フォートナイトクリエイティブが、メタバースにおけるブランドアクティベーションのハブになりつつある。高まるニーズは独立系デベロッパーやクリエイターに仕事の場を提供し、独自のクリエイターエコノミーを構成しつつある。この状況が、今後ブランドにどのようなメリットを提供することになるのだろうか。
フォートナイト(Fortnite)の建築要素にフォーカスしたサンドボックスゲーム、フォートナイトクリエイティブ(Fortnite Creative)が、メタバースにおけるブランドアクティベーションのハブになりつつあり、その旺盛な需要はフォートナイトのデベロッパーであるエピックゲームズ(Epic Games)のみならず、オーディエンスへアプローチするほかの企業の成長も後押ししてる。
その結果、ゲームのワークショップモードで体験をデザインするインディデベロッパーのコミュニティ界隈を中心に、ロブロックス(Roblox)内で始まったクリエイターエコノミーのような「家内工業」が出現している。
メタバースは、模倣している世界と同じようにいつも変化している。これはつまり、エピックゲームズがロブロックスのようなプラットフォームと競争したいのであれば、ユーザーが求める刺激的なアクティベーションを常にフォートナイト内で提供しなければならないことを意味する。メタバースというコンセプトが成長し、かかわるクリエイターやブランドが増加すると、エピックゲームズは広告主に提供できるものへの投資を増やすことになるだろう。
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ブランドはこれまでのところ、文化的な大イベントを中心にメタバースでのアクティベーションを行ってきた。たとえば、世界最大級音楽フェスティバルのコーチェラ(Coachella)や、マーベル映画の次回大作リリース、新製品のローンチ、ロンドンにある大規模多目的アリーナ「O2アリーナ」のバーチャル建設、コカ・コーラ(Coca-Cola)の島Pixel Point(ピクセルポイント)のフォートナイト体験など、いずれもフォートナイトをメタバースの礎として揺るぎない存在にするものばかりだ。
フォートナイトクリエイティブ内で働くエージェンシーや独立系クリエイターが増える一方で、依然としてブランドスペースはエピックゲームズの内部チームが支配的立場にある。こうしたプロジェクトの流入に対処するため、エピックゲームズではアライアンス(Alliance)やゼンスタジオズ(Zen Studios)をはじめとする数多くの独立系クリエイターと提携してきた。
クリエイターのネットワーク
フォートナイトクリエイティブは、ブランドにとってもオーディエンスにとっても、アクティベーションを活用しやすくすることを目的としている。ワークショップモードであり、ロブロックスやマインクラフト(Minecraft)のようにプレイヤーが自分自身の体験をデザインできる。誰でもアクセス可能なので、ブランドはエピックゲームズと一切提携せずにアクティベーションをつくり出すことができる。
フォートナイトのブランドアクティベーションで顕著なのは、ゲームでも特に人気の高いバトルロイヤルモードで見られるが、このタイプのブランドアクティベーションの場合、利用できるスペースや時間や人材が限られている。
「フォートナイトクリエイティブのクリエイターは、たいてい小規模なゲームスタジオだ。マーケティングからトレイラーの制作、グラフィックデザインまで、何でもできなければならない。レベルデザインにも携わる」。そう話すのはフォートナイトクリエイティブのエージェンシー、ゼンクリエイティブ共同創業者アールリーオ・メオエイト氏だ。「プロのチームはそれほどいないが、クライアントは大勢いる」。
アライアンスやゼンスタジオズ、チームPWR(Team PWR)などのエージェンシーのデザイナーは趣味が高じてフォートナイトクリエイティブのデザイナーになった人たちばかりだが、こうしたエージェンシーには、ゲームデベロッパーのクリスタルダイナミクス(Crystal Dynamics)、GPUメーカーのエヌビディア(NVIDIA)、eスポーツチームのTSMといったさまざまなブランド向けのレベルデザインにフルタイムで携わる専任チームがある。2018年後半にローンチしたフォートナイトクリエイティブは、このような広告主すべてに利用されている。
