Glossy+リチーチでは、CMO戦略シリーズで主要なトレンドとベストプラクティスを明らかにするために、複雑なマーケティングチャネルを念頭に置き、リテールメディアやソーシャルメディアなどの主なチャネルにおける戦略と課題を分析してきた。
今回のGlossy+リサーチではディスプレイ広告の状況とマーケターの戦略におけるその役割の分析に注目する。第1回目のレポートではソーシャルメディアの利用状況と予算に着目し、第2回目のレポートはリテールメディアの状況の分析に焦点を当てた。今後のレポートでは、広告付きストリーミングの利用状況と予算、リテールメディアとソーシャルメディアのプラットフォームの詳細に着目する予定である。
不況が取りざたされるなか、2022年後半に一部のマーケティングチャネルでの広告費の支出が鈍化し、広告主は残りの2022年の予算をいつどこで執行するかについて二の足を踏み始め、なかには確実に信頼できるプログラマティックなターンキー型ディスプレイ広告商品に目を向ける者もいた。
2022年第4四半期には、パブリッシャーが即効性のある広告枠を強調し、広告費を四半期内に確保したいと考えていたおかげで、パブリッシャーもメディアバイヤーも、プログラマティックディスプレイ広告への注目度が高まったと報告している。広告主も同様に年末までに残りの予算を使い切りたいと考えていた。
ニュースパブリッシャーのニューヨーク・タイムズ・カンパニー(The New York Times Company)は、2022年第3四半期のデジタル広告収入は前年同期比で増加してさえいるが、これは主にアスレチック(The Athletic)を除くニューヨーク・タイムズ・グループの直販広告の増加や、同四半期末にディスプレイ広告の提供を開始したアスレチックからの広告収入によるものである。
だが、年末のディスプレイ広告の購入活動にもかかわらず、2023年上半期には多くが大幅な収益減速を報告するなど、パブリッシャーは厳しいスタートを切った。多くのパブリッシャーが上半期の大幅な収益減速を報告している。Glossyの姉妹誌であるDigidayが当時取材した複数のメディア幹部によると、広告費の落ち込みを主な要因として、1月だけでも予測されていた目標から10%から25%も下回るペースだったという。
「(2022年)第4四半期の直接広告収入は30%から31%増加したが、これは壮大な数字だった。(競合他社が)第4四半期にどんなバグを抱えていたとしても、第1四半期には我々に追いついたと思う。現在、我々は第1四半期の予測では20%から25%も下落している」と、あるデジタルメディア企業のエグゼクティブは、匿名であることと引き換えに率直に語った。
2023年も半ばを過ぎた現在、最新の予測と財務状況のアップデートを合わせると、広告費はかなり堅調に推移しているようだ。少なくとも、一部は大手プラットフォーム企業に支払われている。最大の広告販売業者であるGoogleは、2023年第一四半期の恒常通貨建て広告収入が前年同期比で3%増加している。また、インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)は、米国のデジタル広告費は2023年に7.8%増、来年には11.2%増となると予測している。
一部のディスプレイ広告への支出が再び増加していることから、Glossy+リサーチは、もっとも一般的なコンテクストであるサイトやメールマガジンのディスプレイ広告に対してマーケターが現在どのように投資しているかを調査した。
Glossy+リチーチでは、CMO戦略シリーズで主要なトレンドとベストプラクティスを明らかにするために、複雑なマーケティングチャネルを念頭に置き、リテールメディアやソーシャルメディアなどの主なチャネルにおける戦略と課題を分析してきた。
今回のGlossy+リサーチではディスプレイ広告の状況とマーケターの戦略におけるその役割の分析に注目する。第1回目のレポートではソーシャルメディアの利用状況と予算に着目し、第2回目のレポートはリテールメディアの状況の分析に焦点を当てた。今後のレポートでは、広告付きストリーミングの利用状況と予算、リテールメディアとソーシャルメディアのプラットフォームの詳細に着目する予定である。
不況が取りざたされるなか、2022年後半に一部のマーケティングチャネルでの広告費の支出が鈍化し、広告主は残りの2022年の予算をいつどこで執行するかについて二の足を踏み始め、なかには確実に信頼できるプログラマティックなターンキー型ディスプレイ広告商品に目を向ける者もいた。
