コロナ禍の収束が見えない現状に、いわゆる「Zoom疲れ」に代表される、「テレワーク疲れ」が拡がっている。そんななか、社員同士のコミュニケーションや連携のための新たな方法が注目を集めているのが「アシンクロナス・ワーキング」だ。
コロナ禍の収束が見えない現状に、いわゆる「Zoom疲れ」に代表される、「テレワーク疲れ」が拡がっている。そんななか、社員同士のコミュニケーションや連携のための新たな方法が注目を集めているのが「アシンクロナス・ワーキング」だ。
アシンクロナス(Asynchronous)は「非同期」という意味で、働く時間帯に制限を設けないことからこの名前がつけられている。また、同僚とのやりとりは必要最低限に留められるのも特徴だ。これは柔軟な働き方と、ワークライフバランスの確保につながる。アシンクロナス・ワーキングは、とりわけ集中力と深い考察が必要な業務に適したアプローチで、これまで多くのスペシャリストが経験してきたフィードバック(建設的なものもあれば、阻害的なものもある)に追われる就労システムから脱却し、邪魔されずに独立して作業に取り組むことができる方法と考えられている。
また、無駄な社内会議の時間を削減できるというメリットも見逃せない。アシンクロナス・ワーキングではバーチャル会議を行わず、社内はもちろん、企業間のやりとりも共有できる連携プラットフォームを使用する。たとえばチームリーダーは何か発表を行うときは動画を作り、チームメンバーと共有するといった具合だ。こうすれば、「会議地獄」で時間を浪費することもなく、また他国の社員との時差に困ることもない。
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不可能と考えられていた働き方
グローバルエージェンシーのVMLY&Rや、飲料専門のマーケティングエージェンシーのイエスモア(YesMore)は、アシンクロナス・ワーキングを推進している。
VMLY&Rはフォード(Ford)やニューバランス(New Balance)、デル(Dell)といったブランドと提携し、さまざまなキャンペーンを展開おり、就労方法をすべてアシンクロナス・ワーキングとしたことにより、各社員の働く時間帯が非常にフレキシブルになったという。
欧州VMLY&RのCEO、アンドリュー・ディミトリュー氏によれば、アシンクロナス・ワーキング導入のターニングポイントは2020年11月だ。発端は、長期に渡るテレワークにより、社員の会議疲れが顕著になってきたことにある。
そこで同社は「クリエイティブハイブ(creative hives)」という社内組織を立ち上げた。これは、プロジェクトに参加している各国のクリエイティブ担当社員が、リモートで自由に働きながら協力するための仕組みだ。クリエイティブハイブでは、進捗を専用のオンラインシステムに報告するようになっている。各プロジェクトのマネージャーは、メンバーが正しい方向に向かっているかを見極め、必要に応じてやはりクリエイティブハイブからフィードバックを行う。
このモデルで行ったプロジェクトは、クライアントにも好評だった。特に欧州メンバーと米国チームのメンバーが共同作業するという、以前は不可能と考えられていた働き方を実現した。これまではフィードバックや進捗報告のため非常に多くの会議を行っていたが、現在では各社員がプラットフォーム上にコメントや録音データを上げることで情報共有し、またクリエイティブハイブを介してプレゼンテーションのリハーサルも実施していると、ディミトリュー氏はいう。
非同期で働くことのメリット
「あのピッチは、ほかとはまったく異なるアプローチで作り上げた。欧州各国の社員と、ニューヨークのグローバルストラテジストが協力することで完成したからだ。『どの国のチームか』という観点は存在しなかった。全員が最後までひとつのチームとして協働して、練り上げた」と同氏は語る。
「クリエイティブの開発プロセスは変わった。これはアシンクロナス・ワーキングで成し遂げた好事例といえるだろう」。
ディミトリュー氏は続けてこう語る。「1箇所に集まったことで、より有意義な意見交換ができたと思う。以前であれば、毎回背景の説明から始めなければならなかったが、今では全員の情報が常にアップデートされた状態だ」。
また、メンバー同士のつながりが強化されるだけでなく、協力や透明性への意識も向上したという。「物理的な距離、物理的な障壁が取り払われた」とディミトリュー氏は語気を強める。
「以前よりも、プロジェクトに適した人材を見つけやすくなった。国やクライアント、オフィス、地域といった縛りがなくなるからだ」。アシンクロナス・ワーキングにより、VMLY&Rでは利用できるリソースが増え、より迅速に仕事が進むようになった。ディミトリュー氏はこれを企業文化として定着させようと考えている。
「企業文化を変えていく必要がある」
飲料専門のマーケティングエージェンシーのイエスモアもまた、グレイグース(Grey Goose)やアペロール・スピリッツ(Aperol Spritz)、バカルディ(Bacardi)といったブランドとともにアシンクロナス・ワーキングの導入に取り組んでいる。共同創業者のトム・ハーベイ氏は「信頼やオーナーシップの観点からも、アシンクロナス・ワーキングに向けて企業文化を変えていく必要がある」と語る。
「外注先にタスクを委託する際、我々は単にその会社にタスクを委託するのではなく、責任を委任する、と考えている。関わるメンバー全員が個々の責任を理解したうえで、仕事をいつ、どこでどのように行うかを自らが考えて決める」。
同社はこの取り組みの結果、会議を減らすことに成功している。「Slackに5行書けば済むようなことで会議をする必要はない」とハーベイ氏は語る。当然ながら、Slackでのコミュニケーションにもルールが必要だ。同社はタグ付けや優先度に関するガイドラインを設定し、社員間で優先事項を共有している。会議や電話は「単位時間」を設定しており、仕事を中断せずに業務に集中できる。
ハーベイ氏は、このモデルのメリットについて次のように述べている。「オーナーシップや説明責任、働く日を管理しやすくなる。チームの満足度も向上し、仕事の質も良くなる」。
[原文:Businesses adopt ‘asynchronous working’ to fight remote-working fatigue and encourage cross-border collaboration]
(翻訳:SI Japan、編集: )