ハリウッドの無駄な習慣を一掃するために、ファッション業界と映画業界が結集している。米国のビンテージストアからの衣服を販売するeコマースプラットフォーム、スリリング(Thrilling)は、衣装デザイナーのルース・E・カーター氏と提携し、映画界における衣装の無駄に対処するためにユニークな提案を発表した。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ハリウッドの無駄な習慣を一掃するために、ファッション業界と映画業界が結集している。
コスチュームデザイナーのシニード・キダオ氏は、2019年の映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語(英題:Little Women)』の製作に関わった。同氏は、持続可能性に特化したエージェンシーのエコエイジ(Eco-Age)とのインタビューで、「どんなプロジェクトでも、(衣装デザイナーは)平均的な人が一生涯に所有するよりも多くの服を購入したり制作している」と述べている。米国では捨てられた布地の85%が廃棄または焼却されており、ファッション業界にも無駄な慣行はあるのだが、映画界などほかの業界も衣類の過剰製造と線形経済に貢献している。しかし、持続可能性に関する会話がファッション業界と映画業界のあいだで持たれるようになり、この2つの業界のあいだに環境を優先する素晴らしいコラボレーションの機会を見出している企業も存在する。
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映画衣装の無駄をなくすプログラムを開始したスリリング
創業4年のスリリング(Thrilling)は、米国のビンテージストアからの衣服を販売するeコマースプラットフォームだ。同社は、1月13日、有名な衣装デザイナーのルース・E・カーター氏と提携し、映画界における衣装の無駄に対処するためにユニークな提案を発表した。そのスリリングの新しいプログラムはビンテージ・スタジオ・サービス(Vintage Studios Service)と呼ばれ、スタイリストは1000軒を超える米国内のビンテージストアの衣服にアクセスできるようになる。
「衣装はストーリーテリングに欠かせない重要な部分であること、そして、融通性、表現力や、多くの場合、比較的手頃な価格のために、衣装デザイナーやスタイリストが古着やビンテージの衣服を頻繁に使っていることを知っている」。そう述べているのは、スリリングのCEO、シーラ・キム・パーカー氏だ。
パーカー氏によると、ハリウッドは毎年さまざまなプロジェクトのために新しい服に10億ドル(約1140億円)近くを費やしているという。また、(若い女性向けサイトの)リファイナリー(Refinery)29は、映画業界は毎年250万着の服を無駄にしていると述べている。安価な衣服をすぐに届けてくれるファストファッション企業を含む製造業者や流通業者によって新しい服を入手することは実に容易になっている。「その金額が、代わりにインディーズのビンテージショップに支払われた場合の影響を想像してみてほしい。(ビンテージ・スタジオ・サービスは)主要ブランドから調達する従来のオプションと変わらないくらい簡単なものだ」。
有色人種や女性所有のビジネスとの提携
通常、衣装デザイナーは、予算が許す場合や密接な関係がある場合には、既製服を購入したりブランドから借りたりする。多くの場合は有料だ。または、映画のために衣装を特別に作らせることもある。ビンテージ・スタジオ・サービスでは、スリリングの調達担当者を通じて、スリリングの在庫やほかのスタイルへのアクセスを持つことができるようになる。スタイリストは、ソースに応じて購入したりレンタルできるのだ。スリリングは迅速な配送とロジスティクスを担当し、そのサービスには料金はかからない。スリリングと提携しているビンテージストアの95%も女性や有色人種のオーナーが所有している。
ルース・E・カーター氏は、ビンテージ・スタジオ・サービスの第一弾キャンペーンのブランドアンバサダーを務めている。同氏は、2022年の自分のプロジェクトにこのサービスを利用することに同意している。スリリングのサイトのキャンペーン画像は、カーターの映画にインスピレーションを受けたスリリングのヴィンテージルックを起用し、映画においてファッションが果たす役割を提示している。カーター氏は、2019年、マーベル映画『ブラックパンサー』でアカデミー賞を受賞。衣装デザイン部門でオスカーに輝いた初の黒人女性として新しい歴史を築いた。また、同氏は様々な賞に輝いているほかの多くの作品にも関わってきた。
このキャンペーンとローンチについて、カーター氏は、持続可能性の分野で活動するBIPOC(黒人・有色人種が所有する)ビジネスを支援することの重要性を強調している。「スリリングが調達と輸送全般という面倒な作業を担当してくれる。(スリリングは)BIPOC所有のビンテージの小企業で、私が関与している映画業界に関心を持っており、また米国中のほかの中小企業を支援しているので、理想的な組み合わせだった。ビンテージをオンラインで購入するというアイデアは素晴らしい。とくにいま、我々衣装デザイナーやスタイリストにとって必要なニッチな存在だ」。
セットや小規模なスタジオで使われた衣装を戻すプログラムはあまり存在していない。ブルックリンを拠点とするグリーン生産パートナーのアースエンジェル(Earth Angel)は、持続可能な製造慣行の促進にフォーカスしている企業の1社だ。大規模なスタジオにはワードローブの倉庫があり、それに頼ることは可能なのだが、ロサンゼルスとニューヨーク以外の地域で行われる撮影も頻繁にあるため倉庫へのアクセスは限られている。カーター氏が担当した『ブラックパンサー』の製作では、同氏は使用した衣装を倉庫へ戻して保管することができたそうだ。
スリリングの解決策は、ハリウッドの衣装産業にとって重要な一歩となるかもしれない。キム・パーカー氏はこう述べている。「我々は、衣服のあらゆるニーズを満たすプラットフォームの作成に注力している。来年には、当社の店舗やセラーが在庫をデジタル化するために使えるコアアプリテクノロジーの革新に尽力しようと思っている」。
[原文:Vintage e-tailer Thrilling wants to solve Hollywood’s clothing waste problem]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:小玉明依)