エアリーは、「本物の自分を輝かせよう」や「自分は変えず、ブラを変える」などののタグライン、#AerieREAL™ ムーブメントのようなソーシャルメディアのマーケティングキャンペーンを使い、ランジェリー業界を独占するビクトリアズシークレットに挑み成功を収めたランジェリーブランドのひとつである。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
エアリー(Aerie)は、「本物の自分を輝かせよう」や「自分は変えず、ブラを変える」などののタグライン、#AerieREAL™ ムーブメントのようなソーシャルメディアのマーケティングキャンペーンを使い、ランジェリー業界を独占するビクトリアズシークレット(Victoria’s Secret)に挑み成功を収めたランジェリーブランドのひとつである。ビクトリアズシークレットのスリムな女性向けの胸を盛り上げるブラは、何十年にもわたりプッシュアップブラの売上と、男性目線でのセクシーさにフォーカスしたマーケティングを推進してきたが、いまやそれは支持されなくなっている。これは、着る人の快適性やインクルーシビティ、ありのままの体でセクシーに感じられることを重視する新世代のおかげである。そして、NPDグループによると、2021年、エアリーはブラジャーの売上高で2位。1位のビクトリアズシークレットに迫る勢いで、D2Cブランドのサードラブ(Third Love)の上位に位置する。
ビクトリアズシークレットは痩せたモデルの起用で知られており、2018年まで毎年開催されていた恒例のビクトリアズシークレット・ファッションショーはその最たる例だった。しかし、平均的なアメリカ人女性のサイズは16〜18(*)、25%の人の下着サイズはXL〜XXLという現状は、ビクトリアズシークレットのありえないボディ基準とは遠くかけ離れている。小売分析プラットフォーム、エディテッド(Edited)によると、オンラインに在庫がある製品の大部分はサイズ00〜8だという。製品のわずか22%が平均サイズよりも上であり、女性が実際に着るサイズとブランドが提供するサイズの間にはギャップがあることが示唆されている。新しいD2Cランジェリーブランドらは、この市場機会を理解して、インクルーシブなサイズ展開をしていることをアピールしている。さらに、複数のブランドはショーでサイズ12以上のモデルを起用し始めており、市場の進歩が見られる。
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エアリーは、オーセンティシティ(偽りのない真実の姿)への動向を感じ取り、同社のキャンペーンにおいてモデル(の画像)を修正しないと発表した。また、体型を変えるのではなく、フィットしてすっきり見えるスタイルにも重点を置いている。そうすることで、エアリーは、ビクトリアズシークレットが最近まで気づかなかった文化的な変化によって生じた、数十億ドル規模のランジェリー市場での機会を利用したのである。
ランジェリー業界の進化
新規ランジェリーブランドらは、インクルーシビティと快適性に対する一貫した消費者の需要トレンドに従って、より多くのサイズとスタイルを展開するようになってきている。この需要に対応していないブランドは遅れを取り、顧客を失っている。2019年1月〜2021年1月のデータによると、米国と英国のオンラインで取り扱われるプッシュアップブラのスタイルの数は月に300前後だった。一方、快適さをより重視したスタイルのブラレットは、月に600スタイル以上が市場に参入した。エディテッドによると、三角ブラレットの売上は2020年12月から2021年2月に120%増加したそうだ。同期間のスポーツブラとストレッチ素材の下着の売上高は382%アップ。全体的にワイヤー入りブラへの関心は下がっており、エディテッドの売上に基づくもっとも人気のあるブラスタイルのランキングでは、プッシュアップブラはブラレットとスポーツブラに次いで第3位である。
エアリーは快適さを重視するトレンドを早い時期に把握して動いた。同社のマーケティング担当シニアバイスプレジデントのステイシー・マコーミック氏は次のように述べている。「2016〜2017年にブラレットを発売して、ブラレット分野を独占した。『快適で気持ちいい』(製品)は常に我が社の領域だったが、2020年に在宅勤務が増えて自宅ではできるだけ快適に過ごしたいという願いから、この傾向は一気に爆発した。そこで、そのようなランジェリーに対する必要性に我々は対応した」。
