ユニリーバ(Unilever)は、自ら選定したパブリッシャーからなる「信頼できるパブリッシャー(Trusted Publisher)」を発表し、これらのネットワークに優先的に広告出稿を行うと宣言した。今後、ネットワークに含まれるパブリッシャーには、ユニリーバのメディア部門が定める基準に従うことが求められる。
ユニリーバ(Unilever)は、パブリッシャーとともにルールづくりを進めている。今後、この新たなガイドラインに従っていないパブリッシャーから、ユニリーバが広告商品を購入することはない。
ユニリーバは、自ら選定した世界的・地域的・国内のオンラインパブリッシャーおよびプラットフォームからなる「信頼できるパブリッシャー(Trusted Publisher)」を発表し、トレーディングデスクを通じてこれらのネットワークに優先的に広告出稿を行うと宣言した。今後、ネットワークに含まれるパブリッシャーには、ユニリーバのメディア部門が定める基準に従うことが求められる。
「要するに我々は、新たなレベルのコントロールを行使して、高度な説明責任を保証しようとしているのだ」と、ユニリーバのグローバルメディア担当シニアバイスプレジデントを務めるルイス・ディコモ氏は話す。
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交渉のテーブルにつくために
ディコモ氏は、この区分(tier)制度の全容を説明することはなかったが、基本的な概要は以下のとおりだ。第1の区分は、ビューアビリティ(可視性)、ブランドセーフティ、不正広告に関するパブリッシャーの保証に関するものだ。たとえば、ユニリーバは「最低1秒間、100%が視認できる」ディスプレイ広告のみを購入対象とする。第2の区分は、効果指標に関するパブリッシャーの積極的な情報共有を定めており、滞在時間やページビューが対象だ。最後の区分は、キャンペーンデータに関するもので、ユニリーバは広告の効果測定のため、パブリッシャーにこうしたデータの提供を求める。
これら3つの区分をもとに、ユニリーバはホワイトリストを作成。要望を遵守するパブリッシャーには、広告費の増加という見返りが与えられる。
通常、プレミアムを付与する基準はインプレッションの購入方法であり、プライベートマーケットプレイスなのか、公開なのかが重要だ。しかしユニリーバは、データへの独占的アクセスにプレミアムを付与することが、キャンペーンに良い効果をもたらすと考えている。基準は時とともにより整備され、そのプレッシャーによって、パブリッシャーは少なくとも、交渉のテーブルにつくために、これまで以上のコミットメントを迫られることになるだろう。
「さまざまな形式のホワイトリストや、その他の選択肢を検討することもできた。しかし、マーケットプレイスの分析に基づき、パブリッシャーとの関係を深化させることに、競争的利点があると判断した」と、ディコモ氏は語る。
オープンでも一部広告を購入
広告購入の方法はパブリッシャーネットワークによって異なる。一部の広告では、インベントリー(在庫)に対するユニリーバの支払予定額や、プライベートマーケットプレイスでの広告の掲載期間が明示されたインサーションオーダーの形式が採用される。一方、保証インベントリーの取引もあり、こちらはプライベートマーケットプレイスとは異なり、人の手を介さずに掲載される。
「購入手段にかかわらず、信頼できるパブリッシャーが我々の投資の受益者になるようにしたい」と、ディコモ氏はいう。
ユニリーバは特定のパートナーパブリッシャーに投資を集中させようとしているものの、ディコモ氏によれば、基準を満たしているかぎり、一部についてはオープンマーケットでの広告購入を継続する。そのための方法はたくさんあり、総じて「サプライパス最適化」と呼ばれている。アドテクベンダーと提携して、ヘッダー入札ラッパーやオークション遅延、DSPマッチレートといった要因がオークションの動向に与える影響を理解することが鍵だ。
「信頼できる相手を最優先」
「ユニリーバがある相手への投資を引き揚げて別の相手に移す、という話ではない」と、ディコモ氏はいう。「信頼できるパートナーを最優先に、という話だ。我々は、深化した関係に基づくネットワークへの投資を増やすつもりだ」。
取引するセラーの数を減らすことは、ユニリーバのサプライチェーンの問題解決につながるだろう。しかし、不正広告などの問題に関しては、万能薬とはいえない。
「悪質なタイプの不正広告は、ロングテールだけでなくプレミアムパブリッシャーにも影響を及ぼす」と、インフェクシャスメディア(Infectious Media)でサプライチェーン最適化担当責任者を務めるジョン・マクガービー氏はいう。「ユニリーバはパブリッシャーネットワークを、しっかりした不正広告検出プロセスと組み合わせて利用すべきだ。前者は後者の代わりにはならない」。
デジタル広告をめぐる現状
従来、パブリッシャーのキュレーションの試みにおいて、舵を取るのはエージェンシーの役目だった。一方、ユニリーバはパブリッシャーを評価する際にメディアエージェンシーと提携する予定だが、主導権はあくまでユニリーバにある。利益や料金をはっきりさせるため、これまで強引なエージェンシーやアドテクベンダーに買い付けを任せていた広告主が、いまやサプライサイドに接近している。ユニリーバの取り組みは、広告を購入しているセラーのキュレーションにもっと投資が必要だという気づきが、大口広告主のあいだに広まりつつある現状を反映している。
ハイネケン(Heineken)などの広告主は、短期的に安全なプライベートマーケットプレイスに回帰するという方法をとった。契約を結んだらあとは放任という、これまでの慣習を改め、どんなメディアを購入しているかを正確にモニターする方法を、そのあいだに検討するためだ。
一方で、オゾン(Ozone)などのパブリッシャーがコントロールするマーケットプレイスの利用を検討する広告主もいる。こうしたプラットフォームは、広告主にアクセスできるデータが豊富だ。あるいは、全米広告主協会(Association of National Advertisers)のトラスト・コンソーシアム(Trust Consortium)を利用するという方法もある。トラスト・コンソーシアムは、リセットデジタル(Reset Digital)、メディアリンク(MediaLink)、IDコムス(ID Comms)といった企業からなり、広告主が透明性、測定指標、監査、デジタル不正広告、ブランドセーフティといった問題について学ぶ助けになる。
「市場には空白がある」
ユニリーバのように資金力のあるブランドが、パブリッシャーの評価を行うことで、苦難の時代にいくらかの安定がもたらされるかもしれない。加えて、これまでパブリッシャー同士が連帯樹立に苦労してきたことを考えれば、これは象徴的なできごとだ。
「パブリッシャー自身がこうしたイニシアチブを率先して行うべきだった。広告主は(GoogleとFacebookの)デュオポリーに代わる選択肢を求めていて、市場には空白があるのだから」と、コンサルティング企業ADZストラテジーズ(ADZ Strategies)の創業者、アレッサンドロ・デザンチェ氏は述べた。
Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)