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2022年第4四半期には、パブリッシャーが即効性のある広告枠を強調し、広告費を四半期内に確保したいと考えていたおかげで、パブリッシャーもメディアバイヤーも、プログラマティックディスプレイ広告への注目度が高まったと報告している。広告主も同様に年末までに残りの予算を使い切りたいと考えていた。
ニュースパブリッシャーのニューヨーク・タイムズ・カンパニー(The New York Times Company)は、2022年第3四半期のデジタル広告収入は前年同期比で増加してさえいるが、これは主にアスレチック(The Athletic)を除くニューヨーク・タイムズ・グループの直販広告の増加や、同四半期末にディスプレイ広告の提供を開始したアスレチックからの広告収入によるものである。
だが、年末のディスプレイ広告の購入活動にもかかわらず、2023年上半期には多くが大幅な収益減速を報告するなど、パブリッシャーは厳しいスタートを切った。多くのパブリッシャーが上半期の大幅な収益減速を報告している。Glossyの姉妹誌であるDigidayが当時取材した複数のメディア幹部によると、広告費の落ち込みを主な要因として、1月だけでも予測されていた目標から10%から25%も下回るペースだったという。
「(2022年)第4四半期の直接広告収入は30%から31%増加したが、これは壮大な数字だった。(競合他社が)第4四半期にどんなバグを抱えていたとしても、第1四半期には我々に追いついたと思う。現在、我々は第1四半期の予測では20%から25%も下落している」と、あるデジタルメディア企業のエグゼクティブは、匿名であることと引き換えに率直に語った。
2023年も半ばを過ぎた現在、最新の予測と財務状況のアップデートを合わせると、広告費はかなり堅調に推移しているようだ。少なくとも、一部は大手プラットフォーム企業に支払われている。最大の広告販売業者であるGoogleは、2023年第一四半期の恒常通貨建て広告収入が前年同期比で3%増加している。また、インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)は、米国のデジタル広告費は2023年に7.8%増、来年には11.2%増となると予測している。
一部のディスプレイ広告への支出が再び増加していることから、Glossy+リサーチは、もっとも一般的なコンテクストであるサイトやメールマガジンのディスプレイ広告に対してマーケターが現在どのように投資しているかを調査した。
目次
・メソドロジー
・マーケターは直販よりもプログラマティックサイト広告の購入を好む
・プログラマティックサイト広告もマーケター予算の最大部分を占める
・メディアコストに次いでプログラマティックはブランドの安全性リスクに直面し、一方メールマガジンの課題は規模である
・マーケターはディスプレイ広告の成功のためにさまざまなKPIを重視するが、もっとも重要な指標はクリック率とインプレッションである
・不透明な経済状況下やAIによって、ブランドの安全性への懸念が高まっているにもかかわらず、マーケターはディスプレイ広告で安全策をとる
メソドロジー
マーケターの現在のデジタル戦略を明らかにするために、Glossy+リサーチは635人の回答者に、過去と今後の投資、マーケティングチャネルの戦術、嗜好とビジネス上の課題に関する3つのアンケートを実施した。
また、Glossy+リサーチは、フォーカスグループと、業種を超えたマーケティングエグゼクティブへの個別インタビューも実施している。
マーケターは直販よりもプログラマティックサイト広告の購入を好む
好むと好まざるとにかかわらず、あるいは単にスクロールして通り過ぎるにせよ、インターネット広告の黎明期からディスプレイ広告は主力だった。そして多くのマーケターにとっては、今でもそうだ。
CMO戦略シリーズで検討したすべてのマーケティングチャネルのなかで、ディスプレイ広告はマーケターが2番目によく使う広告チャネルであり、回答者の半数以上(61%)が自社でディスプレイ広告を使用していると答えている。
Glossyが今回のレポートのためにマーケターに尋ねた特定のディスプレイ広告環境(プログラマティックサイト広告、直販広告、メールマガジンのスポンサーシップまたは広告)のなかでマーケターが広告を購入するもっとも人気のある環境は、プログラマティックサイトディスプレイ広告だった。過半数のマーケター(64%)が、現在自社でプログラマティックサイトディスプレイ広告を購入していると回答している。
