株式会社モーンガータがコスメによる廃棄に関する統計では、約86%もの消費者が使いきれなくなったコスメを廃棄しているという。こうしたコスメ廃棄の現状に何か変化をもたらすことはできないかと立ち上がったプロジェクトが、「COLOR Again(カラーアゲイン)」。今回発起人のふたりに話を聞いた。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
脱プラスチック、フードロス、服の大量廃棄などサステナブルな問題意識は生活に根付きつつある。しかし意外にも見落としている領域があることを忘れてはいけない。
それはコスメのバルク(容器などに充填する前の中身)の廃棄問題である。
株式会社モーンガータが消費者5423人に独自で調査したコスメ廃棄に関する統計では、約86%もの消費者が使いきれなくなったコスメを廃棄しているというデータがある。
Advertisement
化粧品メーカーから出るコスメのバルクの廃棄量は、国内上位5社だけで年間約2万トンにものぼるとも言われ、店頭や小売の在庫やテスターも合わせると、その数はさらに膨れ上がるともいわれている。
こうしたコスメの廃棄の現状に何か変化をもたらすことはできないかと立ち上がったプロジェクトが、「COLOR Again(カラーアゲイン)」。発起人である元大手化粧品開発研究者であり、株式会社モーンガータ代表の田中寿典氏と同じく発起人である株式会社エフアイシーシー(以下、FICC)伊藤真愛美氏のふたりに話を聞いた。
◆ ◆ ◆
コスメのバルクの大量廃棄への解決策
株式会社モーンガータ代表取締役の田中寿典氏。
コスメの生産サイクルも、「洋服以上にトレンドに左右されやすく流れがはやい」とも語る田中氏。
元大手化粧品会社で研究者として勤務しているとき、コスメ業界で人々を魅了する商品を開発する傍ら、大量のコスメが廃棄されているのを目の当たりにした。業界が抱える問題は、想像していたものとは大きく異なり、コスメを売ったその先に関われていない罪悪感を感じていたという。
そんな田中氏が開発したのが、コスメを色材に変えるブランド「SminkArt(スミンクアート)」だ。「メインプロダクトは、粉状化粧品のアイシャドウやチーク、ファンデーションを水に溶けるような色材へ生まれ変わらせる特許溶液『マジックウォーター(Magic Water )』。また、コスメの中身に水溶性処理を施してできたコスメ由来の粉末状ペイント『SminkArtときめくペイント』も販売しており、これは絵の具やジェルネイル、キャンドルの色材などの多用途色材として使用することができる」。
マジックウォーターが入ったペンで、アイシャドウなどの粉をつけて絵を描く。
このアップサイクル事業にコーセーと花王も賛同。サステナビリティ領域での協働の取り組みとして、品質追求・品質管理の過程で最終的に商品にならなかったコスメのバルクを提供している。
FICCの伊藤真愛美氏。
こうしたコスメの廃棄問題は、作り手である田中氏だけでなく、コスメを世へ広める販促に携わる側でも葛藤を抱く点でもあった。
美容商材を世に出すべく販促に携わるFICCの伊藤氏は、コスメの廃棄の現状を受け止め、さまざまな視点から自問自答し、コスメを捨てるのではなく、人を魅了するアートにつなげ、社会に発信できないか? と思っていたとき、田中氏の存在を知ったという。
「Twitterでたまたま田中さんのツイートを見かけ、そのときにこれは!と思った。彼はまさにヒーロー!」と当時を振り返る伊藤氏。Twitterでの偶然の出会いがプロジェクト誕生のきっかけとなった。
コスメは本来、自分自身への自信にもつながるもの
ふたりが立ち上げたCOLOR Againは、コスメの色材のアップサイクルに留まらない。コスメは人をエンパワメントするもの、コスメ本来のパワーを生かしたプロジェクトだ。
「コスメは外見を魅力的に見せることができるし、本来楽しいもののはず。しかし、それ以上に内面の彩り、自分を鼓舞してくれることや、社会的な同調圧力からの解放という精神的な部分の意味合いもあるのではないか」と語る伊藤氏。
伊藤氏が務めるブランドマーケティングエージェンシーのFICCは、社会に新たな問いを立てるのは人であるという信念があり、今回、単なるコスメのアップサイクルではない、社会への価値創造へのプロジェクトになったといえる。
その一貫した思いは、若年層の教育現場の場にも伝わり、渋谷の高校生とのコスメの廃棄問題についてディスカッションや学習オンラインラウンジ「TUMUGU」での小学生向けオンライン学習などを実施している。COLOR Againの活動は、資源課題に取り組みながら、個人の個性、多様性と向き合うきっかけをつくる場所を提供しているのだ。
プロジェクトが大切にする体感
その場のひとつとして、使いきれないコスメの存在を知ってもらうこと、固定概念からの解放を目指すイベントを昨年SHEbeautyと共催し、さまざまな反響が寄せられた。
好評につき、第2回目のイベントを7月12日に開催し、自分のありのままを受容する時間を過ごせるサウンドバスの体験、そのサウンドバスの瞑想からのインスピレーションを絵に描くアート体験などを提供。
サウンドセラピスト、COLOR Againの公式アンバサダー HIKOKONAMI氏。
サウンドセラピストでCOLOR Againの公式アンバサダーであるHIKOKONAMI氏は、「雑念がなくなることはないかもしれない、そう抱いてしまっても大丈夫。自分の心に意識を傾けて、受け取ったものを素直にアートで表現してみて」と参加者にやさしく問いかけていた。
SminkArtの絵具と自分の使わなくなったコスメを使い、自分と向き合いながら絵を描き、同テーブルの人へ自分の絵を説明しているとき、自らの新たな価値観、考え方を発見する参加者もいたようだ。
「サウンドバスを体験してもらい、実際に絵を描いてもらう、ひとりひとり自由に発想してもらうことで自分自身に向き合うきっかけとなる活動をこれからも広げていきたいと考えている。8月7日にはオンライン体験会も予定している。」と伊藤氏。
可能性が拡がる社会へ
2021年からスタートした、COLOR Againプロジェクトだが、実際の課題は大きく、「大量のコスメが使いきれずに捨てられているのが現状。コスメのバルクは印刷用インキ、文具、壁紙、建材などの色材として可能性を秘めているので、さまざまな企業と協働するなど、未来に向けてイノベーションをおこしていきたい」と田中氏は述べた。
伊藤氏も「すべては今とこれからを生きる人のために。理想な未来をつくるために、人の思いをさまざまな形でつないでいきたい。COLOR Againが、固定観念にとらわれず、可能性や多様性を尊重しあえる社会になるきっかけの機会になれば」と語る。
Written by Sarah Owie
Image via FICC,MÅNGATA