この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。 世の中に疎い人のために言っておくと、バービーの新作映画が公開される。 バービー初の実 […]
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
世の中に疎い人のために言っておくと、バービーの新作映画が公開される。
バービー初の実写映画となる今回の新作は7月21日に公開初日を迎える。バービーを所有するマテル(Mattel, Inc.)とワーナー・ブラザース・ピクチャーズ(Warner Bros. Pictures)製作の映画『バービー(Barbie)』は、今年初めから本格的なマーケティングモードに突入している。その結果、Airbnb提供のバービー・ドリームハウス(Barbie Dreamhouse)、ドリームハウスのケースが付いたピンクのXbox、ベイス(Béis)のピンクのラゲージバッグ、アルド(Aldo)とスペルガ(Superga)の靴、ムーン(Moon)のピンクの歯ブラシ、クリスピークリーム(Krispy Kreme)のドーナツ、ホットトピック(Hot Topic)やフォーエバー21(Forever 21)そしてGap(ギャップ)の服のコレクションなど、バービーをテーマにしたコラボレーションが100以上行われている。ブランドがマテルに一律のライセンス料を支払う契約もあれば、売上の5〜15%をマテルに支払う契約もある。そのほかのコラボレーションは、映画『バービー』とのライセンス契約に限定されている。だが、『バービー』映画とそれに関するコラボレーションは、単にその数が莫大だから影響力があるというわけではない。現時点で『バービー』とそのマーケティングは、女性らしさのソフトパワーをめぐるポップカルチャーの時代精神を意識的に利用している。また、ブランドコラボレーションを再定義する可能性のある、レアで文化的な集合的瞬間を何気なく作り出しているのかもしれない。
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バービーがリーチを広げてブランド認知度と信頼性を築く
「当社がコラボレーションを位置づける方法としては、リーチを広げるか、あるいは信用を築くかというふたつのうちのどちらかだ。バービーならその両方が可能だ。当社は、機能性、ファッション、フォルムの面で旅行者にとって頼りになる外出のためのソリューションとして認知されたいと思っている」。トラベルブランドのベイスのプレジデント、アディーラ・フセイン・ジョンソン氏はそう語った。
7月19日より、ベイスは光沢のある個性的なバービーピンクカラーを特徴としたラゲージコレクションを販売する。このコレクションのアイテムは48ドル(約6640円)から328ドル(約4万5370円)で、顧客をさらに教育しなくても済むように、既存のラゲージモデルを流用しているという。ブランドの創業者で女優のシェイ・ミッチェル氏と行ったコレクション用の写真撮影では、ピンクと白のナナ・ジャクリーン(Nana Jacqueline)のドレスを着た全身輝くバービールックのミッチェル氏と、さまざまなベイスのバッグを運んでいるケンのようなモデルをフィーチャーした。創業5年のベイスにとって、コラボレーションのローンチは一貫した戦略ではなかった。ブランドが初めて行ったコラボレーションは、2022年10月のモデルのエルザ・ホスク氏とのベビー用品コレクションである。ベイスは年間売上高2億ドル(約276.4億円)達成を目前に控えており、フセイン・ジョンソン氏いわく、今回のコラボレーションはブランド認知度や信頼性だけでなく、規模の拡大にも貢献しなくてはならない。
「私たちのブランドは超機能的で必要なものをすべて提供しており、見た目もシックなので、バービーの世界と直接的な相関関係がある」とフセイン・ジョンソン氏は述べた。
超フェミニンなものを受け入れる「ソフトガール」の美学
マテルは1959年以降、10億体以上のバービー人形を販売しており、バービーは同社でもっとも拡大し、最大の利益を上げている玩具となっている。だがバービーは、白人でブロンド、ありえないほど痩せた理想的な女性像という凝り固まった宣伝のため、過去に何度となく批判されてきた玩具でもある。2016年には、人形の体型がリアルではないという批判を受けて、バービーのプロポーションが変更された。マテルはまた多様性への批判に応えて、さまざまな肌の色の人形を発売している。マテルの2023年第1四半期決算では、バービーの世界売上総利益は1億7690万ドル(約244.5億円)で、恒常通貨ベースでは前年同期比40%減だった。
