ここ数年、ゲームがマーケティングの世界で言及される機会は確実に増えた。しかし、一部の非エンデミックなブランド(ここでは、[ゲームに関連しない一般ブランドの意])たちの新規参入は簡単な話ではない。
ここ数年、ゲームがマーケティングの世界で言及される機会は確実に増えた。しかし、一部のゲームとは関連性の少ない「非ゲーム関連ブランド」たちにとっては、新規参入はそう簡単な話ではない。彼らが安心してゲームプラットフォームやクリエイターに広告費を投入できるようにするためには、より強固な業界標準やベストプラクティスが必要かもしれない。
9月中旬に開催された米DIGIDAY主催のイベント、「DIGIDAY GAMING ADVERTISING FORUM」では、一部のブランドがいまだにゲーム業界に慎重な姿勢で臨んでいること、そしてマーケターがより多くの情報を得られるような業界標準の改善が必要であることが、繰り返しテーマとして取り上げられた。ゲーム会社やプラットフォームの代表者は、ゲーム業界に関与するブランドを称賛する一方で、一部の非ゲーム関連ブランドの社内ではゲームに関する知識が欠如していることを強調した。
ゲームコンテンツがもたらすリーチの広さは、ブランドのあいだで知られるようになっている。しかしイベントでは、流行を生み出すゲーム会社と、彼らが広告費を欲しがる非ゲーム関連ブランドとが互いに理解し合えていないことが明らかになった。
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ゲームの世界は「新たな空間」
ロブロックス(Roblox)のブランドパートナーシップ担当バイスプレジデント、クリスティナ・ウートン氏は、初期段階にあるロブロックスのメタバースプラットフォームの運営に必要な知識を提供するために、同社がいかにして各ブランドと協業しているかを強調した。「多くのブランドにとって、ゲームの世界は新たな空間だろう。それゆえ現在、多くの企業にはメタバース戦略に特化したチームやメタバース体験を開発するチームが存在しない」と同氏は語る。「そのため、彼らは永続的な空間(メタバース)で、コミュニティと一緒に仕事をするかもしれない。また、コミュニティと契約したり、一部メンバーを社内で働かせることもあるだろう」。
ウートン氏は、ロードマップとして初期のソーシャルメディア部門の例を引用しながら、今後はゲームやメタバースに詳しい専門家を雇いはじめる企業が出てくると予想する。「15年前、各社でソーシャルメディアチームが組織された当社は、おそらく担当者はひとりだったのではないか。しかし、いまではほぼすべての企業に、ソーシャルメディア戦略を考えるチームがある」とウートン氏はいう。
また、ユナイテッド・タレント・エージェンシー(United Talent Agency)のeスポーツおよびゲーム担当エグゼクティブであるユージン・ウー氏は、非ゲーム関連の広告主やブランドたちは、eスポーツの選手などにフォーカスせず、より多くのゲームオーディエンスにリーチできるクリエイターを支持するべきだと述べる。「消費者は日々、Twitch(ツイッチ)やYouTubeでエンターテインメントやゲームのコンテンツを消費している。先頭に立ってリードしているのは、実際にはそうしたコンテンツクリエイターだ」とウー氏はいう。「彼らは、必ずしも最高のゲーマーではないが、エンターテイナーになることでその居場所を確保していることは間違いない」。
業界標準の重要性
ただ、ゲーム空間に参入しようとしているブランドが混乱する最大の原因は、コラボレーションやスポンサーシップの選択肢が「多すぎる」点にあるとウー氏はいう。確かに、『エーペックスレジェンズ(Apex Legends)』や『コール オブ デューティ(Call of Duty)』を提供するパブリッシャーから、フェイズ・クラン(FaZe Clan)といったゲーム配信チーム、ニックマークス(NICKMERCS)やティピー(TeePee)、スカンプ(Scump)といったクリエイターとの提携など、さまざまな選択肢が存在する。それだけではない。TwitchやYouTube、さらにはロブロックスなどのプラットフォームも、コラボレーションやスポンサーシップ先として考えられる。
イベントで発言した複数の業界専門家によると、これらの問題を解決するには、基本的な用語、ゲーム内の広告掲示板の動画フォーマットやサイズ、ゲームのアクティベーションにおけるエンゲージメントの測定など、業界標準のフレームワークを整備することにあるという。加えて、広告主がどのストリーマーがブランドセーフかを理解するための、よりアクセスしやすいプロセスを導入することも必要だと、専門家たちは強調する。そこで重要な役割を果たすのが、スパイクトラップ(Spiketrap)のようなオーディエンス・インテリジェンス企業だ。同社は、Twitchのストリーマーの音声フィードとチャットログの両方を調べて、真正性、エンゲージメント、オーガニックな会話の頻度などの指標について、AからFのランクをつけることができる技術を有している。
業界標準については、プレイヤーワン(PlayerWON)のゲーム内広告プラットフォーム担当プレジデントを務めるデイブ・マッデン氏も、インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:以下、IAB)のゲーム委員会の創設メンバーとして展開した知見のいくつかを共有している。マッデン氏は、今年8月にIABが出した「ゲームおよびeスポーツ広告のフレームワーク(Gaming and Esports Advertising Framework)」など、すでに存在するいくつかの業界標準の策定に協力してきたが、「やるべきことはまだある」と述べている。
マッデン氏は、業界標準がないことは、「成功に向けての大きな障壁だ。大作ゲームで見られるブランドインタラクションのほとんどが、個別のカスタム仕様になっている理由はここにある」と話す。ゲーム内広告、そしてTwitchやYouTubeなどのプラットフォームでのアクティベーションを通じたものの両方で、ゲーム広告の基本的な共有フレームワークが存在することで、より多くの非ゲーム関連ブランドをこの領域に導くことができるだろう。
最良の解決策とは?
それでもマッデン氏は、「同じゲームはふたつとしてなく、同じゲームエンジンはふたつとしてない」と続ける。
ゲーム広告の業界標準が強化されれば、この問題の一部は解決できるかもしれないが、最良の解決策は、非ゲーム関連ブランドがゲームに親和性の高い専門家を雇用し、障壁にぶつかることなくゲーム業界という難しい領域を歩めるようにすることかもしれない。
[原文:As non-endemic brands eye the gaming space, a lack of industry standards is delaying their arrival]
ALEXANDER LEE(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:村上莞)