ビッドシェーディング(bid shading)とは、アドテクベンダーが、ファーストプライスとセカンドプライスのあいだのどこかにある、バイヤーが入札すべき価格を計算する機能だ。しかし、事情通の広告主は、ビッドシェーディング(bid shading)の正当性に、疑問を持ちはじめている。
事情通の広告主は、ビッドシェーディング(bid shading)の正当性に、疑問を持ちはじめているようだ。
ビッドシェーディングは、セカンドプライスオークションに慣れたメディアエージェンシーのバイヤーが、ファーストプライスオークションで入札に勝つために必要な高い価格を支払うことを受け入れやすくしようと、デマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)が考え出したものだ。この目的を達成するために、アドテクベンダーはビッドシェーディングの技術を使って、ファーストプライスとセカンドプライスのあいだのどこかにある、バイヤーが入札すべき価格を計算する。
2017年の登場と同時に、バイヤーはビッドシェーディングに飛びついた。より安いインプレッション単価(CPM)を保証し、広告への過払いを回避しながらも、ファーストプライスオークションで優位に立てるからだ。だが、ある種の広告主たちは、その場しのぎのアドテクソリューションの多くがそうであるように、欠陥もたくさんあると気づいてしまったと、アドテク幹部はいう。
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アドテクベンダーのアドフォーム(Adform)で最高戦略責任者(CSO)を務めるヨッヘン・シュロッサー氏は、「アドテクベンダーがビッドシェーディングを利用して、証明できない貢献を理由に、広告予算からマージンを取るのではないかという懸念が、広告主のあいだに広がっている」と話す。「ビッドシェーディングについて尋ねてくるのは賢明な広告主だけで、そういう質問をしてくる人たちは、その背後にあるビジネスモデルをよりよく理解している」。
もうひとつの隠れた料金
アドテクやエージェンシーの情報筋によると、メディア予算をより多く取り込むために、自社のビッドシェーディングのアルゴリズムを複雑な価格構造のなかに組み込んでいるアドテクベンダーもいるという。たとえば、ビッドシェーディングで勝ち取った入札から標準で10%を取る代わりに、ベンダーは、広告主に落札価格を知られることなく、より高いマージンを上乗せできる。これは広告主にとっては、事実上もうひとつの隠れた料金となる。アドテクベンダーは多くの場合、独自のビッドシェーディング技術を使い、予測能力と同様に内部の価格設定メカニズムを公開したがらない傾向にある。そうしたベンダーは、彼らが購入しているトラフィックやその扱い方を完全に透明化することを嫌がると、アドテク開発企業アイポンウェブ(IponWeb)でヨーロッパ・中東・アフリカ 担当ビジネス開発部門を率いるジョー・ワー氏は語る。
ビッドシェーディングのようなアドテクのイノベーションがどうやって利益をもたらすかについて完全な透明性を確保するためのノウハウをもっているのは、プログラマティック広告に多くの予算を費やしている少数の広告主だけだ。だが、Googleがファーストプライスオークションにシフトした結果、より多くの広告主やそのエージェンシーが、ビッドシェーディング技術を必要とし、評価し、採用するようになったと、この記事のためにインタビューに応じたアドテク情報筋は説明する。
プログラマティックコンサルティング企業ジャウンスメディア(Jounce Media)の創業者であるクリス・ケイン氏は次のように語る。「我々が一緒に仕事をしているマーケターは、ビッドシェーディングの感覚を知らない。その技術の価値は認識しているものの、そこにつきまとうブラックボックス的モデルの結果、彼らが晒されることになるかもしれないリスクを恐れてもいる」。
アドテク企業との直接対話
アドテク企業と直接話している広告主はまだ少ないが、徐々に増えはじめてはいる。ビッドシェーディングへの関心が高まっていることも事実だが、まだプログラマティック広告に取り組みはじめたばかりの多くの広告主にとって、この技術が大きな優先課題になることはない。ハーシーズ(Hershey’s)のようにDSPを統合するか、ドイツテレコム(Deutsche Telekom)のように自社で監査を実行するかに関わらず、アドテクがどのように機能しているかを理解する広告主が増えれば増えるほど、ビッドシェーディングのような複雑な何かに手を出すのは行き過ぎだと気づくものも増えている。
インフェクシャスメディア(Infectious Media)のグローバル戦略パートナーシップディレクターを務めるダン・ラーデン氏は、「ビッドシェーディングで進めていくことは、最終的にはブランドにとってよりよい方向へ動くことになると思う。それがなかったときより安い値段でメディアを買えるということになるからだ。問題は、調べてみなければブランド側に必ずしもわからないビッドシェーディングモデルに付随する隠れた料金が発生する傾向があることだ」と語る。
たとえば、2018年にハーシーズがメインとなるDSPを探していたときには、ビッドシェーディングは広告主にとっての必需品リストの上位にはなかった。一方で、透明性に関わる料金はリストの上位にあって、ハーシーズのアドレサブルメディア部門を率いるビンセント・リナルディー氏は、それをどうやってプログラマティックへの投資の価値と見なすかを決める明確なスタート地点を求めていた。オークションのレイテンシー(遅れ)やDSPの適合率など、価格とともに入札のパフォーマンスに影響を及ぼす要因はほかにも多数あることを、リナルディー氏がすでに知っていることを考えれば、リナルディー氏のフォーカスは、最終的には技術料を超えていくことになるだろう。Googleがファーストプライスオークションに切り替えたとしても、その計画から大きく逸れることはなかった。
短期的な対処法なのか?
匿名を条件に米DIGIDAYの取材に応じたあるアドテク幹部は、彼らとともに仕事をしている広告主に対して、ビッドシェーディングへのアプローチについてエージェンシーに問い合わるよう勧めたり、DSPとの直接的な関係を築くようにアドバイスしたりしているという。このアドテク幹部のクライアントの念頭にはビッドシェーディングはないそうだ。ビッドシェーディングは、ファーストプライスオークションで広告が販売される最低価格を押し上げるために、パブリッシャーやサプライサイドプラットフォーム(SSP)の試みに対抗しようとしてDSPが使うツールだと見なしているからだ、とこのアドテク幹部はいう。
要するに、ビッドシェーディングは、プログラマティックオークションで機能しているダイナミクスを広告主がよりよく理解するのを手助けする、短期的な対処法でしかないのだろう。
Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)