11月下旬、子どもから搾取するコンテンツなどで規約に抵触する広告の存在が明らかになったため、複数の大手広告主がYouTubeへの支出を凍結したことが明らかになった。だが、マーケターは以前の騒動と違って、広告支出を控えるとは脅していない。今回は、適切なホワイトリスト戦略を策定する責任を、自ら負う可能性が高いのだ。
3月のYouTubeにおけるブランドセーフティの危機を受けて、ブランドは恐怖と失望に捕らわれていたが、最新のブランドセーフティ問題では、それが実用主義と警戒心に代わった。
11月下旬、BBCとタイムズ・オブ・ロンドン(The Times of London)の調査から、子どもから搾取するようなコンテンツやコメントで規約に抵触する広告の存在が明らかになったため、スポーツ用品メーカーのアディダス(Adidas)や米食品メーカーのマース(Mars)、酒造メーカーのディアジオ(Diageo)が、YouTubeへの支出を凍結したことが明らかになった。その後、YouTubeは数百のアカウントと15万本の動画を削除した。英国の広告主の業界団体である英国広告主協会(ISBA)は、トップクラスのマーケターとの会合にGoogleの幹部を呼びつけ、こうした問題をめぐって厳しく叱責した。だが、厳しい発言をしながらも、マーケターは概して、以前の騒動のときと違って、広告支出を控えるとは脅していない。今回は、適切なホワイトリスト戦略を策定する責任を、自ら負う可能性が高いのだ。
マーケターのバランス
化粧品大手ロレアル(L’Oréal)の西欧担当最高マーケティング責任者(CMO)であるステファン・ベルベ氏は、次のように語る。「(ブランドセーフティのような)特定の問題を理由に、このチャンネルを利用しないというわけにはいかない。結局のところ、消費者が存在するのだから。(広告の掲載に関して)GoogleやFacebookとごく緊密に協力しているところで、この分野で大きな改善が見られたと言える。広告が表示される環境を我々が管理できるソリューションを見つけるのは、ロレアルだけでなく広告主としての責任だ」。
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ベルベ氏は、ブランドがサイト上のコンテンツの微妙な違いを認めることの重要性について触れた。ロレアルは今後、自社の価値観に相容れない場合、ブランドにとって安全であっても特定のYouTubeチャンネルには広告を掲載しないという。デジタルエージェンシー、ロースト(Roast)の有料検索担当責任者であるエイディン・マッギャダム氏によると、ほとんどの大手ブランドはベルベ氏と同じ意見で、もっと厳しいホワイトリストを採用する方針を好む一方で、オーディエンスが存在することから、安全ではあるが、より先鋭的なYouTubeチャンネルの隣に広告を喜んで表示するところもあるという。
ほかのコンテンツの安全性や適切性は主観的なものだ、とYouTube専門の動画分析会社オープンスレート(OpenSlate)のCMOであるアンドレア・チン氏は付け加えた。「マーケターは、ブランドに適した環境の維持と、『変化するコンテンツの状況や社会規範』に取り残されないことのあいだで、バランスをとり続けなければならない」。
結局のところ、自分たちが何を購入しているか、広告主が承知しているかどうかという話になる、とメディア戦略についてマーケターと相談しているあるメディア専門家は、匿名を条件に語った。ブランドによる最初のYouTube広告不買運動中、この情報筋の顧客は、それまでよりも安い料金を利用して、YouTubeで購入する広告を増やした。「ほかの誰もが手を引いているときに、このマーケターは次のように述べた。『自分たちが何を購入しているかわかっていて、オーディエンスを追い求めている限り、YouTubeにもっと深く入り込める』。恐怖心や複雑さが理由で、マーケターはYouTubeで何とかやっていくしかないと言っているので、YouTubeに対するブランドのそうした実用主義は今後強まるだろう」。
十分に信頼していなくても、YouTubeは、ほとんどの世界的な広告主にとって大手過ぎて拒絶できない。Googleが引用したインターネット調査企業コムスコア(comScore)のデータによると、18~34歳の英国人はYouTube動画を1日に平均55分間視聴しているという。Google英国法人のマネージングディレクターを務めるロナン・ハリス氏によれば、YouTubeに関心を引きつける原動力となっているのはコンテンツで、テレビの場合とよく似ているらしい。
Googleプリファードの課題
だが、ブランドに向けたYouTubeの宣伝文句のせいで、多くのブランドからの要求は厳しくなってきた。Googleは、業界の信頼問題の一部に積極的に取り組んできたが、問題の核心にたどり着こうとまだ苦労していると受け止められている。「Googleプリファード(Google Preferred)」を例に取ると、最初のブランドセーフティ危機を受け、広告主にとって安全なコンテンツ群としても販売されていた、Googleプリファードのもっとも人気が高いチャンネルのラインナップに、YouTubeは一部の広告主を移行させた。それでも、ブランドが関わりたくない動画が、依然として網の目をくぐり抜けている。Googleプリファードと監視の強化を組み合わせてもまだ、100%保護されるわけではない、と食品デリバリーサービスのジャスト・イート(Just Eat)のグロースマーケティング担当責任者マット・ブッシュビー氏は指摘する。
ブランドによる最新のYouTube広告不買運動に先立つ英DIGIDAYとのインタビューで、ブッシュビー氏は次のように語った。「Googleプリファードには、多くのゲーマーのコンテンツがあり、我々にとって望ましいオーディエンスかもしれないが、実際のところ、上質なコンテンツだろうか? YouTubeとそうした会話をしているのは、YouTubeでの支出を減らしてきたが、まだ利用はしており、業界として一緒に解決しなければならない課題だからだ」
デジタルエージェンシーのジェリーフィッシュ(Jellyfish)とエージェンシーのM/シックス(M/Six)はいずれも、GoogleプリファードがYouTubeで費用対効果や効率がもっとも良いメディアの購入方法だと思っていない。
ジェリーフィッシュは、YouTubeのAPIに接続するシステムを利用して、顧客が登場する個人の各動画を大量に選択している。「彼らのすべての活動が常にブランドにとって安全だと言える者はいないが、我々の戦略は、Googleのアプローチと併せると、Googleプリファードだけに頼るよりも良いとかなり自信を持っている」と同社の有料メディア担当責任者であるダニエル・ウィルキンソン氏は語る。
苦闘しているYouTube
YouTubeは今後も、過去の行動と違わず、コンテンツ問題の解決に積極的に取り組むだろう、とニューヨークの広告調査会社メディアレーダー(MediaRadar)の最高経営責任者(CEO)兼創業者トッド・クリゼルマン氏は主張する。だが、パフォーマンスを見ている者の目には、「YouTubeはこの問題を解決しようと苦闘しているという認識だ」。
Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)