フォートナイトのブランドアクティベーションは、小さいものから(すでにアクティブプレイヤーのベースがある既存のマップにちょっとした画像を挿入する)、大きなものまで(4カ月かけてマルチマップのキャンペーンを構築する)まで幅広い。各プロジェクトに対するスタジオの料金はプロジェクトの範囲や複雑さによって違い、数万ドル(数百万円)から数十万ドル(数千万円)かかるものもある。
チームPWRのブーマー・ガガーニー氏は、「需要が数えきれないほどあるのは確かだ。今後参入企業が増えても、今取り組んでいることが私たちがやりたいことであることに変わりはない」と話す。「これまで、ピッチをしてブランドに売り込まなければならないという経験はない。いずれにせよ、いったん一緒に仕事をすれば、ブランドは私たちがこの道のエキスパートだと分かってくれる」。
メタバース参入の裏側
これまでのところ、ブランドはメタバース参入の準備で情報通のエージェンシーを頼りにしているようだ。たとえばアライアンスのようなエージェンシーは、フォートナイトクリエイティブ内で構築するアクティベーションでブランドと連携して成長してきた。つまり、「どのくらいアクティベーションを活かした体験を設計すればいいのか」「ゲームプレイヤーを飽きさせないためにはどうすればいいのか」といった質問に頻繁に答えてきたということだ。というのも、ブランドのマーケターは往々にしてこうした経験や知識に乏しいからにほかならない。
アライアンスは、フルサービスを提供するマーケティングエージェンシーであるのが売りで、コンセプトのローンチから、ときにはグラフィックデザインやインゲームトレイラーをまで、フォートナイトクリエイティブの経験をすべてデザインする。ナイキ(Nike)の「デスラン(deathrun)」マップを構築したのもアライアンスだ。これはプレイヤーに新たなインゲームスキンや、スーザン・G・コーメン乳がん財団のチャリティアクティベーション、米シカゴのフードデリバリー企業グラブハブ(Grubhub)のデリバリードライバー体験(デリバリードライバーになったプレイヤーが、顧客の待つ場所までいかに効率的にたどり着き、ミッションを達成できるかを競う)を与えるというものだ。
このプロジェクトが成功している大きな要因は、優秀な人材に恵まれたことにある。組織の統括には、マッケンジー・ジャクソン氏も関わっている。同氏は、アライアンス誕生前の2019年はじめに、フォートナイトクリエイティブ初のクリエイター主導型ブランドアクティベーション(顧客はeスポーツ企業100シーヴス[100 Thieves])を構築した人物だ。
「我々は基本的にサービスを売り込む必要がない」とジャクソン氏は話す。「ここのマップにはAAA(米プロ野球マイナーリーグの最上位)の試合よりも多くのプレイヤーがいる。それはフォートナイトが完成された素晴らしいゲームだからだ」。
まずはブランド側が見たことのあるキャンペーンについてアライアンスなどのエージェンシーに問い合わせるのが一般的だ。
「フォートナイトは瞬く間に多くの人から一目置かれるようになった。リリースされてから幾度となく、時代を象徴する『ツァイトガイスト(時代精神)』的文化のアイコンになっている」。そう話すのは、コンサルタントのマイケル・ラフォロ氏だ。彼は、グラブハブのプロジェクトを支えたザ・ハクスリー・グループ(The Huxley Group)とグラブハブ・デリバリー・ラン(Grubhub Delivery Run)を創り出したマーケティング会社アウトラウドグループ(Outloud Group)のコンサルティングを担う。「それから重要なのは、何でも作ることができる優れたツールであるという事実だ。ほかのゲームではできないような大胆なこともできるようになる」。
ブランドのメリット
フォートナイトで、スピードレースや障害物競走のゲームがいかに人気を博しているのかを見れば、グラブハブのアクティベーションの様子は想像がつくとラフォロ氏はいう。さらに、「プレイヤーがデリバリードライバーになって、大好きなクリエイターに配達するというチャンスを生み出した」と話す。
フォートナイトクリエイティブのエージェンシー各社は、マップの制作は最初の一歩にすぎないと考えている。彼らが目指すのは、ブランドのメッセージができるだけ数多くの人たちに届くように、どのマップも健全なプレイヤーベースにすることだ。