過去、26四半期連続で2桁の売上成長を遂げているエアリーの業績は、前述した初期の戦略的決定の成功を反映している。これと比較して、ビクトリアズシークレットは世界の営業利益が15%以上減少した2016年以来、営業利益と顧客の需要を急激に失いつつある。
ビクトリアズシークレットはその後も世界的な営業利益は減少を続け、2017年には20%、2018年には50%の減少。2019年には、270%、7億2900万ドル(約831億円)という巨額の損失を受けた。2019年と比較して2020年は北米店舗の売上高は45%(23億ドル、約2620億円)の減少だったが、これは明らかにパンデミックが加速したものだった。しかし、同ブランドの全体的な売上の低迷は、消費者の傾向に歩調を合わせられなかったために時の経過とともに顧客を失ったことを示している。
この点についての証拠は、ビクトリアズシークレットのこれまでの広告キャンペーンに多様性が欠けていることに見ることができる。これは、エアリーのような競合他社が展開するエンパワーメントとインクルーシビティにフォーカスしたキャンペーンとはまったく対照的である。そして、ビクトリアズシークレットのマーケティング決定は同ブランドに対する人々の認識に大きな影響を与えた。
人々の意識の変化は、ビクトリアズシークレットのブランド認知度と顧客満足度スコアが史上最低に達したという2018年のYouGovの報告に反映されている。200万人を超えるパネルからの世論調査では100点満点で30という低いスコアだった。マーケティング分析、メディアセンチメント、調査回答を組み合わせた数式を使って編集された同ブランドの「バズスコア」は、2016年から2018年にかけて31から23に下がっている。これは、とくにオンラインで激しい批判を受けてもマーケティング戦略を進化させなかった結果である。
すでに2014年の時点で、ビクトリアズシークレットのボディ(Body)コレクションの広告キャンペーンは反発を招いていた。キャンペーンは、典型的なモデルである「エンジェル」と「完璧な『ボディ』(The Perfect ‘Body’)」というタグラインを使ったものだった。英国で3人の女性が、#IAmPerfectオンラインキャンペーンとChange.orgの嘆願活動を開始し、ビクトリアズシークレットの有害なメッセージに対して異議を唱えた。これにより、同ブランドは自社キャンペーンのタグラインを「皆のボディ(A Body for everybody)」に変更した。また、サイズ14〜28の女性向けブランドのレーン・ブライアント(Lane Bryant)が、2015年に#ImNoAngelを使ったソーシャルメディアキャンペーンでビクトリアズシークレットのイメージに対抗したこともある。レーンブライアントは自社広告ではカーヴィーなモデルを起用した。
この傾向はビクトリアのシークレットファッションショーにも見られ、2017年11月に視聴者数は前年比で30%減少した。これは、#MeTooムーブメントのタイミングに影響を受けた可能性がある。というのは、そのショーは、ハーヴェイ・ワインスタイン氏の性的ハラスメントと性暴行の疑惑が明らかにされた1カ月後に開催されたからだ。以来、ビクトリアズシークレットは利益を上げることに苦労している。2020年12月までに同社の市場シェアは、米国における女性ランジェリー分野で2015年の32%から19%に低下した。いまだに他社より高いシェアを保ってはいるものの、ビクトリアズシークレットの転落は明らかである。
このような変化によって多くの新規ブランドがランジェリー業界に参入し、また、レガシーブランドにとってはZ世代の価値感と快適性にフォーカスしてランジェリーに再投資する道が開かれた。たとえば、アディダス(Adidas)は今年女性用と男性用下着の販売をグローバルに開始すると発表している。アディダスブランドのデビジョンプレジデントであるビクトリア・バンダグリフ氏によると、消費者が下着にもっとも求めているものは快適性だという。同社のD2Cの新ラインはビクトリアズシークレットやエアリーとの直接競合を狙っている。
