Glossy+リサーチは、複雑なマーケティングチャネルを念頭に置きつつ、プログラマティックディスプレイやソーシャルメディアなど、主要なマーケティングチャネルにおける戦略と課題を分析し、CMO戦略シリーズで主要なトレンドと […]
Glossy+リサーチは、複雑なマーケティングチャネルを念頭に置きつつ、プログラマティックディスプレイやソーシャルメディアなど、主要なマーケティングチャネルにおける戦略と課題を分析し、CMO戦略シリーズで主要なトレンドとベストプラクティスを明らかにしてきた。
今回のGlossy+リサーチでは、広告付きストリーミングの状況の分析とマーケターの戦略におけるその役割に注目する。このシリーズのほかのレポートでは、ソーシャルメディアの利用と予算、リテールメディアの状況、ディスプレイ広告市場に焦点を当てている。
本シリーズの次回のレポートでは、マーケターの利用状況も含む4つの広告チャネルがどのように比較されているかを解説する。
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ニールセン(Nielsen)によると、7月の米国のテレビ視聴でストリーミングテレビが最大のシェアを占め、テレビ利用全体の38.7%と過去最高を記録した。さらに、米国人は、純粋なサブスクリプションベースのストリーミングサービスよりも速いペースで、広告付きストリーミングサービスを採用している。コムスコア(Comscore)の2023年ストリーミングの現状レポートによると、2021年5月から2023年5月にかけて、広告付きストリーミングサービスをストリーミングしている米国の家庭の数は17%増だったのに対し、広告なしのサブスクリプションベースのストリーミングサービスの同時期の増加率は9%だった。
だが、ほかのチャネルにくらベて新たにマーケティング分野に加わった広告付きストリーミングは、GlossyがCMO戦略シリーズで評価した4つのチャネルのなかでマーケターがもっとも利用していないチャネルである。広告付きストリーミングを利用していると答えたのは回答者の4分の1強(28%)だったのに対し、たとえば同じく新しいマーケティングチャネルであるリテールメディアを利用していると回答した者は3分の1強(38%)だった。
広告主にとってストリーミング広告のインベントリー(在庫)は十分にあると思われているため、広告付きストリーミングサービスにとってインベントリーは問題ではない。Netflixはついに広告付きストリーミング市場に参入し、またディズニープラスも参入を果たした。Amazonも、プライムビデオのストリーミングサービスの広告付きの層を検討していると報じられている。実際、今年初めにGlossyの兄弟メディア、Digidayに対し、ハバス・メディア(Havas Media)、ホライゾン・メディア(Horizon Media)、PMG、タタリ(Tatari)などのエージェンシーの幹部らがストリーミング広告の供給が広告主の需要を上回っていることを再確認している。
とはいえ、多くの広告主は広告を購入してプラットフォームに掲載する費用が障壁となっていると考えており、一方でほかの広告主は規模を懸念している。また、Netflixのようないわゆるプレミアムストリーマーの広告オプションにやや制限を感じながらも、YouTubeなどの無料の広告付きストリーミングサービスを通じてリーチを補い、より有利な価格設定を獲得する機会を見つける広告主もいる。
ハバス・メディアのシニアバイスプレジデントで投資のグループディレクターであるローリー・クロウリー氏は、次のように語る。「市場に登場したばかりのこれらのプレミアム広告付きの層の中には、ターゲティングが非常に限定されているか、まったくターゲティングされていないものがあることがわかっている。そして、少なくともこれらのトップクラスのストリーミングネットワークの初期段階において、そのような取引を行うことができないのは、クライアントにとって問題であり、フラストレーションがたまる」。
視聴者のストリーミングTVへの関心の高まりに加えて、利用可能な広告インベントリーと広告プレースメントのコストおよびスケーラビリティという対照的な二つの要素を念頭に置き、Glossyはマーケターが現在どのように広告付きストリーミングサービスに投資しているかを調査した。
