ゲーム産業は、コロナ禍において大きく伸びたカテゴリーのひとつだ。それに伴いゲーマー向けの広告も増え、アドテク企業もこの新たなオーディエンス層に向けたサービスの拡充に努めている。各社はゲーマーの体験を損ねず、ブランドへの親しみが湧くような広告を提供し、ROIの向上につながる手法を模索している。
ゲーム産業は、コロナ禍において大きく伸びたカテゴリーのひとつだ。それに伴いゲーマー向けの広告も増え、アドテク企業もこの新たなオーディエンス層に向けたサービスの拡充に努めている。
特に注目を集めているのが「ゲーム内広告」だ。よく見られるのは、ゲーム内に現実の商品を登場させる手法だ。当然ながらプレイヤーの目に触れ、場合によっては製品について詳しくなる。
また長年使われてきた手法として、「(ゲームに)負けると短い広告が表示され、閲覧することによりコンティニューできる」という形式の広告がある。この手法では、たとえばモバイルゲームのプレイヤーは(負けたあとの)広告を見ているあいだ、ほかのデバイスへ気を移さないということが知られており、特にアドメイジング(Admazing)などのモバイルに強いアドテク企業ではいまだに主力の広告手法となっている。
Advertisement
同社のマネージングパートナー、エドワード・カスティーリョ氏は「世界的に見て、『料金を支払って広告非表示にするよりは、広告を見るほうがいい』と考えているユーザーは全体の87%に上る」と話す。
プレイヤーは広告を見ているのか?
この種の広告の欠点として指摘されているのが、プレイヤーが本当に広告を見ているのか確認できないという点だ。テクノロジーソリューション企業のネクストプレイテクノロジーズ(NextPlay Technologies)のCTO、マーク・バンゲ氏は「私には13歳の娘がいるが、ゲーム広告が流れるとスマホを置いて別のことをして、30秒後にまた手に取っている」と話す。「30秒という時間を身体で覚えているようだ」。
しかし、これと矛盾するようなデータもある。アクティビジョン・ブリザード・メディア(Activision Blizzard Media)でグローバルビジネスマーケティング・測定・インサイト担当VPを務めるジョナサン・ストリングフィールド氏は、「ブリザードがスマートフォンに内蔵されているジャイロセンサーのデータをもとに調査したところ、基本的にプレイヤーは広告中にスマホを置いていないことが分かっている。無料ゲームの開発者を支援するため、広告を見ることをいとわないプレイヤーもいる」と話す。そもそもゲームは、本質的にインタラクティブなメディアだ。ブランドはこれを活かし、ゲーム内広告でプレイヤーと直接的なやり取りをしようと試みる。
SNSの動画広告では再生回数やシェア、エンゲージメントなどの数字が成功の指標とみなされるが、ゲーム内広告ではROIだけが問題となる。そして実際の商品に興味を持ってもらうには、まずゲーム内で商品を試せるようにするのが近道となっている。
たとえば2020年、フォートナイトでは「マーベルノックアウト」という新しいゲームモードが実装された。ゲームのアップデートというだけにとどまらず、このモードそのものがフォートナイトというゲームを通じてマーベル作品という商品に触れてもらうためのキャンペーンとなっている。
ゲームの没入感を大切にする
マーベルノックアウトのようなゲームモード以外に、仮想世界のなかで現実同様に商品を配置するという手法がある。これもメタバースが浸透しつつあるなかで理に適ったやり方と言えるだろう。
ゲーム内広告エージェンシーのビッドストック(Bidstack)のCTO、フラン・ペトラゼリ氏は「ゲームの没入感を失わせたくない」と述べている。「ゲームの流れを台無しにするような広告ではダメだ。あくまで自然な形で、世界観に沿った広告を展開したい」。ビッドストックはほかにも、ブランドのスキンを導入している。これもまたゲーマーが冷めないように配慮した「広告」となっている。
ネクストプレイのバンゲ氏も、没入感を高める広告を考案している。そのひとつが、現実の商品をゲーム内に登場させ、その商品を操作することでクーポンを獲得できるというものだ。このクーポンを使うことで、実際の商品を割引価格で購入できる。ネクストプレイは、この手法でスターバックスのマグカップなどをゲーム内に登場させている。「ゲーマーはスターバックスのクーポンを入手し、店舗で使う。こういった形でブランドの売上増につなげることができる」とバンゲ氏。「開発者にとっても、非常に重要なビジネスチャンスだ」。
これをさらに発展させたアイデアとして、たとえばスターバックスのマグカップのクーポンを、ほかのユーザーが保有するスイーツやビールなどのクーポンと交換できるようにするなど、さまざまな手法が考案されている。
家庭用ゲームの黎明期から、ブランドやゲーム開発者は映画やテレビのように、ゲームにも広告を持ち込もうとしてきた。90年代初頭には、海外版のスーパーファミコンでマクドナルドによる「M.C. Kids」、セブンアップによる「Spot: The Video Game」などのタイトルが発売されている。そして2006年にはゲームがメインストリームの文化になるなかで、ゲームタイトルと提携した広告の増加が調査報告されている。
ゲーマーは広告の存在に敏感
一方で、ブランドによるこの種の広告は、現代のゲーマーからのウケがあまりよくないことも明らかになっている。広告主のコンテンツへの影響をますます警戒するようになっており、「ゲーム内のマップにロゴを貼り付ける」、「画面が切り替わる合間に動画広告を流す」といった従来のシンプルな手法では、受け入れなくなっているのが現実だ。もし「M.C. Kids」がいま発売されても目新しさはないだろうし、単なる金儲けの道具とみなして拒否感を覚えるゲーマーは多いだろう。
いまや現実との境界がより曖昧になったゲームに、シームレスな形で広告を溶け込ませるための取り組みが活発になっている。ゲーマーの体験を損ねず、ブランドへの親しみが湧くような広告を提供することがROIの向上につながる。
「プレイやムービー中の体験を損なわないように気をつけている。ゲームのなかに溶け込むような広告が望ましい」とストリングフィールド氏は語る。「そして実現は難しいが、一番理想的なのが、ゲーム体験を向上させてしまうような広告だ」。
[原文:As in-game ads expand, ad tech firms look to level up their services]
ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)