ChromeブラウザのサードパーティCookieを無効にする計画を延期したGoogle。そんなデジタル広告大手の同社が、コホートベース型のターゲティング広告アプローチから、トピックを重視するCookieレスなシステムへの移行を検討している可能性が浮上している。
ChromeブラウザのサードパーティCookieを無効にする計画を延期したGoogle。そんなデジタル広告大手の同社が、コホートベース型のターゲティング広告アプローチから、トピックを重視するCookieレスなシステムへの移行を検討している可能性が浮上している。
先頃おこなわれたエンジニアリングリサーチ会議「インターネット・エンジニアリング・タスク・フォース(Internet Engineering Task Force:以下、IETF)」において、Googleによるプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)の開発を率いるリードエンジニアが、同社のCookieレスなターゲティング広告手法の次の一手を示す兆候を明らかにした。今後、FLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)のアップデートが行われれば、数値を使った不透明なコホートIDではなく、トピックカテゴリーがウェブサイトやユーザーに割り当てられる見込みだという。今後、たとえこのアプローチが推進されなくとも、この動きはGoogle社内にあるひとつの認識を示唆している。オリジナル版のFLoCは、広告業界にとって不透明な存在であるだけでなく、ユーザーにも新たなプライバシー侵害をもたらす存在だったという認識だ。
「トピックのほうが理にかなう」
GoogleのChromeブラウザ部門でプライバシーサンドボックスチームを率いるジョシュ・カーリン氏は、「コホートではなくトピックを重視するほうが理にかなっているかもしれない」と、7月26日に行われたIETFで語った。この記事の中盤に掲載された動画は、YouTubeで公開されている当日の模様の動画である。
Advertisement
20分間のセッションのなかで、カーリン氏は、FLoCのアップデートによって、Cookieを用いないインタレストベースのターゲティング広告が可能になるシナリオについて解説した。その方法のひとつが、数値を用いた不透明なコホートIDを割り当てるのではなく、ユーザーが訪れるウェブサイトのテーマ(舞台芸術、フィットネスなど)に関連するトピック中心のIDを生成するアルゴリズムのシステムだ。これについてカーリン氏は、「(当時は)まだ表現するのが難しかったし、理解するのも難しかった」と述べた。不可解な存在であるにもかかわらず、プライバシー擁護派はオリジナル版FLoCのコホートベース型アプローチに待ったをかけ、それがユーザーの特定に用いられるおそれに懸念を示した。そして、その懸念は十分な根拠に基づいていることが判明した。
アップデート版のFLoCについてGoogleに問い合わせたところ、広報担当者から「まだ何も決まっていない」という回答が返ってきた。オリジナル版のテストを7月13日に終えた同社は、ウェブコミュニティからのフィードバックを今後のバージョンに取り入れてから、テストのためのアップデートをローンチすることを計画しているという。
トピックベース型のメリット
トピックベース型のアプローチが採用されれば、広告主、アドテク企業、ウェブサイトパブリッシャーおよびユーザーは、この技術を介したターゲティング広告の仕組みをもっとはっきりと理解できるようになるかもしれない。「コホートに比べると、トピックには優れている点がさまざまある。ユーザーは自分について何が言われているのかを知り、それを理解することができる」と、カーリン氏は語る。
ブラウザベースのFloCプロセスがどのように変わるのかについて詳しく語られることはなかったが、カーリン氏は手がかりをいくつか残してくれた。
- Googleは、ユーザーが特定の週に訪れるサイトに反映されるさまざまな関心を基に、サイトトピックを割り当てるのではないか。
- トピックは、多数のコホートIDから選ぶやり方とは対照的に、インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:IAB)のコンテンツ分類と似た、公開・標準化されたトピックからなる短いリストに基づくのではないか。「たとえば、コホートが約3万なら、トピックは256といったような」と、カーリン氏は述べている。こうすることで、ユーザーを特定するためにほかの種類のデータと結びつける際の、FloCの有用性は低下するのではないか。
- ユーザーは、自分に割り当てられるトピックのオプトイン/オプトアウトを選べるようになるのではないか。
