ハリウッドが従来の性別を超えたジェンダーを受け入れるようになるにつれて、男性マニキュアや男性アイライナーなど、男性のビューティトレンドがますます一般的だ。美しさにおけるジェンダーステレオタイプは、歴史上、音楽やストリートスポーツの業界で破られてきたが、今では社会全体の変化となりつつある。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ハリウッドが従来の性別を超えたジェンダーを受け入れるようになるにつれて、「マンキュア(man-icure)」(男性マニキュア)や「ガイライナー(guyliner)」(男性アイライナー)などの男性ビューティトレンドがますます一般的になってきている。2019年度メットガラ(Met Gala)のハリー・スタイルス氏の指先を彩った黒とティールのマニキュア、2021年のアイハート・ラジオ(iHeart Radio)ミュージックアワードでのマシン・ガン・ケリー氏のプレスオンのスティレットネイルは、美しさにおけるジェンダーのステレオタイプが社会的に変化しつつあることを示した。しかし、男性のメイクやマニキュアというものは、いまに始まったことではない。
ミュージシャンのアクセサリーだったマニキュア
男性のマニキュアはかつてはロックンロールやパンクと関連していた。マニキュアは、70年代のデヴィッド・ボウイ氏や、カート・コバーン氏など、90年代にかけて黒いマニキュアをしていたミュージシャンたちにとってはアクセサリーのひとつであった。
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そして現在では、マシン・ガン・ケリー氏やリル・ヨッティ氏、TikTokスターから歌手に転向したリル・ハディ氏など、メインストリームのアーティストやインフルエンサーが、定期的にマニキュアをするだけではなく、自分のネイル製品も手がけるようになっている。このように、マニキュアはステージを超えて一般男性の指先をも彩るようになった。
増えるサロンの男性客
「サロンに来て楽しく施術を受けている男性たちを見るようになって、いまでは当たり前になった」。そう話すのは、レイチェル・アプフェル氏だ。彼女は、「ユニセックス」の会員制ネイルサロン、グロスラボ(Glosslab)の創業者である。リアリティ番組『バチェラー(The Bachelor)』のマット・ジェームズ氏は同サロンの常連だ。「従来の『女性』向けのものと『男性』向けのものの境界線が曖昧になるにつれて、『ネイルデザインは両者のためもの』であることが明らかになった」とアプフェル氏はいう。
ネイルをする男子学生たち
ニューヨーク大学3年のエイダン・テイラー氏にとって、状況はまさしくそのとおりだ。彼が最初にネイルをしたのは2019年。「(友人から爪を)キラキラ光るブルーに塗られた」そうだ。その後、しばらくネイルを中断していたが、2021年にリル・ハディ氏の「赤と黒」のネイルを見て、同じネイルをすることにした。
ハディ氏は、磁気つけまつげとプレスオンネイルのビューティスタートアップ、グラムネティック(Glamnetic)とコラボレーションした。そして、彼のEボーイ(e-boy)スタイルに合わせた、黒、赤、紫のガイコツとクモのモチーフなどの模様を施した10種類のジェルネイルステッカーセットのコレクションを完成させ、これは2021年8月にグラムネティック・ドットコム(glamnetic.com)で発売された。
また、テキサス州プレイリービューA&M大学で機械工学を学ぶジョー・スティール氏は、「友人の妹のレモネードスタンド」に併設されていた「マニキュアスタンド」でマニキュアを試してみたという。黒と青のポリッシュを交互に塗り、それぞれの手には何も塗らなかった指が2本ずつだ。「(ネイルポリッシュは)少し変な感じがしたが、でも気に入った。ネイルに興味を持つようになったのは、音楽を聴くのが好きで、ヒップホップアーティストのリル・ヨッティが好きだったから。彼は自分のネイルポリッシュブランドを持っている」。
リル・ヨッティ氏のブランド「クレーテ」
リル・ヨッティ氏が2021年5月にローンチしたのが、クレーテ(Crete)だ。同社ウェブサイトでは「ジェンダーの常識に対する意識を再定義し、社会的に引かれた境界線からの脱却に向けて取り組んでいる」と記されている。アメリカのドラッグストアチェーン、CVSに並んでいるようなガラス容器入りの定番ネイル製品とは対照的に、同ブランドの黒、白、グレーの「ネイルペイント」はクレーテの「特製ネイルペン」に入っていて、使いやすくなっている。ローンチ以来、リル・ヨッティ氏はヒートウェーブ002(Heatwave 002)とグロウ003(Glow 003)のふたつのコレクションをリリース。両コレクションには、赤、オレンジ、紫、青、緑のマニキュアのほか、蝶や笑顔、稲妻などのパターンのステッカーも含まれている。
ハディ氏、マシン・ガン・ケリー氏、ヨッティ氏のほかにも、オルタナティヴポップロックグループ、レイニーのポール・ジェイソン・クライン氏も、ソーシャルメディアの投稿でネイルを披露している。また、ジョー・ジョナス氏は、ジョナス・ブラザーズの「リメンバー・ディス・ツアー(Remember This Tour)」で、青と白のマニキュアをしていた。このルックを手がけたのはセレブネイルアーティストのジュリー・カンダレック氏で、モーガンテイラーネイルラッカー(Morgan Taylor Nail Lacquer)が使われた。
スケートボーダーの指先も彩るネイル
性別にこだわらないビューティトレンドは、ミュージシャンが取り入れてきた歴史がある。一方で、スケートボードのコミュニティにも見られるようになっている。スティール氏は、「スケートボーダーの友人がいるし、スケートパークにいる人にはマニキュアをしている人が多い」と述べている。「みなクリエイティブで自信にあふれている。他人からどう見られているかとか、マニキュアには性別の役割があるかどうかなどは気にしていない」。
テイラー氏はこのトレンドを「ロサンゼルスやニューヨークっぽい雰囲気」と呼ぶ。「西海岸や東海岸の都市では、男性でもファッションやジュエリー、イヤリングや服装を自由に試すことができる。男女のステレオタイプが厳しく分けられていない」。
性別に関係なく大事なネイルケア
グロスラボが成長し、男性用マニキュアコレクションが増え、男女の消費者が増えると、このトレンドはさらに広がるだろう。アプフェル氏は、ニューヨーク市を拠点にするグロスラボが進出していない地域、つまり郊外に店舗をオープンする計画で、「郊外での最初の店舗が今秋にオープンする」という。グロスラボは、現在ニューヨーク市にある3店舗に加えて、市全体で4店、そしてマイアミとコネチカット州ウェストポートにも店舗を開店する予定だ。
「結局、トレンドとしては、ネイルというのは単にデザインということではなく、基本的にセルフケアだということ」と、アプフェル氏はいう。「爪とキューティクルのケアをして清潔に保つのは、性別に関わらず大事なこと」だ。
[原文:The rise of the male manicure]
NITYA RAO(翻訳:ぬえよしこ、編集:小玉明依)