プログラマティックサイト広告に遠く及ばないが、直販広告もほぼ多くのマーケターに支持されており、回答者の56%が、自社で現在直販広告を購入していると回答した。
メールマガジンのスポンサーシップや広告(プログラマティックまたは直販で、この分析ではサイト広告とは独立した広告環境として考慮している)は3位で、回答者のちょうど半数(50%)が、自社が現在メールマガジンのディスプレイ広告を購入していると回答している。
ここで明確にしておくが、この分析では、メールマガジンのスポンサーシップやディスプレイ広告は、マーケターが自分で送信する電子メールに配置する広告は指していない。むしろパブリッシャーやその他の関係者が配信する既存のコンテンツベースのメールマガジンのディスプレイ広告を購入するマーケターに言及している。
サイト固有のディスプレイ広告の購入方法のうち、マーケターが直販よりもプログラマティック広告を好むのは、より大量の広告の掲載を自動化できるためである。ブランドはさまざまなサイトで、位置情報やデモグラフィック、個人的な興味などの属性に基づいてターゲティングした特定のグループに向けて広告を配信することができる。
しかし、ディスプレイサイト広告をプログラマティックに購入することは、ブランドの安全性に懸念をもたらす。マーケターは、自社の広告がどのサイトに表示されるのか、またどのタイプのコンテンツと一緒に表示されるのかを知らない。ジェネレーティブAIの可能性として、怪しげな広告用サイトにAIが生成した低品質なコンテンツとともに大手ブランドの広告が掲載されるという懸念がさらに高まっている。
一方、直販のディスプレイ広告の場合、マーケターは好ましいオーディエンスにリーチすべく望ましい文脈で広告を掲載することを確実にコントロールできるが、オーディエンスへのリーチが限定的になる可能性がある。買い手側にはこのような知識があるため、直販広告はプログラマティックのようなブランドの安全性に関する懸念に直面することはない。
確立されたメールマガジンに表示されるディスプレイ広告は、サイトのディスプレイ広告とは著しく異なっており、厳選された購読者のリストにリーチできるという利点があり、そうした洗練された少人数グループはマーケターにとって貴重なものとなる可能性がある。ユーザーは(おそらく)メッセージの受信をオプトインしているため、マーケターは、消費者の関心や意図に合わせてパーソナライズされた関連性の高いコンテンツと一緒に、消費者がもともと受け入れやすくエンゲージメントの高いことが示されているタイプの広告を掲載することができる。
現在ベライゾンバリュー(Verizon Value)のCMOで、インタビュー当時はベライゾンのビジブル(Visible)のCMOだったシェリル・グレシャム氏は、ディスプレイ広告を成功させるためにいちばん重要なのは、プログラマティックに購入するにせよ、直販あるいはメルマガに掲載するにせよ、効果的なポジショニングと視覚的に魅力のある広告にすることだと語った。
「クリエイティブはディスプレイバナーにとって本当に重要な要素で、メディアプランの非常に効率的な側面となる」と同氏は述べている。「しかしクリエイティブと配置が適切でなければ、あっという間に無駄になってしまいかねない。掲載されるサイズや配置される場所、それがどのような見た目になるのかを、慎重に明確を期す必要がある」。
プログラマティックサイト広告もマーケター予算の最大部分を占める
ディスプレイ広告チャネルにおけるマーケターの予算配分は、さまざまな広告戦術の活用に対する好みと同じ順序をたどる。プログラマティックサイトディスプレイ広告が支配的な広告チャネルであり、マーケターの回答者の約半数(43%)がプログラマティックサイト広告がマーケティング予算の最大部分を占めると回答している。直販ディスプレイ広告は2位で、回答者の約3分の1(30%)が予算の最大部分をこのチャネルに割いている。一方、メールマガジンのスポンサーシップまたは広告は、回答者の4分の1以下(22%)が予算の最大部分を占めるチャネルとして選択した。
マーケターは、ディスプレイ広告チャネルの活用に対する好みと予算配分の優先順位を同じ順番にしているが、実際に各チャネルへ多額の予算を割り当てているマーケターの割合と、各環境での購入が望ましいと単に回答したマーケターの割合には、顕著な違いがある。
