広告主たちは、こぞって自社でマーケティングを行おうとしている。エージェンシーや広告プラットフォームにとって、これはチャンスであると同時に脅威となっている。マーケティングを自社で行おうとして挫折したあとに、メディアエージェンシーやテックベンダーへと戻る広告主も出てきている。
広告主たちは、こぞって自社でマーケティングを行おうとしている。エージェンシーや広告プラットフォームにとって、これはチャンスであると同時に脅威となっている。
マーケティングを自社で行おうとして挫折したあとに、メディアエージェンシーやテックベンダーへと戻る広告主も出てきている。挫折の理由はさまざまだが仕事内容に適した人材を採用する難しさがキーとなっているようだ。1社だけで働くことで、さまざまなマーケティング要素に関わることができなくなれば、人材自身にとってもキャリアアップの妨げとなる。
リソースが重要な課題
オンラインマーケットプレイスの Notonthehighstreet.com が自身の検索・ソーシャル広告を購入することを決めたとき、テクノロジープラットフォームのゴアマーケティング(Goa Marketing)の助けなしには実行が難しいとすぐに気付いた。
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「自社チームにとってはリソースが重要な課題である。我々は10年以上に渡る経験を統合する内部チームを作っているところだ」と Notonthehighstreet.com のパフォーマンス・マーケティング部門責任者であるルーク・ボードゥワー氏は言う。
「突然の決定でも人材を再配置することができるエージェンシーとは異なり、社内チームは同じことができない。外部にパートナーを持つことでこの問題を緩和させることができる。彼らが日々のデータ分析における大部分を行ってくれるからだ。そのおかげで我々自身はパフォーマンスを改善するための決定を下すことに時間を費やせる」と、彼は言う。内部のツールやスタッフのトレーニングには時間が必要になるけれども、移行全体で見れば、それは一部に過ぎないとも述べた。
外部が提供する価値
フライト予約アプリのホッパー(Hopper)も、自社でFacebookのバイイングツールを構築することで、他社へのサービス料を節約し、自社のニーズに合わせられるように取り組んだときに、同様の課題に直面したと、ユーザー獲得部門責任者のサイモン・レジューン氏は語る。
ツールを開発すること自体は簡単だったが、メンテナンスは簡単ではなかったと、彼は言う。それはコストがリターンに見合わなくなるレベルだったようだ。プロセスが長くなるにつれて、Facebook広告を自社で購入することは最初に思っていたほどの節約になっていないと、レジューン氏とチームは気付いた。最終的には、プラットフォーム自身がバイイングツールを持っていない場合だけ、自社で開発するということにフォーカスすることに決定した。その結果、Snapchat(スナップチャット)、Twitter、そしてピンタレスト(Pinterest)における広告バイイングのソフトウェアを開発することになった。それでさえも広告自動化プラットフォーム、スマートリー.io(Smartly.io)の助けが必要だった。
「ひとつのサービスが自分の会社に与えてくれる価値に正しい値段設定をし、それを彼らが請求してくる手数料と比較することがポイントだ。マーケティング分野で起きていることは、外部のサービスが提供する価値は、人間が持つ知識や経験から自動化ソフトウェアへと移りつつあるという変化だ」と、レジューン氏は言う。
大手エージェンシーの問題
広告主たちは依然として、エージェンシーたちは広告主から受け取るお金からどう利益をあげているのかについて心配している。マツダ(Mazda)やハイネケン(Heineken)、アディダス(Adidas)といったブランドたちはサードパーティの協力を得て、そこを明確にしようと取り組んできている。しかし、一方のエージェンシーたちは、お金がどうやって動いているかマーケターに見せられると信頼してもらえると主張する。しかし、これも値段をただひたすら下げろと、要求されないのであれば、という話だ。
メディアコム(Mediacom)、ザ・アンド・パートナーシップ(The&Partnership)、エンジン・グループ(Engine Group)、ジェリーフィッシュ(Jellyfish)のようなエージェンシーにとっては、この変化はチャンスとなっている。彼らはクリエイティブ製作やメディアプランニングを社内に取り込むためのシニアマーケターの採用に関するアドバイザーとしての機能をどんどんと増しているのだ。入札トレーディングにおいてエージェンシーが収益をあげることは、透明性問題が原因となって難しくなってきている。その結果、異なる方法でマージンを得ようと、エージェンシーたちは必死になっているわけだ。
「エージェンシーと協働する際、ブランドたちはハイエンドな戦略オファーを欲しいと思っている。しかし、必要なときにそのオファーをもらえたら良いと考えている。従来のエージェンシーがついているリテーナー1社に対して、年間5万ドル(約550万円)を払うのではなく、だ」と、WPPが支援しているザ・アンド・パートナーシップのファウンダーであるジョニー・ホーンビー氏は言う。ザ・アンド・パートナーシップは、トヨタやニュースU.K.(News U.K.)の自社チームのマネージメントを行っている。「小規模なエージェンシーよりは、大手のホールディング企業にとってこれは問題となっている。異なるエージェンシーを運営するコストのすべてをクライアントへの請求書に入れ込まないといけないからだ」と、ホーンビー氏は言う。
いま求められるビジネス
ザ・アンド・パートナーシップはトヨタとニュースU.K.のために内部チームを構築し、必要な業務、キャンペーンマネージメントかどうか、戦略思考か、データ分析かといった観点に合わせてスタッフ数や専門スキルを調整している。広告主たちが直接GoogleやFacebookと契約をするなかでのその関係のマネージメントをする業務に対し、エージェンシーたちはコミッション料ではなくマネージメント料を請求している場合もある。いまでは業務を実行することではなく、コンサルティング業に対して料金を受け取りたいと考えているようだ。
「2017年の同時期と比べると、メディア売り込みの数は圧倒的に少ない。その一方で自社でチームを構築するという話は盛んに行われている」と、ジェリーフィッシュの戦略ディレクターであるガウェイン・オーウェン氏は言う。「デジタルがどのように取引され、実施されるかについて理解している社内の専門家を抱えるブランドたちは増えている。しかも、これらの社内専門家たちは忙殺されているわけでもない。ブランドマネージャーたちとデジタル業務執行の間のつなぎ役となっている、しかし、シーズンに応じたキャンペーンを実施するうえでは、彼らのすべてが社内である必要はない」と、彼は説明する。
ブランドたちはマーケティングのコントロールを強くしようとしている。それと同時にメディアエージェンシーが持っていた従来の意味での専門知識に対する関心は薄くなってきている。そのうえで、彼らのサービスを依然として必要としているのだ。彼らのマーケティングをさらに自動化しようと考えており、それは単一のプラットフォームで行いたいと思っている。しかし、パフォーマンスが行き詰まらないように、データ、分析、測定をしてくれるビジネスを必要としている。
コスト観点からすると
コストという観点からすると、常に社内で雇い続ける人材として費用を出し続けるよりは、専門的なスキルを適宜使って、止めて、というアプローチの方が良い場合が多い。そう語るのは、マーケティング・マネージメントコンサルティング企業であるザ・オブザーバトリー・インターナショナル(The Observatory International)のマネージングパートナーであるルシンダ・ペニストン−ベインズ氏だ。「より恒久的な社内モデルを作ろうとした広告主たちを見てみると、1年が経ち正しい能力を持つ人材を確保するのに苦戦している。成果を見せはじめた数少ない企業においても、自分たちが持っていないテックスタックや自分たちでマネージメントしていないソフトウェアに頼っているところがあるのではないかと疑っている」と、彼女は言う。
Seb Joseph(原文 / 訳:塚本 紺)