将来的にマテルは、ホットウィール(Hot Wheels)やアメリカン・ガール(American Girl)人形など、知名度のある玩具を含む製品の開拓に意欲を示している。少なくとも13本の映画が進行中で、思い切ったその第一弾となるのがバービーだ。任天堂、マーベル(Marvel)、レゴ(Lego)を所有するカークビ(Kirkbi)など、他の巨大な知的財産(IP)所有企業の成功を考えると、マテルはハリウッドが金をもたらし、ブランドレレバンスを高めてくれることを期待している。
だが『バービー』映画が製作されるまでには、マテルやハリウッドの力が及ばない状況もあって、長い時間がかかった。バービー人形は、インクルーシブな進化を遂げつつある中で、文化的再検討の波やインターセクショナルフェミニズムの出現に翻弄されてもいた。オスカーを受賞している脚本家ディアブロ・コーディ氏は、『GQ』誌での最近のインタビューでこの件に触れ、2014年にバービーのために「ガール・ボス」の脚本を書こうと努力したことについて述べている。
「フェムや見た目はよいが知性に欠ける女性を正当なフェミニズムの典型として受け入れる文化ではなかったと思う」とコーディ氏は語っている。「TikTokで『バービー』を検索すると、女性らしさを讃えるすばらしいサブカルチャーが見つかるが、2014年当時は、このブロンドで白人のスリムな人形をヒロインにするというのは難しい注文だった」。
TikTokのバービーのサブカルチャーとは別に、若い女性たちの間では、キュートでふわふわした超フェミニンなものすべてをひっくるめた「ソフトガール」の美学も人気を博している。これはガールボスの理想に対する反動であり、男性的に行動するエネルギッシュな女性を期待されることへの反発だ。それはまた、女性的なステレオタイプを増幅させることで、女性というジェンダーに対する期待を風刺してもいる。そしてバービーはどう見ても、甘く感情的でふわふわした女性的なものすべてを擬人化している。だがしかし、バービーは男性が月に行く4年前、そしてサリー・ライド氏が宇宙に行く18年前の1965年に、女性宇宙飛行士を初めて大衆に表現した存在でもあるのだ。バービーはその後、1973年に外科医に、1987年にカナダの騎馬警察、1996年に古生物学者、2012年にはスノーボーダーになり、どんどんガラスの天井を破っていった。2020年代になると、ポップカルチャーの世界ではインクルーシブで多様性のある表現に関する話題が当たり前になるが、バービーは最初からプロとしてそこに到達していたのである。ジンジャー・ロジャース氏とフレッド・アステア氏にまつわる格言を借りるなら、バービーもそうしたあらゆることをハイヒールを履いてやってのけた。
バービーが象徴するコラボの魅力
「バービーは、夢は大きく持てということを私たちみんなに教えてくれた」と話すのは、ジュエリーブランドのケンドラスコット(Kendra Scott)のCMO、ミッシェル・ピーターソン氏だ。「私たちの会社も同じように夢を大きく持っているし、予算や時間に縛られたりしない。ケンドラスコットがこのビジネスを作り上げた。そして(夢を大きく持つのは)当社の文化であり、バービーが象徴する今回のコラボレーションの魅力だ」。
7月6日、ケンドラスコットは直営店とeコマースサイトで、60ドル(約8300円)から130ドル(約1万8000円)の価格の9種類のアイテムから成る限定バービー・コレクションを発表した。ケンドラスコットのバービー・コレクションは、2022年11月の第1弾に続いて今回が2回目となる。同社は、有料広告やマーケティング、eメール・マーケティング、発売日の店頭イベントなどを通じてこのセカンド・コレクションをサポートしている。最初のコレクションで完売したアイテムを入手できなかった顧客と再び関与することができただけでなく、ケンドラスコットはバービーに熱狂的な新たなオーディエンスも獲得できた。2度目となる今回のコラボレーションでは、需要が予想されるため、1回目よりも50%多い在庫を生産している。ピーターソン氏によると、新コレクションの発売日の広告費に対するリターンは、最初のコラボの約3倍だったという。
「前回のコラボレーションでのカスタマーケアやソーシャルチームから、明るいクリエイティブや楽観主義など、(バービーの)消費者に何がアピールするのかを学んだ」とピーターソン氏は語っている。
バービーは世代を超えて進化できるすばらしい資産
