カンヌにおけるAppleの戦略は、アドテクへのアプローチを反映している。 2023年のカンヌライオンズを通じて、同社幹部らはあえて傍観者の立場を取り、カールトンホテルの豪華スイートのなかから様子を眺め、広告業界の現況を細 […]
カンヌにおけるAppleの戦略は、アドテクへのアプローチを反映している。
2023年のカンヌライオンズを通じて、同社幹部らはあえて傍観者の立場を取り、カールトンホテルの豪華スイートのなかから様子を眺め、広告業界の現況を細かに分析していた。「Appleは決定的な動きを見せる前に、市場を戦略的に値踏みしているのだ」と、DIGIDAYの取材に応えた内部関係者らは話す。
事実、今年2023年のコートダジュールにおけるアドテクベンダーらとの会合中、同社幹部らは今後の戦略を一切開示しなかった。代わりに、話題の中心は常に同社の検索ビジネスだった。「Appleの幹部勢は、自社のアドテク計画について口を固く閉じている」と、ある広告業界幹部は匿名を条件に語る。「彼らの話題は常に、Appleの検索広告ビジネスの成長に我々がどう協力できるのかだった」。
Advertisement
Appleがアドテクを本格稼働させるのはいつか
これは実際、心躍る話ではない。Appleが今回の広告祭で新たなアドテクを発表するのでは、との噂が流れていたことを考えれば、なおさらだ。ただその一方で、検索に重きを置く彼らの姿勢は理解できる。その類の広告費はAppleの広告事業の支柱であり、3年前にプライバシー重視の新方針を導入して以来、広告部門はかなりの成長を遂げている。そして、「その勢いを継続させ、とくにアジア全域でそれを確実にする」というのが、Appleの思惑だろう。
「もちろん、収益を作り出すのは常に、即時の決定を促しうる基本的要素ではある」と、プログラマティックコンサルティング企業エーアイ・デジタル(AI Digital)のCEOスティーブン・マグリ氏は話す。
また、「ただし、より広範な市場的視座で見れば、Appleは複数要因の融合に基づき、自身のメディアビジネスのスケーリングを考えているように思える。複数要因とはたとえば、刻々と変わりゆくアイデンティティを巡る状況、さらにはAppleがすでに所有し、今後もメジャーリーグサッカー全試合の配信権とともに展開してゆく動画およびストリーミングアセットなどだ」とマグリ氏は述べる。
この進展を継続させるべく、Appleがいつかアドテクに目を向けるのは間違いない。そのための基礎工事は1年程前に済ませており、徐々に本格化させてはいる。
静かに存在するApple
ただし、完工はまだまだ先のことと思われる。このレベルでのアドテクビジネスの構築は、一筋縄ではいかない、長時間を要する取り組みであり、アドテクが絡む場合はとりわけそうだ。Facebookがターゲティング動画広告のライブレイル(LiveRail)との一件で直面した諸困難は、それを示す典型的な証拠にほかならない。それだけに、Appleが時間をかけているのは驚くに値しない――アドテクビジネスが集める多大な注目を考えれば、なおさらだ。
Appleとしては、「これ以上、当局の怒りを買いたくないのだろう」と、前出の匿名幹部は話す。プライバシーポリシーで競合他社の成長を抑えつつ、自身の広告ビジネスをスケーリングする企業は監視当局に目を付けられる、というのが同氏の持論だ。
「今年のカンヌで、Appleは目立って静かだ」と、別の幹部も同じく、自社がアップルと会合を持ったことを理由に匿名を条件に話す。「実際、Appleのロゴはどこにも見当たらない。2022年とは違い、誰と話しても、その名前は出てこない。意図的にそうしている部分もあると思う」。
そしてそれこそが、Appleの広告関連行動の予測を困難にしている。言わば、すりガラス越しに見ているようなものだからだ。Appleがどう動くのか、ある程度は見えるのだが、明確にこうだと言い切れるほどではない。この透明性の欠如は、Appleがプライバシー方針を変えて広告業界を混乱させ、これまでの基準/常識を一変しているなか、カンヌ出席者の一部をとりわけ不安にさせている。
アドテク業界にとって考えられる懸念
そんな不安はたとえば、今年度のカンヌを傍観していたとある幹部との会話ではっきりと認められた。同幹部はLink Tracking Protection(リンクのトラッキング防止機能)をはじめ、6月前半のWWDC(世界開発者会議)におけるAppleの発表に対する懸念を露わにした。
Link Tracking Protectionは、Safariのプライベートモード機能とともに、一部のWebサイトが各々のURLに追加するトラッカーを排除するものであり(Appleのメッセージングおよびメールアプリでも同様の機能をする)、アドテク業界の多くが取り組まねばならない、さまざまな影響を及ぼすことになるものだと思われるからだ。なお、この件についてAppleにコメントを求めたが、返事はなかった。
[原文:Cannes unveils clues to next steps for Apple’s ad ambitions]
Seb Joseph and Ronan Shields(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)