ゲーム専用ライブストリーミング配信サービス「Twitch(ツイッチ)」が、欧州で広告ビジネスを展開するための準備を、英国でひそかにはじめている。Twitchは、具体的な営業活動を明らかにしていないだけでなく、営業実績も公表していない。だが、同社のメディアプランが米国外で勢いを拡大する兆しが見えはじめている。
ゲーム専用ライブストリーミング配信プラットフォームの「Twitch(ツイッチ)」が、欧州で広告ビジネスを展開するための準備を、英国でひそかにはじめている。
Twitchがロンドンに欧州の拠点を設けたのは4年以上前のことだ。しかし、人々がゲームをプレイしている様子をライブで鑑賞できるこのサイトを運営しているチームについては、ほとんど知られていない。欧州でTwitchの営業担当責任者を務めているのは、VPのスティーブ・フォード氏だ。同氏率いる販売チームは、2017年の1年間で規模が2倍に拡大し、収益も前年比で「2倍近く」に増えたという。Twitchは、具体的な営業活動を明らかにしていないだけでなく、営業実績も公表していない。だが、同社のメディアプランが米国外で勢いを拡大する兆しが見えはじめている。
Twitchは現在、ロンドンで複数の営業関連の幹部候補者を探している。このなかには、欧州/中東/アフリカ地域(EMEA)で著名なクリエイターやクリエイターのネットワークと業務契約を締結するチームの責任者といったポジションもある。また、ドイツのハンブルクにあるオフィスで販売チームを立ち上げているところで、2018年後半にはフィンランドのヘルシンキにも販売チームを置く予定だ。フォード氏は北欧地域について、それぞれの国ごとに個別に考えるのではなく、ひとつのまとまった市場として考えれば、企業にとって「かなりの規模」になると述べている。
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積極的になった販売チーム
さらにTwitchは、ケロッグ(Kellogg)のようなゲーム以外のブランドと仕事をしていることから、コンテンツスタジオのスタッフの数を数カ月以内に増やす計画を進めている。実際、英国ではしばらく前から、ゲーム以外のブランドがTwitchの広告収入のほとんどを占めている。だが多くのブランドにとって、Twitchはいまでもニッチなオーディエンスのプラットフォームだ。しかし、マッコーリー・キャピタル(Macquarie Capital)のアナリストであるベン・シャクター氏によると、Twitchの1月の平均視聴回数は96万2000回で、MSNBCやCNN、それにFOXニュース(Fox News)とほぼ同じだったと、BUSINESS INSIDER(ビジネスインサイダー)は報じている。
Twitchのイメージに関する問題は、少なくとも欧州では、フードや映画など、ゲームと直接関わりのない分野が手薄なことから生じている。しかし、Twitchはいま、フィットネス、クリエイティブ、音楽などの分野にコンテンツを拡大しようとしている。エージェンシー各社は、こうした分野のコンテンツが増え、販売チームの体制が整うにつれて、より多くの広告予算がTwitchに向けられるようになると予測している。
Twitchのチームはこのところ「非常に積極的」だというのは、エージェンシーのウェーブメーカー(Wavemaker)でマネージングパートナーを務めるジェイムズ・トーマス氏だ。同氏によると、以前のように自分たちのほうからTwitchの営業幹部を探しに行く必要はなくなったという。Twitchの営業幹部が、ロンドンにあるウェーブメーカーのオフィスを定期的に訪れ、「情報が公開される前に次の計画について話してくれる」ようになったからだ。また、Twitchの幹部たちが話す内容が、質の高い動画インベントリー(在庫)を大量に販売するという話から、革新的なソリューションを提供するという話に変わってきたという。
広告主は1年で「倍増」
広告主のあいだでは、Twitchがブランドに適したプラットフォームだという見方が広がっている。デスクトップが中心で、再生プレイヤーのサイズが大きいからだ。Twitchを実験的に利用しはじめた広告主は、その成果に満足しているようだ。Netflix(ネットフリックス)やゲーム開発企業のアクティビジョン(Activision) など、以前からTwitchを利用している企業も成果を上げており、革新的なソリューションに目を向けている。
フォード氏によると、欧州でTwitchをはじめて利用した広告主の数は、2016年から2017年の1年間で「倍増」した。こうした広告主は、広告効果をテストするために動画キャンペーンを利用することが多い。
「広告主は、個別に検証できる動画(キャンペーン)でパフォーマンスが優れていることを確認すれば、さらに利用したいと考えるようになる」とフォード氏は話す。Twitchは欧州で、スタッフの数を2015年の230人から2017年末には1200人に増やすなど、勢いを拡大してきた。しかし、まだすべきことがあるとフォード氏は考えている。
ほかにも実施できること
