撮影現場とレッドカーペットイベントの両方で仕事がなくなったハリウッドのメイクアップアーティストやヘアスタイリストは、ストライキ中の俳優や脚本家などのクリエイターに味方している。
ストライキによるメイク担当への影響
映画俳優組合・米国テレビ・ラジオ芸能人組合(以下、SAG-AFTRA)と全米脚本家組合(以下、WGA)のストライキにより、セレブ担当メイクアップアーティストの予約が映画やテレビの撮影、レッドカーペットイベント、プレスデーなどにおいてキャンセルされた。ディズニー(Disney)CEOのボブ・アイガー氏などのスタジオ幹部らは、撮影が中止されているあいだはヘアメイクなどの「支援サービス」を提供する人々が働けなくなるという事実を理由にストライキ参加者らを批判している。しかし、メイクアップアーティストやヘアスタイリストの多くは脚本家や俳優に影響を及ぼしている経済的圧迫や業界の力による不安を感じており、ストライキへの支持を表明している。そのような力には、ストリーミングの影響、AIが生成したデジタル肖像により知的財産が無償で使用される可能性などがある。
「予定表は近い将来すべて空欄になったが、これは確かに憂慮すべきことだ。何が起こるかわらないし、誰にもわからないと思う。ようやくパンデミックから抜け出したというのに、恐ろしいことになっている」と述べるのは、ケイト・マーラ氏やエマ・ストーン氏らクライアントのレッドカーペットやエディトリアルの仕事を担当するメイクアップアーティスト、レイチェル・グッドウィン氏だ。だが、グッドウィン氏は、交渉者のどちら側に責任があるかについては、スタジオ幹部のせいであると断言する。
SAG-AFTRAがストライキを発表した後、グッドウィン氏はインスタグラムに「@wgastrikeunite @sagaftraを支持する。今回は強欲な企業には勝たせない」と投稿した。
報酬格差とストリーミング企業の影響
エンターテイメント業界においてスタジオの役員とクリエイターの報酬の格差が拡大していることについて、グッドウィン氏は「格差が大きすぎる」と言う。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
撮影現場とレッドカーペットイベントの両方で仕事がなくなったハリウッドのメイクアップアーティストやヘアスタイリストは、ストライキ中の俳優や脚本家などのクリエイターに味方している。
ストライキによるメイク担当への影響
映画俳優組合・米国テレビ・ラジオ芸能人組合(以下、SAG-AFTRA)と全米脚本家組合(以下、WGA)のストライキにより、セレブ担当メイクアップアーティストの予約が映画やテレビの撮影、レッドカーペットイベント、プレスデーなどにおいてキャンセルされた。ディズニー(Disney)CEOのボブ・アイガー氏などのスタジオ幹部らは、撮影が中止されているあいだはヘアメイクなどの「支援サービス」を提供する人々が働けなくなるという事実を理由にストライキ参加者らを批判している。しかし、メイクアップアーティストやヘアスタイリストの多くは脚本家や俳優に影響を及ぼしている経済的圧迫や業界の力による不安を感じており、ストライキへの支持を表明している。そのような力には、ストリーミングの影響、AIが生成したデジタル肖像により知的財産が無償で使用される可能性などがある。
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「予定表は近い将来すべて空欄になったが、これは確かに憂慮すべきことだ。何が起こるかわらないし、誰にもわからないと思う。ようやくパンデミックから抜け出したというのに、恐ろしいことになっている」と述べるのは、ケイト・マーラ氏やエマ・ストーン氏らクライアントのレッドカーペットやエディトリアルの仕事を担当するメイクアップアーティスト、レイチェル・グッドウィン氏だ。だが、グッドウィン氏は、交渉者のどちら側に責任があるかについては、スタジオ幹部のせいであると断言する。
SAG-AFTRAがストライキを発表した後、グッドウィン氏はインスタグラムに「@wgastrikeunite @sagaftraを支持する。今回は強欲な企業には勝たせない」と投稿した。
報酬格差とストリーミング企業の影響
エンターテイメント業界においてスタジオの役員とクリエイターの報酬の格差が拡大していることについて、グッドウィン氏は「格差が大きすぎる」と言う。「だからこの状況になっている。それが、このようなことが63年ぶりに起きている理由だ。クリエイターは立ち上がらなければならなかった」。Netflixの株主は、6月、共同CEOのテッド・サランドス氏に4000万ドル(約56億円)、共同CEOのグレッグ・ピーターズ氏に3460万ドル(約49億円)を与える報酬パッケージ案を拒否した。
