イプシー(Ipsy)は10周年を記念し、同社の旗艦イベントを10月9~10日にニューヨーク市の複合施設「ハドソン・ヤーズ」で開催。このライブイベントは、パンデミックが人々の暮らしを大きく変えた2020年以来、2度目の開催となる。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
大規模なビューティイベントが、復活した。
イプシー(Ipsy)は10月9~10日に、かつての旗艦イベント「ジェン・ビューティー(Gen Beauty)」をイプシー・グラミバーサリー(Ipsy Glamiversary)とあらため、ニューヨーク市の複合施設「ハドソン・ヤーズ」で開催した。同社の10周年を記念するこのライブイベントは、パンデミックが人々の暮らしを大きく変えた2020年以来、2度目の開催となる。マスクとソーシャルディスタンスが目立つ会場内では、ベニート・スキナー氏、タブリア・メジャーズ氏、ベイリー・サリアン氏などインフルエンサーが集い、交流イベントやパネルディスカッションが行われた。ほかにもサンデー・ライリー(Sunday Riley)、アナスタシア・ビバリーヒルズ(Anastasia Beverly Hills)、ホールジー(歌手)が立ち上げたアバウト・フェイス(About-Face)、そしてイプシーが展開するアイテム・ビューティー(Item Beauty)やリフレッシュメント(Refreshments)といったブランドパートナー20社が、ブランドアクティベーションやサービスで会場を盛り上げた。
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コミュニティ・ファーストのデジタルプラットフォーム
「我々はコミュニティ・ファーストのデジタルプラットフォームだ」。そう語るのは、イプシーの親会社ビューティー・フォー・オール・インダストリーズ(Beauty For All Industries)で最高ブランド責任者を務めるジェナ・ハバイェブ氏だ。「そうは言っても、チュートリアルやお手入れの方法に実際に触れてみて、エンゲージメントを構築する必要がある。実店舗を持たない我々は、物理的な接点を持つために多くの投資を行った。ニューヨークは復活の象徴のようなものだし、我々もそうなりたいと考えている」。
イプシーは次世代のクリエイターを発掘するソーシャルメディアチャレンジ「The Next 10」を7月に立ち上げ、グラミバーサリーのイベントや10周年を迎えるという情報を小出しにした。イプシーのソーシャルメディア・コミュニティーによって選出されたファティマ・スタークス氏(@FatimatheMUA)やエドウィン・マルティネス・ロドリゲス氏(@claimedparadise)など「The Next 10」のファイナリスト10名は、グラミバーサリーのイベント会場でも脚光を浴びた。無料で参加できるこのイベントに、イプシーは当初4000人の来場者を予想していたが、ハドソン・ヤーズによると2日間で8万5000人が訪れたという。
ハバイェブ氏は、ニューヨーク市や州がコロナの抑制に真剣に取り組んでいるだけでなく、同社が最近、ちょっとした下準備をしていたこともあり、自信をもってグラミバーサリーを開催することができたと述べている。コロナから18ヶ月後、10月最初の週末にイプシーは2階建てのイベントカーを設置し、車内で美容サービスを体験できるというイベントシリーズをテキサス州オースティンで開催した。コロナ後初のIRL(In Real Life)イベントの挑戦だった。
同社は2019年3月、オースティンで毎年行われる複合フェスティバルSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)でアクティベーションを実施し、2020年にも予定していた。もう少し小規模なイベントを試行していた同社が、この経験を取り入れてテキサス大学オースティン校とともに実施したのが、10月第1週のイベントだったのだ。グラミバーサリーと同様に誰もが無料で入場できるイベントで、ソーシャルメディアやイプシーのオンラインチャネルで告知した。ソル・デ・ジャネイロ(Sol de Janeiro)やマニミー(ManiMe)など15のブランドパートナーが、アクティベーションとオンサイトでのサービスに参加した。3000人を超える参加となり、ハバイェブ氏によるとNPS(ネット・プロモーター・スコア)で92点を記録したという。
大学での活動はZ世代研究につながる
