ブランディングの機会がますます重要になりつつあるなか、とりわけ重要な瞬間となるのが、ブランドのために存在するファッションウィークだ。 ブランドの名前とストーリーのみに基づく消費者の好奇心が強みとなることは、パンデミックの […]
ブランディングの機会がますます重要になりつつあるなか、とりわけ重要な瞬間となるのが、ブランドのために存在するファッションウィークだ。
ブランドの名前とストーリーのみに基づく消費者の好奇心が強みとなることは、パンデミックの絶頂期にTikTokがフレグランスの売上を加速させたことで証明された。そう述べたのは、インター・パルファン(Interparfums)の会長兼CEOのジャン・マダル氏だ。いまラグジュアリーブランドは、広範囲にわたってアクセシビリティに新たな焦点を当て、Spotifyから店舗、そしてファッションウィークのランウェイにいたるまで、各チャネルを活用しながらストーリーを構築している。
当然ながら、あこがれのブランドとリーチの届かないブランドは紙一重だ。前者の立場に立ちつつ、より多くの消費者にリーチするため、ラグジュアリーブランドは好奇心を刺激する瞬間でつながりを促すことに注力している。その大部分は、手頃な価格あるいは無料の商品というオプションを提示することだ。
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実店舗を最大限に活用
「実店舗を過小評価してはいない。実店舗は(ブランド)体験の一部だ」とマダル氏は述べ、インター・パルファンの米国での販売量の75〜80%は店舗が占めていると付け加えた。インター・パルファンは、フェラガモ(Ferragamo)、オスカー・デ・ラ・レンタ(Oscar de la Renta)、そして7月にコティ(Coty)から買収したロベルト・カヴァリ(Roberto Cavalli)といったラグジュアリーファッションブランドのフレグランスライセンスを所有している。マダル氏は、実店舗を最大限に活用するには、まず店員にブランドとそのストーリーを「売り込む」必要があると指摘する。そのため、インター・パルファンは米国内に2つのトレーニングチームを設け、それぞれブランドアンバサダーの教育に力を入れている。
また「買わないわけにいかない」と思わせるために、店頭で顧客が購入した際のプレゼントなど「魅力的なオファー」を提供することも重要だという。
ブランドは香りをシグネチャーにすべき
フレグランスの分野では、初めてフレグランスを扱うラグジュアリーブランドが増えている。ここ2週間で、ガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)が9月に2種類のフレグランスをデビューさせると発表し、アン ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)は9月7日に「A」と名づけたフレグランスを発表した。一方、ディオール(Dior)は、9月の新作ジャドール ロー(L’Or de J’adore)」の発売を記念して豪華スターを招いた祭典を開催するなど、成功しているフレグランスポートフォリオをさらに充実させている。
マダル氏いわく、ロベルト・カヴァリはまだフレグランスの可能性を十分に引き出せていないが、それは前オーナーによる注意不足のせいだという。インター・パルファンとは異なり、コティはスキンケアやメイクアップなどさまざまな製品に注力していると同氏は指摘している。その反面、カヴァリには「多大な伝統」があると同時に、文化的な関連性もある。テイラー・スウィフト氏とビヨンセ氏は、どちらも現在行っているツアーのステージでカヴァリを愛用している。ロベルト・カヴァリのフレグランスは、コティでは年間4000万ドル(約58.7億円)を売り上げていた。
インター・パルファンの目下の課題は、ロベルト・カヴァリのシグネチャーである大胆でセクシーなライフスタイルをボトルに閉じ込めること。マダル氏は、温かく、グルマンで官能的なフレグランスノートが合うだろうと語った。同社は2024年に2種のカヴァリの香りをリリースする予定だ。
「ブランドは香りとの関連性を持つべきだと強く信じている」とマダル氏は述べ、アバクロンビー&フィッチ(Abercrombie & Fitch)のことを、25年前に強力な店舗を通じて香りをシグネチャーにした革新者と呼ぶ。