目次
・メソドロジー
・YouTubeが予算の大半を占め、次いでHuluとザ・ロク・チャンネルが続く
・広告主は主に視聴時間を通じてキャンペーンの成功を測る
・インプレッションは、中程度の広告プレースメントを持つプラットフォームで重要な成功指標である
・コストの問題がさらなる投資の足かせになっているーーただし、一部のプラットフォームはまだ規模が小さい
メソドロジー
マーケターの現在のデジタル戦略を立てるために、Glossy+リサーチでは635人の回答者に、過去と今後の投資、マーケティングチャネルの戦術と嗜好、ビジネス上の課題について尋ねる3つのアンケートを実施した。
また、Glossy+リサーチはフォーカスグループとさまざまな業種のマーケティング幹部への個別インタビューも行っている。
さらにGlossyの姉妹メディアであるDigidayが今年初めに発表した、広告付きストリーミングサービスの広告機能を分析したレポートでは、Digidayは2022年の広告収入で上位の広告付きストリーミングサービスを明らかにし、また編集部が選んだその他の人気のプラットフォームもあわせて掲載している。以下、アルファベット順にそのプラットフォームを紹介する:
・Amazonフリービー(Amazon Freevee)
・ディスカバリープラス(Discovery+)
・ディズニープラス 広告付きベーシック(Disney+ Basic)2022年12月ローンチ
・Hulu
・HBOマックス(Ad) 5月23日にマックス(Max)に移行
・Netflix 広告付きスタンダード 2022年11月にNetflix広告付きベーシックとしてローンチ
・パラマウントプラス(Paramount+)
・ピーコック(Peacock)
・プルートTV(Pluto TV)
・サムスンTVプラス(Samsung TV Plus)
・ザ・ロク・チャンネル(The Roku Channel)
・トゥビ(Tubi)
・YouTube
YouTubeが予算の大半を占め、次いでHuluとザ・ロク・チャンネルが続く
今回のレポートで評価した広告付きストリーミングプラットフォームのうち最大のオーディエンスリーチを有するYouTubeは、回答者の2022年における広告プレースメントと予算配分の両方で最大の割合を占めている。圧倒的多数(83%)のマーケターがYouTubeに広告を掲載していると回答し、半数以上(60%)が2022年の予算の最大部分をYouTubeが占めると回答した。
ディズニー傘下のHuluとRoku(ロク)のザ・ロク・チャンネルは、広告プレースメントと広告費の両方でそれぞれ2位と3位だった。一方、ストリーミングサービスを拡大しているパラマウントグローバル(Paramount Global)が所有するパラマウントプラスとプルートTVは、広告プレースメントで最下位から2番目と3番目という結果になった。同様に、プルートTVが2022年の予算の最大部分を占めると答えた回答者はわずか2%で、パラマウントプラスについてはそう答えた回答者はいなかった。
YouTubeは、その膨大なオーディエンスのリーチとペイウォールがないことを主な理由に、広告プレースメントと2022年の予算配分において広告主の間で1位となった。YouTubeによると、同プラットフォームの月間ログインユーザー数は20億人を超え、他のプラットフォームを大きく引き離している。
さらに、ほとんどの広告付きストリーミングプラットフォームが、オンデマンドの映画やTVシリーズ、そのプラットフォームのために制作されたオリジナルの映画やTV番組を提供しているのに対し、YouTubeの場合はYouTubeオリジナルズ(YouTube Originals)、一部のライブTVチャンネルという形で同様のコンテンツがあるのに加えて、ユーザー生成コンテンツ(UGC)を提供している唯一のプラットフォームとしても際立っている。
「YouTubeに毎分500時間アップロードされるコンテンツが唯一にして最大の差別化要因であり、競争優位性である」と、YouTubeのメディアパートナーシップ&クリエイティブワークス・マネージングディレクター、ブライアン・アルバート氏は言う。「YouTubeではその人の興味に応じて、情熱に訴えかけるようなものや興味をそそる何かを見つけることができるだろう」。