ストリーミングプラットフォームの台頭は、ストリーミングプラットフォームから受け取る二次使用料が減っている脚本家と俳優の両方にとってストライキ要求の主な焦点となっている。しかし、ストリーミングはメイクアップアーティストの収入にも影響しているのだ。
「ストリーミングスタジオが登場したら、俳優を準備するための日当額が大幅に下がった。『これが料金だ。気に入らないなら、(金額に文句を言わず)仕事を受け入れる人はほかに何百万人もいる』というような感じだ」と、セレブメイクアップアーティストのジェイミー・グリーンバーグ氏は言う。同氏は、ラシダ・ジョーンズ氏、クリステン・スチュワート氏、エリザベス・モス氏らのクライアントのレッドカーペット、プロモーション、エディトリアルルックを担当している。
あるセレブ担当メイクアップアーティストは、匿名で、Netflixなどのストリーミングサービスは、通常、プレミア上映(の準備のために)メイクアップアーティストに税込で1件あたり500ドル(約7.1万円)を支払っていると語った。20年前、大手スタジオの場合、それは2500ドル(約35万円)だった。さらに、15~35%のエージェント手数料は、スタジオが上乗せするのではなく、メイクアップアーティストの料金から差し引かれるケースが増えている。
このアーティストは、現在も続くストライキについて「スタジオのせいだ」と述べている。「俳優と脚本家が必要としているものをきちんと提供していれば、問題はなかっただろうに。(ストライキをしているクリエイターと比べて、スタジオ幹部らの)多くはいまどこかで休暇中だ」。
グッドウィン氏は次のように述べている。「ストリーミングサービスが登場して、ハリウッドをテック産業のように運営しようとした。我々メイクアップアーティストにとって、これらの企業はずっと前に我々の業界に参入してきて、この産業を根こそぎにした。我々には労働組合がないので、それを受け入れるしかなかった。料金をこれまでの4分の1に引き下げなければならず、基本的に我々の価値は完全に貶められて、ゼロになってしまった」。
労働組合がなく、料金が下がるなか、公の場に出演する俳優らを担当するフリーランスのメイクアップアーティストにとっては頼みの綱がほとんどなくなっている。
「労働組合がないので、状況が悪い方向に変化し始めると、我々にとってはますます悪化する一方だ」とグリーンバーグ氏は言う。
IATSE地方支部メンバーのメイク・ヘア担当者の動き
IATSE(国際映画劇場労働組合、International Alliance of Theatrical Stage Employees)地方支部706のメイクアップ・ヘアスタイリスト組合(Makeup and Hair Stylists Guild、以下、MUAHS)のテレビや映画撮影現場で働くアーティストのあいだでは、ストライキを行うことに対してはほぼ全面的な支持がある。地方支部706は、2021年に組合員の98.7%が賛成してストライキを承認したIATSEの36の地方支部のひとつだった。このストライキは、2021年11月、IATSEが全米映画テレビ製作者同盟(Alliance of Motion Picture and Television Producers、以下、AMPTP)との協定を批准したことで回避された。
IATSE契約は2024年まで交渉の対象にはなっていないが、MUAHSはほかの労働組合ともにSAG-AFTRAのストライキの決定においてSAG-AFTRAへの連帯を表明している。MUAHSのインスタグラムでは、組合員のメイクアップアーティストらがコメントでストライキ実行への支持を表明している。「MUAHSがストライキをすることは認められるべきだった」というコメントもあった。
『リトル・マーメイド』でのハリー・ベイリー氏のヘアスタイリストであり、『ブラックパンサー』のヘア部門責任者、カミール・フレンド氏は、自分のインスタグラムのアカウントに次のように投稿した。「AMPTPは、テレビ・劇場・ストリーミング作品に関して公正な取引を行うことを拒否した。我々は戦うことを恐れてはおらず、引き下がらない。私の労働組合、SAG/AFTRAはストライキを実行する」。
「ストリーミング会社はあまり儲かっていないと言った。だが、そう言っていた3年間で莫大な収益を上げている」と、地方支部706とそのMUAHSアワードのビジネス担当者であるカレン・ウェスターフィールド氏は述べている。
撮影現場担当のメイクアップアーティストは二次使用料を受け取らないが、彼らもストリーミングによる経済的プレッシャーを感じているのである。
