元セリーヌ(Céline)のデザイナーによる自身の名を冠したブランド、フィービー ファイロ(Phoebe Philo)が、米国東部時間の10月30日午前10時に正式にローンチした。最初のコレクション、A1エディット(A1 […]
元セリーヌ(Céline)のデザイナーによる自身の名を冠したブランド、フィービー ファイロ(Phoebe Philo)が、米国東部時間の10月30日午前10時に正式にローンチした。最初のコレクション、A1エディット(A1 Edit)は、オーバーサイズのレザーコート、ジップアップパンツ、スクエアトゥヒールのローファー、アイロンがかかった角ばったシャツ、サングラス、ジュエリーから構成されている。コレクションの発売直後にサイトに障害が発生したが、すでに多くのアイテムが売り切れとなっている。
ローンチまでの軌跡
ファイロ氏は自分の条件でカムバックを演出することを決意していた。伝えられるところによれば、彼女は「独立し、自分のやり方で管理し、実験するという決断は私にとってとても重要だ」と語ったという。セリーヌを辞めるという発表から6年が経ち、ファイロ氏は、現在、以前の雇用主だったLVMHから少額支援を受けて自分のラグジュアリー会社を持つことになった。このファッションラインは10月初旬に一部の報道関係者に初めて直接披露され、10月27日には同社の西ロンドンにあるスタジオで1対1の記者会見が行われ、10月30日にphoebephilo.comで一般に公開された。
ブランドの需要を予測するのは難しいかもしれないが、フィービー ファイロのローンチは数カ月前から予定されていたため、初日にサイトのラグが起きたのは少々意外だった。同社は、7月に、最終的なローンチに関する通知を希望する人のためにウェブサイトでの登録を開始していた。
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ウェブサイトの障害が起きた理由
「チェックアウトに数分しかなく、価格が問題にならない人なら、ウェブ経験が、その人が(購入のために)サイトに留まるかどうかを決めるだろう」と述べているのは、戦略エージェンシー、ナンバー5(Number 5)のCTO、アダム・エアーズ氏だ。イージー(Yeezy)やジョナサン シムカイ(Jonathan Simkhai)などのファッションブランドと協働しており、イージー(Yeezy)との協働ではそのD2Cサイトで一度に最大100万人のトラフィックを管理した経験がある。「(サイトが)クラッシュすると、客はおそらく戻ってこないため、ブランドに損害が生じる可能性がある」。
エアーズ氏によると、フィービー ファイロのチームは最重要な顧客にラグジュアリーレベルの体験を保証するために、ローンチ前にパーソナルショッパーに彼らの最高の顧客に連絡を取らせて、顧客に代わって商品を予約できるようにしたという。
エアーズ氏は、初日の誤動作はカスタム構築のウェブサイトのテスト不足と少ない予算が原因だったと考えている。「ファッション企業の多くは、自社の衣服のデザインの革新性をテクノロジーの革新を通じて伝える必要があると考えている。ベストプラクティスやうまく機能するものを使おうとしないので、これらの企業はテクノロジーに関して失敗する傾向がある」と同氏は語る。
フィービー ファイロにコメントを求めたが、返事はなかった。
ラグジュアリーブランドの限定ドロップの人気上昇
フィービー ファイロは全製品をロンドンにある自社アトリエとスタジオで生産している。初コレクションのアイテムは、A1、A2、A3と呼ばれる3つのエディット、またはドロップにより12月中旬までリリースされる予定だ。フィナンシャル・タイムズ紙によると、各スタイルの生産数は100点以下であり、購入には各スタイルを1回に1点だけという制限がある。この記事の執筆時点で、150点のうち、「マム(Mum)」という単語が連なるメタルネックレス、取り付け可能なスカーフのあるコート、ヤクウールのジャンパーなど38点が完売している。コレクションの価格は500ドル(約7.5万円)から1.5万ドル(約225万円)近くまでで、中には価格については別途問い合わせなければならないアイテムもある。