広告主にとってYouTubeのUGCよりも重要なのは、YouTubeはGoogleのデマンドサイドプラットフォーム(ディスプレイ&ビデオ/Display & Video 360)を介して、親会社であるGoogleのファーストパーティの検索とブラウザの履歴データ全体にアクセスできることだろう。プログラマティック広告におけるサードパーティクッキーの使用をめぐるプライバシーへの懸念や規制が高まる中、ファーストパーティデータの保有が以前にもまして広告主を惹きつける重要なセールスポイントになりつつある。マーケターは当然ながら、広告ターゲティングのための膨大なファーストパーティデータプールへのアクセスとともに、圧倒的なオーディエンスリーチを提供するプラットフォームで広告時間を購入したいと考える。
ディズニー(Disney)のHuluは、7月1日時点の月間加入者数が4830万人というオーディエンスの規模で、広告プレースメントと2022年の予算配分においてYouTubeに次ぐ2位となっており、半数強(52%)のマーケターがHuluに広告を出稿していると回答、4分の1以下(23%)の回答者が2022年の広告予算の最大部分をHuluに充てるとしている。
HuluにはYouTubeほどのオーディエンスリーチはないものの、同社のプラットフォームであるディズニーセレクト(Disney Select)を通じてディズニーのすべてのファーストパーティ消費者データにアクセスできるため、保有する膨大なファーストパーティデータを広告主に提供するという競争においてHuluには同様の優位性がある。Huluはまた、DRAX(ディズニーリアルタイムアドエクスチェンジ、Disney RealTime Ad Exchange)と呼ばれるディズニーのプログラマティック広告取引所も利用しており、そこではバイヤーがディズニーの全広告インプレッションに入札することができるので、ファーストパーティデータの保有とプログラマティックという両方の理由で広告主にアピールしている。
広告プレースメントと2022年の予算配分の第3位は、ザ・ロク・チャンネルだった。回答者のほぼ3分の1(31%)がこのプラットフォームに広告を掲載していると述べているが、ザ・ロク・チャンネルが2022年の予算の大半を消費していると答えたのはわずか6%だった。
興味深いことに、広告主が広告を出稿したプラットフォームとして最下位の手前にランクインした広告付きストリーミングサービス、パラマウントプラスとプルートTVは、いずれもパラマウントグローバルが所有しており、同社は2022年2月にヴィアコムCBS(ViacomCBS)からパラマウントグローバルにリブランドした際、ストリーミングにかなり力を入れていると述べている。パラマウントのプレジデント兼CEOであるボブ・バキッシュ氏は当時の声明で、「我々はストリーミングに大きな世界的チャンスがあり、リニアTVや映画だけでは捉えきれないはるかに大きな潜在市場があると考えている」と語っていた。
しかし、Glossy+リサーチの調査結果によると、同社はまだその努力の成果を得られていない。調査回答者のうち、プルートTVに広告を掲載したと答えたのはわずか15%で、パラマウントプラスについてもそう回答したのはわずか13%だった(サムスンTVプラスはパラマウントプラスと同率の13%だった)。おそらくさらに明確に物語っているのは、2022年に広告予算の最大部分をプルートTVに費やしたと答えた回答者はわずか2%で、パラマウントプラスについてはそう答えた回答者がいなかったという点だ。
コメディセントラル(Comedy Central)、ニコロデオン(Nickelodeon)、MTV、VH1、その他映画やテレビ番組を含む独自のサービスを提供しているにもかかわらず、パラマウントのプラットフォームはリブランド当時、YouTube、Hulu、ザ・ロク・チャンネルなどに対抗するのに十分なブランド認知度がないのではないかと一部のアナリストは指摘していた。
