インフルエンサーマーケティングはひとつのビジネスとして成熟しつつあり、多くのマーケターおよびメディアエージェンシーは、クリエイターコンテンツを活用し、新たなオーディエンスを獲得するためのさまざまな方法を見出している。 人 […]
インフルエンサーマーケティングはひとつのビジネスとして成熟しつつあり、多くのマーケターおよびメディアエージェンシーは、クリエイターコンテンツを活用し、新たなオーディエンスを獲得するためのさまざまな方法を見出している。
人工的存在のバーチャルインフルエンサーから、ソーシャルメディアで活動するマイクロインフルエンサーに至るまで、インフルエンサーマーケティングの新たな利用法の戦略化および適応の必要性に、多くのエージェンシー勢やブランド勢が気づきはじめている。専門家らによれば、ソーシャルメディアインフルエンサーを信頼に足る投資先とする見方への抵抗は、初期に比べ、かなり小さくなったという。
2023年のインフルエンサーマーケティングは
インフルエンサーマーケティングエージェンシー、ビレッジマーケティング(Village Marketing)の創業者ビッキー・シーガー氏いわく、自身が起業した10年前、インフルエンサーの活用に積極的だったのはD2Cブランド勢くらいだった。だがいまや、フォーチュン500に載る企業はどこも、インフルエンサーに投資しておくべきだったと、認識している――そして、急速に追いつこうとしている。結果、シーガー氏の会社は2022年前半、WPPに買収されてワンダーマン・トンプソン(Wunderman Thompson)ネットワークに加わり、クリエイターとのパートナーシップを拡大することになった。
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「D2Cブランドは当時、いち早く乗ってきた」とシーガー氏は話す。「いままさに、大手ブランド勢の間で是正の動きが起きているのは間違いない。TVに4億ドル(約560億円)、インフルエンサーに30万ドル(約4200万円)使っている場合ではないと、彼らは理解しつつある。誰にとっても、それでは何の意味もないのだと」。
なかには、インフルエンサーマーケティング予算を数十万ドルから数百万ドル(数千万円から数億円)に急増させている企業もあると、シーガー氏は話す。「そういう企業はたいてい、『うちはこれをやっていなかった。やるべきだった。いまこそ投資しなければ』と思っている」と、シーガー氏は言い添える。
実際、同分野の成長には、高まる需要の程が如実に表れている。2022年、グローバルインフルエンサー市場は2020年の97億ドル(約1兆3500億円)、2021年の138億ドル(約2兆円)から伸び、164億ドル(約2兆2000億円)に達すると、スタティスタ(Statista)は予想している。
そして、2023年度マーケティング戦略および傾向をまとめたHubSpot(ハブスポット)の報告書によれば、インフルエンサーマーケティングは、戦略としての一般化がさらに進むと予想される。HubSpotの調査では、現在インフルエンサーマーケティングを活用している1200社以上の世界のマーケターが、2023年、その投資を維持あるいは増加する、との結果が出ている。
存在感を増す小規模クリエイター
ソーシャルメディアとインフルエンサーエージェンシーもますます、市場の枠を越えてこの事業を拡大し、パフォーマンスメディアの新たな形態としてインフルエンサーマーケティングに臨む姿勢を見せている。ロンドンが拠点のエージェンシー、ゴート(Goat)も然りだ。ゴートいわく、インフルエンサーペイドメディアは今後、全ソーシャルメディア戦略の中で最高の成果を挙げるチャネルになるだろうと話す。
同様に、ピュブリシス(Publicis)といった持株会社らもTikTokやSpotifyとさまざまなクリエイター主導型コマースソリューションを開発しており、その理由は、若い消費者は「台本どおりのスポンサーシップ」よりもこの種のインフルエンサーコンテンツを好むことにあると、ピュブリシス・コマース(Publicis Commerce)のCOOエイミー・ランジー氏は以前、DIGIDAYに話している。
独立系エージェンシーも持株会社も同じく、小規模クリエイターと協力し、大規模キャンペーンを構築するべく、インフルエンサー戦略の洗練に勤しんでいる。インフルエンサーのなかには多くのフォロワーを持つ者もいるが、かたやフォロワー数が数千人や数万人程度の小規模クリエイターには、よりニッチなオーディエンスの窓口になり、より深いエンゲージメントを生み出せる可能性がある。HubSpotによれば、インフルエンサーに投資しているマーケターの56%以上が現在、マイクロインフルエンサーと仕事をしている。
くわえて、マイクロインフルエンサーは安く使えるうえ、深い繋がりを築いてくれると、コンシューマーインテリジェンス企業、ブランドウォッチ(Brandwatch)の戦略部門SVPジェームズ・クリーチ氏は指摘する。この種のコンテンツは往々にしてソーシャルプラットフォームでの反応が良く、ブランド勢は数人の小規模クリエイターを利用することで注目度を上げられるという。
「有名インフルエンサーはバズらせたり、認知度を上げたりすることに長けているが、ニッチなコンテンツクリエイターの場合、より深いエンゲージメントと行動を引き起こせることが少なくない」。
バーチャルインフルエンサーの台頭
ブランドウォッチによる2023年度マーケティングトレンド報告書では、バーチャルインフルエンサーがインフルエンサーマーケティングの新たな分野として頭角を現すと、予想されている。
バーチャルインフルエンサーとは、サービスまたはプロモーションの一環として、ユーザーとオンラインで交流するソーシャルメディア用に制作されるCGキャラクターまたはボットのことだ。ブランドウォッチによれば、2022年、米消費者の35%がバーチャルインフルエンサーに勧められた製品またはサービスを購入しており、その内40%がZまたはミレニアル世代だった。
たとえば、プラダ(Prada)は人気の自社フレグランス製品にちなみ、キャンディ(Candy)と名付けたバーチャルインフルエンサーを開発した。アパレル小売チェーン、パクサン(PacSun)もバーチャルインフルエンサー、リル・ミケーラ(Lil Miquela)を開発し、ハッシュタグ#pacpartnerを通じて自社を宣伝している。リル・ミケーラには現在、インスタグラムのフォロワーが290万人おり、パクサンのメインアカウント・インスタグラムのフォロワー数270万人を越えている。
「ファンは一般に、自分のお気に入りキャラクターに強い親近感を抱く――ポケモンやバービー、マーベル(Marvel)のスーパーヒーローを見れば、おわかりのとおりに」とクリーチ氏は話す。「バーチャルインフルエンサー戦略は、一部のそうしたアイコン的キャラクターに命を吹き込める。ファンはバーチャルインフルエンサーのオンラインコンテンツをフォローし、ソーシャルメディアのコメントやライブストリームを介して彼らと交流できるし、それはパラソーシャルな関係の構築に、そしてバーチャルインフルエンサーとファンとの繋がりを育む力になる」。
競争の激化で価格高騰も
とはいえ、インフルエンサーマーケティングに越えるべき障壁がないわけではない。シーガー氏が指摘するとおり、現在、インフルエンサーをめぐる競争の激化が価格高騰を引き起こしている。さらなる大手が次々にインフルエンサーマーケティングを取り入れるなか、コンテンツクリエイターが自身のサービスの対価をつり上げはじめているからだ。
「たとえば、君がD2Cブランドだとする。君のいる市場はいまや、こぞって参入してくる大手ブランドのせいで、なおいっそう混み合っている。結果、クリエイターに対する需要が急増しており、それを受けてクリエイターは次々に値をつり上げている」と、シーガー氏は話す。
[原文:As influencer marketing grows up, brands, agencies experiment with new content tools like bots]
Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)