2010年に設立された、透明性と倫理的な調達を重視するファッションブランド、エバーレーン。パンデミックやBLM、サステナビリティなどさまざまな問題が表面化したこの一年、エバーレーンはどのようにコントロールしてきたのか。米Glossyは、創業者でCEOのマイケル・プレイズマン氏に話をきいた。
「波に乗ることをよしとしなければならない」。これはエバーレーン(Everlane)の創業者でCEOのマイケル・プレイズマン氏が、パンデミック中に心の支えにしてきた信条だ。
言い換えると、エバーレーンのチームは問題に直面すること自体をコントロールできなくても、それに対処する方法ならコントロールできるということをプレイズマン氏は学んだのだ。エバーレーンは2010年に設立された、透明性と倫理的な調達を重視するファッションブランドである。
パンデミックの第一波からブラック・ライブズ・マター運動、そして現在のデルタ株の流行にいたるこの1年間を乗り切ることは「短距離走だと思っていたら、結局はマラソンだった」と、プレイズマン氏は米Glossyポッドキャストの最新エピソードで語る。
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ワクチンが普及すれば正常な状態に戻るだろうと多くの人が期待したが、サプライチェーンで生じている問題や労働力不足などによってもたらされた状況がもとの状態まで回復するには「あと3~5年」かかる、その事実にエバーレーンは正直に向き合っているという。それまでは、エバーレーンの価格と消費者直販のビジネスモデルなどに関して全面的に透明性を保つと、プレイズマン氏は決意している。
「(当社の)100ドル(約1万1000円)のカシミアは2022年に終了する。カシミアのコストが上昇しているためだ」。
しかしプレイズマン氏によれば、一般的なエバーレーンの顧客は20代後半から30代前半という年齢層で、同ブランドの環境に配慮した高品質な商品には「もっとお金を払ってもいい」と考えている。
また、エバーレーンでは「フィッティングルームは(物理的な)空間の主役」であること、顧客が返品や発送を簡単にできるようにすることを確約し、オンラインとオフラインを「シームレス」にした顧客体験を提供する。
サステナブルファッションを大局的に見ると、サステナビリティは「完全にグリーンウォッシュされてしまった」とプレイズマン氏は率直に語る。
「エバーレーンでは(サステナブルという)言葉を避け、オーガニックやクリーンウォーター(といった)、より事実に即した表現を使うようにしている」。また、ブランドの二酸化炭素排出量の削減にも積極的に取り組んでおり、リサイクル素材の使用や、より効率的な輸送手段を採用することでそれを実現している。
「すばらしい生活を送ることと、環境への影響を最小限に抑えることは両立できるということを我々は示そうとしている」と、プレイズマン氏は言う。
以下、インタビューの内容のハイライトをお届けする。なお、読みやすさを考慮し、編集を加えている。
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素材のイノベーションに注力し続ける
「全面的にリサイクルされた素材をできるだけ多く使おうとしている。当社のデニムラインは、ほとんどすべてがオーガニックで、GOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)認証を受けており、その大半がベトナムの、世界でもっともクリーンな工場、サイテックス(Saitex)で生産されている。いずれ最終的にはデニムをリサイクルして、同じ繊維を再利用できるようにしたいと考えている。カシミアでもウールでもそうする。環境への取り組みを重視するため、ここから先のカテゴリーの展開はかなり限定的なものになるだろう。
本当の目標はカーボンニュートラルになることではない。なぜなら我々にはオフセット費用を支払うことができてしまうからだ。そうではなくて、1着あたりの実際の二酸化炭素排出量をできる限り減らそうとしている。たとえばバージンカシミアの場合、当社も使用はしているが、それを「リ・カシミア」に名づけたものにできるだけ移行しようとしている。バージンカシミアのセーターにくらべてリサイクルカシミアのセーターのカーボンフットプリントは97%も低い。削減する必要があるものに対しては明確な目標を立てている。2025年と2030年に向けて、科学的根拠にもとづいた目標を設定しており、すべてを追跡して、パリ協定に沿ったよりよい数値を導き出している」。
製品第一主義というメンタリティ
「率直に言うと(2020年に整備しておけばよかったと思う)ふたつのことがある。ひとつは、もっと優れた人材システムを整備していたらよかったということ。エバーレーンというブランドには高い野望があるが、人材面には十分な投資をしていなかったと思う。それよりもマーケティングに投資をしていた……。
もうひとつ考えておくべきだったのは、多くのD2C企業にも興味深いことで、つまり製品の役割は何か、そしてその製品にどれだけ投資するのかということだ。多くの企業がひとつの製品やひとつのアイデアでローンチして、それ以上の進化がないという状況を目にしてきた。顧客はイノベーションを欲しているし、新しさを求めている。そして製品こそが成功のカギだ。我々は製品に多くの投資をした時期もあれば、製品にあまり投資をしなかった時期もある。過去を振り返ると、その時期がいつだったかは一目瞭然だ。今日、我々は製品に多大な投資をしているが、これは今後10年間で報われるだろう。何かをやる上で常に製品を考えることを最優先にすることを推奨したい」。
エバーレーンにおけるカーボンフットプリント削減
「どのブランドやどの企業でも第一の責任は、自社のカーボンフットプリントを減らすことだ。そのためには、どこかの団体に加わってもらいライフサイクル全体の評価をする。最近のトレンドは『オフセットをしよう、カーボンオフセットを購入しよう』というものだ。申し訳ないが、そんなことはほとんどバカげている。すばらしいことだが、それは炭素を排出し続けるための言い訳だ。
問うべきことは、『どうすれば二酸化炭素の排出量を減らせるか』であり、それが責任を取るべき企業の目標なのだ。政府が十分に迅速な対応をしないし、影響を受けるのは金のない人々であって、金持ちには影響しない。だから、金を持っている人たちが変化を求めていると言えば、政府は動くだろう。コロナ対策がこれだけすばやいのは、金持ちが死んでいるからだ。シアトルのような地域に住んでいる低所得者は、金持ちよりも10度も暑い場所で生活することになる、いま我々が目にしているのは、こうした大規模な問題だ。我々はこれらの問題を解決してはいないが、あらゆる側面にわたって急いで対応しているところだ」。
[原文:Everlane’s Michael Preysman: ‘Buying carbon offsets is an excuse to continue to reap carbon’]
NITYA RAO(翻訳:Maya Kishida、編集:小玉明衣)