ソーシャルでZ世代を惹きつけたエアリーの戦略
老舗のアメリカンイーグルアウトフィッターズ(AEO)の傘下にあるにもかかわらず、エアリーの位置付けは、ビクトリアズシークレットの時代遅れのメッセージに異議を唱えた新しい下着ブランドたちの波にうまく乗ったものである。サードラブやレ・ガーズル・レ・ボーイズ(Les Girls Les Boys)のようなブランドは、女性のランジェリーマーケティングをセクシーで実現不可能なボディ基準から、普通の消費者にとってより親しめるものにシフトするのに貢献している。
サードラブは多様なサイズの顧客に対応するクイズやロイヤルティプログラムなどのマーケティング戦術を使い、また、レ・ガールズ・レ・ボーイズはより流動性のあるジェンダーのイメージを作り上げた。これらのブランドは、市場におけるビクトリアズシークレットの優位性と美に対する狭い定義に果敢に挑戦している。「業界全体で、(美の定義は)もはや男性目線の美しさではなくなっている。着用する本人の気分が上がるかが重要だ」とエアリーのマコーミック氏は述べている。
エアリーは、#AerieREALマーケティングの一環として、コミュニティ、ボディポジティビティ(体をポジティブに捉えること)、オーセンティシティ(真正性)に焦点を当て複数のオンラインキャンペーンを開始し拡散している。どのモデルも修正しないという確約に加えて、さまざまなサイズの女性や障害を持つ女性を広告に起用している。
「我々の顧客は、スーパーモデルや雑誌に登場する人よりも、実際の人たちを見たいと思っていた」とマコーミック氏。「(自分のような人たちを)見たり、自分が購入しているブランドを着ている人たちを見たいと望んでいた。ソーシャルメディアの発展でそれが可能になった。正真正銘の、実際の人々が広告や現実的な状況に登場してきた。それは、我々の顧客が見たいと思っていた現実だった。そこで、我々は『修正をしない。できる限り現実のままの本当の姿を見せる。また、皆にもそうするようにチャレンジを課す』と決めたのだ」。
トレンドに対応し続けるため、エアリーはソーシャルメディアプラットフォーム、とくに若いユーザーベースを持つTikTokに多額の投資を行っている。同ブランドは2020年4月15日にTikTokアカウントを立ち上げた翌日、#AerieRealPositivityチャレンジを開始し、自己表現の方法や他人を支援する方法を共有するようにユーザーに促した。この戦略は途方もない結果につながった。ユーザーらは、2週間以内にこのチャレンジのハッシュタグがつけられた6600本の動画を投稿し、これらは13億回視聴された。同時にエアリーは1.74万人を超えるTikTokフォロワーを獲得。また、同キャンペーンによりインスタグラムでは1.6万人の新しいフォロワーを獲得し、フォロワーの総数は1000%増加した。一方、#AerieRealLifeホームページはわずか1日で13.8万回のアクセスがあった。
エアリーのZ世代に向けたアピールによって、2020年末、有機的に生まれた投稿がバズった。それは、19歳のハナ・シェンクラー氏がエアリーのクロスオーバーレギンスを購入し、それを着てジャスティン・ビーバー氏の曲「ドラマー・ボーイ」に合わせて踊ったTikTokの30秒の動画だった。再生回数は780万回、「いいね」は87.2万、1万を超えるコメントを得て、2.2万回以上シェアされた。コメントの多くはレギンスに関するものであり、レギンスは完売すること6度、そして入荷待ちリストも長くなった。エアリーはすぐにシェンクラー氏と提携し、彼女はクロスオーバーレギンスの顔になった。以来、エアリーは、レギンス以外のスタイルで構成したクロスオーバーカテゴリーを構築している。ソーシャルメディアへの投資によって、同社は有機的に生まれる新しいトレンドを活用して、迅速に対応することが可能になっている。
