従来のデジタルチャネルであるFacebookやインスタグラム、有料検索広告がますます高価になり、パンデミックに強い広告チャネルにブランドが殺到するなか、業界は広告支出の多様化を推し進めている。TikTokも存在感を高めつつあるものの、多くの広告主は有料広告への資金投入を見送っている。
TikTokには人々を夢中にさせる力がある。これは、D2C水着ブランド、アンディー(Andie)の創設者であるメラニー・トラビス氏が昨年、このアプリをダウンロードして学んだ教訓だ。ダンスのチャレンジ、口パク動画、ユーモラスな作品など、ありとあらゆるコンテンツが存在するため、延々と画面をスクロールしてしまう。
トラビス氏は、さんざんスクロールを続けたあげく、このアプリをスマートフォンから削除することにした。それ以来、再びダウンロードしたことはない。だが同氏は、自身のブランドの有料キャンペーンとオーガニックキャンペーンをこのプラットフォームで開始した。果てしなくスクロールを続けるTikTokの膨大なオーディエンスを活用したいと考えたのだ。
「TikTokを我々にとって重要な存在にしようと、多角的なアプローチを続けているところだ」と、トラビス氏はいう。「我々はこのチャネルにふさわしい愛情と関心を注いでおり、(TikTokが)我々にとって主要なチャネルになることを願っている」。
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広告への資金投入には及び腰
アンディーは、TikTokを試している数多くのブランドのひとつに過ぎない。従来のデジタルチャネルであるFacebookやインスタグラム、それに有料検索広告がますます高価になり、パンデミックに強い広告チャネルにブランドが殺到するなか、業界は広告支出の多様化を推し進めている。マーケターにとって問題なのは、TikTokがソーシャルメディア広告で支配的な地位を「築くかどうか?」ではなく、「いつどのように築くか?」ということだ。
米DIGIDAYの調査によれば、バイトダンス(ByteDance)が所有するこのアプリは、多くのブランドやエージェンシーから、すでにSnapchatを超える存在とみなされている。また、アップアニー(App Annie)の予測によると、今年の月間アクティブユーザー数は12億人に達する見込みだ。
しかし、トラビス氏を含めた広告主のあいだで、優れたターゲティング機能やコンバージョン率を提供するFacebookやインスタグラムの広告製品と同じように、TikTokの高価な広告プロダクトに資金を投じようとする動きは見られない。いまのところ、TikTokは広告費のおこぼれに預かっているのが現状だ。
広告主は、TikTokの広告製品を利用する代わりに、TikTokのアルゴリズムや有料インフルエンサーを活用して、Z世代やミレニアル世代のユーザーへオーガニックにリーチできる機会を探っている。また、その過程でパフォーマンスの高い投稿を宣伝している。このような状況は、少なくともTikTokが広告主に対し、自分たちがコマースを促進するチャネルであると納得してもらえるまで続くだろう。米DIGIDAYが以前に報じたように、英国のカフェチェーンであるコスタ・コーヒー(Costa Coffee)や米国のバックパックブランドであるブレヴィティ(Brevite)は、こうしたアプローチを採っているブランドのごく一例に過ぎない。
広告予算はインフルエンサーに
ニューヨークのブルックリンに拠点を置く広告エージェンシーのクワーク・クリエイティブ(Quirk Creative)のCEO、メリル・ドレイパー氏によれば、同社のクライアントの多くもこの戦略を採用しているという。
ドレイパー氏の推測では、D2Cブランドのクライアントの約50~70%が、キャンペーンの広告予算をTikTokに回すことを検討し始めている。だが、そうしたキャンペーンの多くは、TikTokで注目されている音楽やインフルエンサーを活用したもので、有料戦略は採用されても有料広告製品が利用されることはない。
「このようなブランドのなかには、TikTokを真剣に検討し始めているところもある。彼らは過去にこのチャネルで(オーガニックに)バイラルを起こすことに成功したため、その成功を再現したいと考えているのだ」と、トレイバー氏はメールで述べている。その一方で、少額の支出を続けながらスケールアップを図っている企業もあるという。
クリエイティブエージェンシーのソーシャルデビアント(SOCIALDEVIANT)でプレジデント兼CSOを務めるリンダ・ジョンソン氏によれば、TikTokの広告は1日あたり20ドル(約2200円)ほどで配信できるという。全画面のテイクオーバー広告や大規模なキャンペーンなら、150万~200万ドル(1億6500万~2億2000万円)で展開できるようだ。問題は、広告支出が少ないため、広告主が求める分析結果を得られないことにあると、B2Bブランドのデフトデジタル(DeftDigital)やラブコープ(Labcorp)といったクライアントを抱えるジョンソン氏は話す。
「分析というものは存在しない。ターゲティングもFacebookやインスタグラムと同じようにはいかない」と、ジョンソン氏は指摘した。
広告主のニーズに対応できるか?
ペプシ(Pepsi)やホットワイヤー(Hotwire)のように巨額の予算がある大手ブランドなら、それでも問題ない。しかし、指標に基づいてメディアを購入する小規模ブランドの場合は、アプリでバイラルになることを狙ったり、パフォーマンスの高いTikTok投稿をインスタグラムのリールやほかのプラットフォームで広めたりするほうが、費用対効果が高いかもしれないと同氏はいう。
「制作費とメディア支出の両方をTikTokに費やすようなことを、我々のブランドが進んで行うことはないが、彼らはコンテンツ戦略を実行している」と、ジョンソン氏は話す。
だが、TikTokがより優れた広告フォーマットや広告アトリビューション、それに動画以外のクリエイティブオプションなど、広告主のさまざまなニーズに対応できるようになれば、広告主がTikTokの広告製品に資金を投じるようになる可能性はある。また、アプリ内トラッキングを取り締まるAppleとFacebookの対立を受けて、マーケターがほかのメディアチャネルを見つけ出そうと躍起になっているいまは、もしかすると最適なタイミングかもしれない。
「(TikTok)アプリでは、アルゴリズムに供給するデータの量が急速に増えているため、ブランドがこのプラットフォーム内でシームレスに近い広告体験を提供できる機会はこれまでになく増えている」と、ヒル・ホリデイ(Hill Holliday) で戦略およびコンテンツ担当バイスプレジデントを務めるフェイス・マーカム氏はいう。ヒル・ホリデイは、フロンティア・コミュニケーションズ(Frontier Communications)、ストレイヤー大学(Strayer University)、ファイアボール・シナモン・ウィスキー(Fireball Cinnamon Whisky)などのクライアントを抱えるエージェンシーだ。「ただし、支出を増やす前に、いくつかの戦略的な決定を下し、計画を立てる必要がある」と、マーカム氏は語った。
コマースでの正気をつかめるか?
マーケターらは、今後1年間でTikTokへの投資が拡大すると予測している。しかし、TikTokアプリがコマースファーストのプラットフォームとしての役割を果たせなければ、Facebookやインスタグラムを完全に打ち負かすことは難しいだろう。スナップ(Snap)やAmazon傘下のTwitch(ツイッチ)が市場シェアの拡大を図っているなかでは特にそうだ。
「私が考える問題は、より多くのブランドがTikTokに押し寄せ、人々の注目を集めようと激しく競争するなかで、広告支出がいまと同じROIを維持できるのかということだ。もしそうならなければ、ブランドは次の大きなプレイヤーに広告費を振り向けるようになるだろう」と、ドレイパー氏は語った。
[原文:‘A few more strategic decisions’: What it’ll take for TikTok’s ad offerings to get advertiser buy in]
KIMEKO MCCOY(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)