、巨大なGoogleプラットフォーム(検索やショッピング、ディスプレイ、YouTube、モバイルアプリなど)のユーザーに表示される広告と結びつけ、その有効性を測定する能力。それは、Googleの広告マシーンはつながりのない歯車の歯などではなく、うなりをあげるエンジンとして役に立つということを広告主に証明するという同社のミッションのひとつだ。「これはつまり、企業各社はGoogleの全広告の効果を正しく評価できるということだ」と、スリニバサン氏は語った。
この動きは大きい。その理由のひとつは、これによって広告主は、検索やYouTubeでそれぞれ何が起きているのかを示す異なるレポートを確認しなくても、全体としてGoogleに対する投資のパフォーマンスを正しく測定できるようになるからだと、広告コンサルタント各社は話す。
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「我々がずっと待ち望んでいたもののひとつがこれだ」と、広告コンサルタント会社、アド・ベーコン(Ad Bacon)の創業者、タイ・マーティン氏は語る。たとえば、あるユーザーがGoogleで「自動車保険」を検索する。2日後に自動車保険会社の「ガイコ(Geico)」を検索する。そして、保険に加入するなどの何らかの行動を起こして顧客になる。同氏によれば、これまでは、自動車保険会社の広告主にはそのことしかわからなかったという。だがこれからは、そのユーザーがこのプロセスの途中でYouTube広告を目にし、それがそのユーザーをコンバージョンに至らせた可能性も示されるようになるのだ。
「組織的な観点からいえば、幹部クラスの意思決定者が投資を避けてきた主な原因は、単なる論拠の欠如だ」と、マーティン氏は語る。この新しいレポート機能が、彼ら意思決定者を納得させ、Googleが長年プッシュしてきた検索やダイレクトレスポンス広告の枠を超えた投資へと導く主要因となる可能性は十分あるという。
「これによって、我々が行うメディア投資の効果をより包括的に把握できるようになるだろう。特にいまは、Cookieベースのトラッキングがなくなることにより、メディアバイイングの最適化や測定が難しくなりつつある」と、デジタルエージェンシーのPMGで分析部門の責任者を務めるローリー・ミラー氏は語る。「結局のところ、Googleは今あるなかで最大のエコシステムだ。それぞれがどのように連携しているのかをより鮮明に可視化し、インサイトに基づくシームレスな対応が取れれば、その効果は絶大だ」。
Googleの自動化システムに対する信頼
前述のイベントでGoogleは、Cookieなどの、従来型のアイデンティティ追跡ツールが使用できなくなった場合に、各広告の有効性の測定を試みる「コンバージョンモデリング(conversion modeling)」サービスについての発表も行なった。今年4月に最初の発表が行われた、このコンバージョンモデリングは、機械学習を用いて、Cookieが利用できる状態で集められる広告アトリビューションデータを取り出す。そして、そのデータを使って、ログインしていない、Cookieによる追跡が行えないユーザーが、Googleのさまざまなプロパティで展開されるキャンペーンを目にし、広告主のサイトを訪問するなど、広告に従って行動を取ったかどうかを推定する。
しかしながら、Googleがこのアプローチを取るには、同社の機械学習と自動化システムは信頼できるということを広告主に納得させなければならない。それに欠かせないのが透明性だ。だが、機械学習システムは必ずしも、それを提供できるとはかぎらない。Googleなどのテック企業は、それを白日の下にさらすことを渋ってもいる。「自動化されたソリューションはブラックボックスのようなものという話は、これまでにも耳にしてきた」と、Googleでグローバルビジネスソリューション部門のバイスプレジデントを務めるジェイソン・スペロ氏は前述のイベントで述べた。
「最大のチャンスがあるのは、おそらく自動化だろう。だがその一方で、最大の変化が必要とされていることもたしかだ」と、デジタルエージェンシーのグッドウェイグループ(Goodway Group)でエンタープライズパートナーシップ部門のバイスプレジデントを務めるアマンダ・マーティン氏は語る。広告主もエージェンシーもGoogleの機械学習モデルに絶対の信頼を置いているとはかぎらない。その理由は「透明性が欠けている」からだと、同氏はいう。
Googleのアトリビューション技術。その信頼性と透明性は、同社にとって「扱いが難しい問題」だと、デジタルエージェンシーの3Qデジタル(3Q Digital)でディシジョンサイエンス部門のバイスプレジデントを務めるフェリクス・モルツ氏は話す。Googleが提供するアトリビューションレポートのせいで、Google広告がユーザー行動の誘発に実際よりも大きな役割を果たしているかのように見えるケースもある。もしそうだとしたら、Google外での出稿が考慮に入れられていないことがその理由のひとつだと、同氏はいう。「予算のほとんどをGoogleに費やしている広告主にとっては、たいした問題ではないだろう。だが、大手広告主の多くが予算の多様化を図っているという現実を直視すれば、そうとも言い切れない」。
後日、Googleで広報担当者を務めるレスリー・ピターソン氏から話を聞いたところ、広告主はGoogleの測定のみを頼りにする必要はないという答えが返ってきた。同氏によれば、「関連性のある有用な広告が表示される手伝いをすることに、Googleは目を向けている。広告と人を結びつけ、消費者行動に影響を及ぼすための効果的な方法。それについてのインサイトを提供できるようにすることが、測定技術に対する我々の投資の目的だ」という。「これがGoogleのエコシステムにとって非常に重要であると、我々は考えている。Googleは長きにわたって世界各地の測定企業と業務提携を結び、広告主にサードパーティのレポートを提供できる体制も敷いている」。
反トラスト問題によるプレッシャーへの反発
Google自身が推し進めてきたサードパーティCookieなき世界で、Googleは広告主にどのようなビジネスを望むのか。それについての慌ただしい要旨のなかに、Googleのアトリビューション/コンバージョンモデリングに関するニュースは埋もれてしまった……かに見えたが、それは意図的なものだったのかもしれない。アトリビューションに関する一連の発表は、デジタル広告に及ぼすGoogleの力をさらに強固にするポテンシャルを有しているように映る。そしてそれは、規制当局の警告を促すおそれがあるからだ。
Googleが展開する広告ビジネスの細部に、かつてないほどの政府の注視が向けられている。そんななかで、さまざまなプロダクトをうまくまとめるという同社の進歩的なミッションは、議員やアンチ派には受け入れられないかもしれない。彼らはすでに、デジタル広告市場におけるGoogleの支配の拡大を警告している。「予測可能な反トラスト問題へとつながる方向に一歩踏み出した。そんな感がある」と、タイ・マーティン氏は語る。Googleが「広告の多種多様な側面に極端なまでのリーチを及ぼす可能性」を考慮に入れると、「Googleが各広告主の予算の大部分を抱え込むようになる未来も十分に考えられる」と、同氏は語る。
すでにGoogleは世界のデジタル広告支出をリードする存在となっており、マーケットシェアの約30%を掌握している。「Googleの狙いは、それを強固にすることだ。彼らの取り分はとてつもなく大きい」と、アマンダ・マーティン氏は語った。
KATE KAYE(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)