最近、メタバースに精通する一部のブランドがデベロッパーと直接提携し、ロブロックスのバーチャルーワルドに自社プロダクトを投入しはじめている。その結果、活気に満ちた、成長著しいクリエーターエコノミーがロブロックス内に誕生し、ブランド、プラットフォーム、デベロッパーの三者全員に利益をもたらす機会が創出されている。
ゲーム内でのブランドアクティベーションを実践するべく、自社プラットフォーム内でブランドパートナーとデベロッパーに「共同作業」させるのは、オンラインゲーミングプラットフォーム、ロブロックス(Roblox)の常道だ。
だが最近、メタバースに精通する一部のブランドが、仲介者のロブロックスを飛ばしてデベロッパーと直接提携し、バーチャルワールドに自社プロダクトを投入しはじめている。その結果、何が起きたのか。活気に満ちた、成長著しいクリエイターエコノミーがロブロックス内に誕生し、ブランド、プラットフォーム、デベロッパーの三者全員に利益をもたらす機会が創出されている。
ブランドとデベロッパーの協力
メタバースでのブランドアクティベーションは往々にして、ブランドとプラットフォームの提携から生まれる。たとえばアパレルブランド、バレンシアガ(Balenciaga)が人気バーチャルゲームであるフォートナイト(Fortnite)に提供するコスチュームは、エピックゲームズ(Epic Games)の社内チームがアンリアルエンジン(Unreal Engine)内で再創造したものだ。
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一方、ロブロックスのブランドアクティベーション構築法はさらにホリスティックであり、同社はバーチャル体験の創出をゲーム内のデベロッパーネットワーク全体で行なわせている。「僕らはワーナー・ブラザーズ(Warner Bros.)とも、映画『レディ・プレイヤー1(Ready Player One)』のコラボで仕事をした」と語るのは、ロブロックスのデベロッパー、アレックス・バルファンツ氏(22歳)だ。同氏のスタジオであるバディモ(Badimo)はロブロックスの人気ゲーム、ジェイルブレイク(Jailbreak)も手がけている。「ロブロックスが得意とするライセンス契約を通じて、僕らのジェイルブレイクブランドのナーフ(NERF、ハズブロのトイガンブランド)も店頭に並んでいる」。
バルファンツ氏とバディモの共同創業者キアヌ氏――プライバシー保護の観点から、名字は明かさないこととした――は6年前、バルファンツ氏が15歳の時に同社を立ち上げた。彼らが開発した人気ゲーム、ジェイルブレイクには、現在、2000万人の月間アクティブユーザーがおり、若き両創業者はバディモを常勤の仕事としている。
バディモの最新ブランドパートナーシップのひとつが、ジェイルブレイクへのナスカー(NASCAR)の導入だ。これはロブロックスを介した、ナスカーとバディモの深いコラボ関係から生まれた。「まず、本物の車の音に限りなく近づけるようにと、ナスカーは大量のサウンドアセットを提供してくれて、それから形も正確に再現できるようにと、大量のデジタルアセットを提供してくれた」とキアヌ氏は語る。
ナスカーはバディモとコラボし、後者が開発した人気ゲーム、ジェイルブレイクに自社ブランドの車を投入した。(画像提供:ロブロックス)
デベロッパーコミュニティの自立を目指す
10日間にわたるナスカーのイベント中、ユーザーのジェイルブレイク体験数は2400万回に上った――同時プレイ人数としては30%増だとバディモは発表している。「基本的に、自社プラットフォームにおけるこうしたアクティベーションの目的は、ファンとのあいだに本物の自然なつながりを創出するようブランドの背中を押し、コミュニティの共有体験を、彼らのゲームプレイを邪魔をせずに強化することにある」と、ロブロックスのブランドパートナーシップ部門VPであるクリスティーナ・ウートン氏は語る。
さらに、ロブロックスは最近、多くのプラットフォーム内ブランドアクティベーションにおいて「仲介役」を務めていない。つまり、ブランド勢はロブロックスを介さず、デベロッパーと直に提携している。この変化は意図的なものだ。「デベロッパーコミュニティに自立してもらい、プロジェクトの主導権を握れるようにし、我々のパートナーと直接コラボさせることにフォーカスしている」とウートン氏。「ブランドに関しては、彼らがメタバースの活動と知見を増やすなか、ロブロックスをセルフサービス的な存在とし、複数のカスタム可能なテンプレートやそのほかのツールおよび機能を取り揃えて、自由に利用してもらう未来を見据えている」。
この「非関与戦略」は利他主義的ではあるが、ロブロックスにも明らかな有益性がある。ロブロックス内のブランドパートナーシップおよびアクティベーションはすべて、ロブロックスがそのコラボから直接利益を得るか否かにかかわらず、潜在的オーディエンスおよびユーザーベースを拡大することで、同社プラットフォームに利益をもたらすからだ。たとえば、ナーフとバディモの提携では、ライセンス料はすべてデベロッパーに渡り、ロブロックスは手数料を一切取っていない。だが、ロブロックスのブランド名とロゴはすべてのナーフに目立つように刻印されており、トイガンを手にする膨大な数の潜在的プレイヤーに同プラットフォームの存在をアピールしている。「ロブロックスはあくまでゲームをプレイし、そのゲーム内でお金を使う人々からお金を得ている」とバルファンツ氏は指摘する。「だからこそ、トイガンにも展開できるような格好良くて面白いゲームをもっと生み出せるように、デベロッパーに主導権を握ってもらいたいと、心から願っているんだと思う」。
「ロブロックスは誰でも入れて、ツールの使い方を覚えて、作って、作って、作りまくれる、いわば真っ平らなプレイフィールドだ」と、ロブロックスを拠点とするデジタルプロダクションスタジオ、スーパーソーシャル(Supersocial)のCEOであるヨナタン・ラズ・フリードマン氏は語る。「いま何が起きているかというと、ブランドがたくさんあるなか、その一部がデベロッパーのもとに直に向かいつつある。ようするに、ロブロックスに存在するデベロッパーの大きなコミュニティは突然、ブランドが欲しいものを作ることで自らのスキルを換金する絶好の機会を手にした、というわけだ」。
「遊ぶため」から「ビジネスのため」に
「ロブロックスには現時点ですでに、手に負えないくらいたくさんのブランドから問合せが殺到しているはずだし、その数は今後、増える一方だと思う」と、フリードマン氏は語る。ブランドエンゲージメントの重要性が増すなか、ロブロックスはブランドパートナーとデベロッパー双方に対する最適なサポート法を今後も探っていくだろうし、そうすることでロブロックス自体の存在感を、広告プラットフォームとしてもプロトメタバースとしても、なおいっそう高めることになると、氏は指摘する。
ブランドが寄せる高い関心への対応を進化させるなか、ロブロックスはクリエイターに活動維持に必要なサポートを提供するUGCエコノミーの構築に努めている。同社はバーチャルな集合の場に留まらず、最近はビジネス的つながりも提供し、成長を続けるプラットフォーム内のデベロッパーが趣味を収入源に変えるための助言も与えている。「NASCARとの契約では、普段の活動領域の外に出て、弁護士を見つけ、事業保険やそのほかにもそれまで見たことも聞いたこともなかった諸々を手配しないとならなかった」とバルファンツ氏。「でもNASCARは僕らとの仕事にとても前向きで、そうした面倒ごとを解決するまで喜んで待っていてくれた――もちろん大変だったよ。もともと遊ぶためのゲームを作っていた子どもふたりにしてみれば、とてつもなく大きなことだったからね」。
[原文:How Roblox’s virtual brand activations are building a robust creator economy]
ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)