たとえば、回答者の半数(50%)が現在メールマガジン広告を購入していると回答した一方で、予算の最大部分をメールマガジン広告に割いている回答者は22%に過ぎない。これは、メールマガジン広告が規模を拡大するための場ではないことを示しているのかもしれないが、手頃な料金で100%のシェア・オブ・ボイスを得ることができる、またはデジタル広告のシェアでもウェブサイトに配置された広告やサイトセクションのテイクオーバーにくらべて小さな取り分として、ターゲットを絞った戦術であることが多い。
一方、直販ディスプレイ広告は、このタイプの中でもっともコストがかかるようで、そのためかマーケターの予算配分はわずか30%にとどまっており、マーケターは、それよりも低コストのプログラマティック広告に多くを投資することを好んでいる。Googleニュースイニシアチブによると、平均して、直販広告はプログラマティック広告の2倍から4倍の料金で販売されている。直販広告の平均CPMは10ドル(約1450円)から20ドル(約2910円)で、プログラマティック広告の平均CPMは1ドル(約145円)から5ドル(約730円)である。
ディスプレイ広告予算の増加をみると、プログラマティックサイトディスプレイ広告が再びマーケターが好む広告環境のトップとなっており、回答者の3分の1以上(37%)が過去1年間にプログラマティックサイトディスプレイ広告の予算が増加したと答えている。これはまた、マーケターが予算を意識して活動する年について何かを物語っているかのようだ。
ヒュンダイモーターアメリカ(Hyundai Motor America)のCMO、アンジェラ・ゼペダ氏は、ターゲティングの進歩により、同社は最近プログラマティック広告の購入を増やしたと述べている。「効率化がかなり進んでいて、以前よりもかなり洗練されている。プログラマティックの購入に多くの予算が費やされるようになった。ツールがもっと洗練されるにつれて、これまでよりも効率的な方法で迅速にターゲットオーディエンスを囲い込むことができる」。
プログラマティック広告のターゲティングにおける最近の進歩は、オープンエクスチェンジのプログラマティック・マーケットプレイスとプライベート・マーケットプレイスの間に台頭する中間市場という形で現れており、多くの広告バイヤーはオークションパッケージと呼んでいる。プログラマティック広告コンサルタント会社ジョウンスメディア(Jounce Media)の創業者のクリス・ケイン氏は、オークションパッケージをディールIDと表現する。これは、サードパーティクッキーの代わりに使用される代替IDの一種で、数十からさらには数百の異なるパブリッシャーをひとつのターゲット可能な供給プールにまとめ、質の高い基準を満たすよう事前審査された膨大な多様性のインベントリーに巨大なスケールをもたらす。
「バイヤーの間では、中間的なソリューションが必要だという認識が高まっており、アドテク企業の間では、そのようなソリューションを強化する動きが活発になっている」とケイン氏は述べ、DSP、エクスチェンジ、オーディエンスデータプロバイダー、広告ネットワークのすべてが、そのようなソリューションを提供しようと競っていることを指摘した。
プログラマティックバイイングが提供する以上の広告出稿のコントロールを望むマーケターは、直販広告を好む傾向があり、調査回答者の4分の1以上(27%)が、昨年は直販広告への支出が増加したと述べている。
クリスタルレストラン(Krystal Restaurants)のCMO、ケイシー・テレル氏は、特定の消費者にリーチするために広告を調整することができるため(これはメールマガジンでも得られるメリットである)、直販ディスプレイ広告をより考慮するようになったと語る。
「プログラマティックに購入するのと直接購入することの別の面として、『顧客が誰なのか、そして顧客がどのサイトにアクセスしているのかを知っている』という考え方にシフトしているのを目にするようになった」とテレル氏は述べた。「この広告がプログラムによってこれらの人々のいる場所に行く(というアプローチを取る)のではない。クリスタルブランドの消費者と話をしようとする場合、私はその人がどこに行くのかを正確に把握している。したがってプログラマティックなアプローチではなく、クリエイティブなことをして、すぐにその人々がいる場に行くようにすればよいのではないか」。
広告予算の増加率が低いのはメールマガジン広告だ。実際、昨年よりもメールマガジン広告予算を増やしたと回答したマーケター(回答者の21%)よりも、昨年から支出予算に変更はないと回答したマーケター(回答者の22%)の方が多かった。