「我々の料金はプロジェクトの予算によって決まる。ストリーミングサービスは『予算がない』と言うので有名だ」と述べているのは、組合員のメイクアップアーティストでクラフトエジュケーションコーディネーターも務めるクレア・アレクサンドラ・ドイル氏だ。
ヘアとメイクアップもSAG-AFTRA交渉において考慮されている。SAG-AFTRAが発表した交渉状況に関する文書には、ヘアとメイクの公平性に対する要求が挙げられており、撮影現場のヘア・メイク担当アーティストがさまざまな肌の色や髪質に対応したり、事前の相談を担当できるようになることが求められている。この文書によると、AMPTPは主演級の俳優に対してのみこれに暫定的に同意し、「義務づけることは拒否した」という。
クリエイティブな仕事は物理的な作業に重点が置かれているため、AIによるデジタル肖像の使用が及ぼす影響について脚本家や俳優らが持っている懸念をメイクアップアーティストも感じている。メイク・ヘア担当者らは、AIによる複製は、テクノロジー側と協力してメイクアップアーティストのクリエイティブサービスを依然として利用しているデジタルアニメーションとは異なるものになると指摘する。
「俳優を複製し始めると、俳優はいらなくなる。衣装もいらない。メイクアップもいらない。ヘアスタイリストもいらない。スタントコーディネーターもいらない」とドイル氏。
『ブリジャートン家(原題:Bridgerton)』を担当したメイクアップデザイナーで組合員のエリカ・オクヴィスト氏は、仮定的な状況を自分のインスタグラムストーリーに投稿して、デジタル肖像の使用がメイクアップアーティストのキャリアにどれほど壊滅的な影響を及ぼす可能性があるかを示した。彼女は、エキストラをデジタルに置き換えることは撮影スタッフの仕事がなくなるだけではなく、数カ月にわたるプロジェクトが撮影現場の1日のギグになってしまうと、IATSEが提供する健康保険の資格を得るために必要な労働時間数が満たされなくなる可能性があると指摘している。
「AIを使えば、基本的に『ヘアもメイクもAIで生成できるからヘアメイクは必要ない』ということになる。そうなると、我々は完全に失業してしまうということだ」と述べているのは、トレイシー・エリス・ロス氏やアンジェラ・バセット氏などを担当するカマラ・エイユニーク氏だ。
地方支部706の交渉の今後については、何が起こるか予測できないとウェスターフィールド氏は言う。
しかし、組合員のメイクアップアーティストたちはストライキに対して、すでに前例ないほどの支持を表明している。2021年のIATSE投票は、IATSEの128年の歴史のなかで全国規模のストライキに関して投票した初めてのものだった。
「これはドミノだ。タイムラインで言えば、最初のドミノは脚本家の契約がまず期限切れになったこと」とドイル氏。「我々は、将来その次のドミノになるだろう。脚本家や俳優の戦いが目指しているすべてのもの、つまり仕事とサービスのインテグリティは我々の契約にも影響を及ぼすことになる」。
メイクアップアーティストらは、状況が早期に解決して仕事に戻りたいと願っている。だが、彼らは、ストライキ実行者たちの要求が満たされるのはAMPTP次第だと思っている。
「もっと公平な状況になること、そして、とんでもない利益を上げているストリーミング企業が、クリエイティブなサービスを提供し、取り替えることはできないクリエイターの価値に気づくことを心から願っている。そして、クリエイターらが公正な給料を受け取れるようになり、生計を立てて質の高い生活を送れることを願っている」とグッドウィン氏。彼女は、エンターテイメントニュースサイトのデッドライン(Deadline)に最近引用された匿名幹部による、AMPTPが目指す「終局」は「組合員が住居を失い始める」ことだという発言について、「極めて不快だ」と付け加えた。
「労働者すべてが、その労働の対価として公正な方法で支払いを受けられることを願っている。時代は変わった。契約も変わる必要がある。それが当然だ」とグリーンバーグ氏。「自分の仕事に対して正しい方法で報酬を受け取れるようになる必要がある。(スタジオ幹部らという)限られた人だけが大稼ぎするなんて。皆にその現状を知ってもらい、クリエイターたちに公平な報酬を払わないなら、エンターテイメントビジネスがどれほど麻痺するかをわかってもらいたいと思う」。
[原文:‘I blame the studios’: Celebrity makeup artists show solidarity with striking writers and actors]
LIZ FLORA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)