パラマウントプラスはもともとCBSオールアクセス(CBS All Access)として知られており、2021年3月に新しい名称で広告付きストリーミング分野に参入したばかりだ。このプラットフォームは知名度を上げるのにそれほど時間がかかっておらず、オーディエンスベースの構築にも今なお取り組んでいる。この分野では、パラマウントプラスは一定の成功を収めている。パラマウントによると、同プラットフォームは2023年第1四半期に410万人、第2四半期にさらに70万人の加入者を獲得し、上半期末には約6100万人に達している。
広告主は主に視聴時間を通じてキャンペーンの成功を測る
広告主は、広告を掲載する広告プラットフォームが決まったら、当然そのプラットフォームで行っているキャンペーンの成功を測定したいと考える。そのためにマーケターは、視聴時間からインプレッション、クリック率まで、さまざまな指標を検討する。
Glossyが調査したマーケターのうち、広告主が広告の大半を掲載している上位3つのストリーミングサービスで成功指標とみなしている第1位は、視聴時間/視聴期間/平均完了率だった。回答者の48%がHuluで、45%がYouTubeで、そして40%がザ・ロク・チャンネルで、これら一連の注目度指標(アテンションメトリクス)がもっとも重要だと答えている。
ほぼすべてのプラットフォーム、特に広告主が広告の大半を出稿しているサービスにおいて、視聴時間/視聴期間/平均完了率が広告主の成功指標のトップになった理由を理解するのは、それほど複雑なことではない。簡単にいえば、誰にも見られていない広告にお金を使いたいと思う人などいないのだ。
クリスタルレストラン(Krystal Restaurants)のCMO、ケイシー・テレル氏は、完全視聴完了数を達成するために重要なのは、煩わしいと思われずに、顧客を惹きつけるような広告コンテンツを提供するための適切なバランスを見つけることだと述べた。「私のメッセージを見てほしいが、30秒間もブランドスポットを見なければならないことで激怒させたくはない。これは非常に主観的だが、リサーチとクリックを得ようとしている」。
「もう一つの側面は、プレロール、特にYouTubeでは(広告を)前に出すコンテンツの種類だ。(視聴者が、一刻を争う)コンテンツや本当に重要なコンテンツにアクセスしようとしているなら、その前にプレロールが表示されると顧客はかなり気分を害する。そのように考えないと、顧客を本当に怒らせてしまう可能性がある」。
現在ベライゾンバリュー(Verizon Value)のCMOで、インタビュー当時はベライゾンのビジブル(Visible)のCMOだったシェリル・グレシャム氏によると、同社では顧客が広告をよく受け止めているかを評価するだけでなく、動画広告のうちスキップ可能なものとそうではないものの数をモニターしているという。
「これは注意して見ている点だ。ブランド認知度が低い当社にとって、スキップできない広告を一定量、確保しなければならない。だがソーシャルリスニングを多用して、人々に浸透しているかどうかをみている。メッセージは人々の心に響いているのか、それともイライラさせているのか」。
広告付きストリーミングプラットフォームは、貴重な広告費を維持するために、広告期間中、視聴者が広告主のコンテンツに関与し続けることを保証することに、多大ではないにせよ同じような関心を抱いている。YouTubeのアルバート氏は、キャンペーンの成功を評価する際、多くの要素を考慮していると述べた。
「ユーザーの満足度を測るために、視聴率、スキップ広告、満足度調査など、さまざまな指標やシグナルを見ている。視聴者、広告主、クリエイターの間のエコシステムの調和を保つには、適切なユーザーエクスペリエンスのバランスを取ることに尽きる」。
NBCユニバーサル(NBCUniversal)の広告戦略エグゼクティブバイスプレジデントのジェニー・バーク氏は、ピーコックでは、視聴者が広告コンテンツだけでなく、プラットフォーム番組にもどのくらいの時間関心を持ち続けるかを理解するための調査を行っていると述べた。「ブランド認知から購入意向にいたるまでの購買ファネルを通じて、当社のフォーマットが市場に対してどのようなパフォーマンスを発揮するかという、より伝統的な広告効果調査も行っている」。
「2022年、我々の広告の完了率は98%だった。エンゲージメントという点では、サブスクライバーは月に20時間以上視聴しており、広告はその一部だ。広告がうまくいっていなければ、視聴者は同じ時間を費やすことはないだろう」。