総予算配分についてすでに述べたように、メールマガジン広告は一般的にターゲットを絞った戦略である。広告をプログラマティックに購入するか、直接購入するかにかかわらず、マーケターは少なくともオプトインした消費者の特定の購読者リストにリーチすることを目指す。メールマガジン自体の中では広告周辺のコンテンツも重要な役割を果たす。
プログラマティックメールマガジンの広告は、個人の興味、地域、デモグラフィックに基づいた特定の消費者グループにターゲティングされ、一般的に広告コンテンツは、メールのテーマが広告と一致しているかどうかよりも、消費者の属性に一致する。たとえばスポーツウェアの広告が、市民の不安に関する報道を掲載した報道機関のメールマガジンに掲載される可能性がある。
直販のメールマガジン広告は、特定のメールマガジンのコンテンツと一緒に掲載されることを目的に購入されるため、テーマそのものに基づいた、より正確なコンテクストターゲティングが行われる。メールの内容に興味を持った消費者が、その主題に沿ったブランドの広告にも関心を持つようになることが期待される。
繰り返しになるが、メールマガジンは何としてでも規模を拡大しようというチャネルではないため、莫大な予算や予算増を要求されることはない。ただしメールマガジン広告は、クッキーのない未来でマーケターの注目が高まるかもしれない。メールマガジン広告は、メールマガジンを受信するようにオプトインして個人データを提供したユーザーの自己識別リストに依存しているため、有望な代替広告チャネルとなることが証明される可能性がある。
インスタカート(Instacart)のCMO、ローラ・ジョーンズ氏は、将来のニーズにかかわらず、現在どのディスプレイ広告環境と購入方法が消費者にもっともリーチし、適切な価格帯であるかによって全体的な予算配分とチャネル別の支出増を決定すると述べた。
「ひとつの(環境や方法が)ほかより好ましいとは言わない。私たちは、適切な顧客を適切なタイミングと適切な場所で、適切な価格で見つける方法を探している。価格や反応について市場で目にするものに応じて、かなりダイナミックにチャネルミックスを変えている。それをアクティブなポートフォリオとして管理し、つねに最高のリターンを追求している」。
メディアコストに次いでプログラマティックはブランドの安全性リスクに直面し、一方メールマガジンの課題は規模である
ディスプレイ広告全般において、マーケターは、特定の消費者グループをターゲットにする必要性と、十分な規模でオーディエンスにリーチする必要性のバランスを取るのに苦労している。どのディスプレイ広告のバイイング手法や環境がそうした目標を達成できるかを比較検討する際、主な懸念事項となるのは、適切な価格帯を設定することだ。
3つのディスプレイ広告オプションのうち2つに関して、もっとも多くのマーケターが、媒体費が最大の課題だと回答している。回答者の半数以上(51%)は、媒体費が直販広告の最大の課題であると回答しており、おそらく低料金であるという評判を考えると驚くべきことだが、ほぼ半数(45%)がプログラマティックサイト広告についても同様の回答をした。
最初の直販広告について考えると、回答者の大多数がこの広告チャネル内でのバイイング費用を懸念していることは理解できる。なぜなら、予算配分の分析で指摘したように、直販広告はプログラマティック広告よりもCPMが高いからだ。そのような費用がかかるにもかかわらず、特定のサイトや事前に決められたコンテンツに広告を表示させることを高く評価する広告主は、特定のインベントリー内への掲載を保証するためにより高い価格を支払う傾向にある。
プログラマティックサイト広告に目を向けると、購入されるプログラマティック広告の量が膨大な場合、メディアの総コストの方が問題になる可能性が高い。マーケターが広告を購入するもっとも上位の表示環境であるため、プログラマティックサイト広告を多く購入することは、当然ながら広告チャネルに多くのお金を費やすことに等しい。また、すべての広告掲載が保証されているわけではなく、ターゲティングが不正確な可能性があるため、マーケターはプログラマティック広告を購入する際、目的の消費者に十分な頻度でリーチするために、さらに大量の広告を確保する必要があるかもしれない。