「テキサス大学のまわりにはアクティビティがたくさんある。大学での活動は、我々がターゲットにしているオーディエンスの獲得にもとても効果的だ」と、ハバイェブ氏。「人々がどのようなものを望み、何を期待しているのかを知るリトマス試験のようなものだった」。
ビューティ・インフルエンサーとして高い知名度を誇るミシェル・ファン氏が2011年に立ち上げたイプシーは、これまでZ世代への訴求に熱心に取り組んできた。イプシーの製品ラインであるアイテム・ビューティをアディスン・レイ氏(ソーシャルメディア・パーソナリティー)が、そしてトレスルセ・ビューティー(Treslúce Beauty)をベッキー・G(歌手)が立ち上げたのは、その例である。また、3カ月ごとにクリエイターが8点の商品をキュレーションし、「グラム・バッグX(Glam Bag X)」として55ドルで発売している。メイクアップアーティストのパトリック・タ氏やクロエ・カーダシアン氏に続き、11月に発売されるグラム・バッグXはフーダ・ビューティ(Huda Beauty)の創業者フーダ・カッタン氏とコラボレートする予定だ。
イプシーのイベントは、コロナ禍前のノーマルを受け継いだような形で開催されたが、より大型なイベントの開催は依然、危険な冒険といえる。リボルブ(Revolve)のようにコロナやデルタ変異株を差し置いて開催したブランドは、パンデミックのルールを無視したと非難を浴びた。
パンデミックで真っ先に延期、中止となった大型イベント
パンデミック前はあらゆる企業が、ビューティフェスティバルで他社をしのごうとしていた。セフォラ(Sephora)、QVCのビューティー・バッシュ(Beauty Bash)、ポップシュガー(Popsugar)のプレイ/グラウンド(Play/Ground)はその例だ。だが2020年3月、まず最初に延期や中止となったのが、このようなイベントだった。そしてイプシーやビューティーコン(Beautycon)などビューティイベントの主催者たちは、それ以前から戦略を刷新していた。イプシーは「デスティネーション:イプシー(Destination: Ipsy)」や、ジェン・ビューティーを刷新した「イプシー・ライブ」、新進気鋭のクリエイターのための一日イベント「Creator Day」など、親密さを高めたイベントへと移行した。ビューティーコンは、さまざまな都市で展開するPOPシリーズや、オンラインストアをローンチし、2021年にはリシュリュー・デニス氏が創業したエッセンス・ベンチャーズ(Essence Ventures)に、競売によって売却された。セフォラはバーチャルを続けている。
大規模なイベントを再び開催すべきかについて、安全面とROI(=Return on Investment: 投資利益率)の観点の両方から疑問が残るが、イプシーはこの事業に自信を見せる。次のイベントはマイアミで、アート・バーゼル(Art Basel)に合わせて開催予定で、オースティンやニューヨークのイベントと同様に入場無料で一般に公開される。オースティンでZ世代とのつながりを強化したように、ラテン系の人口が多いマイアミではベッキー・Gのトレスルセ・ビューティーにスポットライトを当てる。
コミュニティのためのパーソナライズ化
「我々には、さまざまなインタラクションの手段がある。コミュニティとのエンゲージメント構築が、サブスクリプションで提供する体験を完全なものにする」と、ハバイェブ氏。「獲得するメンバーの数が多ければ多いほど、そのコミュニティのためにパーソナライズできるようになりたい。そのため、Z世代の顧客を呼び込みたいならば、それに対応できる製品と、優れたグッズが必要だ。ラテンアメリカ系のコミュニティへと拡大したり、アフリカ系アメリカ人のコミュニティに対応したいのであれば、データ面だけでなく、適切なグッズやトレンドを確実に提供できるよう準備したい。メンバーに本当に喜んでもらえ、彼らが望むものを望むときに提供できるパーソナライゼーションを確実に果たすため、あらゆることを系統立てて実施している」。
さらに、ビューティ・フォー・オール・インダストリーズのCEO兼共同創設者、マルセロ・カンベロス氏はこのように語る。「イプシーの中核にあるのは、ビューティをインクルーシブ(包摂的)で自己表現できるものにするということ。ビューティ業界を民主化し、より広いビューティの定義を作ることに、我々は過去10年間焦点を当ててきた。非常に情熱的で多様性に富むコミュニティーを基盤にブランドを構築してきたことが、あらゆる人を受け入れるビューティを生み出すための刺激となり、前進させ続けてくれる」。
パーソナライズのためのテストは、よりよいビューティへと導くか?