「50ドル(約7300円)か100ドル(約1万4700円)の投資で、(消費者は)ほかでは買えないデザイナーの世界に足を踏み入れることができる」とマダル氏。「消費者は料金を支払い、ファミリーの一員となる。幸運な少数のなかにいるように感じるのだ」。ロベルト・カヴァリのドレスは2000ドル(約29万円)以上することが多い。
マダル氏によれば、多くのラグジュアリーブランドとは異なり、インター・パルファンは最近値上げをしていない。実際、フレグランスの品質だけでなく、フレグランスの機会の価値を高めるために、同社は香りの持続力を向上させるよう処方の濃度の増強に注力している。
ライフスタイルの構築を目指すブランド
インバウンドの全体的な関心を踏まえると、製品への注力を拡大してライフスタイルの構築を目指すファッションブランド(ジュエリーやアクセサリーを含む)の数が増えていると、マダル氏は認めている。そして、このカテゴリーが加速度的に成長する中、ブランドはフレグランスに注目している。
そうしたブランドは明らかに、元祖ファッションとライフスタイルブランドであるラルフ・ローレン(Ralph Lauren)にヒントを得ている。8月8日、ラルフローレンは4年ぶりにニューヨーク・ファッションウィークのショーを開催した。若年層や低所得層の消費者にとってのエントリーポイントは、ラルフのコーヒーカップからポロ・ラルフローレンのシャツまで多岐にわたる。そしてそのどれもが、ブランドのシグネチャーである品質とトラディショナルなアメリカのプレッピースタイルを反映している。
だが、ライフスタイルを売るための第一歩は、それを定義することだ。
ジャクソン・ウィーダーホーフト氏は、9月12日に開催されるランウェイショーを通じて、4年目を迎えるブランドによるライフスタイルを徹底的にアピールする計画だ。
「人々がコレクションをどのように体験するかが、(ブランドの)物語全体に影響を与える。(ファッションショーは)間違いなく大きな投資だ。しかしブランドにとってドラマが非常に重要だ。そしてランウェイでは服にまったく新しい形で生命が吹き込まれる」と彼は言う。
ウィーダーホーフト氏のショーは、服がキャットウォークを歩くだけでなく、「パフォーマンス、風景、振り付け、音楽、そして『ライト、カメラ、アクション』を通じて、ブランドのシグネチャーであるドラマを復活させる」という。ショーはブランドのソーシャルチャネルでストリーミング配信される。
ブランドのファンへのアクセス提供がトレンドに
ランウェイでブランドのライフスタイルが明確に伝わったもうひとつの強力な例は、9月8日に行われたクリスチャン・シリアーノ(Christian Siriano)のショーだった。シリアーノのシグネチャーであるグラマラスなスタイルは、壮大なフラワーアレンジメント、メタリックできらびやかなドレス、そして「ダイヤモンドのように明るく輝く」と言う文言とともに歌手のシーア氏提供のライブサウンドトラックで表現された。
特筆すべきは、シリアーノが今シーズンのショーをチケット販売という形で一般に公開しているデザイナーのひとりであることだ。一方、9月9日のティビのショーが始まる前、同ブランドのデザイナー、エイミー・スミロヴィック氏はGlossyに対し、招待客の半数はインフルエンサーやプレスではなく、「お気に入りの」顧客だと語っている。
全体として、ブランドのファンにアクセスを提供することがトレンドとなっている。
9月7日、SpotifyはファッションデザイナーによるプレイリストとCFDAとの提携による「ニューヨーク・ファッションウィーク公式プレイリスト」をフィーチャーしたアプリ内デスティネーションをローンチした。公式プレイリストには、ケイト(Khaite)やキャロライナ・ヘレラ(Caroline Herrera)などのブランドによる楽曲が含まれている。
同様に、ザ・ロウ(The Row)やエメレオンドレ(Aimé Leon Dore)などのブランドは、毎月プレイリストをマーケティングチャネルにドロップすることを習慣にしている。そうしたブランドのウェアラブルなデザインとは著しく対照的に、ダウンロード可能な楽曲リストは無料となっている。
[原文:Luxury Briefing: The new designer brand playbook champions lifestyle and accessibility]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)