ビューティブランドが土壇場でホリデーセールや割引を行っていた2021年12月19日、プローズ(Prose)ヘアケアはメールやソーシャルメディアの投稿で12月20日からの値上げについて顧客に通知した。その理由はインフレだった。 インフレの話題は何カ月もの間米国のニュースメディアを賑わせている。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
ビューティブランドが土壇場でホリデーセールや割引を行っていた2021年12月19日、プローズ(Prose)ヘアケアはメールやソーシャルメディアの投稿で12月20日からの値上げについて顧客に通知した。その理由はインフレだった。
インフレの話題は何カ月もの間米国のニュースメディアを賑わせている。1月、消費者物価指数(消費者が商品やサービスに支払う金額を追跡するもの)内のインフレ率は、過去12カ月で7.5%増加。これは1982年2月以来の最高水準であり、インフレ率は12月の年率7%を上回り、パンデミック前の2019年の年率1.8%を大きく上回った。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、具体的には米国の平均的な世帯がインフレのせいで月に追加で276ドル(約3.2万円)を費やしていることになる。
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値上げをしたプローズへの顧客の反応
プローズの場合、同社のカスタムメイドのヘアケア製品は平均で約4%値上げされ、範囲は22.10ドル(約2600円)〜44.20ドル(約5100円)になった。サブスク登録者(数は未公開)に送られたEメールにはこう記されていた。「原材料と製造コストの上昇により当社のコミュニティに同じ製品を提供する費用が高くなっている。当社は設立から4年の間に製品の値上げをしたことはなかったが、(値上げが)顧客にふさわしい高水準の製品を維持する唯一の方法であると気づいた」。
プローズのCMOであるメーガン・ストリーター氏は次のように述べている。「議論になったのは、そのメールを送るかどうかだった。最終的には我が社の価値観に沿って透明性を保つことがとても重要だった。コミュニティの反応は肯定的だった。値上げに対して顧客がどのような反応するかはわからないので、これは嬉しい驚きだった」。
ストリーター氏は、それが同社初の値上げであったことと値上げに対する真摯な説明が顧客に受け入れられたと述べている。プローズのポートフォリオには165を超える材料があるが、全体的にコストが上がっている。たとえば、原材料サプライヤーの1社は価格を5〜7%引き上げたという。
プローズのCOOのアンソニー・ペルディアゴ氏は、各製品に対するブランドのコストの増加はそれぞれのカスタムメイド製品で使われている成分の量によって異なると述べている。プローズの輸送と貨物も大幅に上がっており、個々の輸送コンテナのコストは過去6カ月で50%以上増加している。ペルディアゴ氏によると、プローズは2022年には個々の注文を郵送するコストが約11%増加すると予想しているというが、同氏は利ざやへの影響については語ってくれなかった。
他ブランドの動向
商品の値上げを行っているビューティブランドはプローズだけではない。CNNによると、ビューティブランド、オーレイ(Olay)を所有するP&Gは、オーレイのリジェネリスト(Regenerist)製品数点の値段を6〜20%引き上げると、2021年10月にディストリビューターに通知した。1月にはデシエム(Deciem)が、同社のポートフォリオ内のジ・オーディナリー(The Ordinary)、NIOD、ハイラミド(Hylamide)の複数の製品を2月1日に値上げする計画をソーシャルメディアで発表した。値上げの理由として原材料の価格、輸送費、パッケージング、人件費が挙げられている。
ロレアルグループ(L’Oréal Group)のCEOを務めるニコラ・イエロニムス氏は、2月9日、同社の2021年の第4四半期と通年の決算発表で、2022年上半期にインフレの影響があるだろうと述べた。同社は、運用上の「価値分析、代替や交渉」や、AIを活用した価格設定ツールやマーケティング支出の投資収益率の改善を通じてインフレの影響を埋め合わせることに努めるという。製品の値上げは対策の1つではあるが、ロレアルは粗利益を強化する新製品の発売と小売業者との戦略の調整にも注力している。なぜなら、小売業者は価格操作に責任を負うからである。
インフレは最終的に利ざやを圧迫する。ユニリーバ(Unilever)の2月9日の第4四半期と通年の業績では、ビューティとパーソナルケア部門の基本的な営業利益率は横ばいであると述べられた。材料のパーム油の価格高騰は、同社が製品価格を引き上げたにもかかわらず粗利益に特に大きな影響を与えたと報告されている。
製品の値上げを決定するまでの背景
通常、値上げの決定は様々な要因を評価した後に行われる。ペンシルベニア大学ウォートン・スクール・オブ・ビジネスの経済学とファイナンスの教授、イタイ・ゴールドスタイン氏によると、企業は通常価格を上げる前に短期間自社の利ざやを食いつぶすが、金額や期間についてのベストプラクティスはないという。また、競合他社が値上げをしていない場合は、その点もある企業の値上げの決断に関わってくる。
「(値上げの要因は)いつも製造から生じるとは限らない。業務や人件費かもしれないし、人材を見つけるのが難しくなっていたら賃金を上げなければならないこともあるだろう」とゴールドスタイン教授。「このような要因すべてが利益率を下げて製品の値上げをするというプレッシャーを生んでいる」。
そして、このインフレの圧迫は続くだろう。エスティローダー カンパニーズ(Estée Lauder Companies)のエグゼクティブバイスプレジデント兼CFOであるトレーシー・トーマス・トラビス氏は、2022会計年度の第2四半期の収益報告で、サプライチェーンのインフレが第3四半期、または2022年の1〜3月に、商品原価にさらに「顕著な影響」を与えることが予想されると述べている。ただし、価格設定とコスト削減の取り組みによって会計年度のインフレの影響の一部を相殺していることも述べられた。
それでも、インフレと消費者物価の上昇はまだ実質的には事業収益に影響していないようである。E.l.fビューティ(E.l.f Beauty)、エスティローダー カンパニーズ、ロレアルグループの収益は増加しており、E.l.f.ビューティとエスティローダーは通年の収益見通しを引き上げたと発表した。また、ユニリーバのビューティとパーソナルケアの売上は3.8%増加した。3%は価格の上昇、0.8%は販売量の増加によるものである。つまり、消費者は購入し続けているのだ。
インフレは消費者コンフィデンスを損なうため、インフレでも消費者は購入を続けるかどうかわからないという兆候がいくつか見られる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、民間調査機関の全米産業審議会の2月の報告では消費者コンフィデンスは2カ月連続で111.1から110.5に低下したという。しかし、ビューティは従来柔軟で不況に強いカテゴリーだ。つまり、消費者は大規模な購入を後回しにするかもしれないが、ビューティ面の消費は通常ネガティブな影響を受けないということである。
ストリーター氏によると、プローズは値上げ後も月々と日々の収益は引き続き伸びており、サブスクリプションの品揃えへのネガティブな影響は「最小限」だったそうだ。消費者にとって残念なのは、値上げの一方だということである。
ロレアルの決算発表で、ヒエロニムス氏は次のように述べている。「これまでのところ我が社が展開している国ではインフレが消費者の購入に影響を与えていることは目にしていない。ロレアルは、価格の階層化が非常に広いため、あらゆる進展に対応する準備ができている。当社はほぼすべてのレベルの購買力をカバーできる」。
[原文:Beauty & Wellness Briefing: Inflation woes strike the beauty industry]
EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:黒田千聖)