たとえば、Twitchにはブランドに適したオーディエンスが存在するものの、Facebookなどのプラットフォームには、もっと安いコストでオーディエンスにリーチできる方法が用意されている。Twitchは1日あたりの訪問者数がおよそ1500万人だが、Facebookの動画は1日あたりの視聴回数が80億回を超えている。Twitchがユーザーの関心を多く集めているとはいえ、ターゲティングやアトリビューションの面ではライバルの大手企業のほうが優れているのだ。
ブランドがTwitchとの提携によるエンゲージメントの効果を確認できるようにするには、まだできることがある。そう考えたTwitchは、3万5000人以上のユーザーで構成される「ツイッチ・リサーチ・パワー・グループ(Twitch Research Power Group)」と呼ばれるコミュニティを、広告主が活用できるようにした。広告主は、2016年に設立されたこのコミュニティを利用して、ブランドへの親近感や購入の可能性といった指標を測定できる。
また、動画キャンペーンの「いいね!」やコメントの数でエンゲージメントを測定するといった方法もある。インフルエンサーが配信中の動画で、視聴者をAmazonに直接誘導するアフィリエイトリンクを利用することで、Twitch経由での直接的な購買活動を追跡することも可能だ。ただし、Twitchのコンテンツスタジオと提携したことによるエンゲージメントの効果を把握するには、当然ながら多くの手間と試行錯誤が必要になると、Twitchと提携した複数のエージェンシーは述べている。当たり前の話だが、このようなタイプのユーザー行動は一様ではないため、状況に応じて主要な成功指標を設定する必要があるのだ。
Amazonとのコラボも?
広告専門メディアのアドエイジ(AdAge)は、Twitchで変化が起こっていると報じている。その理由は、親会社であるAmazonの急成長する広告ビジネスで、Twitchが大きな役割を果たせるようにするためだ。この記事のために取材した幹部のなかには、「Fire TV(ファイアTV)」や「インターネット・ムービー・データベース(Internet Movie Database:IMDb)」などの動画資産とともに、TwitchがAmazonのプログラマティックビジネスに組み込まれる可能性があると考える人たちもいた。
「私の知るかぎり、TwitchとAmazonは異なるオフィスで仕事をしているし、いまのところ、両社が共同で何かを発表したことはない」と、トーマス氏はいう。だが、AmazonのデータをTwitchに統合するというアイデアは「魅力的な提案」だと、トーマス氏は補足する。もしそうなれば、男性中心の若いオーディエンスをターゲットにしている「広告主にとって、英国でもっとも強力な動画広告枠」のひとつと見なされるようになるかもしれない。
フォード氏は、Amazonが所有するさまざまなプラットフォームでTwitchの動画広告枠を販売する可能性について、見解を明らかにしなかった。その代わり、独自のプログラマティックキャンペーンを展開できる能力を高めたいというクライアントの要望に応える必要があることを強調した。
フォード氏は次のように説明する。「さまざまなクライアント、特に世界的なゲームパブリッシャーのあいだで、自前のプログラマティックチームを立ち上げるケースが増えており、彼らはリーチを提供してくれるサプライパートナーと提携したいと考えている。そのため、我々はテクノロジーを利用してリーチを提供することを求められてきた。その思いがけない結果として、トルコなど販売チームを置いていない地域の市場で、マネージドサービスなしにプログラマティックバイイングを提供できるようになったのだ」。
インフルエンサーとの関係
Twitchとインフルエンサーの関係がどうなっていくのかは、まだはっきりしない。YouTubeは1月にインフルエンサーが利益を上げにくくする決定を下したが、インフルエンサーマーケティングを手がけるソーシャルサークル(Social Circle)などのエージェンシーによると、それがTwitchのサイトにメリットをもたらしている兆候はまだ見られないという。
しかし、ウェーブメーカーなどのエージェンシーによると、Twitchに参加するインフルエンサーは増えており、コンテンツがゲーム以外の分野に拡大している。おかげで、すでにTwitchを利用しているインフルエンサーがいままでと異なる取り組みに関心を示すようになったり、新しいインフルエンサーがライバルのプラットフォームから移ってきたりしているという。
草の根のクリエイターを支えているというYouTubeのイメージは、小規模なインフルエンサーがコンテンツからお金を稼げないようにしたことで「急速に失われた」と、ソーシャルサークルのCEO、マット・ドネガン氏はいう。あの決定によって「動画サイトとしてのYouTubeの評判は確実に傷付き、人々がほかのプラットフォームに移ることになる可能性が高い」と、ドネガン氏は語った。
Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)
Image courtesy of Twitch