この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。 インスタグラムやFacebookでのエンゲージメント率が低下するなか、ファッション […]
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
インスタグラムやFacebookでのエンゲージメント率が低下するなか、ファッションはDiscord(ディスコード)のような代替チャネルを通じて新たなデジタルコミュニティと関わろうとしている。
当初はゲーマー向けのコミュニティハブだったDiscordだが、現在ファッションブランドのあいだで人気が高まりつつある。昨年9月の時点で、Discordの登録ユーザー数は3億5000万人、月間アクティブユーザー数は1億5000万人となっている。グッチ(Gucci)は1月21日にDiscordチャンネルを開設し、以来、同サイト上でヴォールト(Vault)プロジェクトのロードマップやデジタルエンゲージメント戦略を描いている。ケンゾー(Kenzo)、ドレスX(DressX)、アディダス(Adidas)、RTFKT、ストックX(StockX)など、ファッション界のほかの企業もDiscordチャンネルを立ち上げている。その主な動機は直接的な方法でコミュニティと関わりたいという要望であり、それはインスタグラムのようなアルゴリズム中心のプラットフォームで行うことがますますむずかしくなっていることだ。
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Discordがプロジェクトの成功のカギに
リセールサイトのベーシックドットスペース(Basic.space)の創設者で、1月16日からファッションブランドのエルメス(Hermès)との訴訟に巻き込まれているメタバーキン(MetaBirkins)NFTプロジェクトのコラボレーターでもあるジェシー・リー氏は、Discordがプロジェクト成功のカギとなったと述べている。「メイソン(メタバーキンのクリエイターであるロスチャイルド氏)は、Discordのコミュニティを構築し、本当に軌道に乗せた。それがメタバーキンNFTをローンチ時に400ドル(約4万6000円)相当の4.1ETHで購入できる理由だったんだ」と彼は述べ、価格の高さが大きな関心を反映していたことを示唆した。「みんなが一気に興味を持つようになり、TikTokやインスタグラムでで作品をシェアしはじめた」。最初の販売は400ドル相当でスタートしたが、作品はすぐに再販売され、より高い価値がつけられた。
メタバーキンのDiscordサーバーは2万人に達し、ホワイトリストやNFTの鋳造の早期アクセスのためにDiscordのVIPリストに載ることを希望するセレブリティもいた、とリー氏は言う。この破壊的なアートプロジェクトは多くの注目と関心を集めたため、NFTが発売されると、その販売価格は非常に高くなった。1月6日時点で、メタバーキンは1万5200ドル(約175万円)から4万5100ドル(約520万円)で売られており、メタバーキンのNFTの総売上高は110万ドル(約1億2700万円)を超えている。
コミュニティ発展の場としてのDiscord
ファッションNFTの流行以前から、Discordではゲーマーや開発者、さらにはスニーカーマニアが意見を交わすなど、コミュニティ発展の場であった。たとえばプレイステーション(Playstation)でゲームをしながら、ゲーマー同士がプラットフォーム上で話ができる人気の機能が特徴的だ。チャンネルを分けることで、似たような趣味を持つ人たちとの交流やフォローアップも可能となっている。プログラム可能なソフトウェア機能のボットが、ユーザーがプラットフォームをナビゲートしたり、特定のトピックに焦点を当てたチャンネルを設定したりするのを支援する。ボットは指示やヒント、導入方法を提供するだけでなく、会話のイニシアチブをとり、チャットにゲームを追加したり、顧客からの問い合わせに答えたりする。
ファッションではプレイステーション向けに使用されているような同期機能はまだ活用されていないが、業界の一部では、アルゴリズムのないなかで本物のエンゲージメントを生み出すこのプラットフォームの有用性が認識されるようになってきている。グッチをはじめとするブランドは、ブランドのNFTのローンチに関連した詐欺について、みずからのDiscord上で多くの会話を目にしている。グッチなどのブランドではDiscordの専属モデレーターを雇用しており、ブランドの関与は典型的なカスタマーサービスでのやり取りを超えたものへと向かっている。「Discordに2万人いれば、ひとつの投稿で2万人にリーチできる。インスタグラムではそうはいかない。そうだろ? 本当のコミュニティを作れば、ダイレクトにアクセスできる」とリー氏は話す。
先週、仮想世界プラットフォームのセカンドライフ(Second Life)で2021年秋コレクションをデジタルリリースしたデザイナーのジョナサン・シムカイ氏と最近電話で話したところ、彼いわく、Discordを含めて、自分のコミュニティと関わるための選択肢を模索することに夢中になっているという。「間違いなくそのコミュニティと関わりたいと思うし、コミュニティの人々と話し、アイデアや考えを共有し、先方のフィードバックに耳を傾けたい」とシムカイ氏は言った。「ファンとのコミュニケーションでいちばん重要なのはコミュニティであり、人々と関わり、耳を傾け、学び、進化できることだ」。
Twitterやインスタグラムとの違いは?
