ロンドンファッションウィークではテクノロジーの新しい形を見ることができた。KWKバイ・ケイ・クォックはChatGPTを使ってキャットウォークのプレイリストを作成し、クリストファーケインはAIを使ってアニマルプリントをデザインした。また、デジタルIDの利用に弾みがついた。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
ロンドンファッションウィーク(以下LFW、2月17日〜21日開催)ではテクノロジーの新しい形を見ることができた。KWKバイ・ケイ・クォック(KWK by Kay Kwok)はChatGPTを使ってキャットウォークのプレイリストを作成し、クリストファーケイン(Christopher Kane)はAIを使ってアニマルプリントをデザインした。また、デジタルIDの利用に弾みがついた。メタバースのアクティベーションは見る影もない。
ChatGPTとAI、ランウェイに登場
メタバースは前シーズンのファッションウィークのデザイナーにとって大きなフォーカスだった。だが、2023年秋に向けてデザイナーはテクノロジーをギミックではなくツールとして捉え、それをマーケティング音楽や季節に合わせたデザイン、サプライチェーンのトレーサビリティのために使っている。上海拠点のブランド、KWKバイ・ケイ・クォックはランウェイショーのサウンドトラックのためにChatGPTで歌詞を生成、それはバイオリンの伴奏と共に演奏された。また、英国のデザイナー、クリストファー・ケイン氏はAIを利用してアニマルプリントをデザインした。
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仮想資産管理会社、アセットハウス(Asset Haus)の創業者、アイリーン・カーヴィル氏は、ブランドがAIやChatGPTなどのテクノロジーから利益を得るにはその技術を理解して大規模に利用する必要があると述べている。「ファッション大学での教育は、AI 対応業界向けの新世代のファッションクリエイティブを準備する上で大きな役割を果たす」と同氏は語る。「ファッションデザイナーはテクノロジーと新しいデジタルワークフローに慣れるために、スタッフの教育に投資する必要がある」。いまのところ、ChatGPTとAIの大部分は研究開発段階にある。特にChatGPTはそうだ。だが、ブランドらはコピーライティングやデザインからカスタマーエクスペリエンスに至るまで多くのビジネス分野でますますAIを活用しており、なかでもオンラインショッピングのパーソナライズされた検索を可能にするためにAIを導入している。ChatGPTはAIプラットフォームのOpenAI上のAI搭載チャットボットであり、AIと会話したり、応答をコンテンツ作成に利用できる。2022年11月のリリース以来、さまざまな業界でユースケースが増えている。
AIや機械学習などのツールを通じて、ブランドは顧客の好みをさらに理解して、効率と生産性を向上させるために運用に新しい変更を行えるようになる」と述べているのは、マイクロソフト(Microsoft)のグローバルパートナーシップ担当ディレクター、マルシュカ・ラウザー氏だ。マイクロソフトは、エミリー・ボード氏ら世界的デザイナーの数人と協力してテクノロジーを生産プロセスに統合する支援を行っている。
デジタルIDへの注目
テクノロジーの分野では、デジタルIDはデザイナーに新たな可能性をもたらすが、それは多くの新興デザイナーから使い始められているわけではない。2月11日土曜日のLFWでは、創業5年の英国のブランド、アルワリア(Ahluwalia)の創業者であるプリヤ・アルワリア氏がデジタルIDスタートアップのイオン(EON)とマイクロソフトとのパートナーシップを発表した。このコラボレーションには、デジタルIDを通じてアルワリアの秋のコレクションに消費者向けのサプライチェーンの完全なトレーサビリティを提供する目的がある。デジタルIDにより、再販で販売された商品の真正性を確認することもできる。顧客はIDをスキャンすればその服のセカンドライフを追跡することができるのだ。
「透明性があり、コミュニティや顧客に対してオープンなブランドを構築したいとずっと考えていた」とアルワリア氏。「デジタルIDでイオンと協働することは、当社にとってテクノロジーがどのように機能するかを試せる優れた方法であり、当ブランドのファンに製品と衣服の背後にあるクリエイティブなストーリーについて多くの洞察が提供できる」。顧客は購入した衣類のQRコードをスキャンして、原産地と素材に関する情報にアクセスすることができる。
デジタルIDは、昨年6月にイオンと提携した英国の高級アクセサリーブランド、マルベリー(Mulberry)や、10月に提携したクロエ(Chloé)ですでに使われている。また、LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)とシャネル(Chanel)によりテストされており、フランスのデジタルパスポート会社、アリアン(Arianee)によってブロックチェーン上でテストされている。イオンは、ネッタポルテ(Net-a-Porter)の創設者であるナタリー・マセネット氏から彼女の会社のイマジナリーベンチャーズ(Imaginary Ventures)を通じて資金を受けており、透明性と信頼性を実現しようとするハイファッションブランドの重要なパートナーになる準備ができている。
ニューヨーク拠点のイオンの創業者、ナターシャ・フランク氏は次のように述べている。「新進デザイナーはしばしば敏捷であり、新しいテクノロジーや機能を迅速に実装できる。こうして、大規模なブランドが可能なユースケースを理解する道が開かれる」。アルワリアは世界の41店舗で取り扱いがあり、2021年以降年間売上高が倍増している。
アルワリアはまたマイクロソフトと協働し、サーキュレイト(Circulate)というアルワリアの古着アプリを作成、このアプリは2021年11月にリリースされた。売り手が古着の写真をアップロードできるこのアプリは、マイクロソフトのコンピュータービジョンAPI(Computer Vision API)を使って、アルワリアの新しい服に変えるために古着の適合性を分析してデータベースに分類するものだ。古着が受諾されると、アルワリアの倉庫に郵送するための配送ラベルがユーザーに送信される。
「これは現在、アルワリアのビジネスモデルの一部だ。また、古着の中には新コレクションのアイテムを作成するために使われたものもある」とラウザー氏。
アルワリア氏は次のように述べている。「特にファッションにおいて、テクノロジーはコラボレーションと職人技を保持するための役割を果たしている。顧客からは当社の新しいテクノロジーの統合は好評であり、当社とつながるこのような新しい方法は楽しまれている」。
マイクロソフトはAIテクノロジーを使って未来のデザイナーを教育することに投資している。それにより、AIテクノロジーは彼らの(制作)プロセスをさらに支援することができる。今年、マイクロソフトは、人気を集めているテキスト生成ChatGPTのAIを作成したOpenAIに100億ドル(約1.4兆円)を投資する予定であると伝えられている。また、マイクロソフトは2021年11月に自社のAIツール、Microsoft Azure OpenAIをローンチして以来、AIに大々的に投資している。アルワリア氏は自分のブランドがAIを活用するかどうかについての言及はせず、さまざまなテクノロジーソリューションを模索しているとだけ述べた。
[原文:LFW Briefing: How ChatGPT and AI are appearing on fashion week runways]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)