メールマガジン広告は、ディスプレイチャネルにおける課題としては異例であり、それはマーケターが媒体費よりも規模が大きな課題だと回答した唯一のディスプレイ広告チャネルだからだ。回答者のほぼ半数(46%)が、メールマガジン広告で直面する最大のハードルは規模であると回答し、媒体費であると回答したのは3分の1強(35%)だった。
メールマガジン広告は、マーケターがパブリッシャーの所有するメールリストに依存しなければならず、まずは最初に消費者が通信を受け取る許可を与えなくてはならないため、一部には規模を拡大するのには適していない。大規模なパブリッシャーネットワークにメールマガジン広告を出稿しているマーケターにとっては、メールプロダクト全体へのリーチが拡大するため、規模の問題はそれほど大きくないが、小規模なパブリッシャーからインベントリーを購入しているマーケターは、規模の拡大に苦労することになる。広告主にとってプラス面は、それが小規模パブリッシャーに対して強力で希少な購読者リストを育成するよう圧力をかけ、さらに小規模でフォーカスを絞ったオーディエンスをマーケターにとって価値のあるものにする。
規模の拡大と並んで、マーケターがメールマガジン広告を利用する際に直面する課題は、属性である。近年、Appleがモバイル端末に、そしてGoogleがAndroidのOSに導入したトラッキング防止機能は、マーケターがリターゲティングによって規模を拡大することや、そもそもトラッキングを拒否している消費者にリーチすることを妨げている。同様に、2021年9月に導入されたAppleのメールプライバシー保護機能は、広告主が広告費に対するリターンの強い証拠を求めている時に、開封率が信頼できないとみなされる原因となっている。
直販広告を購入するマーケターにとっても規模は問題になり得る。回答者の30%が、サイト広告を直接購入する際に直面する最大のハードルは、媒体費に次いで規模だと答えている。広告主は、広告が特定のサイトや特定のオーディエンスの前に掲載されるという保証のために金を払っているため、より正確にターゲットを絞ることができるが、より幅広い消費者グループを見逃すリスクがある。
しかし多数のサイトにディスプレイ広告を掲載できるプログラマティックのキャパシティは、ブランドの安全性に苦慮することになる。マーケターの回答者の25%が、プログラマティックサイト広告で直面する最大の懸念は、媒体費に次いでブランドの安全性であると答えている。前述したように、プログラマティック広告の購入は広告枠を購入するアルゴリズムに依存しているため、広告の配置される場所や、ブランドを関連付けたいコンテンツと一緒に広告が表示されるかどうかをマーケターがコントロールするのははるかに難しい。
通常、広告主は投資に対するブランドの安全性の保証のためにサードパーティベンダーに依存しているが、ブランドの安全性を測定する方法は、一般的にキーワードブロックリストに依存している。このようなリストは、往々にして非常にざっくりしたものであり、広告主が媒体費に値する責任のあるパブリッシャーと協力することをアルゴリズム的に妨げている。
マーケターはディスプレイ広告の成功のためにさまざまなKPIを重視するが、もっとも重要な指標はクリック率とインプレッションである
マーケターは、サイトやメールマガジンのディスプレイ広告の成果を測定する際、さまざまな成功指標を考慮しており、ほとんどの広告戦術においてかなり一貫した重要指標となっているのが、クリック率とインプレッションだ。
メールマガジン広告の場合、圧倒的な勝者はクリック率で、回答者の40%が自社で使用する主な成功指標として選択している。Eメールはパフォーマンス手段として長い間重要な役割を担っており、パブリッシャー自体もサブスクリプションなどを促進する手段としてニュースレターで成功を収めている。
メールマガジン広告は、すでにメッセージの受信をオプトインしており、登録時に個人データを共有している厳選されたオーディエンスに向けられているため、広告は読者のあらかじめ決まった興味に沿ったものとなる傾向がある。またマーケターは、主要なオーディエンスをさらにターゲットにするために、メールマガジンのインベントリーを好みのパブリッシャーから直接購入することもできる。関連性を持って表示された広告はクリックされる可能性が高く、広告主にとって高い関心のクリック率と重要なKPIになっている。
逆に、メールで送られてくるコンテンツが広告のメッセージと密接に関連していない可能性がある場合、クリック率はメールマガジン広告の重要な成功指標でもある。そのような場合、マーケターは、消費者をメールマガジンから離れてブランド化されたランディングページに誘導することが重要になる。そこでは、広告主が詳細な製品やサービスの情報を提供し、うまくいけばより関連性の高いコンテクスト内で販売を促進することができる。
