米司法省によるアルファベット(Alphabet)の検索ビジネスに対する訴訟の公判が、9月12日に正式に始まった。何十億人が日々利用するインターネットの一部に精査のメスが入れられるこの裁判が、世界の企業と社会に大きな影響を […]
米司法省によるアルファベット(Alphabet)の検索ビジネスに対する訴訟の公判が、9月12日に正式に始まった。何十億人が日々利用するインターネットの一部に精査のメスが入れられるこの裁判が、世界の企業と社会に大きな影響を与えることは間違いないだろう。
Google検索帝国の礎のひとつは、その広告事業だ。であるならば、マーケティング界隈で働く人々は、事の成り行きに注意を払うべきだろう。その結果は、彼らの今後の活動にも重大な影響を及ぼすことになるはずだからだ。
メディア業界で働く者なら、今後しばらくは、この件をめぐるオフィスでの井戸端会議は避けては通れないだろう。以下は、それ乗り切るのに使える主な話題の概要だ。
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誰が誰を訴えている?
米司法省が、国内11州の司法長官とともに、Googleを訴えている。この民事訴訟の舞台はコロンビア特別区地方裁判所で、被告はシャーマン反トラスト法(独占的な商行為を禁止する米連邦法)を複数件にわたって違反していると、原告は主張している。
米司法省とともに原告に名を連ねているのは、アーカンソー、フロリダ、ジョージア、インディアナ、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシシッピ、ミズーリ、モンタナ、サウスカロライナ、テキサスの各州の司法長官だ。そう聞くと、ローカルな印象を抱いてしまうが、この裁判の結果はグローバルな影響を及ぼすことになるだろう。
結局のところ、この訴訟は、オンラインの巨人が政府からの改善要求に直面する、いくつかの批判のひとつにすぎないのだ。
なぜこれが重要なのか? どんな前例があるのか?
Googleの検索部門は昨年、1630億ドル(約24兆円)の売上を生み出しており(そこには、広告主からの売上と検索ディストリビューションパートナーからの売上も含まれている)、その売上は同年のアルファベットの売上(2830億ドル[約41.7兆円])の半分以上を占めている。この事実は、検索がいまなおアルファベットの中核であることをまざまざと思い出させる。
前例の有無については、あるともいえるし、ないともいえる。
ただし、欧州連合の司法当局も数年前から、Googleに照準を合わせてきたという事実は、特筆に値するだろう。検索に近いところでは、Googleの価格比較サービスが過去に、ヨーロッパの競争法に違反しているとして、数十億ドル相当の罰金を科されている。
しかし、検索に関しては、Googleの国内市場で前例(しかもこれだけの規模の)を見つけるのは難しい。法制史家やベテラン市場関係者に聞けば、世紀の節目に起きたマイクロソフト(Microsoft)反トラスト法違反訴訟を前例に挙げるかもしれない。この訴訟で米司法省が標的にしたのは、PCおよびウェブブラウザ市場での同社のさまざまな活動だった。
結局、何年にも及ぶこの法廷闘争は、和解という結末を迎えた。多くの関係者は、これがマイクロソフトのInternet Explorerの成長を止めたと考えている。Google Chromeはいま、この市場セクターの高みに腰を据えている。しかし、これはまたまったく違う反トラスト法をめぐる論争なのだ。
誰に影響を及ぼすのか?
一言でいえば、全員だ。
最新の年次報告書のなかで、アルファベットは次のように述べている。競争法が強引に執行されれば、「事業運営費がかさむ、製品とサービスの有用性が下がる、特定のビジネスモデルの追求が制限される」といった事態も生じうる。これによって「(アルファベットの)事業が悪影響を受ける」ことにもなりかねない」
もしそうなれば、下流への影響は計り知れない。マーケティング活動(オーガニックでも有料でも)でキーワードを使って検索エンジンを最適化している関係者や、ツールバーのデフォルト検索ブラウザーにGoogleを使っているウェブサイトオーナーを思い浮かべてほしい。
検索エンジン市場におけるGoogleのシェア率は、およそ90%だ。当然、Googleの仕組みが少しでも変われば、その波及効果は広範囲に及ぶことになるだろう。
その一方で、検索エンジンの結果ページで順位を上げるためのキーワード最適化やキーワード入札は、パフォーマンスマーケティングの中核をなしているという事実もある。これらを踏まえれば、マーケティングという仕事の未来がこの裁判の結果にかかっているということは、いうまでもないだろう。
検察の主張は?
検察の主張の基本はこうだ。Googleは「インターネットを独占する門番」のような存在で、反競争的な戦術を駆使して、インターネット検索サービス各社を窮地に追い込んできた。
2020年に初めて提出された公文書には「一般的な検索エンジンが成功するためには、消費者にうまく辿り着く道を見つけることが欠かせない」と書かれており、Googleは「事実上の独占」状態にあると述べられている。
Googleはハードウェアメーカー(特にスマートフォンメーカー)や通信事業者と「抱き合わせ協定を含む排他的契約を結んで流通経路を閉鎖し、競合他社を阻止している」。この排他的契約は競争法に違反している。
また、AppleやAT&T、モトローラ(Motorola)、モジラ(Mozilla)などとのこうした契約は、競合他社の検索エンジンから何十億ものクエリ(ひいてはユーザー)を遠ざけているとも、検察は主張している。
その結果Googleは、革新的なサービスを提供する際に手を緩めることができ、米国の消費者に現実的な選択肢を与えず、おのずとユーザーのプライバシーに注意を払わなくなる。
被告側の主張は?
