元セルッティ(Cerruti)のデザインディレクター、ジョージ・ヤン氏が設立したレーベル、カルト&レイン(Cult & Rain)は、実用性とラグジュアリーデザインを融合させたコレクションでNFT市場の内実を探ろうとしている。こうした動きは業界のベテランにとって主力の道となりうる可能性を示唆している。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
元セルッティ(Cerruti)のデザインディレクター、ジョージ・ヤン氏が設立したレーベル、カルト&レイン(Cult & Rain)は、実用性とラグジュアリーデザインを融合させたコレクションでNFT市場の内実を探ろうとしている。こうした動きは業界のベテランにとって主力の道となりうる可能性を示唆している。
ファッションと暗号の世界は、従来のデザイナーがメタバースとの関わりを避けてきたために大きく分断されていた。
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しかし、初の暗号ラグジュアリーメゾンであるカルト&レインの創業者ジョージ・ヤン氏の経歴は、これまでのファッションクリエイティブのそれと変わらない。パリのセルッティでデザインディレクターを務める前は、コスチュームナショナル(Costume National)とギ・ラロッシュ(Guy Laroche)でデザインを担当していた。またアンドリュー・ローゼン氏の下で、2004年にファーストリテイリングに買収された後のセオリー(Theory)の復活にも貢献している。
スニーカーはデジタルウェアラブルの最前線
メンズウェアデザイナーであるヤン氏がメタバースに参入することになったきっかけは、長年熱心に収集してきたスニーカーへの愛だった。スニーカーは、メタバースにおけるデジタルウェアラブルの最前線にある。
現在、デジタルファッションブランドのRTFKTによる作品がメタバースに広がっており、その中には秋にわずか6分間で売れた310万ドル(約3億5776万円)相当のNFTスニーカーも含まれる。RTFKTは12月にナイキ(Nike)に買収された。
「RTFKTこそが道を切り拓いてみなのために市場を開放した。RTFKTをシュプリーム(Supreme)とみなすなら、カルト&レインはバレンシアガ(Balenciaga)だ」とヤン氏は言う。
ナイキのCEOジョン・ドナホー氏は、RTFKTの買収はナイキのデジタル変革に向けた新たな一歩だと述べている。一方ライバルのアディダス(Adidas)は、最近ボアード・エイプ・ヨット・クラブ(The Bored Ape Yacht Club)やプラダ(Prada)とコラボレーションを行ってNFTを発売するなど、デジタルウェアラブルに関してストリートウェアの多用途性を示している。
ラグジュアリースニーカーの偽物対策としてのNFT
2月7日、カルト&レインは、イタリア製のラグジュアリースニーカーと引き換えることができるNFTを2000点ドロップした。このドロップには4種類のスニーカーのデザインがあり、それぞれ5色ずつ、合計で20種類のカラーバリエーションとなっている。それぞれの配色で100足が制作された。
4種類のスニーカーデザインは、エイダン・カレン氏のハートプロジェクト(The Heart Project、@HeartNFTs)、ショーン・ウィリアムズ氏(@1artsometimes)、ソフィー・シュターデバント氏(@sophiesaidso)、ハビエル・アレス氏(@javierarres)といった、NFTネイティブのアーティストが手がけている。
「製品の最初のコンセプトは、スニーカーの中にチップを入れるというものだった」とヤン氏は説明している。「人生でずっと何百足ものスニーカーを集めてきたけど、パリからニューヨークに引っ越す際にコレクションを大量に売らなくてはならなかった」。しかしストックX(StockX)のようなマーケットプレイスで売ろうとしたところ、コレクションのうちの何足かが偽物として返却されたのだという。
「ショックだった。芸術作品として眺めていて、大事に持っていたものだったからね。そのことがきっかけで、こうしたことを回避する方法を見つけようと思いつき、それでブロックチェーンに飛びついた」。
NFT空間の信頼性とコミュニティ
写真家でディレクターのエイダン・カレン氏は、コミュニティが運営するNFTのクリエイティブスタジオであるハートプロジェクトを設立している。彼はヤン氏と協力してNFTのコミュニティを巻き込み、特定のメンバーにスニーカーのプリントデザインを依頼した。ふたりは共通の友人を通じて知り合ったという。
