アルタビューティの新しいDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の発表とインディブランドの成長戦略について紹介する。DE&Iの取り組みにポジティブな変化をもたらす仕事をしている100人から成る「ミューズ100」を発表。セフォラで独占販売されていたドランクエレファントがアルタビューティでも販売へ。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
今回は、アルタビューティの新しいDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の発表と、インディブランドの成長戦略について紹介する。
アマード・アーベリー氏、ブリオナ・テイラー氏、ジョージ・フロイド氏の殺害事件によって拍車がかかった米国の人種問題の清算から1年以上が経過し、ブラック・ライブズ・マターへの継続的な支援が疑問視されている。しかしアルタビューティ(Ulta Beauty)は、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)に対し、さらに意欲的に取り組んでいる。
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アルタビューティが選出したDE&Iで注目の100人
9月22日、アルタビューティは、DE&Iの取り組みにポジティブな変化をもたらす仕事をしている100人から成る「ミューズ100(Muse100)」を発表した。選出された栄誉ある変革者たちは、女性、男性、ノンバイナリーな幅広い層の人々で、美容の分野だけではなく広範囲に活動している。全リストは、メイクアップマジシャン、ヘアレイザー、スタイルセッター、ウェルメイカー、ストーリーシフター、カルチャークリエイター、ルミナスリーダー、エグゼクティブエクセレンシー、フィアレスファウンダー、ネクストジェンミューズという10のカテゴリーに分かれている。そのなかには、モデルで社会活動家のベサン・ハーディソン氏、著作家で活動家のミカエラ・アンジェラ・デイヴィス氏、#1000BlackGirlBooksを設立した16歳のマーリー・ディアス氏などが含まれている。美容業界の創業者では、アミ・コレ(Ami Cole)の創業者兼CEOディアラ・ダイ=ムバイェ氏や、ローゼンスキンケアの創業者ジャミカ・マーティン氏など、アルタビューティではまだ販売されていないブランドの創業者も多く名を連ねる。各受賞者には今後の活動支援として1万ドル(約111万円)が授与され、アルタビューティの寄付総額としては100万ドル(約1億1100万円)以上となる。また、ミューズ100に選ばれた人々は、アルタのマーケティングのタッチポイントでもフィーチャーされる予定だ。
「アルタビューティは、価値観に基づいたパーパスドリブンな企業だ。ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)は、当社のDNAに深く刻み込まれており、社のミッションにも織り込まれている。我々はこの重要な領域をリードするという責任を十分に理解しており、これはまた当社の道程におけるマイルストーンでもある」とアルタビューティのCEOデイブ・キンベル氏は述べた。
DE&Iを大きく推進する計画
キンベル氏の考えでは、ミューズ100は2月に発表されたアルタのダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンに対する2500万ドル(約27億9000万円)の公約の延長線上にある。当時、アルタビューティはマーチャンダイジングの商品展開において黒人が所有するブランドの数を倍に増やし、ミューズのプラットフォームを介してメディアにおける黒人の声を増大させ、よりよい店内環境を創出し、社員のキャリアアップの機会をさらに増やすことを計画していた。ミューズのプラットフォームの最初のイテレーションは、キャロルズドーター(Carol’s Daughter)の創業者リサ・プライス氏など、美容業界のエグゼクティブを起用したメディア広告を通じて行った。この広告はUlta.com、ソーシャルメディア、および「トゥデイズショウ(The Today Show)」や「グッドモーニング・アメリカ(Good Morning America)」など選ばれたテレビスポットで展開された。
ミューズ100は、アルタビューティのエグゼクティブと同社のDE&I評議会によって選考が行われ、パターンビューティ(Pattern Beauty)の創業者兼CEOで、アルタビューティのダイバーシティ・エクイティ・インクルージョンアドバイザーでもあるトレイシー・エリス・ロス氏の意見も取り入れている。そのほかにも、セレブリティスタイリストのメッカ・ジェームズ・ウィリアムズ氏をはじめとする多くの人の意見も参照している。
美容小売大手として社会責任を果たす
「我々は、組織や仕事に関して非常に明確で具体的な目標を設定しており、多様な声を高めるためにさらに力を入れていく」とキンベル氏は述べた。