Google検索トラフィックでも、オンラインブランド認知度が急上昇していることがうかがえる。エアリーの2006年の設立から現在までのデータでは、Google検索で一貫して上昇していることが示されている。2020年11月には最高レベルの人気度を記録したが、2年前の2018年11月の人気度はその半分に過ぎなかった。下のグラフが示しているように、ビクトリアズシークレットは2006年以降全体的に平均検索数は多いものの、ブランド検索に基づく同ブランドの人気と関心は低下傾向にある。2017年2月〜2018年2月の間に、エアリーは検索の関心度においてビクトリアズシークレットをわずかに上回り始めた。以来、エアリーはビクトリアズシークレットよりもはるかに上回っている。人気指標において、現時点ではビクトリアズシークレットよりも(100のスケールにおいて)25ポイント高くなっている。そしてこの人気度は、エアリーの一貫した収益成長に反映されている。
44年の歴史を持つAEOが所有するエアリーは、ビクトリアズシークレットから市場シェアを奪っているもっとも注目すべき競合他社の1社だ。その収益は2015年〜2019年の間に毎年25%以上増加している。事実、エアリーはAEOの最大の資産になり、オリジナルのAEOブランドに匹敵しつつある。
アメリカンイーグルアウトフィッターズの最高の資産となったエアリー
AEOは、特に同時代のブランドと比較して、この数年にわたり高い業績を収めている。創業から14年になるランジェリーブランド、エアリーはAEOの成長の多くを牽引してきた。2020年には、エアリーの製品はAEOの総純収益の26%を占めたが、これは2018年の16%からの増加である。2015年の収益は約3億1000万ドル(約353億円)だったが、2020年までにはその3倍の10億ドル(約1140億円)近くに成長している。2021年第2四半期までにエアリーの営業利益は前年比132%増の7100万ドル(約81億ドル)に成長。AEOの全体的な営業利益は前年比234%増の1億9900万ドル(約227億ドル)。AEOポートフォリオにおいてエアリーは有望な成長を見せており、同ブランドに対する消費者の関心の高まりを反映するものだ。
AEOは、今後2年間でエアリーの収益を倍増し、2023年までに20億ドル(約2279億円)のブランドに育て上げ、35億ドル(約4000億円)のAEOブランドに近づける計画である。実際、2023年までにエアリーの成長はAEOの総収益の18%から36%になることが予想されており、これは、近い将来親会社の成長の大部分を占めるようになることを意味する。この急激な成長は、エアリーが消費者から求められている製品を提供しているということであり、特に成長の大部分に貢献しているオンラインにおいて目覚ましいものがある。オンラインでの成長は今年も継続している。
パンデミックの間にAEOのオンラインビジネスは急騰し、2020年の収益は36%増加して17億ドル(約1940億円)になった。エアリーのオンライン販売も伸び、総収益の85%を占めている。パンデミック前は売上の約55%がオンライン、実店舗が45%であった。今年は店舗の再開とコロナワクチン接種が拡大しているが、第2四半期までにオンラインビジネスは売上の50%以上になった。同社のオンラインプラットフォームは店舗よりも幅広い品揃えで、水着を含む500以上のスタイルを取り扱っているために売上の大部分を獲得している。また、エアリーはオンラインとオフラインの両方の販売で力強い成長が示されているが、ビクトリアズシークレットはオンライン売上の増加が見られた2020年第4四半期以前はオンラインとオフライン双方で落ち込んでいた。それでもエアリーは将来を見据え、ショッピング環境のさらなる変化に対応して積極的に実店舗を再開し、着実に成長している。
ランジェリー市場全体においてブランドは店舗を閉店しているが、エアリーの新規出店と売上の増加は実店舗戦略の有望な未来を示している。これと比較して、2019年末の時点で米国に1053店を抱えていたビクトリアズシークレットは、2020年北米の241店舗を閉店した。一方、エアリーの店舗数は2019年の148店舗から2020年末には175店舗に増加し、着実な成長が見られる。AEOは、アメリカンイーグルの店舗数を200店舗ほど減らし、今年は25〜30のオフライン(Offline)ストアを含む100を超える店舗をオープンして、エアリーの成長に注力する計画だ。オフラインは2020年にローンチしたエアリーのサブブランドであり、アクティブウェアとアクセサリーのフルコレクションを提供している。オフラインのターゲット顧客はZ世代であり、マーケティングのメッセージは「リアルな動きにリアルな快適さ」である。
ほかの競合ブランドは?