「NFT空間に参入したとき、そこには自分が従いたいと思う基本的な原則がいくつかあった。つまり、アート、クリエイティビティ、愛、そしてコミュニティだ」とヤン氏は語った。これらの基本的な価値観に基づき、彼はアートとクリエイティビティを確実に尊重するためにも、コラボレーションを模索したいと考えた。
そしてヤン氏はWeb3の世界に深く入り込んでいくうちに、コミュニティの中にパワーがあるということに気づく。「コミュニティで構築されたプラットフォームなので、ディスコード(Discord)というアイデアはとても気に入っている」とヤン氏は話す。
そのため大手のファッションブランドのNFTのローンチにありがちなセレブリティやミュージシャンなどビッグネームとのパートナーシップとは異なり、ヤン氏は地元出身のNFTアーティストと一緒に仕事をすることを望んだのだ。
これと同じように、D2Cブランドのオフリミッツ(OffLimits)の創業者エミリー・ミラー氏もWeb3空間と関わっており、ブランドがこの空間に参入する際の重要な柱として信頼性とコミュニティへの関与を挙げている。「もし本当にこの空間にいたいのなら、とりあえず自分たちはWeb3に関与していますと、言いたいがための大げさなNFTドロップではなく、実用性と新しさと刺激的な何かを築くことを重視した暗号ネイティブプロジェクト(を選ぶべき)だ。(前者は)ネイティブコミュニティやアーリーアダプターからよい意味で注目されないことが多い」。
ヤン氏がNFTコミュニティにプロジェクトを提示してから3日以内に、150以上のデザインが提出され、上位5つのデザインを選ぶ投票が集められ、カレン氏とヤン氏がもっとも優れたものを選出した。
崩れ去った従来のファッションモデル
「何が正しくて何が間違っているかを卸売業者のバイヤーが指示するような、(従来の)顧問委員会に対応するのに疲れていた」とヤン氏は言う。「それに年に6〜8回もコレクションを発表することにも疲れた。自分のキャリアにおいて17年間、1シーズンも休まずにそんなことをやってきた。従来のファッションのモデルは崩れ去ったのだ」。
NFTは現物のトークンとして機能する
その結果として生まれたカルト&レインのコレクションとその背後にある手段は、偽造品についてのNFT分野におけるいくつかの重要なポイントに取り組んでいる。
多くのブランドは単に商品が本物であることを証明するために、ブロックチェーン認証プラットフォームを立ち上げている。たとえばLVMHグループのオーラ(Aura)コンソーシアムは、ブロックチェーンを使用して、ラグジュアリーグッズを原材料から販売時点まで、そして最終的には中古市場まで追跡およびトレースしている。
現物のスニーカーと交換できる超レアなカルト&レインのNFTを最初に購入することで、NFTがトークンとして機能し、そのスニーカーは偽造されにくくなる。各スニーカーは、それぞれの顧客のためにオーダーメイドで作られる。
「自分はこれまでのキャリアであまりにも多くのコレクションを生み出してきたので、これは非常に希少性の高いモデルだ」とヤン氏は言った。「もうこれ以上、大量のコレクションを作りたくない。必要ないんだ」。
このドロップの手段について、カルト&レインのCMOであるアンディ・グリフィス氏は、エルメス(Hermès)やそのコントロールされた流通を引き合いに出し、「我々がファッションの世界からNFTの世界に持ち込んだのとまったく同じ思考プロセスだ」と語っている。
イタリア製ハンドメイドスニーカーと交換可能のNFT
カルト&レインでは、ブランド割引、限定エアドロップ、対面イベントやメタバースイベント(メタバースファッションショーを準備中である)など、NFTに関連したさらなる物理的および交換可能なユーティリティをリリースする予定だ。
ヤン氏が慣れ親しんだディテールにこだわり、イタリアのサプライヤーを使って物理的な各スニーカーと独自のスニーカーコレクティブルボックスをハンドメイドで制作している。
このコレクションのプレセールは2月7日から、一般のミントは2月10日から開始する。すべてのスニーカーのスタイルが同時にリリースされ、001から100までのナンバリングが施される。
NFTのホルダーは、ブランドのウェブサイトを通じて3月1日までに欲しいスニーカースタイルとNFTを交換することができる。同社のイタリアの工場でのスニーカーの現物の生産は3月8日から始まり、最長で16週間かかる予定だ。
[原文:Luxury designers are moving away from traditional brands to the metaverse]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:黒田千聖)