インフルエンサーの集団が大邸宅で共同生活をしながらコンテンツ制作に勤しむコラボハウス、「チーム10ハウス」。その元メンバーのエリカ・コステル氏は、2021年3月に、自身の名を明かさず、ファッションブランドをローンチした。自分を出さないこの方法は、インフルエンサーマーケティングとは異なる道を歩む試みだった。
2020年には、何百万人もの人々が「コラボハウス」というものを知ることになった。これは、インフルエンサーの集団が大邸宅で共同生活をしながらコンテンツ制作に勤しむというものだ。しかし、ハイプハウス(Hype House)と「ブラディソン(Braddison)」(TikTokersのブライス・ホール氏とアディソン・レイ氏を合わせた名前)の前には、チーム10(Team 10)(ハウス)があった。チーム10は、2017年当時、カップルだったふたりのユーチューバー、ジェイク・ポール氏とエリカ・コステル氏、別名「ジェリカ(Jerika)」が率いたものだ。
チーム10ハウスの顛末
チーム10ハウスは、共同YouTubeチャンネルに投稿された日々のvlogと物議を醸す危険なスタントで悪評を得ることになる。4年後、このOGインフルエンサーインキュベーターはメンバー間の対立により解散。2017年に立ち退き通知を受け、2020年にロサンゼルスの邸宅はFBIに緊急捜索された。
「あの年(2017年)は、朝起きて撮影することがすべてだった」と、コステル氏は言う。「あのころは地に足をつけた暮らしをしていなかった」。
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立ち上げたブランドに自分の名を使わなかった理由
しかし、議論を巻き起こしたにもかかわらず、チーム10は2021年のTikTokコラボハウスの青写真として機能した。以来、チーム10のメンバーらはボクシングのリングやファッション業界などさまざまなところで活動している。コステル氏は目立たないようにファッション業界に進出し、2021年3月にアクティブウェアブランドのアキレスポーツ(Akire Sport)をローンチ。ここに居場所を見つけた。
8月31日にアキレの創設者として登場したコステル氏は、ソーシャルメディアプラットフォーム全体で1000万人のフォロワーがいるにもかかわらず、当初、自分の名前を前面に出さないことを意図的に選択した。ベテランのインフルエンサーとして多角的な視点を持っていたおかげで、彼女は同ブランドを自分とフォロワーの両方を含む消費者オーディエンス、「外出中の女子」向けに提供し、インフルエンサーマーケティングを異なる方法で活用することができた。akiresport.comで販売されている製品の価格は19〜98ドル(約2100〜1.1万円)だ。
「ファッションインフルエンサーか、メイクを披露するメイクアップインフルエンサーでない限り、オンラインでの活動以外のことを真剣に受け止めてもらうのはむずかしい」とコステル氏は言う。彼女は、モデルのキャリアのためロサンゼルスに移り、2017年にチーム10に参加する以前は、ビジネスとマーケティングを学んでいた。「私が押し付けたり、スワイプアップリンクを設けたり、他人にお金を払ってマーケティングしてもらうことなく、(アキレスポーツの)優れた点を皆に知ってもらいたいと思った」。
アキレは「プライベートタイムのモデル」のアスレジャーブランドで、コステル氏は「上品で、ゆったりサイズのストリートスタイル」と表現している。スウェットスーツやバイカーショーツ、多色展開のタンクトップを提供しており、すべてロサンゼルスで製造されている。ヘイリー・ビーバー氏、アディソン・レイ氏、ベラ・ポールチ氏、クローディア・スレウスキー氏、アナスタシア・カラニコラウ氏、アリッサ・バイオレット氏らが着用しているが、コステル氏は、アキレにインフルエンサー創設ブランドというレッテルをつけられないよう距離を置いてきた。
「(外見が)かわいいことは個性ではないと思う。ユーチューバーであることも個性ではないと思う」と、彼女は言う。コステル氏は自分の名前を隠してローンチすると決めたことで、アキレのリーチ、そしてブランド創設者としての自分の信頼を拡大したいと考えた。
自分の望むことだけを行った結果のブランド創業
アキレは、コステル氏のビジネス手腕の最初の副産物ではない。ソーシャルメディアを追求するという彼女の決断は、YouTubeのスターになることではなく、モデルのキャリアを前進させるために、YouTube内で不足している「普通の女性のvlogger」市場を利用することだった。
YouTubeのキャリアを始めたときに24歳だったコステロ氏は、現在28歳。「来る日も来る日も、前日の動画を超えるものを制作しようとする生き方はとても有毒だった」と話す。結局、彼女は、2020年にコンテンツ制作を1年間休止することにして、2018年から携わっているアキレに取り組むことにした。「情熱を感じられないことはもうやらないと決めた。もし100%注力できないなら、それは自分にとって正しいことではないし、一切関わらない」。
ブランドの信頼性を高めるマーケティングを模索
有料のインフルエンサーマーケティングは依然として人気を博しているが、その戦略から離れて、もっと「偽りのない本物」に見せる方向に移行しつつあるブランドもある。パンデミックによって、特権のバブルの中にいるインフルエンサーらと一般人との隔たりが浮き彫りになったため、ブランドたちは「製品に重きを置き過ぎるインフルエンサーキャンペーン」から距離を置き、その代わりに、ブランドの信頼性を高めるためにマイクロインフルエンサーや無報酬のインフルエンサー、セレブによる推薦を利用するようになっている。
アキレについてコステル氏は、「私のエクステをしてくれる女の子たち」からチャーリーとディキシーのダミリオ姉妹、アディソン・レイ氏、ローレン・グレイ氏らのインフルエンサーに至るまで、過去5年間に知り合った友人やネットワークに頼ったと述べている。
ローンチから5カ月後、ブランドと自分の名前を関連づけると決断したことについて、コステル氏は、「私はもう典型的なインフルエンサーではないし、このブランドがいま愛情を注いているものだから」と自信を持っている。「基本的にはフルタイムのインフルエンサーモードに戻ったことを考えると、(自分の名をアキレの前面に出すことは)最高のタイミングだと思う」。
[原文:How influencer Erika Costell went from ‘Team 10’ member to fashion brand founder]
NITYA RAO(翻訳:ぬえよしこ、編集:小玉明衣)