バービー映画とその並外れたマーケティングが独特なのは、「バーベンハイマー(Barbenheimer)」として知られるミームに満ちた現象と相まって、一般大衆全体が文化的な集合的瞬間を経験している数少ない例だということだ。Meta(メタ)が所有するThreads(スレッズ)のような新たなプラットフォームのおかげもあり、インターネットの空間は無限に広がっているが、大衆の集合意識をとらえることは難しい。ましてや本物のインパクトを与えるに十分な時間、人々を引き止めておくのは至難の技だ。ストリーミングの世界では、見逃せないテレビ番組はほとんど消滅し、映画も確実にその犠牲になっている。とはいえ、あふれるようなピンクのバービー・コラボレーションが何十件とある中で、誰ひとり何が起こっているのか気づかないということはありえないし、そこに参加する気にならずにいるのはほぼ不可能だ。AMCシアターによると、2万人の映画ファンが、『バービー』とクリストファー・ノーラン監督の原子爆弾に関する映画『オッペンハイマー(Oppenheimer)』を同じ日に観るチケットを予約したという。
「バービーは誕生した当時の世代を超えて進化できる玩具のひとつ」と、アルタ・ビューティ(Ulta Beauty)のマーチャンダイジング・シニアバイスプレジデントのマリア・サルセド氏は言う。「非常に普及しているし、タイムリーだ。バービーはつねに女性らしさと自己表現、そして進化をテーマにしてきたので、あらゆるカテゴリーで活用できるすばらしい資産になると思う」。
6月の間、アルタ・ビューティは、NYXコスメティックス(NYX Cosmetics)、ネイルポリッシュのOPI、ヘア製品のキッチュ(Kitsch)、ヘアブラシのタングルティーザー(Tangle Teezer)などのブランドをフィーチャーしたマルチブランドのクロスカテゴリー限定版バービー・コレクションを店頭とオンラインで発売した。店内でのバービー関連の機会としては、NYXコスメティックスのチュートリアル、ヘア製品のデモンストレーション、製品サンプリング、セルフィのモーメントや景品といったポップアップを行っている。またニューヨークやシカゴなどでは、バービーをテーマにしたヘア製品やツールを使用し、バービースタイルのブローを提供するサロンと提携してバービーのサロン体験も行われた。
ファッションが映画のマーケティングを担う可能性
バービーのコラボレーションの多さも、このキャラクターのマルチな才能を物語っている。たとえばマリオブラザーズとは異なり、バービーの世界には衣服、家庭でのエンターテインメント、旅行、スポーツなど、オールマイティな「ライフスタイル」の例があふれている。何十年もの間、バービーは、財産や富、そしてそれらがもたらすトリクルダウンの恩恵といったことに憧れる私たちの文化的策略を反映してきた。彼女にはドリームハウス、夢のジェット機、行くべきイベント、そしてケンやケリーのような人々との出会いがある。マリオブラザーズのデザインでリパッケージしたアイシャドウパレットとは異なり、バービーのアイシャドウパレットは、彼女が実在したらきっと使うに違いないと思えるような製品なのだ。このコンセプトをさらに活かし、映画でバービー役を演じる女優のマーゴット・ロビー氏は、現代の有名ファッションメゾンとともに、バービー人形の有名な衣装を再現するということまでやってのけた。彼女のプレスツアーのために、バルマン(Balmain)は1992年の「イヤリング・マジック(Earring Magic)」バービーを、ヴェルサーチ(Versace)は1985年の「デイ・トゥ・ナイト(Day-to-Night)」バービーを、そしてエルベエジェ(Herve Leger)は1959年のオリジナル・バービーに登場した有名な黒と白のストライプの水着に着想を得たアイテムを作り出している。将来的なブランドの機会として、ファッションは個々のブランドの単なるマーケティング戦略として機能するのではなく、映画のマーケティングの一部となる可能性がある。
「(バービーは)ひとつの戦略になるかもしれない。コラボレーションがすべて知的財産(IP)関連の案件になるとは思わないが、ポップカルチャーと強い結びつきがある案件は今後も出てくるだろう」とサルセド氏は述べた。「自分たちが賭けたいこと、サポートしたい製品やブランドを伝えるために、私たちはポップカルチャーに注目している」。
[原文:Beauty & Wellness Briefing: It’s a Barbie world, and we’re just living in it]
EMMA SANDLER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)