企業の「影響力」に懐疑的な視線を向けるファンを取り込むべく、eスポーツ関連団体とブランドパートナーが手を組んでファンのエンゲージメントを高め、両者にメリットをもたらすさまざまなアクティベーションを展開している。そこで求められるのは、ロゴ入りユニフォームでなく、健全さを備えた仕掛けや特別なアングルだ。
eスポーツ関連団体とブランドパートナーが手を組んで、企業の「影響力」に懐疑的な視線を向けるファンを取り込むべく、努力を積み上げている。つまり、プレイヤーとファンのエンゲージメントを高め、両者にメリットをダイレクトにもたらす、さまざまなアクティベーションを展開しているのだ。
ブランド各社はいま、ゲームとeスポーツで18~34歳の層にリーチしようと激しい争いを繰り広げている。そんななかで、ひとつ明らかなことがある。自分たちはただの広告ではないということをファンに認めてもらうためには、ブランドパートナーシップにある種の仕掛けや特別なアングルが必要だということだ。ノンエンデミック(非ゲーム)ブランドにとっては、これは特別といっていい難題だ。たとえば、オーバーレイ表示されているのがeスポーツ用エナジードリンクブランド、Gフューエル(G Fuel)のロゴなら、動画視聴者のほとんどはすんなりとそれを受け入れるだろう。
だが、それがスターバックス(Starbucks)のようなゲーム系以外のブランドなら、そうはいかない。「通常、我々がパートナーシップを結ぶ際には、チームのジャージにブランドのロゴを入れるなどといったことは避けている」と、クラウドナイン(Cloud9)の最高経営責任者、ジャック・エティエンヌ氏は語る。「パートナーの事業に意味のある影響を与えることがクラウドナインの目標だ。あるいは、何らかの形で、パートナーがクラウドナインの事業に意味のある影響を与えてくれることもある」。
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メッセージを込めたパートナーシップ
クラウドナインは昨年、アメリカの大手医療保険システムであるカイザー・パーマネンテ(Kaiser Permanente)とチームを結成し、メンタルヘルスイニシアチブ「プレゼンス・オブ・マインド(Presence of Mind)」を実施した。このイニシアチブでは、カイザー・パーマネンテの臨床医がクラウドナインのプレイヤー、スタッフとペアを組み、ゲームコミュニティ内の関心を高めるべく、ゲーム関連のメンタルヘルスについてのトークを行った。
今春のコロナ禍によるメンタルヘルス危機という問題を背景に、クラウドナインは「プレゼンス・オブ・マインド」動画の第2シーズンの制作を開始した。プレイヤーたちがこのコンテンツを自身のページに投稿しているのがすぐにわかったと、カイザー・パーマネンテの精神科医であるジーノ・モーティラーロ氏は述べている。「彼らは(メンタルヘルスに関する会話を)コミュニティに持ち込み、そこからさらに議論を深めていった」。
メンタルヘルスの問題だけではない。 トップに君臨する各eスポーツ組織とスポンサーは、社会正義にも的を絞り、成長するにしたがって倫理的・道徳的な意識を高めているオーディエンスへのリーチをめざしている。そのなかのひとつがフェイズ・クラン(FaZe Clan)だ。フェイズ・クランは自組織の多様性に富んだユーザーファンベースにスポットを当て、マクドナルド(McDonald’s)との最近のパートナーシップでは、フェイズのメンバーがマクドナルドのメニューを試食した。
「フェイズ・スワッグ(FaZeSwagg)は世界一注目を集めている黒人ストリーマーで、黒人、ヒスパニック系のクリエイターがゲームの最前線にいるということを世界に示そうとしている」と、フェイズ・クランのCROを務めるジェフ・パブスト氏は語る。「フェイズ・クランには、この多様性を受け入れてくれるパートナーもいる。そのパートナーもまた、これを自分たちのメッセージに込めたいと思っている。だからこそ、このパートナーシップはうまくいったのだろう」。このパートナーシップ契約の金銭的条件については、明らかにされなかった。
「モラル」と「ローカライズ」が重要
モラルを介したファンへのリーチのほかに、各eスポーツ団体はeスポーツの草の根シーンとの協働も強化しつつある。その目的は、ブランドスポンサーに地域レベルの足掛かりを与えるためだ。サザン・カリフォルニア・トヨタ(Southern California Toyota)をクライアントに抱えるエージェンシー、デイビス・エレン・アドバタイジング(Davis Elen Advertising)のバイスプレジデントを務めるブライアン・バンクス氏は、次のように語る。
「サザン・カリフォルニア・トヨタは、キングス(Kings)やドジャース(Dodgers)、エンジェルス(Angels)など、ロサンゼルスのありとあらゆるスポーツ組織と提携している。eスポーツに参入するには、何らかの形でローカライズが必要になることは、最初からわかっていた。eスポーツの面では、これがさらに課題になるケースが多いのではないか」。
この課題を乗り越えた結果が、「リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)」の大学トーナメント「IMTショーダウン(IMT Showdown)」だ。このトーナメントは、UCLAやUSCなど、南カリフォルニアにある大学のeスポーツクラブの助けを借りて、トヨタとeスポーツ企業のインモータルズ・ゲーミング・クラブ(Immortals Gaming Club)が共同で主催した。「このトーナメントを通して、インモータルは大学eスポーツチームのネットワークを広げることができた」と、同団体のマーケティング担当バイスプレジデント、マックス・バス氏は語る。「インモータル所属のプロとの接点を作り出すことによって、彼ら学生に価値交換の機会を提供できたと思う。このような機会はなかなかないだろう」。
こうした健全なパートナーシップのメリットは、ブランド認知だけにとどまらない。トレーディング企業のIMCは、チーム・リキッド(Team Liquid)と組んで、「チームファイト・タクティクス(Teamfight Tactics)」の大学トーナメントを開催した。その目的は、リキッドのファンにIMCの金融ツールを買ってもらうことではない。テクノロジーへの関心と競争心が高い若者たちに、IMCに就職すれば、充実した生活を送れるということを知ってもらうことだった。
ロゴが入ればいい時代は終わる
IMCはすでに、現役および元プロゲーマーを何人か社員に採用している。セミプロの「鉄拳7」プレイヤー、ジョナサン・ハマー氏もそのなかのひとりだ。同社は、チーム・リキッドとのパートナーシップが続いていくなかで、こうしたゲーマー社員がもっと増えてくれることを願っている。「今後も新たな人材を発掘していきたい。そのために、こうした活動を行なっているようなものだ」と、IMCのマーケティングおよびコミュニケーション担当グローバル責任者、スティーブン・ビースター氏は語る。
優秀な人材を獲得すること、ブランド認知度を高めること、あるいは単に自社の製品を売ること。その目的が何であれ、ファンを納得させて有意義なエンゲージメントを獲得するためには、eスポーツ組織との提携が顧客にメリットをもたらさなければならないことを、ブランド各社は認識している。チームのジャージにロゴを入れさえすればいい時代は、まもなく終わりを迎えるかもしれない。より健全でファン指向のブランドパートナーシップがeスポーツ業界を席巻する新時代は、もうすぐそこまで来ているのかもしれない。
「ノンエンデミックブランドが参入する際には、その目的が何であれ、カギを握るのは誠実さを持つことだ」と、モーティラーロ氏は語る。「我々は常にそれを前面に押し出してきた」
[原文:Esports orgs and their sponsors focus on wholesome brand activations to get fans to engage]
ALEXANDER LEE(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)