「業界は想像以上に ダイバーシティ を理解できていない」:多様性に悩む、とあるエージェンシー幹部の告白

ダイバーシティ(多様性)とインクルーシビティ(排他的になるのではなく、社会の誰でもが参加できるようになっていること)は、近年のキーワードだ。経営者たちは口を揃えて、彼らの会社のダイバーシティとインクルーシビティを改善したいというが、言葉と現実のあいだには大きなギャップが存在している。

匿名を条件に業界の裏側について赤裸々に語ってもらう「告白」シリーズ。本稿ではホールディングカンパニー・エージェンシーでシニア戦略ディレクターとして働く人物が、人種にまつわる偏見がいかに依然としてはびこっているかを語ってもらった。

以下は読みやすさのために編集を加えてある。

――ダイバーシティの現状について、一番ストレスを覚えるのは何か?

シニアレベルのエージェンシー幹部に、ダイバーシティが存在していない点だ。ロンドン南部で育った私は、90年代に人種差別を経験した。しかしこれはまた別の性質だ。いまのエージェンシーに入ったときに、600人いる従業員のうち有色人種は2人しかおらず、そのうちの1人が自分であるということに気付いた。性的マイノリティ支援のための内部グループや女性支援のためのグループはあるが、ダイバーシティや異なる文化を支援するものは何もない。飲み会やパーティといったエージェンシーが持っている文化に同化し、上の役職へと上り詰めない限りは、トップレベルの排他的な「男性のみ」レベルへは入っていけないように見える。

――そのことはあなた個人にはどのように影響を与えたか?

私はイスラムの教えを完璧に守っている、とは言えないのは確かだ。けれどもラマダンは非常に神聖な月で、私も参加する。ある朝、私の元上司は「疲れてるんじゃないか。また君の神様にお祈りするために徹夜してたんだろ?」と言ってきた。こういうことは笑って流すしかないが、同時に私は自分の耳が信じられなかった。

――それを目撃した他の従業員はいるのか?

たくさんいた。けれども、誰も怖がって、私の味方にはつかなかった。だから、人事部に行くことさえも気が引けた。

――そのことであなたはどう影響を受けたか?

うつ病になった。医者に診断されて、仕事から離れないといけない、ということが何回か起きた。そのせいで私に関する不満がさらに増えることになり、状況は悪化した。けれど人種問題について声をあげると、上は私を会社から取り除こうとするのではないか、と考えるようになる。メディアや広告エージェンシーは、ジェンダーや性的指向について声高らかに社会を導いているようだが、宗教に関しては居心地の悪い気持ちにさせられる業界だ。

――仕事に影響は出たか?

もちろん。そんな状況が嫌いだ、と思いながら働いていても、ネガティブな気持ちが仕事に入ってくる。以前はこの会社での仕事にとても情熱的だったが、時間が経つにつれて孤独であることに気付いた。

――有色人種の従業員たちにとっての勤務環境は改善しているのか?

改善はしている。けれど、業界が考えているほど改善してはいない。ロンドンのエージェンシーに所属するシニアマネージメント幹部たちを見てみれば分かる。マイノリティの人数なんて10人以下だ。新卒採用のレベルでは、人種の多様性はもっと大きくなっているが、役職では下の方でしかそれは起きていない。新卒採用のスタッフたちから、なぜ白人の同僚たちは自分たちを避けるのかと、男女ともに尋ねられることがある。若い黒人の従業員のなかにはロンドンのなかでも夜道を歩くのが危険な地域出身の人たちもいる。彼らは自分たちの人生を良くしようとしているのだ。それでも偏見で見られる。それは彼らにとって助けにならない。

――若い人々に何を伝えているのか?

私自身がかつて言われたのは、出世したければ、黙って隣に座っている白人の5倍は働かないといけないというアドバイスだ。朝9時に起き、夜11時までオフィスを出ない。他の誰もが5時半や6時にはラップトップを閉じるのにだ。私は他の人よりも細かくチェックされる。メディア、広告業界のはしごの上の方は華やかに見える。しかし、上へと上り詰めたいと思っている新卒たちは、自分の性格を何か変えないといけない。

――ダイバーシティについて、大声で主張する人に限って、ダイバーシティの本当の意味を理解していないという人たちがいる。これに同意するか?

100%同意する。ダイバーシティについて話すことはよく行われているけれど、自分自身が多様なグループになるには、どうすればよいのか? お互いの文化についてよく理解しようとする時間を持つことだ。棘があるように聞こえるかもしれないけれど、白人がインドに一度行ったからと行って異文化について分かっているわけではない。けれど、そういうカジュアルな態度が業界には蔓延している。

Jessica Davies(原文 / 訳:塚本 紺)