SNSに情報が溢れるいま、Z世代をターゲットにしたビューティブランドはどのようなマーケティングをするべきか? 今回は、全盛期のティーン誌をオマージュしたTood Beautyのキャンペーンを紹介する。ノスタルジーを感じさせたいという狙いは、ターゲットに刺さるのか。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
多くのミレニアル世代がそうだったように、プレティーンからティーンの頃の私はとにかく紙の雑誌が命だった。ティーン・ヴォーグ(Teen Vogue、現在はデジタル版のみ)、エル・ガール(Elle Girl、休刊)、コスモガール(CosmoGirl、休刊)、セブンティーン(Seventeen、現在は特別版のみ紙媒体で発行)など、好きだった雑誌は数えきれない。
Googleでざっと過去の表紙を検索してみれば、「可愛くなるための1000以上の方法」といった見出しが記憶を蘇らせる。ほかにも「お尻にぴったり最高にキュートなジーンズ」「大晦日までにお腹をへこまそう!」などなど。
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時代は変わったというのは控えめな表現かもしれない。当時はTikTokどころか、Instagramも存在しなかった。今日、情報交換ははるかに民主的になったが、同時に監視も届かなくなった。Z世代の多くは、ソーシャルメディア上でフォローしている仲間から情報を得ている。
そして無数のブランドが共感を得られるようなコンテンツを作ろうと試みてはいるが、ほとんど成功していない。思い浮かぶ成功例はレア・ビューティ(Rare Beauty)である。創業者のセレーナ・ゴメス氏に巨大なファンベースがあり、メンタルヘルスの問題についてゴメス氏自身が透明性を持っていること、そして大規模な慈善活動とともにブランドを立ち上げたことなどが、成功の要因だろう。
買い物は社会を作るための投票だと考えるZ世代
2021年1月にローンチしたトゥード・ビューティ(TooD Beauty)は、創業者のシャリ・シアダット氏によれば「Z世代ブランド」として構想されたわけではないという。だが、自己受容とサステナビリティというコアバリューを考えると、このブランドは要件にぴったり合っている。同ブランドは2021年6月、初の生分解性(注釈: 物質が微生物などの生物の作用により分解する性質)グリッターをローンチした。このようなローンチは、ブランドに対する信頼感をZ世代に与えた。「Z世代は、自分たちが使うお金は、自分たちが属したいと思う社会を作るための投票や参加の手段だと考えている」とシアダット氏は言う。同ブランドの最初のローンチには、カラークリーム(Color Creams)も含まれている。これはブラシで塗るタイプのメタリック顔料で、一本眉やわき毛に塗るといった、従来の美容基準に逆らうメイクアップの方法をマーケティングで紹介している。
雑誌風のキャンペーンで社会的メッセージを発信
トゥードが2月18日にローンチした新しいキャンペーンは、雑誌の表紙というノスタルジーを利用して、社会的な美の基準などのテーマについて会話を始めることを目的としている。キャンペーンでは6種類の偽の表紙がフィーチャーされ、ブランドのウェブサイトやeメールマーケティング、Instagramなどでシェアされる。雑誌自体を印刷する予定はないが、取り上げたトピックのいくつかはブログの記事やソーシャルコンテンツとして展開していくつもりだ。各表紙はトゥードのコレクションにある製品と関連づけられており、表紙のキャッチコピーはブランドの大きな理念を語っている。たとえば「Vol.2/自己愛」をテーマにした「トゥード・トークス(TooD Talks)」の表紙には、「自分だけのラブストーリーで主役を演じよう」と書かれている。また「ヘア・ポジティビティ」をテーマにした別の表紙では、創業者のシアダット氏がわき毛を露出してポーズをとる。残りの4種類の表紙では「地球(を救う)、ラディカルな受容、アクティビズム、ノンバイナリーの美」がテーマとなっている。
Z世代に訴求するノスタルジアで共感を呼ぶ
