TikTokがeコマース機能を追加しているなか、ビューティショッピングのスタートアップ、フリップ(Flip)もあとに続く。フリップは、ビューティに特化したショートムービー体験によってTikTokと差別化し、オーセンティックな購入の場を構築しようと、全力を注ぐ。
TikTokがeコマース機能を追加しているなか、ビューティショッピングのスタートアップ、フリップ(Flip)は、ショートムービー体験に購入を含めようと全力を注いでいる。
500ブランドの取り扱いを目指すフリップの拡大
米国を拠点に2019年ローンチしたフリップは、シリーズAで2800万ドル(約31億円)の資金を調達したことを8月30日に発表した。これは、フリップが、同社のショートムービーを通じて販売するビューティブランドを多く引きつけているからだ。このアプリはTikTokに似ているが、どの動画もビューティに特化しており、取り上げられている商品の購入リンクが組み込まれている。現在、フェッカイ(Fekkai)、カジャ(Kaja)、アワーグラスコスメティックス(Hourglass Cosmetics)、RMSビューティ(RMS Beauty)、ジョアンナ・バルガス(Joanna Vargas)、ドクター・ジャルト(Dr. Jart+)、ジィットスティッカ(Zitsticka)、クーラ(Coola)、ロード・ジョーンズ(Lord Jones)、ハッピーダンス(Happy Dance)、ジェイソン ウー・ビューティ(Jason Wu Beauty)を含む200以上のブランドを取り扱っている。週平均で約20ブランドが追加されており、10月末までには500ブランドに拡大する予定だ。
フリップの創設者兼CEOであるヌーア・アガ氏は、「ダンス動画を除いて、ほとんどのソーシャルプラットフォームでもっとも視聴されているコンテンツはビューティとスキンケアに関するものだ」と述べている。
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各ブランドが自社のフルフィルメントを担当するTikTokの新しいeコマースサービスとは異なり、フリップはeテーラーとして機能する。フリップは複数のブランドのワンクリックチェックアウトを提供しており、2カ所の倉庫に商品を保管し、独自のブランドパッケージで発送している。現在は一部の地域で翌日配送を提供しているが、今後9カ月間で倉庫を4カ所追加して、翌日配送を米国全土に拡大する予定である。また、現時点ではブランドから卸売価格で商品を購入しているが、最終的にはAmazonのようなマーケットプレイスモデルに拡大する計画だという。
今回の資金調達ラウンドは、フリップが提供するブランドの拡大ともっと多くのクリエイターを集めるために投資される。この資金調達は、ストリームラインド・ベンチャーズ(Streamlined Ventures)が主導し、ムバダラ・キャピタルベンチャーズ(Mubadala Capital Ventures)とBDMI、また、中国を拠点とするTikTokのライバルである快手(Kuaishou)の初期投資家のルビー・ルー氏らの個人投資家も参加した。
フリップのインフルエンサーマーケティング
ほかのプラットフォームで多くのフォロワーを抱えるインフルエンサーもフリップに動画投稿しており、彼らのフリッププロフィールページはインスタグラムとTikTokのアカウントにリンクしている。2.6万人のフォロワーを持つビューティ・ティックトッカーのジャッキー・フロレス氏(@lajackieflores)は、ドミニク・コスメティックス(Dominique Cosmetics)やアイムミミ(I’m Meme)などのブランドをフリップで宣伝している。また、メイクアップアーティストのサーシャ・カラジアニス氏(インスタグラムでは@ sasha_sasha_mua、フォロワーは3.7万人)は、フリップでジュエ(Jouer)とアワーグラスを売り込んでいる。
アガ氏によると、フリップのダウンロード数は現在100万回を超え、これまでに3万件を超える注文を処理したということだ。同社のユーザー獲得戦略には、前述のインフルエンサーらによるほかのプラットフォーム全体におけるマーケティング活動、友人にサインアップしてもらうための金銭的インセンティブを提供することなどがある。9月には、より協調的なマーケティング活動を行う「グランドローンチ」を計画している。
コンテンツのリアリティと信頼性を重視するフリップ
フリップにはフォロワー数にかかわらず、誰でもコンテンツを収益化できるというユニークな機能があり、ユーザーには魅力的だ。
「我々の購入者は販売者でもある」とアガ氏は言う。ユーザーがフリップで商品を購入したときには自動的に短い動画で商品のレビューができるようになっている。「ユーザーはコンテンツを即座に収益化できる。ユーザーはブランドと契約を交わしたりする必要はないのだ」。
アガ氏によると、フリップは、TikTokが知られているビューティコンテンツとしての信頼性と誠実さの感覚を保持することを目指しているそうだ。
「私のビジョンと夢は、誠実なコマースプラットフォームの最初のものを構築すること。ユーザーが動画を視聴していて、他人が『これは良い』とか『これはダメ』とか言うのを心から信じられるようなものだ」とアガ氏。「もともとZ世代はとてもオーセンティックだ。洗練されたニセのコンテンツを信じる可能性ははるかに低い。彼らは物事のリアリティを求めている」。
2021年8月にフリップに参加したフェッカイの最高営業責任者、クリスタル・ウッド氏は「当社はフリップの熱心な購入者とコンテンツの信頼性のために提携を選んだ」と述べている。フリップは「意欲的に関与しているビューティジャンキーへのアクセス」を提供しているという。
百聞は一見にしかず、ショートムービーのパワー
TikTokやインスタグラムのリールなど、プラットフォームを通じたショートムービーフ形式がソーシャルメディアの世界を席巻しており、ソーシャルコマースにおけるこの形式の役割はますます拡大すると予想されている。TikTokがショッピング機能を開発する前には、インスタグラムがリール機能で買い物ができるようにした。
ウッド氏はこう述べる。「長い説明文を読む時代は終わった。消費者は(製品が)使われているところを見たいと思っている。パワフルな動画は言語の壁を乗り越えることもできる」。
ショートムービーでの購入が普通になる未来を予想
フリップは現時点ではビューティ特化を維持する計画だが、「将来的には」ほかのカテゴリーに拡大する予定だとアガ氏は言う。
パンデミック最中の米国では複数のプラットフォームによるソーシャルショッピングの開発が始まっているが、アガ氏はこの傾向はすでに進行していたと考えている。「私は、この傾向がパンデミックと関係しているとは考えていない」。
アガ氏はフリップの購入フォーマットについてこう述べる。「10年以内にこれは当たり前になるだろう。オンラインでの買い物は過去にはとても奇妙だったわけだが、それが普通になったのと同じように、動画を通じて買い物をすること、ソーシャルネットワークを通じて買い物をすることが普通になるだろう」。
[原文:Social commerce app Flip emerges as the TikTok of online beauty shopping]
LIZ FLORA(翻訳:ぬえよしこ、編集:小玉明依)