今年3月、トゥビは大規模なマーケティング統合の一環として、代替オーディエンス測定ツール(Alternative Audience Measurement)を発表した。このツールで、広告主はコムスコア(Comscore)のキャンペーンレーティング(Campaign Ratings)やビデオアンプ(VideoAmp)のオーディエンス測定(Audience Measurement)を使ってキャンペーンを測定することができ、トゥビによれば、さまざまなパートナーをテストし、トゥビでのリーチ、頻度、アトリビューションを測定することができる。
「視聴者エンゲージメントは広告主にとって重要な指標だが、さまざまな視聴者のコンバージョンやリテンションの指標も重視している」とトゥビのチーフレベニューオフィサーであるマーク・ロットブラット氏は述べた。「当社の目標は、視聴者と広告主の双方にとってポジティブで有益な体験となるように、両者の間での価値交換を最大化するこだ」。
インプレッションは、中程度の広告プレースメントを持つプラットフォームで重要な成功指標である
インプレッションは、マーケターが広告プレースメントの中間的な範囲を割いたプラットフォームにおいて、トップの成功指標、あるいは視聴時間/視聴期間/平均と同等かそれ以上に重要な指標だった。回答者の57%が、インプレッションがプルートTVでの成功の主な指標だと答え、44%はHBOマックス(現在はマックス)、ディスカバリープラス、Amazonフリービーでそう回答しており、38%がピーコックとトゥビで同じように答えている。
視聴者が動画広告の最初のインストリーム部分にさらされる頻度を測定するインプレッションは、広告付きストリーミングのパフォーマンスを広告ビューの言語で共通に理解される指標として提供することにより、テレビ広告予算をストリーミングへと移行させるのに役立つ可能性がある。各プラットフォームは、ストリーミングビジネスを成長させ、従来のテレビから広告主を引き離すために、このデータを規模の証明として提供することに熱心であり、それを利用して、より豊かで、多くの場合デモグラフィックに基づいたオーディエンスの姿を描き出している。インプレッションは、特定のストリーミングサービスで何人の、そしてどのようなタイプの人々が広告を閲覧しているかを評価するもので、マーケターは、ストリーミングプラットフォームやキャンペーンがどこまでリーチしているかを判断することができる。
たとえば、Rokuはすでに、テレビやラジオの広告主がキャンペーンを測定する際に昔から参照してきたDMA(米国のテレビ視聴地域)——たとえばニューヨーク、ホノルル、アラバマ州モンゴメリー・セルマのような米国の都市と郵便番号のグループ——ごとにキャンペーンを分類する、マーケティングミックスモデル用のインプレッションレベルのデータを提供している。
だが、2022年4月、Rokuはこのデータセットを拡張するために、アナリティックパートナーズ(Analytic Partners)、イプソスMMA(Ipsos MMA)、IRI、ニールセン(Nielsen)のマーケティング技術プロバイダー四社と契約を結んだ。「私たちが提供しようとしているのは、クリエイティブの種類、時間帯設定、テレビ視聴地域のより詳細なビューに関するもう少し多くの情報で、そうすることで各測定パートナーにもう少し詳細なモデルを提供すべく郵便番号まで細かくつきつめることができる」と、Rokuの広告測定責任者であるアサフ・ダビドフ氏は述べた。
視聴時間とインプレッションは、広告主がオーディエンスのリーチを測定するのに役立つ重要な指標だが、広告を見た後に何人が行動を起こしたかを数値化するものではない。そこで登場するのがクリック率だ。クリック率は、インプレッションとクリックの比率の合計を測定するもので、ストリーミングの場合は、広告を見た視聴者のうち何人が、スマートフォンでQRコードをスキャンしたり、リモコンに話しかけて製品の詳細情報を要求したり、商品を購入したり、または単にボタンをクリックしたりといった行動を起こしたかを測定する。
全体的に、クリック率は広告主にとって視聴時間やインプレッションほど重要ではなかった。サムスンTVプラス、プルートTV、パラマウントプラスなど、広告主の2022年の広告プレースメント数や広告費がもっとも低いプラットフォームの広告主にとっては、クリック率がもっとも重要となる。