「コレクションに関する発売前の誇大宣伝と各スタイル1点の購入制限は、流通市場での価格投機の予防が目的のようであり、また、これらはドロップカルチャーの構造に深く組み込まれているように感じる」と、投資会社アウトライアーベンチャーズ(Outlier Ventures)のプログラムディレクター、ブレイク・レゼンスキー氏は述べている。「このような構造は、この5年間で、シュープリーム(Supreme)のようなプレミアムストリートウェアブランドから登場しているが、レガシーラグジュアリーのルックと雰囲気にも合っている」。
限定ドロップはラグジュアリーブランドの間で人気が高まっている。たとえば、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)の譲渡不可のフィジタルのコレクターズアイテムのトランクは、6月に3.9万ドル(約584万円)ドルで販売されている。
「特にこれはファイロ氏の最初のドロップなので、多くの人が見逃したくないと思っているだろう」と述べるのは、高級品企業のシャルフーブグループ(Chalhoub Group)のコーポレートイノベーション担当ディレクター、ニック・ヴィンキア氏だ。同グループは中東でマックスマーラ(Max Mara)やロエベ(Loewe)などのブランドと合弁事業を行っている。「今日の消費者はよりダイナミックで季節を問わないこの新しいモデルを楽しんでいる。このモデルにより、さらに興奮が生まれ、デザイナーには表現の自由があり、顧客は次に何が起こるのかが知りたくなる。このドロップが好きではない人は次がどんなものになるかチェックするかもしれないし、今回購入して製品が気に入った人は次のエディットに最初に駆けつけるだろう」。
ヴィンキア氏はさらに、「需要が供給を上回ると過剰在庫がなく、環境へのストレスが軽減されるので、これはより持続可能なモデルでもある」と付け加えた。
フィービー ファイロが示す新しい要素
フィービー ファイロのもうひとつの新しさは、そのデザインの形にも表れている。初エディットはコンバーチブルで、汎用性がある。たとえば、コートにはオプションのクリップオンスカーフがあり、これは、グレン・マーティンス氏が手がけたYプロジェクト(Y Project)のクリップオンパネル付きレザーブーツを彷彿とさせる。コンバーチブルファッションは、ファッション、特にアウターウェアのコスト削減のための手法として過去に人気があった。ニューヨーク・タイムズ紙は、2011年、ヘルムート ラング(Helmut Lang)やキャロライナ ヘレラ(Carolina Herrera)などのデザイナーがコンバーチブル形式を実験したことを取り上げていた。現在では、不況の苦悩とスタイリングオプションが必要とされていることが、5400ドル(約81万円)のコートを買う金銭的余裕のある人々の購入決定さえ左右するかもしれない。
最後に、フィービー ファイロにはD2C・オンライン専用としてスタートするという確固たる信念がある点を挙げる。逆に、セリーヌは多くの店舗を通して服を披露することができた。フィービー ファイロが小売業への拡大を計画しているかどうかは不明である。だが、サイト上の製品説明では、質感など通常は直接見ないとわからないデザインの詳細が記されていることは注目に値する。ストラクチャードテーラードジャケットは「生地の表面には微妙な質感があり、裏面はサテンの光沢がある」、ウールジャケットは「生地の表面はドライで、滑らかなドレープがある」と説明されている。
「フィービー ファイロにとっての課題は拡張だろう」とヴィンキア氏は言う。「LVMHは同社に投資しており、最終的には投資を回収したいと思うだろう。ファイロは自社でマーケティングと物流を行う負担を軽減しリーチを拡大するために、厳選小売パートナーとの協働を決断する可能性がある。おそらく、ピュアプレイヤーとの独占的なパートナーシップを検討するのではないか。D2Cブランドの多くが苦戦しており、大規模なコングロマリットと組むことが解決策になることがしばしばある」。
[原文:Phoebe Philo’s business model is based on limited collections and product drops]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)