表紙のキャッチは、若い女性を対象としたメディアにおける非常に大きな変化を物語っているが、これを手がけるにあたってシアダット氏がチームを組んだのは、セブンティーン誌の元編集長であり、コスモガールの創刊編集者で、私の青春時代の絶対的なアイコンだったアトゥーサ・ルーベンスタイン氏だ。トゥードはルーベンスタイン氏が雑誌時代に一緒に仕事をしていたデザイナーを起用して、このプロジェクトを実現させた。
キャンペーンでは「トーク」も行われ、2月22日にインスタライブにてケイティ・ストゥリーノ氏(およびシアダット氏とルーベンスタイン氏)との第一弾が開催された。タイトルは「痛みからのパワー:3人の女性がどのようにみずからの美の物語を再生し、再主張し、再び書き換えるのか」である。
Instagramに付属しているフィルターで、誰もが表紙のスターに「なる」ことができる。最終的には、ブランドは25人のZ世代を起用して「表紙や製品、トゥードに対する独自の意見をTikTokでシェアしてもらう」とシアダット氏は述べている。このキャンペーンは無報酬で、投稿に対してブランドから製品が贈られる。
Z世代のなかには、ティーン雑誌の表紙が広く普及し影響力があった時代にはまだ生まれていなかった者もいるが、シアダット氏は、Z世代がノスタルジアを渇望している点を指摘し、だからこそこのキャンペーンは共感を呼ぶだろうと信じている。「環境や政治といった分野での問題に関して、Z世代の生活はとても深刻だ。だから気を紛らわすひとつの方法として、こうした歴史的な文脈に憧れを抱いている」。
社会は確実に進歩している
このキャンペーンを通じて、41歳のシアダット氏は自分が育った時代にはタブー視されていた話題を探求したいと考えている。彼女は3人の女の子(7歳、10歳、12歳)の母親であり、トゥードの創業者である自分の役割は、彼女が表紙を飾った雑誌のキャッチフレーズになっている「Z世代ビューティのママ」になることだと考えるようになった。「『メイクアップは誰のためのものか』といった議論には、感情を整理して誠実でなくてはならない。Z世代にはそうした流動性やオープンさがある。Z世代はやるかやらないかをジェンダーによって決定することはない。メイクやファッションに自由があり、それはまさしくトゥードが重視している点だ。我々は、顧客がチュートリアルを見る必要があるとは考えない。だれもがクリエイターだと信じている」。
ルーベンスタイン氏のほうはメディア界への復帰は遠そうだが、このプロジェクトはかなり楽しんだようだ。「コスモガールを始めたとき以来初めて、『あ、これはタダでやってみたい』という気持ちになった」と彼女は言う。またコスモガールのように、このキャンペーンは現在の「時代性、認識、文化」を語っていると付け加えた。
2006年にセブンティーンを去って以来、はたして進歩はあったのかなかったのか、彼女がどのように思っているのか、当然ながら私としてはぜひ聞いてみたかった。
「私の13歳の子どもは緑色の髪をしていて、ジェンダー・フルイドだという認識だ。だからその質問の答えは、つまりイエスだ」と彼女は答えた。彼女はセブンティーンで手がけた、ひとりのトランスジェンダーの若者に関する賞を受賞した記事のことを振り返った。「我々は、現在起こっていることの先駆けのようなことをやっていた。私の子どもは、そんなユニコーンのような存在だ。そうした若者たちは金の星を求めてはいない。どうすれば魅力的になるのか、誰を愛すべきか、何に夢中になるべきかを教えてくれる人を求めてはいないのだ」。
メディア企業が放棄したことに取り組むブランド
昔の雑誌の表紙のキャッチは「ニューススタンドで雑誌を売ることをかなり念頭において制作されており、恐怖に基づいた思考を利用することが多かった」とルーベンスタイン氏は指摘している。
