ニューヨーク証券取引所(New York Stock Exchange:NYSE)やナスダック(NASDAQ:NDX)に株式が上場されるなかで、水面下に潜むプライバシーへの懸念も高まっている。その結果、現在のアドテック関連の好況が持続可能かどうかが疑問視されている。
2010年前半から半ばにかけて起きたことが繰り返されているかのように、2021年には、特定目的買収会社(SPAC)が後押ししたこともあり、アドテク関連の株式公開が数多く見られた。
投資銀行ルマ・パートナーズ(LUMA Partners)の指標によると、現在上場しているアドテク企業は23社で、その多くがここ数週間で四半期決算を発表する。
しかし、ニューヨーク証券取引所(New York Stock Exchange:NYSE)やナスダック(NASDAQ:NDX)に株式が上場されるなかで、水面下に潜むプライバシーへの懸念も高まっている。
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主要なプラットフォームプロバイダであるAppleとGoogleは、一般データ保護規則(General Data Protection Regulations:GDPR)やカリフォルニア州消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act:CCPA)などの法律への対応として、アドテクが誕生して間もない頃に繁栄したデータ供給の手法を停止しつつある。
その結果、現在のアドテク関連の好況が持続可能かどうかが疑問視されている。結局のところ、2010年代に株式公開されたアドテク企業が台頭したあと、世界的に厳しいプライバシー法が制定される前でさえ、これらの企業の勢いは急速に減少した。
CTVが「成功の核」になっている
直近である第3四半期の売上は全般的に増加した。11月8日、一連の株式公開アドテク企業グループのシンボルとなったザ・トレード・デスク(The Trade Desk)は、同期間の収益を3億100万ドル(約347億円)と報告し、400億ドル(約4.6兆円)を優に上回る時価総額を達成した。
コネクテッドTVは、これらの企業が主張する成功の核となっている。多くの会社が調達資金を使って企業を買収し、急成長するこのコネクテッドTV分野で自分たちの会社が重要な役割を果たしていると主張している。
たとえば、ダブルベリファイ(DoubleVerify)は第3四半期の決算を発表し、1億5000万ドル(約173億円)でのオープンスレート(Openslate)買収を大々的に告知した。オープンスレートは、コネクテッドTV分野のブランドセーフティを強化すると、同社は述べている。同様に、ダブルベリファイの競合相手であるインテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science)は、7月にナスダックで上場した1カ月後、コネクテッドTV分野の広告サーバーであるパブリカ(Publica)を2億2000万ドル(約253億円)で買収した。
JMPセキュリティーズ(JMP Securities)のテクノロジー投資分野マネージングディレクター、エルギン・トンプソン氏は、ザ・トレード・デスクとマグナイト(Magnite)の成功は、アドテクと一般投資家の関係改善に必要不可欠だと述べた。マグナイトはコネクテッドTVにおける機能と信頼を強化するためにスポットX(SpotX)を10億ドル(約1150億円)で買収した。
「ザ・トレード・デスクは、GoogleとGoogleのDV360(ザ・トレード・デスクの競合DSP)がありながらも、市場シェアを獲得し、生き延びることができると証明してくれた」とトンプソン氏は言う。「シグナリング効果という点で、それは非常に重要だった」。
成功に垣間見る「危険な徴候」
クレイグ=ハルム・キャピタル・グループ(Craig-Hallum Capital Group)のシニアリサーチ・アナリスト、ジェイソン・クライヤー氏によると、リニアTVからの移行がメディア業界における「世代交代」を象徴するなか、アドテクはコネクテッドTVとの連携を望んでいるという。
しかし、コネクテッドTVの成長を額面通りに受け取ることには慎重を期すべきだとし、株式を評価する際には、テイクレート(こうした企業が彼らのプラットフォームを広告支出が通過した時に取る手数料の割合)などの細かな点に注意するよう投資家に助言した。
「標準的なコネクテッドTVの定義(小さい画面なのか大画面なのか、といった)がなく、収益と広告費を区別せずに参照する現状では、これらのニュアンスを理解することが重要だ」と彼は言った。「総収益と純収益の違いは重要であり、テイクレートの動きを理解することは、特定の企業が競争が激しいこの環境のどこに居場所を見つけるのかを判断するのに役立ち、投資決定の枠組みを作るのに役立つ」。