クリック率も、プログラマティックに購入したサイト広告の主要なKPIとしてトップになり、主な成功指標としてこれを選択した回答者は3分の1弱(32%)だった。 注目すべきは、プログラマティックサイト広告では、クリック率に次いでインプレッションが24%、商取引と売上が26%と、ほぼ同率で2位につけていることだ。
また、直販広告では、購買ファネルの両端であるインプレッションと商取引・売上が、重要な成果指標としてほぼ同数となっている。回答者の27%が、自社で使用する最大の成功指標はインプレッションであると答え、28%は商取引・売上について同じことを答えた。
ディスプレイ広告は、ブランド認知の取り組みとコンバージョン目標の両方をサポートするために使用できるので、プログラマティックサイト広告と直販広告の成功指標全体で近い調査結果が出たのは予想外ではない。
決まったウェブサイトの特定のオーディエンスをターゲットにした直販広告を使用するマーケターは、インプレッションと商取引・売上を同等に重要であると考えているが、その理由は異なっている。
インプレッションベースの測定では、マーケターの主な目標は、ブランド認知を構築するために、ブランドの消費者がまだ存在しているとは限らないが、マーケターはブランドと消費者の関心が一致していることを知っている戦略的スポットに広告を掲載することだ。
たとえば、自動車メーカーのヒュンダイは、競合他社に対する征服広告を通じて、同様の方法で広告を掲載している。同社のゼペダ氏は次のように語る。「当社は多くの市場内動画を配信していて、これはとても効果的だ。もし顧客がホンダやトヨタを買おうとしているなら、ヒュンダイの広告動画を提供することで、競合製品や顧客が見ている製品にないものを示すことができる。これは本当に強力だ。このDCO(ダイナミッククリエイティブオプティマイゼーション)動画は、顧客が誰であるかというパーソナライゼーションのためにカスタマイズでき、本当にすばらしい」。
商取引・売上の測定を重視する場合、マーケターはコンバージョンを増やすために、消費者がすでに存在する可能性が高いとわかっているサイトに広告を掲載する。たとえばブランドは、コンバージョンの平均注文金額(AOV)を増加させることを意図して、既知の消費者により高価な製品、または異なる製品を宣伝する可能性がある。
インスタカートのジョーンズ氏は、食品宅配サイトに広告を出すブランドは、当然売上に注目していると述べた。「ブランドは通常、売上増に注目している。つまり、そのプラットフォームに広告を出していない場合と、広告を出した場合とで、売上がどう違うかを見ている。私たちは、ポップアップ、ブランドページ、ショッパブルディスプレイ、ショッパブルビデオなど、提供する広告の種類や数を多様化し始めている」。
プログラマティックサイト広告の測定では、インプレッションと商取引・売上が同様に二次的なパフォーマンス指標として密接に結びついているが、その主なKPIはクリック率である。当然ながら、マーケターは広告がどのサイトに掲載されるか、あるいはどのようなタイプのコンテンツに隣接するかをいつも把握しているわけではないため、プログラマティックサイト広告はクリックを誘発するように設計されている可能性が高い。基本的にブランドは、消費者をサードパーティのサイトから、ブランドの安全性が確保され、価値が容易に伝わりやすい場所である自社プラットフォームへと移動させることを望んでいる。
直販サイト広告とは異なり、プログラマティックサイト広告はブランド教育や認知度向上のアプローチを取ることが多く、そのためインプレッションは貴重な二次的成功指標となる。プログラマティックサイト広告では、広告主はショッピングやブラウジングのアクティビティなどの属性に基づいてオーディエンスをターゲティングすることができるため、購入の準備ができていない消費者に対してブランドを認知させ、のちにそれを認識できるようにしておくことは、それ自体が勝利となる。