興味深いことに、Amazonフリービーやピーコックでクリック率が重要な成功指標であると答えた調査回答者はおらず、ザ・ロク・チャンネルではわずか7%だったが、この1年でこの3つのプラットフォームすべてがショッパブルな広告サービスの拡大に力を入れていると回答している。
ビジブルのグレシャム氏は、消費者の認知度が低いブランドでは成功指標が異なる可能性があり、従来の主要業績評価指標では必ずしも全体像を把握できないという。「多くの場合、KPI、CPMまたはビュースルー率は、(AからBに)移動することで20%効果的になるかもしれないし、それはそれで重要だが、もっとも重要なのは、それが注文ごとのコスト、カートに追加されるごとのコストにどう結びつくかということだ」。
「昨年、当社のメディアチームは新しいパートナーをテストしていて、先方がよこしたKPIはサイト訪問数だった。新しいパートナーは、大量のサイト訪問数を推進していたので、誰もがハイタッチし、すばらしい仕事をしたと言っていた。だが、カートへの追加や注文あたりのコストに目を向けたらゼロだった」とグレシャム氏は述べた。「サイト訪問数が正しいKPIではないことを学び、すぐにKPIの変更を推進した。大変な学習だったが、すばらしい学びだった」。
コストの問題がさらなる投資の足かせになっている——ただし、一部のプラットフォームはまだ規模が小さい
広告付きストリーミングサービスに広告を掲載する際に直面する最大の課題に関して、広告主は大体同じ考えを持っている。ほとんどの広告主は、プラットフォーム上に広告を購入し掲載する費用が最大の障害だと述べた。
規模の不足が主な障壁となっていたAmazonフリービーとプルートTV以外のすべてのプラットフォームで、半数以上のマーケターが、最大の課題として媒体費を挙げている。ピーコックは他のプラットフォームよりもコストに偏っており、回答者の4分の3(75%)がピーコックで直面した最大の課題は媒体費だと述べた。次に媒体費が主なハードルとなったプラットフォームは、Huluとディスカバリープラスで、どちらも回答者の56%がそう答えており、次いでYouTubeとザ・ロク・チャンネルでそれぞれ53%となっている。
多くのサービスの厳選された番組を考慮するなら、プレミアムな価格設定はまったく予想外でも不当なものでもなく、番組が一貫している限り、今後も価格は上昇する可能性が高い。だが一部のエージェンシーの幹部は、高いCPMと測定不足に不満を抱いている。
デジタルエージェンシーPMGのブランドメディア責任者であるナタリー・ゲルダート氏は次のように述べた。「価格設定は高い。私が思うに、インサイトが乏しい場合に高い。だから広告主のように感じている。計画を立てる際、CPMや料金にはプレミアムが付いている。キャンペーンのバックエンドで、そのプレミアム料金の効果を実感するための詳細な報告が得られないかもしれないのに、それはなぜなのか、というのが私の疑問だ」。
エージェンシーの幹部らによると、おそらくはそうした懸念を受けて、あるいは需要と供給の法則に従って、いくつかの大手広告付きストリーミングサービスは、今年のアップフロント交渉で最近料金を引き下げたという。
一部の幹部は、今年のアップフロントでストリーミングに投入される広告費は、昨年と比較しておよそ5%から10%増加したと推定しているが、前述のエージェンシー幹部らによれば、主要な広告付きストリーミングサービスは、同じ5%から10%の範囲で広告価格を引き下げた(あるエージェンシー幹部は「よりプレミアムな製品については10%以上」と語っている)。
今年のアップフロント市場は、景気後退の影響を受けて全体的に昨年よりも軟調で、売り手は広告単価を上げるのではなく、全体的な価格のボリュームの確保をより重視した。さらに、売り手は単純により多くのストリーミングのインベントリーを抱えていた。「規模がある程度大きくなるにつれ、価格設定も下がってきている」と、あるセカンドエージェンシーの幹部は述べている。
だがビジブルのグレシャム氏によれば、これまでそうだったように今後も獲得コストが増大すれば、マーケターや広告担当幹部は、どこに広告を掲載するかについて厳しい決断を迫られることになるだろう。ショッパブル広告やスキャン可能なQRコード付き広告など、視聴者の行動を促し、迅速なROIを重視する革新的な広告フォーマットの台頭によって、経営陣は容易にそうした決断を下すようになるかもしれない。
