1月末、サックスは無料のスタイリング・サービスを導入した。このサービスは、3年前にスタートしたオンラインスタイリング・プラットフォームのWishi(ウィシ)を利用している。最近、人間味のあるファッションスタイリング・サービスを開始または微調整した小売業者の中でも、サックスは最新の例となる。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
サックス(Saks)で私の担当スタイリストとなったソフィア・S氏は、大変な仕事を抱えるはめになった。私がオンラインで20問ほどの質問に回答して得られた「スタイルプロフィール」によれば、私が着るべき色は黒か白、ヌードカラーだ。だが私にとって、着心地のよさや着まわしがきくことよりも重要なのは「他人と違うこと」。それから、私がもっとも興味があるデザイナーはバレンシアガ(Balenciaga)にグッチ(Gucci)、それにケイト(Khaite)。でも私のスタイルは「決して」ロマンチックではない。また、たとえアクセサリーでも300ドル以上は払いたくない。
それでも4時間後には、すぐにでも着たくなるような11のスタイルがフィーチャーされた「スタイルボード」が私の受信トレイに送られてきた。それ以来、私のカートにはエーゴールドイー(Agolde)の90年代風レザーピンチウエストパンツ(Leather Pinched-Waist Pants)が入っている。
Advertisement
1月末、サックスは無料のスタイリング・サービスを導入した。このサービスは、3年前にスタートしたオンラインスタイリング・プラットフォームのWishi(ウィシ)を利用している。最近、人間味のあるファッションスタイリング・サービスを開始または微調整した小売業者の中でも、サックスは最新の例となる。日常の買い物客にとって、この手のサービスはこれまで手の届かないものだった。より多くのショッピングが無限に選択肢のあるオンラインへと移行し、AIによるパーソナライゼーションと店舗で行われることが多かったスタイリングアシスタントという強力な組み合わせを提供することは、ラグジュアリーファッションの小売業者にとって当たり前になりつつある。これはペイドサーチへの投資や魅力的なロイヤルティプログラムの運営に加え、競争が激化する中で売上を獲得するのに有効な戦略なのだ。
デジタルスタイリスト・サービスへの高まるニーズ
いうまでもなく、ラグジュアリーの買い物客の多くは高額な商品を実際に見もせずに購入することにまだ慣れていない。スタイリストはその移行をスムースに行う手助けができる。
「私たちはこれをカスタマーサービスのひとつととらえている」とサックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)のCMOエミリー・エスナー氏は言う。「顧客にそれを発見し、体験してもらって、スタイリストと本当の意味での関係を築いてほしいと考えている。取引された数はその関係性を大いに代弁するものとなり、(このプログラムの)成功の重要な指標となるだろう」。
Wishiの共同設立者クレア・オハナ氏は、5月のGlossyポッドキャストの市場調査を引用しつつ、スタイリストと買い物をした場合、顧客の標準的な注文額は平均で70%高くなると述べている。
サックス・スタイリストの質問事項
サックス・スタイリスト(Saks Stylist)が登場する以前は、サックスのオンライン・スタイリングは「あまりハイテクではなく」、大部分が顧客からのリクエストとEメールを経由したスタイルレコメンデーションが中心だったとエスナー氏は説明した。Wishiの導入によって、サックスは大規模なサービスだけなく、テクノロジーとスタイリングの両方で新しいレベルの専門性を提供することができる。Wishiの共同設立者であるカーラ・ウェルチ氏は、ジャスティン・ビーバー氏やトレイシー・エリス・ロス氏といったクライアントのスタイリングで知られている人物だ。
そこには確かな需要が存在した。サックスのラグジュアリー買い物客を対象にした調査では、70%が「無料ならスタイリストを活用したい」と回答している。また、ワードローブをリフレッシュするためにスタイリストを利用することに興味があると回答した人は42%だった。