概して、観測筋や業界関係者の多くは、カーリン氏がIETFで披露したコンセプトについては何もわかっていない。Googleもまた、同社がプライバシーサンドボックス構想を推進するワールドワイド・ウェブ・コンソーシアム(Worldwide Web Consortium)のフォーラムに参加する企業に、この新たなトピックベースのコンセプトを正式には紹介しなかったようだ。
カフェメディア(CafeMedia)のエコシステムイノベーション担当バイスプレジデントを務めるドン・マーティ氏は、次のように語る。同氏はGoogleのプライバシーサンドボックス構想に目を光らせてきた人物だ。「FLoCの次のバージョンが、少し前のオリジントライアルとほぼ同じ働きをする可能性はある。ドメイン名の代わりに、あるいはそれに加えて、ページからのトピックやキーワードが用いられるという点を除けば。とはいえ、そういう私も、次にリリースされるFLoCがどう変わるのかについて何か知っているわけではないのだが」。
フィンガープリンティングをめぐる懸念
Googleが検討しているトピック中心のアプローチは、少なくとも部分的には、プライバシーをめぐる懸念を鎮めることを目的としている。だが、新たなデータポイントを生成すれば、FLoC IDを使ってユーザーのアイデンティティをまとめるフィンガープリンティング技術が可能になるかもしれない。そのことはカーリン氏も認めている。
「FLoCによって、フィンガープリンティングの新たなリスクが生まれるのは事実だ」と、カーリン氏は語っている。だが、トピックを重視するアップデートにより「クロスサイト・フィンガープリンティングに対するFLoCの有用性を著しく低減できる」という。この新たなアプローチによって、旧バージョンではアイデンティティの検出に使われていた可能性のある情報や信号の数が減ると予想されるため、さまざまなフィンガープリンティング技術を妨げることが可能になると、同氏は述べた。また同氏は、アップデート版FLoCでフィンガープリンティング機能を軽減するもうひとつの方法として、ランダムなトピックのサイトへの追加をあげた。
プログラマティック広告キャンペーンの実施で、エージェンシーやブランドをサポートするマイキュー(MiQ)において、米国のストラテジー部門トップを務めるジョン・グールディング氏は次のように語る。「GoogleはトピックベースのIDに切り替えているのかもしれない。なぜならば広告主の側にはインタレストビヘイビア(関心に基づくユーザーの行動)を理解したいという需要があり、切り替えることで、企業がコホートIDを強化する取り組みを思いとどまらせる可能性があるからだ、と私は考えている。これはいいことだ。もしパブリッシャーやアドテク企業がインタレストビヘイビアをかつてのコホートIDと結びつけようとしていたら、それがフレームワーク全体のプライバシー保護を弱体化させるリスクを生み出していたかもしれない」。
「まだ決まったわけではない」
オリジナル版FLoCのアプローチはプライバシー擁護派の非難の的だった。彼ら擁護派は、ユーザーのプライバシーを保護するやり方で広告をターゲティングするのではなく、企業がトラッキングを行い、ユーザーを特定することさえできる新たな手段を生み出していると、FLoCを非難した。このオリジナル版の開発期間中、Googleはプライバシー関連の批判に公然と反論した。ひとつの方法として、慎重に扱うべきコンテンツカテゴリーとの相関関係を取り除けば、プライバシーの侵害を軽減できるというのが、同社の主張だった。
ところが、コホートIDがデジタル広告のエコシステムに少しずつ流れ込むようになると、広告エージェンシーやテック企業は、これで何がわかるのかを確かめるためにコホートIDをいじり回し、おそらくはユーザーのプライバシーを保護するであろうFLoCの殻の部分をはがし始めた。米DIGIDAYが過去にレポートしたように、IDテックプロバイダーは、コホートIDを使えば、ユーザーID検出システムの精度を向上できるのではと期待し、広告エージェンシーやその他のテックプロバイダーは、このIDを傍受し、既存のユーザープロフィールと併用する方法の分析に勤しんだ。
「Googleは常に、開かれた自由なウェブをサポートしつつ、プライバシーサンドボックスを強化するための方法を模索している」と、Googleの広報担当者は語る。
トークの途中、カーリン氏は次のように付け加えた。「さまざまなアイデアに対する評価がいまも行われている。そのどれかにまだ決まったわけではない。我々は、こうしたアイデアをオープンな場所で議論し、磨き上げ、テストして、それがプライバシーにもたらす影響への理解を深めていくつもりだ」。
KATE KAYE(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)