そのひとつの社内的事例が、アルタビューティが初めて開催したダイバーシティウィーク(Diversity Week)である。4月に開催されたこの5日間のプログラムでは、会社、店舗、配送センターの全従業員8800人以上を対象に、グループトレーニングの「チャットイン」、ライブセッション(のちに配信するためにすべて録画された)、リソースの提供などが行われた。今後も同様のプログラムを継続する計画だ。アルタビューティは、その進歩状況も完全に公開している。インスタグラムではヘイトに対する自社の姿勢を表明し、トランスジェンダー認知の日を強調する投稿を行った。3月には、コンデナスト(Condé Nast)の『ティーンヴォーグ(Teen Vogue)』編集長に就任予定だったアレクシ・マキャモンド氏の過去のツイートを理由に、同誌への広告出稿を停止している(マキャモンド氏はのちに辞任)。当然ながら、同社では黒人が経営するブランドの商品数も増やしている。
「美容専門小売店の最大手として、約3500万人の顧客やロイヤルティプログラムの会員とのつながりを非常に重要視している。我々はこれらのストーリーを伝え、アルタビューティに並ぶすばらしいブランドや当社と関わりのあるすばらしいインフルエンサーたちはもちろんのこと、偉大な影響を与えている人々にもスポットライトを当てなくてはならない」とキンベル氏は語っている。——Priya Rao
インディーズブランドはどのようにして成長するか
これまでセフォラ(Sephora)で独占販売されていたドランクエレファント(Drunk Elephant)が、先週、アルタビューティでも販売されることが発表された。このブランドのスキンケア、ヘアケア、ボディケアのフルコレクションは、9月26日にUlta.comと1300の全店舗で販売される。2019年10月に資生堂が買収したドランクエレファントは、ナーズ(Nars)や資生堂といった他の資生堂傘下のブランドと同様に、米国内のビューティ最大手小売店で幅広く流通されることとなる。
「最初の数年間は独占販売であることが重要だった」と語るのは、ドランクエレファントの創業者でチーフクリエイティブオフィサーのティファニー・マスターソン氏だ。「2015年にセフォラにローンチした。ひとつの場所でじっくりとブランドを成長させることができたし、すべてのエネルギーをそこに投入できた。これは双方にとってすばらしいことで、このことにはずっと感謝するだろう。だがある時点でブランドが市場で成熟し始めると、消費者の需要が高まってくる。そうなると次に進む必要がある。アルタへの進出は何年も前から要請されていたが、全員にとって適切なタイミングでなくてはならなかった」。
販路を広げるセフォラ限定ブランド
1月にデビューしたブリオジオ(Briogeo)やジョジーマラン(Josie Maran)など、かつてのセフォラ限定ブランドの多くがアルタに進出している。LVMHのKVDビーガンビューティ(KVD Vegan Beauty)は、2020年8月にアルタにローンチした。ブリオジオの移行は、2019年7月に未公開株式投資会社VMGによるマイノリティ投資から比較的早い段階で行われており、その流れはファーストエイドビューティ(First Aid Beauty)と共通している。ファーストエイドビューティは、2018年にプロクター・アンド・ギャンブル(Proctor & Gamble)に買収される前に、アルタビューティとセフォラでの流通を確立した。
デシエム(Deciem)も同じように、エスティ・ローダー・カンパニーズが2月に29%の出資比率を76%に引き上げる前に、アルタとセフォラでの流通を確立している。エスティ・ローダー・カンパニーズは3年後にデシエムの残りの株式を評価額未定で購入する計画だ。業界関係者が以前Glossyに語ったことによると、ヘンケル(Henkel)やウェラ(Wella)を含む、ヘアケアに特化した複数のコングロマリットがブリオジオに興味を示していることから、ブリオジオは2021年には売却の準備を整えているだろうとのことだった。一方セフォラは、アルピンビューティ(Alpyn Beauty)やジ・インキーリスト(Inkey List)といった次のインディブランドのインキュベーションに力を注いでいる。
「資生堂への売却はタイミングだった。資生堂はイノベーションやもっと大きなチームへのアクセスを提供してくれるため、私たちは正しい方法で世界に向けてローンチすることが可能となる」とマスターソン氏は言う。「セフォラは多くの人々を対象としていて、それはアルタも同じ。そしてその多くには重なっている部分もあれば、そうでない部分もある。私たちのブランドに新鮮な目を向けてもらえるような新しい方法を見つけたかったし、人々にとって便利なブランドにしたかった。そしていま、私たちはそれを実現できる成長の段階にある。もっと便利なブランドになることができる。製品の購入場所として最適なふたつの場所で販売できることにとても興奮している。認知度を高めるための、非常に前向きなステップだ」。——Priya Rao, with reporting from Emma Sandler
[原文:Beauty & Wellness Briefing: Ulta Beauty bets big on DE&I with Muse 100]
PRIYA RAO(翻訳:Maya Kishida、編集:山岸祐加子)