さらに2021年4月、サックスでは、利用可能なデジタルスタイリング・サービスに対する顧客のリクエストが、2020年の月平均と比較して560%増加したことを確認した。
パンデミック以前からのサックスのバーチャルサービス
サックス・フィフス・アベニューのラグジュアリーサービス・マネージングディレクターのリサ・ブルーニ・ヴェーネ氏は、「我々の顧客は間違いなくデジタルサービスに慣れてきている」と昨年5月の時点で語っている。彼女が言及したのはサックスが当時提供していたセールスフロア(Salesfloor)というプログラムで、これはオンラインショッパーと店内のアソシエイトを結びつけ、地元の店舗のバーチャルアポイントメントを取るというものだった。
「顧客はビデオチャットを通じてどの店舗でも買い物ができ、スタイルアドバイザーからパーソナライズされたデジタルルックブックを受け取ることもできる」とヴェーネ氏は説明している。サックスがこのプログラムを開始したのは2016年で、パンデミックの真っ最中にこうしたサービスに殺到した企業よりもはるかに先を行っていた。顧客は今でもウェブサイト上にある店舗の所在地のページからサックスのアソシエイトとつながることができるが、サックスは12月にWishiと契約した際、セールスフロア体験のチャットベースの部分を置き換えている。
選ばれたアソシエイトたちは、定期的にインスタグラムで新製品を紹介したり、スタイリングのヒントを共有したりするなど、オリジナルのプログラムの成長に貢献した。そうすることで多くのフォロワーを獲得している。プロフィールが「メアリー。スタイリスト、サックスガール」となっているアカウント@styled.bymaryは、インスタグラムのフォロワー数が1万5500人だ。彼女のバイオには現在「私と一緒に買い物するならDMかテキストを送って!」と書かれている。
ラグジュアリーなショッピングをオンラインで円滑に
サックス・スタイリストでは、スタイリストと顧客とのコミュニケーションはsaks.comのチャット機能で行われ、スタイリストから返答があるとメールで通知が来る。サックスは顧客がオンラインでの質問に答えてから、24時間以内にスタイルを提案すると約束している。スタイリストは小売業やテクノロジーなどさまざまな経歴を持ち、販売ごとにコミッションを受け取る。「私を担当する(サックスの)スタイリストはFITで修士号を取得し、小売業で多くの経験がある人物だ」とエスナー氏は言う。
ウェブサイトのホームページとアプリでは、サックス・スタイリストは「サックス・サービス(Saks Services)」のセクションで最初に表示される。エスナー氏によれば、たとえば「顧客がスタイリストのアドバイスからメリットが得られる可能性のある」商品カテゴリーのランディングページなどで、このサービスにさらにスポットライトを当てることも将来的にはあり得る。現在「スタイリング」できるのは、ウィメンズとメンズの商品のみだ。いずれはビューティ、ホーム、キッズのカテゴリーが追加されることは、サックスにとって「理にかなっている」とエスナー氏は述べた。
「私たちは、本当に手軽に楽しくラグジュアリーショッピングができるようにすることを重視している」。
現在はこの2年で顧客の嗜好やニーズが変化したタイミング
このサービスの成功に関する初期の読みとして、エスナー氏は「驚くほど」多くの男性がこのサービスを活用していると述べている。だがほとんどのユーザーは女性で、結婚式などのイベントに向けて、あるいはいわばニューノーマルに合ったものを提案してほしいとリクエストしている。この2年間で好みのスタイルやサイズが変化したり、仕事やライフスタイルに関連する新しいルーティンをスタートさせたりしているのだ。
「しばらく前から準備は進めていたので、この(ローンチの)タイミングは偶然だった」とエスナー氏は言う。「だが、顧客はずっと家にいた。そしてこれまで以上に『まったく新しいワードローブが必要だ』あるいは『新しいイメージのアイテムが買いたい』という声を聞くようなった」。
エスナー氏によると、サックスはテクノロジーチームを増強しており、サイトの追加や改良に忙しく取り組んでいる。要するに、このサービスに今後も要注目ということだ。
