オンラインショップ、ジ・イエス(The Yes)の創業者、ジュリー・ボーンスティーン氏は、セフォラ時代にロイヤルティプログラムを構築した経験もふまえ、2021年12月イエスファンド(Yes Funds)をソフトローンチ。顧客に登録のストレスを与えず、シンプルな構成とされた新たなロイヤルティプログラムだ。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
創業2年のオンラインショップ、ジ・イエス(The Yes)の創業者ジュリー・ボーンスティーン氏は、ロイヤルティプログラムに関する経験が豊富だ。彼女は2007年にセフォラ(Sephora)の有名なビューティインサイダー(Beauty Insider)プログラムをローンチしている。だが、そんな彼女がジ・イエスで構築したイエスファンド(Yes Funds)と呼ばれる新たなロイヤルティプログラムは、一般的なロイヤルティプログラムとはまったく異なるものだ。
イエスファンドは2021年12月に静かにソフトローンチしており、ボーンスティーン氏は、セフォラ時代に学んだ教訓と、それを現代の小売市場に適用する方法について話す心の準備はできていると述べた。2022年における優れたロイヤルティプログラムのカギとなるのは、彼女いわく、そこから「プログラム」を取り除くことだという。
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複雑なロイヤルティプログラムは敬遠される
「(2007年と)現在との最大の違いは、ノイズレベルがあまりも高いこと」とボーンスティーン氏は指摘している。「現在、人々は過剰に求められている。すでに100くらいのものに登録しているのに、さらに別のプログラムに登録する必要があるとわかると、人々は否応なく懐疑的になる」。
PYMNTSとsticky.ioによると、米国の平均的な消費者は少なくとも5つの異なる小売サブスクリプションに加入している。とはいえロイヤルティプログラムは、ポストクッキーの世界でますます重要となっているのだ。
ボーンスティーン氏は、ロイヤルティプログラムがあまりにも押しつけがましく複雑になっているため、イエスファンドはできるだけシンプルになるよう設計されていると述べた。まず、顧客はなにも登録する必要がない。ジ・イエスでチェックアウトすると、自動的にその代金の10%がアカウントに紐づいたバーチャルウォレットに追加される。抽象的なポイントは存在せず、明確な金額となっている。この金額は、ジ・イエスのサイトの全ページの上部にあるバナーで顧客に表示され、小売店からのすべてのeメールのコミュニケーションに統合されている。
ポイントシステムをなくす
「ポイントはわかりにくい」とボーンスティーン氏は言う。「そのアイデアは楽しいし、ある種の遊び心がある。でも、あらゆるロイヤルティプログラムで交換レートが異なるので、最終的には人々を混乱させるだけだ。1ポイントは1ドルに相当するのか? それとも10ポイントで1ドルなのか、あるいは1ポイントで10ドルなのか? 金額なら明確でわかりやすい。自分がいくら持っていて、いくら使えるのか、そのものズバリだからだ」。
ボーンスティーン氏によれば、イエスファンドの10%リターンは数学的な判断だったという。ブランドや小売業者が顧客にどれだけの還元をすべきかを決める際には、顧客をリピーターにするのに十分な価値を提供することと、購入のたびに損をするほど気前がよすぎてはいけないという間で最適な場所を見つけることに帰着する。
「10%以下では、実際、顧客に大きなインパクトを与えることにはならない」とボーンスティーン氏は説明した。
ロイヤルティプログラムで得られるインサイト
このプログラムは新しく、また登録する必要もないため、現在どれくらいの人がイエスファンドを利用しているかを共有する重要なデータは持っていないとボーンスティーン氏は言う。しかし、あるカテゴリーでの購入で得たお金を、別のカテゴリーでの買い物に使うという顕著な傾向がみられると彼女は述べている。
ジ・イエスでは、低価格帯のエバーレーン(Everlane)、高価格帯のバレンシアガ(Balenciaga)など、さまざまな価格帯のブランドを扱っている。ボーンスティーン氏は、クロエ(Chloé)のバッグのような高価な買い物で得たまとまった金額を使って、いくつかの安い商品を基本的に無料で手に入れる人々を目にしてきた。その一方で、小さな買い物をたくさん行って、ひとつの高価な買い物に使うのに十分な資金を貯めるという人もいる。
このようなインサイトは、ブランドがほかでは得られない付加的なデータをロイヤルティプログラムがどのように提供することができるかを示す優れた例だ。顧客が少額の買い物で得た資金をより高額な買い物に活用するのを観察することで、ジ・イエスはそのユーザーの行動や欲求をより詳しく説明できる。
顧客側の負担を最小限に抑え、リピーターを大切に
ロイヤルティプロバイダーのクララス・コマース(Clarus Commerce)のCEOトム・カポラゾ氏は「プレミアムなロイヤルティプログラムは、一夜にして完成するものではない」と語る。「顧客がブランドに何を求め、どのような特典にお金を払いたいと思っているのかを正確に把握するには、一定期間のテストと最適化が必要だ。多くの場合、従来のロイヤルティプログラムは、有益なファーストパーティデータを収集するための最初のステップだ」。
ポイントからドルへの変換もなく、得たお金の有効期限もなく、そのお金が何に使えるのかがわかりにくく制限されることもない、つまり顧客側が認識する負担を最小限に抑えたシンプルで合理化されたプログラムが、現代のブランドや小売業にとってもっとも役に立つだろうとボーンスティーン氏は指摘している。イエスファンドは今後数カ月でさらに機能を追加していく予定だが、現時点ではシンプルであればあるほどいいとボーンスティーン氏は考えている。
「ロイヤルティプログラムのゴールはただひとつ。顧客に戻ってきてもらい、購入をリピートしてもらうこと」とボーンスティーン氏は話す。「あまりに多くのブランドが、初回購入の顧客に重点を置きすぎている。初回の顧客には割引などのもっとも大きな特典を与え、それよりもずっと価値のある長期的な顧客には特典が少ない。リピーターこそ、ブランドが大切にすべき人なのだ」。
[原文:‘Simpler is better’: The Yes’ Julie Bornstein on how to build an effective loyalty program]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)