この主張に、Googleの代理人はどう反論するのだろうか? 考えられるのは、競争は「クリックひとつ」で起こり、初期設定で消費者と結び付いているわけではないという主張だ。突き詰めると、こうした契約は必ずしも、競合他社の検索エンジンがデバイスにインストールされるのを阻止しているわけではない。
また、オンラインコンテンツの発見を文字どおり意味する「ググる」というフレーズについて、これなどはまさに、米国の一般大衆が競争市場に求めているものをGoogleが提供し、それに成功してきたことの証しということだ。
結局のところ、商品やサービスをオンラインで見つけることに関していえば、競合他社のサービスは存在しているという主張は十分に成り立つ。eコマースの巨人であるAmazonや、競合する検索エンジン「Bing」のプロバイダーであるマイクロソフトといった存在を、インターネットの世界において取るに足らないものとして扱うことなどできるはずがない。
公判前審理では弁護側に追い風が吹いた。コロンビア特別区地方裁判所のアミット・P・メータ裁判長は、Googleは検索で自社に有利な結果を返しているという検察の主張を却下している。
メディア関係者が押さえておくべき重要なポイントは?
まず押さえておくべきは、今回の訴訟では次の3つが精査されるということだ。
- オーガニック検索結果
- オーガニック検索結果以外の場所に表示される、キーワードベースのテキスト広告
- オーガニック検索結果のトップに表示される、一般のディスプレイ広告
数十億ドル規模のSEO業界は、同セクター内の大多数にとっては悪名高きブラックボックスである一方、今回調査されるほか2つの対象のオークションベースのマネタイズは、1兆ドル規模のアルファベット帝国のまさに礎だ。
考えられる検察の主張は、Googleの販売契約ネットワークによって、競合他社は検索結果を改善して、現実的なやり方で競争するのに必要なデータを奪われている、というものだろう。これが生みだすのはマイナスのフライホイール効果であり、データが減る。競争が減る。選択肢が減る。そして、広告枠の値段だけが上がるというものだ。
その結果生じる、Googleがオークションハウスを所有し、入札プロセスを管理し、プロセス全体を見渡すことができる事実上の唯一の存在になるというシナリオを、どこまで受け入れられるのか? それを広告主はよく考える必要がある。
批評家たちは、Googleが同様の告発に直面している、複雑なことで有名なアドテクセクターと同様に、それによって広告主は事実上、自分たちに対してのみ入札することになりかねないと主張するだろう。
また、今後の訴訟手続きは「ベンチトライアル(非陪審審理)」形式で行われることも注目に値する。つまり、いわば素人からなる陪審団にも理解できる証拠を双方が提出しなくてもよくなるため、訴訟手続きは極めて専門的になることが予想される。
したがって、前述の販売契約がもたらしうる下流への影響や、さまざまな調整がもたらしうる顕著な影響に関する鑑定証人(公判前に証人リストの完全版が一般公開されることはなかった)の証言は、耳を傾けるに値するといえるだろう。
予想される結果は?
シャーマン反トラスト法の下では、市場競争や消費者利益を害するとみなされた当事者の大規模な解体が可能だ。ただし現時点では、検察が求める改善策のあらましは、まだ明らかにされていない。
Googleはこれまでにも、反トラスト法違反によりヨーロッパで何度も罰金を科されてきた。米国寄りの視点を持つ歴史家なら、20年前のマイクロソフト反トラスト法違反訴訟に類似する和解にその前例を求めるだろう。
他にも例はある。Googleは2013年、モバイルインターネットサービスに関する問題で、米連邦取引委員会(FTC)と和解している。広告主がGoogle AdWordsと競合他社のプラットフォームで同時にキャンペーンを管理できるように融通を利かせていたことが、問題視されたのだ。
しかし、いまのところ米司法省と司法長官たちが焦点を合わせているのは、Googleが反トラスト法を破ったかどうかを明らかにすることだ。マーケターは、数年とまではいわないが、数週間から数カ月待たないと、オンラインビジネスの再構築を始められるようにならないだろう。
別件でも反トラスト法違反で訴えられているGoogle。今回の訴訟がそれに及ぼす影響は?
米司法省と州司法長官は、これ以外にも同様の反トラスト法違反でGoogleを訴えている。繰り返しておくが、これら2つの訴訟は別ものだ。この同様の訴訟では、Googleのアドテクスタック協定は、シャーマンシャーマン反トラスト法の第1項と第2項に多数違反していると、原告側は主張している。
詳しくは上の動画をご覧いただきたいが、こちらの訴訟に関しては、来年にならないと公判は正式に始まらない見込みであり、その法的議論の重点は法的概念に置かれることになりそうだ。
結果が出るまでには、どのぐらい待つことに?
これも答えるのが難しい質問だ。公判は2023年9月に正式に始まったが、訴訟手続きは来年1月まで行われることになっている。
前例で判断するなら、数年とはいわないまでも、数カ月かけて議論が行われてから、最終的な結果が明らかにされることになるだろう。
しかし、検察が強く指摘しているように、これはインターネットの未来と、その今後10年のビジネス環境をめぐる戦いであり、自己満足の言い訳にはならない。裁判は今後も続く。
[原文:An advertiser’s guide to the Justice Department’s case against Google’s search empire]
Ronan Shields(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)