サックス・スタイリストの質問事項
グローバルなネットワークを活かすファーフェッチ
注目すべきはファーフェッチ(Farfetch)も2021年2月にWishiと連携したことだろう。だが、そのサービスを提供するのはプラチナレベル、ゴールドレベルのロイヤルティメンバーに限られ、それぞれ6000ドル(約69万円)以上、2400ドル(約27万6000円)以上の買い物をした場合のみとなる。
一方、ファーフェッチのロイヤリティメンバーのうち、1万2000ドル(約138万円)以上の利用者は、ファッション・コンシェルジュ(Fashion Concierge)プログラムを利用することができる。このプログラムでは、スタイリストがファーフェッチのパートナーである小売業者のグローバルなネットワークを活用して特定の商品を調達することができる。
「自分のパーソナルスタイリストに、韓国で一番ホットな新しいトレンドは何か、あるいは日本のブランドの最新のアイテムが見たいと伝えることを想像してみてほしい」と言うのは、ファーフェッチのプライベートクライアント・グローバルバイスプレジデントであるジェイミー・フリード氏だ。「我々には東京の現地にスタイリストがいて、都内で最高のブティックをバーチャルツアーで案内することができる。こうしたことがすべて、世界のどこにいようが、自宅で快適にショッピングしている最中に行うことができる」。
スタイリングサービスを取り入れる小売は増えている
そのほか最近スタイリングサービスをリリースまたは拡張して買い物客の期待を高めているラグジュアリー小売店に、エリゼウォーカー(Elyse Walker)やニーマン・マーカス(Neiman Marcus)がある。前者は1月初めに最新のウェブサイトのバージョンを立ち上げたが、店舗で提供している特徴的なスタイリングアシスタントサービスが優先された。サックスのサービスと同様に、買い物客はスタイリストとつながり、デジタルコラージュを通じてキュレーションされたレコメンデーションを手にすることができる。ニーマン・マーカスは昨年夏、SaaSプラットフォームのスタイライズ(Stylyze)を買収する計画を発表しており、オンラインの買い物客と店舗内のスタイリストをつなぐために利用を開始したばかりだ。
9月には、スタイリングの老舗企業であるスティッチ・フィックス(Stitch Fix)が、20ドル(約2300円)のスタイリスト料を上乗せしたキュレーションボックスだけでなく、さらにサービスを拡大した。その新しいフリースタイル(Freestyle)プログラムでは、人間のスタイリストと手数料が不要になり、買い物客はAIによってパーソナライズされた商品の品揃えをウェブサイト上で閲覧し、購入することができるようになった。さらに先週オープンしたAmazon初のアパレルストアは、アプリを通じて買い物客にリアルタイムのスタイル提案を提供するとしている。
いまは衣替えシーズンのピークであり、エスナー氏が言うように、このタイミングは理にかなっている。
ニュースや天気をもとに何を着たらよいかを教えてくれるアプリ、ラティテュード(Latitude)でスタイルディレクターを務めるジェシカ・キング氏は、「人々は再び選択するというコンセプトを求めている」と指摘している。「服を着るということは、世界が自分をどのように見ているかをコントロールするひとつの方法なのだ。私たちは皆、長い間その力を奪われていたが、今それを取り戻したいと思っている」。
しかし、以前着ていたような服装に戻すのはそれほど容易ではないと話すのは、スタイリストで衣装デザイナー、企業家のリーサ・エヴァンス氏だ。「今では私のクライアントには、スウェットのように着心地がよいものでなければ着たくないという人もいる。そうした人のほぼ全員が『自分を幸せにしてくれる服が着たい』と言っているのだ」。
[原文:Fashion Briefing: Fashion stylists are retailers’ new secret weapon]
JILL MANOFF AND ELISA LEWITTES(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)