もちろん、私が崇拝していた雑誌は売れることを目的に制作されていた。確かにそうだった。しかしそれでも、ルーベンスタイン氏が指摘するように、そうした雑誌には今日のインフルエンサーには絶対にないプロセスや審査が存在していた。「私にはTikTokからコンテンツを受け取っている13歳の子どもがいるが、そうしたコンテンツは『ヨーグルトにバナナを入れて、どうのこうの』というような美容レシピなど、まったくゴミみたいな内容だ。でもそれを彼女は実際にやってみて、『ああ、もうこんなのやってられないよ』となる。そして私に『雑誌をやってたとき、こういう手作りレシピも載せてたよね?』と聞いてくる。だから私は『そうよ。でも私たちは愛する読者に提供する前に、それがA+であることを確認すべく、修士号を持つ人たちに3回以上吟味してもらっていたからね』と答えている」。
「この種のキュレーションされたコンテンツを提供するにあたり、商業ブランドに頼っている現状は、ある意味残念だ。しかし同時に、メディア企業が何らかの理由で完全に放棄したことをやろうとする、とてつもない信頼性と誠実さをもったブランドも存在している」。
注目商品
ここ2週間の新しいコラボレーションで、もっとも興味深いものをいくつか紹介する。
ビューティパイ x ジェイムズ・モロイ氏
イギリスを拠点とする、超お手頃価格のメイクアップ(およびスキンケア、ボディケア、ヘアケア)サブスクリプションサービスのビューティパイ(Beauty Pie)が、アディソン・レイ氏やエマ・ワトソン氏などのスターと仕事をしているメイクアップアーティスト、ジェイムズ・モロイ氏と一緒に作った3種類のミニメタリック・アイシャドウパレットがデビュー。購入はこちらから。
サムシングネイビー x ノリ
インフルエンサーコラボやインフルエンサーブランドの次に来るものは何か? インフルエンサーブランドがほかのブランドとコラボすること。その最新の例が、ファッションブランドのサムシングネイビー(Something Navy)とスチームアイロンのブランドであるノリ・プレス(Nori Press)による「サムシング・スティーミー(Something Steamy)」。購入はこちら。
ウィージー x パルテール
インフルエンサーブランドが独自のコラボレーションを展開する別の例。D2Cのタオルブランドのウィージー(Weezie)が、ジュリア・ベロルツァイマー氏(Instagramのフォロワー数130万人、元ギャルミーツグラム、Gal Meets Glam)とマイクロインフルエンサーのハンナ・シーブルック氏が共同で設立した衣料とホームブランドのパルテール(Parterre)とコラボした、デリケートでシックなタオルとバスローブ。購入はこちら。
27ロジェ x ミス・フェイム
クレド(Credo)で販売しているパリ発のクリーンビューティブランド、27ロジェ(27 Rosiers)が、ドラァグクイーンのミス・フェイム(Instagramのフォロワー数110万人)とタッグを組み、スキンケア効果の高い「スキンイルミネーター」のリミテッドエディション「エクストラ/オルディネール(EXTRA/ORDINAIRE)」を発売。3色セットは88ドル(約1万円)、1色32ドル(約3700円)。 それぞれ単体でもモイスチャライザーに混ぜても使うことができ、小さな容器には、アシュワガンダ、カモミール、カレンデュラ、ビタミンC、植物性コラーゲンといったパンチの効いた成分が含まれている。購入はこちら。
トレセメ x パットボー
ニューヨーク・ファッション・ウィーク(NYFW)に合わせ、ファッションブランドのパットボー(PatBo)は、NYFWのバックステージで常に存在感を示しているトレセメ(Tresemmé)とタッグを組み、2種類のヘアアクセサリーセットを発表。「シンプリーグラムセット(Simply Glam Set)」は85ドル(約9800円)、「エフォートレスラックスキット(Effortless Luxe Kit)」は100ドル(約1万1530円)で販売中。売り切れるまで入手可能なこれらのアクセサリーには、パールをあしらったカチューシャやブラックベルベットのノット付きヘアバンドなどのスタイルがある。購入はこちら。
[原文:Glossy Pop Newsletter: Can a Gen-Z beauty brand reinvent the teen mag?]
SARA SPRUCH-FEINER(翻訳:Maya Kishida 編集:猿渡さとみ)