「私たちの仕事は、企業がメタバースでその存在を示すためのバーチャルな場所を作ることだけではない。楽しく感じたプレイヤーがブランドについてオーガニックなメッセージを拡散したくなるような、特別な体験を作りだすことだ」とチームユナイト(Team Unite)のオーナー、ハネス・ファン・デル・ヘーゲは話す。チームユナイトは、シェービング製品を扱うジレット(Gillette)やeスポーツ選手のマネジメント会社ローデッド(Loaded)、PR会社ケッチャム(Ketchum)と連携し、プレイヤーが巨大なアリーナで戦えるジレットベッドバトルズ(Gillette Bed Battles)のマップを作り出した。このマップは、ローンチから2日間で20万人のユニークプレイヤー数を記録している。
ジレット・グローバル(Gillette Global)でバイスプレジデントを務めるジャベリア・アリ氏は、「Twitch(ツイッチ)の場合、スポンサーのストリームやブランドインテグレーションの成功度を測定する際にブランドが気にする数値は概ね、視聴者数、オーディエンスの質、シェアオブボイス(SOV)などだ」と話す。「ジレットベッドバトルズのフォートナイトマップでは、ユニークプレイヤーの数やプレイヤーの平均プレイ時間、1日あたりの定着率といったデータの層を加えることができた」。
変化の兆し
アライアンスやゼンクリエイティブのような独立系企業の場合、独自のスキンを作ったり、独自のアセットをインポートしたりできず、使用可能なものが、フォートナイトクリエイティブが提供する特定のツールセットに限定される。独自のキャラクターやプロパティ、ブランドをフォートナイトでアセットとして使いたい企業は、エピックゲームズと直接提携しなければならない。
「フォートナイトクリエイティブに限界があるのは明らかだ」と前出のアライアンスのジャクソン氏は話す。「だが、この3年で大きく成長してきた。ブランドに説明する際は、いくつか制限はあるが、フォートナイトクリエイティブなら、プレイヤーたちが思わず雄叫びをあげたくなるような本当にクールで刺激的な体験を十分作り出せると話している」。
フォートナイトクリエイティブはフォートナイトと同じペースで変化を遂げており、アップデートするたびに、さまざまなブランド体験のデザインに活用できる新たなゲームメカニクスを取り入れている。間もなく予定されているフォートナイトクリエイティブ2.0のリリースだけでなく、こうした変化からも、エージェンシーには、バーチャルスペースのブランドアクティベーション構築に役立つ権限がさらに与えられることになる。
フォートナイトクリエイティブ2.0にはアンリアルエンジン(Unreal Engine)5が組み込まれるので、クリエイターは自分のコードを利用してゲームを効果的に修正できるようになる。フォートナイトクリエイティブの新たなバージョンに関しては、具体的なリリース日が明記されていないが、エピックゲームズでCEOを務めるティム・スウィーニー氏は最近のツイートに、エピックゲームズはすでにフォートナイトのクリエイターエコノミーのVer2、Ver3構築に取り組んでおり、プレイヤーには2022年に「いくつか大きな変化を期待」してもらいたいと書いている。
新しいフォートナイトクリエイティブ2.0は、エージェンシーがアクセス可能なゲームジャンルまで拡大する可能性も十分に考えられる。エピックゲームズがこれからのメタバースに本腰を入れている兆候はいくつもあるが、これもその1つだ。エピックゲームズは最近、20億ドル(約2500億円)の資金調達を果たし、「メタバース構築を目指して、会社のビジョンを推進していく」と発表した。そのビジョンの実現に向けて、フォートナイトクリエイティブと今後発表される新たなバージョンは、重要な役割を果たすだろう。また、それには、ブランドやクリエイターが趣向を凝らしたツールキットを利用して、さらに複雑な体験を創造できるようになることも欠かせない。
「我々が連携しているブランドはどこも、2.0について尋ねてくる」とアライアンスのアートディレクター、サイモン・ベル氏は話す。「2.0がローンチしたら、ブランドはまた一斉に大騒ぎになるだろう。皆、2.0でどのような機能が新たに使えるようになるのか興味津々だ」。
[原文:Fortnite Creative’s creator economy represents the future of metaversal brand activations]
Aron Garst(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)