ビクトリアズシークレットを脅かしているのはエアリーだけではない。実際、この数年には多くのD2Cランジェリーブランドが消費者の関心とZ世代の注目を集めている。新規ブランドの大部分はインクルーシビティとオンライン販売に重点を置いており、また、これらのブランドのほとんどが女性によって創業、または共同創業されて運営されているのは興味深い。注目すべきブランドをいくつか挙げる。
サードラブ
社歴8年のサードラブはオンライン限定ブランドとしてローンチした。インクルーシビティにフォーカスし、あらゆる年齢の女性を起用したマーケティングと快適性を前面に押し出している。ワイヤレスブラと季節を問わず1日中着用できるTシャツ用ブラを展開、Tシャツ用ブラは数百万点を売り上げている。2020年には下着の売上が倍増し、総売上の8%を占めた。2019年のNPDデータによると、売上高に基づいたサードラブのランキングは、ブラジャーのeコマース小売業者としてビクトリアクトリアズシークレットとエアリーについで3位に位置する。
パレード(Parade)
パレードは、ローンチは2019年10月というZ世代向けの比較的新しいブランドである。最初の1年以内に1000万ドル(約11億円)の収益を上げた。2021年には、9月下旬のシリーズBラウンドで調達した2000万ドル(約23億円)を含め、4300万ドル(約49億円)の資金を調達している。現在の評価額は1億4000万ドル(約160億円)。ブラレット専門の同社は、インスタグラムやTikTokでのマーケティングでインフルエンサーやセレブを起用することが多い。また、2021年5月のポップシクルポップアップのような実地でのダイレクトマーケティングも行っており、2021年11月にニューヨークのソーホーに初の店舗をオープンする予定。パレードは、新しいインクルーシブのランジェリースタイルの好例と言える。
サヴェージxフェンティ(Savage x Fenty)
リアーナ氏のランジェリーブランド、サヴェージxフェンティは、2021年2月の時点で10億ドル以上(約1140億円)の価値がある。同ブランドはセクシーでありながらインクルーシブなデザインにフォーカスしている。(このブランドについては、以下でも取り上げる。)
巻き返しを狙うビクトリアズシークレット
前述したような革新的な新規ブランドにさらに市場シェアを奪われるのを防ごうと、今年ビクトリアズシークレットはリブランド戦略を発表した。方向転換の軸は、エンジェルと長年にわたって批判の的になってきた非現実的な体型への焦点を捨て去ることである。現在はインクルーシブな体型や性同一性をマーケティングに取り入れつつある。また、成長を続けるアスレチックウェアとラウンジウェアのカテゴリーの拡大にも注力している。しかし、事態はすでに手遅れではないのだろうか。
2020年までに、ビクトリアズシークレットは親会社エルブランズ(L Brands)のポートフォリオのトップの座を失った。昨年、エルブランズの純利益は8億4400万ドル(約962億円)で、2019年の純損失は3億6600万ドル(約417億円)であったが、利益は主にバス&ボディワークス(Bath & Body Works)によるものだった。2020年を通じてビクトリアズシークレットの比較可能な売上高はわずか1%の増加。2020年第4四半期には、ビクトリアズシークレットのデジタルチャネルの売上は前年比31%増の8億3100万ドル(約947億円)に達し、わずかな改善が見られた。ただし、それは主力のランジェリーラインではなくピンク(Pink)ブランドとビューティラインによるものだった。
この業績不振により、ビジネス変革の必要性が明らかになった。エルブランズは、2021年8月ビクトリアズシークレットを分社し、ビクトリアズシークレットランジェリー(Victoria’s Secret Lingerie)、ピンク、ビクトリアズシークレットビューティ(Victoria’s Secret Beauty)を含むビクトリアズシークレット・アンド・カンパニー(Victoria’s Secret&Co)という独立した公開企業にした。2021年を通じてビクトリアズシークレットは成長を見せ、2021年の第1四半期の営業利益は前年比で2億1300万ドル(約243億円)、665%の増加であった。2020年第2四半期には2億4330万ドル(約277億円)の営業損失があったことと比較して、2021年第2四半期の営業利益は2億270万ドル(約231億円)であった。