もちろん、広告主とオーディエンスをマッチングするために業界が使用してきた従来の識別子(アプリ分野におけるモバイル識別子やウェブ上のサードパーティCookieなど)が使用停止になることは、デジタルメディア業界につきまとう「ダモクレスの剣(成功をしているなかで迫っている危機)」だ。
最近の決算報告では、Appleによるプライバシー規制の継続の影響と、Google ChromeによるサードパーティーCookieの廃止計画を相殺する対策について、アドテク企業幹部たちに質問が浴びせられた。
いまのところ、アドテク関連の株式公開企業たちは、この嵐を乗り切っている。しかし、2023年のCookie停止によるダメージを免れるために重要なのは、ユニファイドID2(Unified ID 2)の普及だろう。これは、ザ・トレード・デスクが開発したeメールベースの識別子で、現在はプレビッド・オーグ(Prebid.org)の管轄になっている。
「文脈が重要と気づきはじめた」
プロハスカ・コンサルティング(Prohaska Consulting)のマット・プロハスカ最高経営責任者は、マーケティング担当者が広告のパフォーマンスを測定し、この分野への継続的な投資を正当化できるよう支援することの重要性を考えると、オーディエンスの識別は業界が直面するもっとも重要な問題だと述べている。したがって、この課題を解決することは、アドテクの評価に不可欠だ。
しかし彼は、多くの企業がこのタイミングを利用して、コンテクスチュアル・ターゲティングやより詳細な測定を含むサービスを拡大しようとしていると指摘した。これらはIASの最高経営責任者リサ・アツシュナイダー氏が11月10日の決算報告で熱心に話していた内容でもある。
「多くの、コンテクスチュアル分野に参加している企業たちが攻めの構えをとっており、それは当然のことだ」と彼は言った。「これまで、狭い視野しか持たずにただひたすらCookieを使い、(アトリビューションを利用しようとして)リターゲティングだけを行うような会社が存在してきた。いまでは多くの会社が目覚め、もっとコンテクスト(文脈)に即したものが必要だと気づき始めている」 。
BMOキャピタル・マーケット(BMO Capital Markets)のインターネットおよびメディア・エクイティ・リサーチ担当マネージング・ディレクターを務めるダン・サーモン氏は、アドテクが参入可能な市場の総額は約300億ドル(約3.4兆円)であり、2025年までには450億ドル(約5.1兆円)に達すると予測している。
同氏は米DIGIDAYに対し、AppleとGoogleがプライバシーを厳しく取り締まるなか、アドテク企業がこのような予算をめぐる競争を続けるためには、パブリッシャーなど消費者と直接データ関係を築いている企業と提携することが重要だと述べた。
「(成功すれば)広告の中間業者にはいつでも余地があると思う」と彼は付け加えた。「この分野が断片化することは、彼らのビジネスを拡大する機会を与えている」。
10年前から成長した投資家たち
ルマ・パートナーズのテレンス・カワジャ最高経営責任者にとって、現在のアドテク公開会社たちの第2四半期および第3四半期の業績はポジティブなものであり、それぞれの現在の評価額も彼の予想と一致しているという。
「例外もあるが一般的にはすべてかなりポジティブな結果だ」と彼は言った。「サプライチェーンの問題が影響している場合もあるが、それは一時的なものにすぎない。一般的に、これらの企業は(売上予測を)達成し、成長を続けている。これは、我々が『幅と深さがある』と形容する市場だ」。
本稿の取材に応えた情報源はみな米DIGIDAYに対し、アドシオレント(AdTheorent)とイノヴィッド(Innovid)が今年の第3四半期にde-SPACをする決定を発表し、今後数週間のうちに別々に公開されることが予想されている中で、この四半期にさらに多くのアドテクIPOが予定されていると語った。
BMOキャピタル・マーケットのサーモン氏は、透明性はマーケターの信頼を維持し、ウォール街での現在の成功をさらに高め、最終的には先人たちの衰退を繰り返すことを回避するために重要だと指摘した。
「投資家は(10年前と比べて)企業評価に関してはるかに洗練された枠組みを持っており、ビジネスモデルの透明性を重視している」と彼は締めくくった。
[原文:Can Wall Street’s ad tech love affair last?]
RONAN SHIELDS(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)