主要なeスポーツ企業はどこも、強力なプレイヤーと優秀なコンテンツクリエイターをどちらも擁している。ただ、どちらか一方を優先させるところが大半であり、実力第1主義かクリエイター第1主義か、いずれかのスタンスを選んでいる。どちらにもそれぞれ利点があるが、いずれの戦略も目指すところはブランドアウェアネスの向上にある。
主要なeスポーツ企業はどこも、強力なプレイヤーと優秀なコンテンツクリエイターをどちらも擁している。ただ、どちらか一方を優先させるところが大半であり、実力第1主義かクリエイター第1主義か、いずれかのスタンスを選んでいる。
どちらにもそれぞれ利点があるが、だからといって、どちらか一方を選んだ明確な「理由」が必ずしもあるわけではなく、これは最大規模のeスポーツ企業も例外ではない。創設の経緯に基づき、自ずとどちらかになっていた場合が多いようだ。
クリエイター集団か、プレイヤー集団か
フェイズ・クラン(FaZe Clan)は世界有数の知名度を誇るeスポーツ企業であり、フォーブス(Forbes)の昨年の記事によれば、資産価値は3億500万ドル(約335億4300万円)に上る。同社はこれまでに、カウンターストライク(Counter-Strike)やコール・オブ・デューティ(Call of Duty)、プレイヤーアンノウンズ・バトルグラウンズ(PlayerUnknown’s Battlegrounds)といった人気ゲームで優勝したチームを複数輩出している。ただ、好きなフェイズのメンバーの名を訊ねれば、一般的なeスポーツファンはおそらく、フェイズ・バンクス(Faze Banks、本名:リチャード・ベンストン)やフェイズ・ラグ(Faze Rug、本名:ブライアン・アワディス)といった、同社のインフルエンサーの名を挙げると思われる。とどのつまり、フェイズは2010年にトリックショットを披露するYouTuber集団として発足した団体であり、競技分野への進出は後年の、あくまで二次的なものだった。
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同社CROジェフ・パブスト氏によれば、マクドナルド(McDonald’s)と最近結んだパートナーシップはまさに、このクリエイター第1主義を活かすものだという。「(今回のパートナーシップにおける)当初の活動は、我々が有する著名なコンテンツクリエイターにフォーカスしたものになる」とパブスト氏。「それこそが、最も多くのオーディエンスに向けてよりスケーラブルなメッセージを発信できる形だと思う」。
一方、対極に位置するのがT1(ティーワン)だ。同じくeスポーツ界を牽引する1社だが、T1は強力なチームとフェイカー(Faker、本名:リー・サン・ヒョク)といったスタープレイヤーの活躍を全面に打ち出し、それをブランディングの要としている。「我々には、最近になって注目されつつあるインフルエンサーやクリエイター、ハイプハウスといった要素だけでなく、以前からチームとプレイヤーの活躍と勝利の歴史を築き上げてきた」と、同社CEO、ジョー・マーシュ氏は語る。
フェイズのYouTubeという原点がクリエイター第1主義を生んだように、T1の場合、ゲームシーンにおける活躍と勝利の歴史がプロプレイヤーを前面に押し出す姿勢に自信を付与している。T1はリーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)の世界大会を3度制しており、同社の共同オーナーでもあるサン・ヒョク氏は、史上最高のリーグ・オブ・レジェンド・プレイヤーと崇められている。たとえ、タイラー1(Tyler1、本名:タイラー・スタインカンプ)といった有名インフルエンサーやクリエイターを擁してもなお、マーシュ氏いわく、「やはり、リーグ・オブ・レジェンドの印象が強くなる。したがって、なによりもチームが実際に競技しているゲームへの注力に努めている」。
ゲームでの勝利だけに固執しない