顧客が製品を見つけやすいようオンラインクイズに参加させることがパーソナライゼーションだととらえているブランドがある。あるいはバーチャルトライオンこそが購入につながると考えるブランドもある。しかし、新参者であるインディーブランドにとって、パーソナライゼーションで得られるより良いビューティ体験とは、遺伝子検査会社「23アンドミー(23andMe)」の健康診断のようなものを意味する。
自らの名を冠したスキンケアブランドを2020年10月に立ち上げたエルサ・ユングマン博士(皮膚科学者)は、今年の10月14日、肌のマイクロバイオーム(細菌叢)を綿棒で検査できるキットを自社のD2Cサイトとクレド・ビューティ(Credo Beauty)で発売した。キットは149ドルで、顔の表面を綿棒で擦れば過敏症や炎症、にきびなどの原因と考えられる肌の常在菌を調べることができる。自社製品だけに誘導せず、栄養に関するアドバイスや、どのような成分が肌に合っているかといったホリスティックなレポートを、ブランドに関係なく提供している。
「いまは敏感肌や、肌の問題が爆発的に増えている。人々がマイクロバイオームや、自分に何が合っているのかを知らずに、肌に多くのものを塗っているからだ」とユングマン博士。「肌が清潔か否かという問題でも最近は何の成分が流行しているのかという問題でもない。何が自分に適した成分なのかを知り、どのようなルーティンを作るかなのだ」。
肌のことに精通した消費者が増えていることを考慮すると、検査キットは消費者にさらに力を与えることになると、ユングマン博士は信じている。
ユングマン氏のマイクロバイオーム検査キットが発売された少し前には、インディーブランド「ヴェラシティ(Veracity)」が唾液検査「スキン+ヘルス(Skin + Health)」を2月に149ドルで発売している。ヴェラシティのD2Cサイトで入手可能なこのキットは、肌の状態に影響を及ぼす5つの主要なホルモンとpH値を測定。検査結果に基づくホリスティックなレポートが手元に届き、肌の状態におすすめの製品を知ることができる。さらに6月には、55~85ドルのスキンケア製品を6点デビューさせた。9月に同社は、グローバル・ファウンダーズ・キャピタルからシード資金500万ドルを調達したと発表。
消費者は自身に何が適しているのか?に関心
「パーソナライゼーションの本当の目的は、単にサイトのエンゲージメントを高めるためにクイズで肌の性質や居住地をフィルタリングするということではない。消費者が膨大な情報や製品の中から自分の肌や体全体の健康にとって最適なものを選べるよう、個々に合わせたインサイトを得られるということなのだ」。ヴェラシティの創設者兼CEO、アリー・イーガン氏は語る。
幸いなことに両社は、販売不振で従業員を100名解雇した23アンドミーのような悲劇を被ることなく、消費者のためになる製品も提供している。ユングマン博士のブランドも、製品のリピート購入率は既に40%に達している。また、ユングマン博士の教育講座を受講した消費者の購入率は35%で、AOV(=Average Order Value平均注文額)は30%高くなるという。このことは、自身の皮膚のマイクロバイオームやそれに影響を与える要因に関心があるコミュニティーが存在していることを、証明するものだ。
[原文:Beauty & Wellness Briefing: Are we ready for the big beauty event comeback?]
PRIYA RAO(翻訳:田崎亮子/編集:山岸祐加子)