ファッション業界のなかには「クワイエットラグジュアリー」という言葉に聞き飽きている人もいるかもしれない。しかし、顧客のほうはクワイエットラグジュアリーの購入に飽きてはいないようだ。

クワイエットラグジュアリー人気を反映するブルネロクチネリの好業績

ブルネロクチネリ（Brunello Cucinelli）は、「クワイエットラグジュアリー」の代表格となっている。クワイエットラグジュアリーというのは、アレッサンドロ・ミケーレ氏率いるグッチ（Gucci）のようなラグジュアリーブランドの派手さに対して、最近使われるようになった、控えめだが高価な衣服を示す表現だ。8月29日に発表されたクチネリの最新の収益報告書によると、クワイエットラグジュアリーに対する消費者の欲求は依然として強いという。2023年上半期の利益は31.9％増加し、来年の売上高は10％の増加が予想されている。5月の時点では年率17〜19％の増加が予想されていた。この報告によって、今年、クチネリが継続的な成功と売上の増加を受けて利益予想を引き上げたのは3回目となる。

同ブランドの創業者兼クリエイティブディレクターのブルネロ・クチネリ氏は、クワイエットラグジュアリーのトレンドが同社の継続的な収益増加に重要な役割を果たしていることを確信しているという。

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クチネロ氏は決算報告とともに発表した声明で次のように述べている。「2023年上半期を、売上高、利益ともに素晴らしい業績で終えた。世界的に、製品の独占性と希少性に特に重点を置いた高い職人技と品質のプレタポルテに対する強い需要があると信じている。2024年春夏のメンズとウィメンズのオーダーコレクションは、人類の歴史のこの瞬間において非常に価値のある『クワイエットラグジュアリー』の真のアイデンティティとして、優れた業績と、テイストと堅実さに対して多大な評価を得て、終わるだろう」。

昨年の『メディア王 〜華麗なる一族〜（原題：Succession）』の最終エピソードのような注目すべき文化的瞬間（登場人物らは、無印のロロ・ピアーナ（Loro Piana）の野球帽などのクワイエットラグジュアリーのスタイルで知られている）や、バイラルになったジェニファー・ローレンス氏のロエベ（Loewe）のルックスのおかげで、クワイエットラグジュアリーはあらゆる場所に見ることができる。現在、エバーレーン（Everlane）のようなラグジュアリーではないブランドや、グッチのような派手なスタイルで知られるラグジュアリーブランドも含めて、多くのブランドがこのスタイルに移行しているところである。クチネリは、ロエベ、ボッテガ・ヴェネタ（Bottega Veneta）、ロロ・ピアーナらとともにクワイエットラグジュアリーの象徴かもしれないが、多くのブランドが控えめなエレガンスの波に乗って新たな成長を遂げることを願っている。

別分野や中国にも広がるクワイエットラグジュアリーの波

クワイエットラグジュアリー、つまりステルスウェルス（密かな富）への欲求は国境を越えて強まっている。中国でも、クワイエットラグジュアリー、またはオールドマネーを意味する「老錢風」が評価されている。また、クワイエットラグジュアリーはファッションから室内装飾などほかの分野にも及んでいる。たとえば、フォーブス＆ロマックス（Forbes & Lomax）の超高価だがさりげない照明スイッチが大きな売れ筋となっている。

パリの高級ブランド、メゾンアーネスト（Maison Ernest）のルドヴィック・デデュー＝ワレランド社長は「ラグジュアリーブランドは高い品質基準を維持しなければならない」と述べ、クワイエットラグジュアリーのトレンドがメゾンアーネストの継続的成長の鍵だと語っている。 「当社は少数のパートナーのみと協力しており、当ブランドの品質を維持するためにゆっくりと成長している。当社はちょっとした秘密だと思われたい。我々はそれを『ブラインドラグジュアリー』と呼んでいる。つまり、あまり宣伝をしていないが、見ればその品質がわかるブランドのことだ」。

［原文：Cucinelli’s skyrocketing growth shows quiet luxury is here to stay］

DANNY PARISI（翻訳：ぬえよしこ、編集：山岸祐加子）