チーム・リキッド(Team Liquid)も同じくeスポーツの有力企業であり、高度なゲーミングスキルを基盤とする同社の歴史がブランディングおよびスポンサーシップに対する姿勢の源となっている。元リーグ・オブ・レジェンドのプロゲーマー、スティーヴ・アーハンセット氏が共同オーナーを務める同社は2001年、スタークラフト(StarCraft)のコミュニティサイトから、の歩みを始めた。「最高レベルのプレイを観て、その高度なスキルを称える、というのが原点だった」と、アーハンセット氏。「したがって、最強レベルのチームを輩出するために我々がこれまで下してきた経営判断にはすべて、その考えが貫かれている」。
この姿勢は同社に見事に合致し、ハングリーボックス(Hungrybox、本名:フアン・デビエドマ)といった強力なプレイヤーは、いまや著名なインフルエンサーとなっている。「各々のコミュニティに価値を提供でき、強力なプレイヤーを輩出できるゲームを選ぶようにしている」とアーハンセット氏。「そしてそのなかで、各コミュニティに留まりながら、インフルエンサーとの関係性も構築していく」。
もっとも、ゲームでの活躍や勝利へのフォーカスが原点だからといって、その姿勢に固執するとは限らない。「ゲームでの勝利は依然として重要だ」と、ミスフィッツ・ゲーミング(Misfits Gaming)のCRO、レイゲン・ナッシュ氏は語る。「ただ、おわかりのとおり、最近の我々の活動やPRリリースなどでは明らかに、コンテンツクリエイターとインフルエンサーに重きを置いている」。ゲームでの勝利を通じたブランドアウェアネス構築に成功した同社はいま、ブランドパートナーシップにおいて主に自社クリエイターをフィーチャーしている。たとえば、同社のインフルエンサー、プロキシフォックス(ProxyFox、本名:アマリエ・ライスヴァーグ)とコンピューターハードウェア企業Asus(エイスース)とのコラボ動画も然りだ。「彼らがプロキシフォックスを指名してきた」と、ミスフィッツのコミュニケーション部門VP、ベッカ・ヘンリー氏は語る。
両輪で勝負をかけるチームも
実際、実力第1主義とクリエイター第1主義はどちらも、互いに他方を排除する姿勢ではない。いずれの戦略も目指すところは、チームの全メンバーに利益をもたらす形でのブランドアウェアネスの向上にある。言い換えれば、「上げ潮はすべての船を持ち上げる」ということであり、たとえばワンハンドレッド・ティーヴズ(100 Thieves)が2017年の創業以来、強力なチームと優秀なクリエイターの双方で成功を収め続けている事実は、それを裏付ける一例だ。「創業当初から、どちらも両輪として等しく優先してきた」と、同社COOジョン・ロビンソン氏は語る。「もちろん勝利はしたいが、弊社の中核をなすのはやはり、コンテンツクリエイターとエンターテイメントの側面だ」。
フェイズ・クランと同じく、ワンハンドレッド・ティーヴズもインフルエンサー勢を社の顔として起用しているが、その一方で、相当な時間と資金をチーム強化に投じてもいる。同社のリーグ・オブ・レジェンド・チームは8月第2週に世界大会への出場権を手にしており、ヴァロラント(Valorant)チームは9月にベルリンで開催されるマスターズ大会に出場する。「ファンは我々にどちらも期待している、そしてどちらにも優れた結果を期待している」とロビンソン氏。
この先、より多くのeスポーツ勢がゲームでの勝利のみを目指すチームから総合エンターテイメント企業へと移行していくなか、オーディエンスとの絆を構築するべく、彼らがクリエイター個々の力をこれまでにも増して活用していくのは間違いない。ただし、そうしたチームの多くはこれまで、あくまでもゲーミングの実力を高めることでオーディエンスを構築してきた。インフルエンサーの存在感が増しているとはいえ、彼らの知名度と信用がチームの活躍と分かちがたく結びついているのもまた事実だ。このように、eスポーツ企業においては両者が全体を支える重要な一部となっている。
[原文:Creator-first and competition-first approaches reflect the DNA of esports organizations]
ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)