「つねに売上に結びつけなければならない。成長しなければならない。そして、説明責任とCMOの予算に対するプレッシャー、その金が戻ってくるのでなければ1ドルも使ってはいけないという受託者責任や、それ以上の責任がある。自分たちが下している決断や金の使い方について、本当に、本当にみずからに正直かつ批判的でなくてはならない」とグレシャム氏は述べた。
一部の広告主が懸念しているもう一つの分野が、特にYouTubeにおけるブランドの安全性である。回答者の33%が、YouTubeにおけるブランドの安全性を懸念していると答えており、これはどのプラットフォームでも最大の割合だった。マーケターは、自社ブランドに悪影響を与えかねないコンテンツと一緒にメディアプレースメントが表示されることにつねに注意を払っているが、YouTubeの場合、そうした懸念は、このプラットフォームのユーザー生成コンテンツ(UGC)によって増幅されている。
毎日何十万時間ものUGCがプラットフォームにアップロードされているため、YouTubeがすべての広告主コンテンツを適切な動画コンテンツの隣に配置することは、たとえ自動化の助けを借りたとしても、あるいはメディアレーティングカウンシル(Media Ratings Council)からブランド安全性の認定を受けたとしても、一見不可能に思える。実際、YouTubeのアルバート氏によれば、YouTubeを競合他社と差別化している主な要因であるUGCは、キャンペーンによっては、YouTubeにとって最大の課題のひとつになり得る。
興味深いことに、このレポートで評価された13のプラットフォームのうち2つでは、媒体費の代わりに、規模の不足がマーケターの直面する最大の課題であった。回答者の56%がAmazonフリービーで遭遇した最大の課題は規模の不足であると答え、43%がプルートTVで同様の回答をしている。
2つのプラットフォームだけを分析した場合、規模の不足に関する明確な傾向は見られなかったが、一般的に、小規模な広告付きストリーミングプラットフォームは、当然ながらオーディエンスリーチが少ない。特にIMDb TVをリブランドしたAmazonフリービーはオーディエンスの数を公表していない。
さらに、多くの広告付きストリーミングプラットフォームはまだ始まったばかりのサービスで、当初、広告付きバージョンにサインオンするユーザー数は少なかった。たとえば、2022年11月にローンチしたNetflix広告付きスタンダードは、12月の時点で広告主に保証した広告付き視聴者数を下回っていた。その結果、複数のエージェンシーの幹部によると、Netflixは広告主に対し、未掲載の広告の代金を取り戻すことを許可したという。具体的な不足額は広告主によって異なるが、いくつかのケースでは、Netflixが想定していたオーディエンスのおよそ80%にしか配信していなかったと、幹部らは述べた。
「配信できない。配信するのに十分なインベントリーがない。だから文字通り金を返している」と、あるエージェンシー幹部は当時語っている。
だがその状況は変わりつつあるかもしれない。Netflixのワールドワイド広告担当プレジデントのジェレミ・ゴーマン氏は、5月のアップフロントでのプレゼンテーションで、Netflixの広告付きの層にはその当時全世界で500万人近い月間アクティブユーザーがいたと述べている。
小規模で新しいプラットフォームがいずれオーディエンスの数を伸ばすことができれば、広告主が広告付きストリーミングサービスで直面するという障壁のひとつを減らすことができそうだ。より一般的な課題である媒体費は、今後しばらくは、あるいは少なくとも広告主がプラットフォームのプレミアムを支払う意思がある限りそのままとなる可能性が高い。
[原文:Ad-supported streaming is capturing viewer numbers, but not yet dominating marketers’ playbooks]
CATHERINE WOLF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)