しかし、データ収集という点に関しては、たとえばインスタグラムのデモグラフィックやソーシャルショッピングの分析を参照することに慣れているブランドは、期待を調整する必要があるだろう。デジタルファッションハウスのザ・ファブリカント(The Fabricant)のクリエイティブ戦略およびコミュニケーションのトップであるミカエラ・ラロッセ氏は、同社のDiscordチャンネルから取得しているデータの種類については限定的だと答えた。「暗号ウォレットは(Discordでは)すべて匿名だ」と彼女は説明している。「私たちのDiscordでは、誰が私たちに話しているのかを見ることができるが、必然的にそのほとんどがPFP(証明写真やプロフィール用の写真)と偽名を使っている。どのガーメントもかなり異なるので、なぜ人々がそのガーメントを購入しているのかを言うのは難しい。それに、人々が何を買っているのか確認することはできない」。
市場の評価額が上昇するなかで、この分野の競合他社や暗号投資に関心を持つ人々がボアード・エイプ・クラブ(Bored Apes Club)のような大規模なコミュニティの背後にいる人物を突き止めることに興味を持ちはじめており、暗号コミュニティにおける匿名性の維持はより困難になってきている。コミュニティ内では、この問題はそれほど顕著ではなかった。だがDiscordコミュニティのエンゲージメント率はほかのプラットフォームを超えて高まりつつあり、ブランドはそのユーザーについてもっと知りたいと思うようになるだろう。
Z世代のマーケティングの専門家であるクイン・マイ氏は、ファッション消費者がDiscordに移行しているのは、自分たちが支持しているブランドにより多くの透明性や対話を望んでいるからであり、それは特にZ世代に当てはまると述べている。「Discord は現在、CRMのひとつの形態だ」とマイ氏は言う。「自分がもっとも切望しているファンやコミュニティを会話に参加させることができる。それはTwitterやインスタグラムのようなソーシャルメディアプラットフォームではめったに起きないことだ」。
マイ氏によれば、Z世代の顧客はブランドが自分たちの意見に耳を傾け、自分たちのスタンスを採用することを望んでおり、直接の会話によって新たなレベルの透明性を実現することができるという。「Discord は、真の双方向の会話が可能な数少ないプラットフォームのひとつだ。フォローできるスレッドがあり、コミュニティは共有すべき重要な情報がない限り投稿しない」。
Discordの主な課題と今後の期待
しかし、インスタグラムや最近ではTikTokといったアルゴリズムベースのプラットフォームを長年使用してきたブランドは、Discordのエンゲージメントを維持して有機的に成長させるために必要なスタイルやトーンに移行するのは困難だと感じるかもしれない。ドレスXやRTFKTのようなデジタルネイティブのブランドは機敏に行動してボットを管理することができるため、すぐにでもDiscordに最適化したかにみえる。だが、そんな彼らも欠点を即座に指摘した。
ドレスXの共同設立者であるナタリア・モデノヴァ氏は次のように述べた。「Discordの主な課題はスパムだ。常に排除しなければならないので、本当に使いづらくなっている。たとえば、(正規の)NFTのドロップに招待を送る『バーチャルアシスタント』と呼ばれる人々がいる。だがそれが正当なものであっても、ランダムな人たちから送られてくるさまざまなNFTプロジェクトの購入を勧める30通ものメッセージと区別するのは困難だ。そのスパムが、正規の企業からのプライベートな販売を装う詐欺だったらもっとたちが悪い」。
RTFKTは、ユーザーのために瞑想ハングアウトのような革新的なチャンネルをローンチし、ドレスXはユーザーがソーシャル上で言及するとさまざまなコラボレーションからデジタルガーメントのセルフィーや写真を獲得できるコンテストを実施している。ドレスXの共同創設者ダリア・シャポヴァロヴァ氏はこう話す。「私たちはDiscord上で特定のドロップや機能への早期アクセスについてコミュニティに通知し、またアプリの色、ユーザージャーニー、ドレスXのメタクロゼットにいちばんほしい機能など、製品について意見を尋ね、話を聞いている」。
ブランドがこの分野を深く掘り下げるにつれて、ブランドアイデンティティに沿った方法でDiscordにアプローチする必要が生まれてくるだろう。Discordは、何千人ものユーザーが同時に会話する、カジュアルで暗号化された会話スタイルで知られている。これはブランドにとって課題となるかもしれない。会話が双方向で行われるため、ユーザーを惹きつけておくための専門のチームが必要になる可能性があるからだ。しかし、Discordがより大きなチャンネルになるにつれ、このプラットフォームは、フォーラム、ホームページ、新しいサードパーティのモデレーションツールなどの機能を新たに展開するようになっている。これによってRedditやSlackのようなプラットフォームにより近くなり、より管理が簡単になるだろう。
[原文:The trials and tribulations of fashion brands using Discord]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)