UBSによると、ビクトリアズシークレットは利益率を改善するためのもう1つの動きとしてD2Cブランドの低価格、そして競争力の維持のために何年にもわたって割引やプロモーションを実施したあと、ウェブサイトの価格を2019年5月と比較して平均83%引き上げたという。サイト掲載商品の平均価格は現時点で44ドル(約5000円)であり、D2C競合ブランドの大多数よりも高くなっている。この値上げは、割引が利益率を低下させブランドの凋落を加速しているだけだというウォール街アナリストからの批判に対する回答を提供することになった。
また、この価格変更はよりアップスケールな消費者をターゲットにするというコミットメントを示しており、よりインクルーシブな価格設定のエアリーやパレードなどのD2Cブランドとの差別化を図っていると考えられる。パレードのワイヤレスブラの価格は約30ドル(約3400円)である。また、サードラブがビクトリアズシークレットの顧客を惹きつけるために意図的に価格を下げ、「2点購入で15ドル割引」というオファーを提供したことも注目に値する。これは、価格競争がビクトリアズシークレットには有利にならない可能性が高いという証拠である。
ビクトリアズシークレットの業績には低迷の兆候が多くあるものの、わずかな希望の光も見える。国際的なレベルでは、ほかのブランドと比較して最大の展開をしているもっとも有名なランジェリーブランドであることには変わりはない。2020年のビクトリアズシークレットインターナショナルの純売上高は3億9500万ドル(約450億円)で、2019年の7億400万ドル(約801億円)から44%の減少だった。同社は中国などの有望な地域を中心に積極的に国際展開を続ける計画である。カナダ、英国、中国に約87の店舗を抱えるが、これは2019年の128店舗から減少している。
AEOは北米以外でも大きく国際展開をしているが、エアリーは海外ではメキシコと香港だけで店舗運営をしている。AEOとエアリーの店舗およびeコマース販売からの国際純収益は2020年の総収益の12.3%を占めている。これは、AEOの総収益の13.9%を占めていた2019年の海外純収益からはわずかに減少している。AEOは世界中で事業を行うライセンスを持っているが、エアリーの国際戦略は米国市場での成長に焦点を合わせているために、(海外進出には)依然資本が少なく、デジタル主導である。(米国の)西海岸が今後数年間の焦点になる予定だ。
今後の展開は?
ビクトリアズシークレットの衰退とエアリーの台頭は、巨大なブランドが消費者の期待に応えられなかったことで市場シェアを失い、小規模なブランドがそのシェアを獲得したという事例である。現在の市場において、レガシーブランドは(ビクトリアズシークレットと)同じ運命をたどることを避けるために、マーケティング戦略を刷新し、文化の変化に対応しなければならないことは言うまでもない。
世界の下着業界は現在2500億ドル(約28.5兆円)で、2025年までに3254億ドル(約37兆円)に達すると予想されている。ビクトリアズシークレットは存続し、近い将来においてはかなりの市場シェアを保持すると思われるが、文化の変化に気づくのが遅すぎて競合他社との距離を縮められた。回復計画によって2021年に顧客を一部獲得したものの、純売上高が2018年の81億ドル(約9222億円)から2020年には54億ドル(約6148億ドル)に減少したという事実は変わらない。
また、低迷しているのはビクトリアズシークレットだけではない。時代の変化に合わせて進化できなかったほかのレガシーブランドも利益の減少を経験し、ビジネス変革の必要性に迫られている。たとえば、2018年、イタリアのランジェリーブランド、ラペルラ(La Perla)は1億1000万ドル(約125億円)の損失を記録し、それ以来下降傾向にある。2020年、収益は22.8%減少して8000万ドル(約91億円)だった。ビクトリアズシークレットと同様、ラペルラの回復戦略は中国での物理的なプレゼンスを拡大することにフォーカスしており、2023年までに中国に30店舗をオープンする計画である。また競合他社と同じようにマーケティングキャンペーンでも若いオーディエンスをターゲットにしており、最近では、Z世代顧客を狙い、コスメティックの新ラインの顔として、22歳のイタリア系モロッコ人のモデルを起用している。
