新たな経済不安をよそに、中小企業はコロナ禍からの回復を続け、新規顧客へのリーチを試みている。そうしたなか、アメリカンエキスプレスが継続的に展開している地元小売店の販促支援策「ショップスモール」に新たな要素が追加され、その厚みがさらに増すようだ。中小の事業者と連携する大手企業はアメリカンエキスプレスに限らない。
新たな経済不安をよそに、中小企業はコロナ禍からの回復を続け、新規顧客へのリーチを試みている。そうしたなか、アメリカンエキスプレス(American Express)が継続的に展開している地元小売店の販促支援策「ショップスモール(shop small)」に新たな要素が追加され、その厚みがさらに増すようだ。
アメリカンエキスプレスは地元密着型の中小事業者にソーシャルプラットフォームでマーケティング活動をおこなうための各種ツールを提供するほか、地元小売店の集客を支援するために、米国のいくつかの都市でQRコードとデジタルOOH(屋外広告)を活用したキャンペーンを展開している。ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴおよびサンフランシスコで7月11日にスタートしたこのキャンペーンは、QRコードをスキャンした消費者を最寄りの店舗、たとえばカフェや衣料品店、床屋などに誘導しようという試みだ。
Appleも地元企業と提携
ショップスモールは、2008年の金融危機以来、アメックスが続けてきた中小企業に対する支援策の一環で、当初は毎年1日限りのキャンペーンだったものが年間を通しての取り組みに進化した。今年、さらにバージョンアップしたこのキャンペーンは、毎年恒例のAmazonプライムデーの前日に開始された。Amazonという巨大マーケットプレイスと地元密着型の各種小売店のあいだでは、いまも激しい競争が続いている。
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「何度も繰り返し耳にすることだが、中小の企業はマーケティングの重要性をよく認識している」。そう語るのは、アメリカンエキスプレスでスモールビジネスサタデー(地元の商店で買い物をする土曜日)&ショップスモール担当のバイスプレジデントを務めるマリアンヌ・ロウシュ氏だ。「もちろん、ソーシャルメディアで顧客にリーチすることの意味も分かっている。しかし、彼らはマーケティングのエキスパートではなく、しかもあまりにも多忙で、最先端のトレンドを常に把握し、ソーシャルプラットフォームの有効利用について理解を深める余裕がない」。
中小の事業者と連携する大手企業はアメリカンエキスプレスに限らない。たとえば、Appleも地元ロサンゼルスのコーヒーショップと協力して、Apple Payおよび「ルート(Loot)」や「テッド・ラッソ(Ted Lasso)」などのApple TVのプロモーションを展開した。また、アメックスはこの夏、シリウスXMラジオと共同でメジャーなアーティストを地元のショップに招き、ポップアップ形式のコンサートを開く予定という。
顧客へのリーチを試みる中小企業
クリエイティブエージェンシーのスロープエージェンシー(Slope Agency)で共同創業者のひとりに名を連ねるカリーヌ・シュー氏は、ブランドが地元の小売店舗と連携するのは確かに有効かもしれないと述べている。実際、この種の実験的な取り組みはいくつもおこなわれており、たとえば、大学のキャンパスで人気の高いテイクアウト注文アプリの「スナックパス(SnackPass)」もQRコードとゲーム感覚のアプリを活用してロイヤルティの促進を図っている。さらに、TikTokはローカルビジネスにとって「ゲームチェンジャー」の位置づけにあり、特にバイラルで拡散すると、レストランやコーヒーショップの店先に長蛇の列ができることもあるという。
「うまくいくか否かはオーナー次第だ。事業主がどれだけデジタルに精通しているかによる」とシュー氏は話す。「小さな飲食店の場合、息子や娘が両親に助言するケースなどもあるようだ。FacebookにしろインスタグラムにしろGoogleにしろ、悪くはないのだが、正直をいえば、もう少しメンテや工夫が必要かもしれない」。
一方、タンパベイに拠点を置くエージェンシーのスキッフィーノ・リー・アドバタイジング&ブランディング(Schifino Lee Advertising & Branding)で事業戦略の責任者を務めるジェフ・フィルビン氏は、中小企業が適切なオーディエンスにリーチするのを難しくする要因として、広告コストの高騰を挙げる。同氏によると、AppleがiOSに変更を加え、FacebookやGoogleでのターゲティング広告が制限された結果、企業の広告支出はいったん鈍化した。ところが、再び上昇傾向に転じると、今度はアルゴリズムの変更により、オーガニックソーシャルメディアでの競争が激化した。フィルビン氏によると、同エージェンシーが扱うCPG(消費財)部門のクライアントは、むしろオーガニックSEO、インフルエンサーとの連携、バックリンクなどで成果をあげているという。
中小企業は、顧客にリーチする手法をあれこれ試してみることに、以前よりもずっと前向きのようだ。スタティスタ(Statista)が2021年8月に実施した調査によると、米国の買い物客の45%が「直近の3ヶ月間にマーケティング関連のQRコードを利用したことがある」と回答している。一方、マーケティングプラットフォームのコールレイル(CallRail)がおこなった5月の調査では、回答者の91%が「過去1年間に新しいマーケティングチャネルを試してみた」、同じく80%が「実験的なキャンペーンを運用した」と答えている。その反面、「ソーシャルメディアその他のプラットフォームで、ほかの中小企業や大手ブランドと競争するのは難しい」と回答した企業は全体の3分の1にのぼった。
顧客と繋がる方法の模索は続く
URL短縮サービスを提供するビットリー(Bitly)は、昨年12月にQRコードの生成や運用を支援するドイツ企業のエゴディター(Egoditor)を買収した。同社のプレジデントを務めるラーリー・ハーバー氏は、「QRコードを活用することで、買い物客がたまたま店の前を通りかかっただけのときよりも、彼らと顧客関係を結ぶ機会が広がる」と述べている。特に中小企業は、GoogleやFacebookのようなウォールドガーデンに依存するよりも、リンクやQRコードを活用すれば、より直接的な顧客関係を築き、より直接的な情報を取得することができるようになると同氏は話している。
ハーバー氏いわく、「いまや中小企業はテクノロジーを活用する力をつけ、かつては大企業の独擅場であった領域で、顧客とつながる新しい方法を模索しはじめた」。
[原文:American Express is using QR codes and billboards to promote small businesses]
Marty Swant(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)