注目すべきは、CMO戦略シリーズで検討した中でもっとも利用されているマーケティングチャネルであるソーシャルメディア内のいくつかのプラットフォームで、マーケターはブランド認知に対して同様のアプローチを採用することが多いという点だ。特にTwitter、Reddit、Snapchatでは、ブランドは通常、消費者の教育やエンゲージメントの機会としてプラットフォームを利用している。これらのプラットフォームは、ソーシャルメディアプラットフォームの中でもマーケターの予算配分の下限に位置しており、ユーザーにとっては消費者同士の交流ができる場となっている。その結果、厳しい広告コンテンツやコンバージョンの目標には特に向かない環境となっている。
ベライゾンのグレシャム氏は、ディスプレイ広告が表示される場所に関係なく、マーケターは広告を掲載する前に明確な意図を設定する必要があると述べた。
「バナーの目的を意識することも重要だ。目的は認知なのか、それともクリックによる購入なのか。それが毎回クリエイティブに反映されるとは限らない。したがってクリックして購入するものなら、かわいらしくするのはやめて、たとえばただ料理の写真と価格帯、そして『今すぐナビゲートするにはここを右クリック』といった効果的な文言を入れればいい」。
不透明な経済状況下やAIによって、ブランドの安全性への懸念が高まっているにもかかわらず、マーケターはディスプレイ広告で安全策をとる
2022年末にかけて広告業界がどれほど低迷したかを考えると、近い将来、より多くのマーケターが、ディスプレイ広告のような、予算編成をよりコントロールでき、広告費を迅速に移動できる柔軟性のあるデジタル広告チャネルへの支出に引き続き集中する可能性が高い。
2023年は、多くのパブリッシャーが今年最初の2四半期はデジタル広告収入が激減したと報告するなど、厳しいスタートとなったにもかかわらず、ディスプレイ広告市場は今年後半は上向きそうだ。インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)が2月に発表した予測によると、米国のディスプレイ広告費は15.7%成長し、2023年には1632.9億ドル(約23.7兆円)に達する見込みだ。
しかしながらディスプレイ広告の未来は、特にプログラマティック広告に関しては完全にバラ色というわけではない。プログラマティックサイト広告は、ジェネレーティブAIブームの中、ブランドの新たな安全性リスクに直面している(また、ANAのようなプログラマティック慣行全体の透明性向上を求める業界団体からの監視もある)。大規模な言語モデルの普及により、AIが大量のテキスト、画像、動画コンテンツを作成するようになると、広告主が意図せずとも低品質のコンテンツに資金を提供することにならないかという問題がますます注目されている。
ニュースガード(NewsGuard)の2023年6月の報告書によると、広告のために作られた怪しげなウェブサイトがAIの生成したコンテンツをいかに早く公開し、収益化しているかが明らかになった。研究者らは、ドイツ、フランス、イタリア、米国でインターネットを閲覧していた間に、50以上のサイトに141の大手優良ブランドの広告が400件近く掲載されているのを発見した。低品質なサイトのコンテンツは、実際のニュース記事の盗用版から、実証されていない医療療法を宣伝するクリックを誘う見出しまで、多岐にわたっていた。
「これらの企業が直接、このAI生成ニュースサイトに広告を出そうと言っているわけではない」と、ニュースの信頼性評価サービスであるニュースガードのエンタープライズエディター、ジャック・ブリュースター氏は言う。「Googleやほかのサードパーティに対して、あなたや私のような人々に広告を出すように言うだけであり、それが別の問題を生み出している」。
とはいえインサイダーインテリジェンスによると、プログラマティック広告は今年、デジタルディスプレイの費用10ドル(約1450円)のうち9ドル(約1310円)を占めるようになると予想されている。興味深いことに、このデータインサイト企業はディスプレイ広告への支出がeコマースチャネルの広告費の増加する部分を占めているとも指摘している。これは、GlossyがCMO戦略の第2回で成長中のメディアチャネルであると報告したリテールメディアの大部分を占めるものであり、リテールメディアに近い役割を果たしている。
ディスプレイ広告費は今年増加すると予測されており、ブランド認知度を高め、コンバージョン目標をサポートする信頼性の高いマーケティングツールとしてディスプレイには実績があることからも、この従来の広告チャネルは今後数年間はマーケターの戦略において一番の主力であり続ける可能性が高い。
CATHERINE WOLF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)