それに対してAEOは強固な反例である。創業44年のレガシー企業は状況を感じ取ったか、あるいは状況にふさわしい下着ブランドをたまたま抱えていたのか。エアリーは、拡大を続けるZ世代市場へのアピールに引き続き注力して業界の変化に機敏に対応し続ければ、成長を続ける可能性がある。しかし、エアリーをはじめほかのブランドも時代精神と消費者の感性における大きな変動には留意することが賢明だろう。
エアリーには明らかな機会領域が1つある。現在15〜35歳のZ世代をターゲットにしている同ブランドのもっとも売れ筋の年齢層は22〜25歳のままである。この狭いオーディエンスターゲティングについて聞かれて、マコーミック氏は「ブランドが成熟するのに合わせて顧客もわずかに成長した」と答えている。「(顧客が)最初のブラジャー、そしてそれ以降製品を購入するとき、我々は顧客のために製品を提供し続けたいと思っている」。エアリーやほかのD2Cブランドがさらに成長するには、Z世代のうちの年齢の高い消費者にアピールしなければならないだろう。
学んだこと
ブランドは新しいトレンドをつねに把握していなければならない
セレブに人気の比較的新しいブランド、フルールドゥマル(Fleur Du Mal)は、トレンドが注目される前にそれを取り入れつつセクシーさを強調することが多い。たとえば、ボディスーツやハイウエストの下着をローンチしている。また、(セクシーさを強調しつつトレンドを取り入れるために)カテゴリーを超えることもある。セクシュアルヘルス業界では2020年に製品の売上が前年比で2倍になった製品もあり、フルールドゥマルはそれに便乗してプレジャー(Pleasure)カテゴリーを立ち上げ、セックストイ会社のルワンド(Le Wand)と提携してバイブレーター3点を提供している。
コミュニティとロイヤリティは重要
小規模なD2Cブランドは、コミュニティを構築してあらゆる体型の顧客と強い絆を築くことに重点を置いている。ビクトリアズシークレットの覇権に挑戦する小規模な競合他社にとってこれは相変わらず優れた戦略であろう。
インクルーシビティは具体的に
新規ブランドは製品の品揃えを構築しインクルーシブなメッセージングを使い続けているが、様々なサイズを提供してインクルーシビティに関するメッセージングを保証し続ける必要がある。そうしないとメッセージの真正性が疑われるリスクがある。
現場での競合はオンラインの競合と同じくらい重要である
新規D2Cランジェリーブランドは、成長していてもオンライン販売だけにフォーカスしていれば良いというわけではない。エアリーのように実店舗にも投資する必要がある。小売業者は物理的なプレゼンスを拡大することにより、新しい消費者を獲得する準備ができるのである。実店舗は、オンラインショッピングでは実現できない方法で、顧客が商品を手に取り、試して、体験する機会を提供する。また、オンライン販売は増加している一方で、依然多くの消費者は店頭での購入を好んでいる。
セクシーさはやはり人気
3年前にローンチしたリアーナ氏のランジェリーブランド、サヴェージxフェンティはすでに10億ドル(約1148億円)以上の価値があり、インクルーシブである限り「セクシーな」ランジェリーマーケティングは相変わらず効果があることが示されている。この点は、ビクトリアズシークレットも認識しているようだ。サヴェージxフェンティはありのままの自分がセクシーであると感じることに重点を置いて、革新的なマーケティングを使ってそのメッセージを伝えている。たとえば、アマゾンプライムビデオスペシャルで取り上げられているように、さまざまなモデルと「実際の人たち」がショーに出演することなどだ。
[原文:Case Study: How Aerie won Gen Z and Victoria’s Secret’s market share]
AMINA ASIM, LI LU(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)